
令和7年度(2025年度)の一級建築士製図試験は、10月12日(日)に実施され、課題は「庁舎」です。要求図書は1階平面図・配置図、各階平面図(階数は問題中で指定)、断面図、面積表、計画の要点等となっており、縮尺は1/200で描く必要があります。
建築物の計画にあたっては、敷地の周辺環境への配慮、バリアフリー・省エネルギー・二酸化炭素排出量削減・セキュリティへの配慮、各要求室の適切なゾーニングと明快な動線計画が求められます。特に注目すべきは「大地震等の自然災害が発生した際に、建築物の機能が維持できる構造計画」という要件で、免震構造の採用が想定されています。
公益財団法人建築技術教育普及センター公式サイト
課題発表の公式情報と注意事項を確認できます。
一級建築士製図試験の合格率は年度によって変動しますが、令和6年度は26.6%という厳しい結果でした。採点はランクⅠ~Ⅳの4段階で判定され、ランクⅠのみが合格となります。
特に注意すべきは、令和6年度では受験者の約半数がランクⅣ判定を受けている点です。階段不成立、要求室の漏れ、法規違反(延焼ライン・道路高さ制限など)といった重大な不適合が主な原因となっています。これらのミスは一発でランクⅣとなるため、エスキス段階での徹底的な確認が合格の鍵となります。
2025年度の庁舎課題では、基準階型の出題が本命視されています。基準階型とは、3階以上の階を同じ平面計画で設計する方式で、効率的な執務空間の確保が可能です。
庁舎のゾーニングでは、以下の3つの主要部門を適切に配置する必要があります。
基準階型のプランニングでは、まず基準階(通常3階)の計画を確定させ、その後残りの面積を1階・2階に振り分けるのが効率的です。1階は来庁者動線を重視し、エントランスから各窓口へのアクセスが明快になるよう計画します。セキュリティ面では、職員専用動線と来庁者動線を明確に分離し、執務エリアへの不正侵入を防ぐ計画が求められます。
製図試験.com「令和7年課題分析」
庁舎課題の詳細な分析と出題パターンの予想が掲載されています。
製図試験は6時間30分(390分)という限られた時間で完成させる必要があり、時間配分が合否を大きく左右します。標準的なエスキス時間は2時間程度とされていますが、合格者の中には1時間程度でエスキスを完了させる受験者もいます。
推奨される時間配分は以下の通りです。
作業内容 | 時間配分 | ポイント |
---|---|---|
エスキス | 90~120分 | 13時までに完了を目標 |
作図(平面図) | 180~210分 | 最も時間がかかる工程 |
作図(断面図) | 30~40分 | 定型パターンで時短 |
計画の要点(記述) | 60~80分 | 事前準備が重要 |
見直し・修正 | 20~30分 | 致命的ミスの発見 |
エスキス時間を短縮するコツは、庁舎の基本的な空間構成パターンを事前に習得しておくことです。執務室のレイアウト、待合スペースの配置、階段・エレベーターの位置など、頻出パターンをストックしておけば、試験本番で迷う時間を大幅に削減できます。
作図が遅い受験者は、エスキスを2時間以内に必ず終わらせることを心に決め、作図時間を確保することが重要です。完成度の高い図面を描くには、最低でも4時間の作図時間が必要となります。
計画の要点(記述)は、図面と並んで採点の重要な要素です。製図試験の採点は「図面」と「記述」の総合評価で行われ、両者の整合性もチェックされます。いくら図面が優れていても、計画の要点が不十分であれば合格は困難です。
2025年度の庁舎課題で出題が予想される計画の要点のテーマは以下の通りです。
計画の要点の効果的な学習方法は、過去の出題傾向を分析し、頻出テーマについて模範解答を作成して暗記することです。試験当日は、自分の図面の計画内容と整合性を取りながら記述する必要があるため、汎用性のある文章パターンを用意しておくと有利です。
記述時間は60~80分程度を確保し、各設問に対して過不足なく解答することが求められます。文字数制限や解答欄のサイズに注意し、読みやすい文字で丁寧に記述しましょう。
ひよこ建築「計画の要点対策まとめ」
出題可能性が高い計画の要点のテーマと対策方法が詳しく解説されています。
2025年度の庁舎課題では、防災拠点としての機能が重視され、免震構造の採用がほぼ確実視されています。免震構造は、建物と地盤の間に免震装置(積層ゴムや滑り支承など)を設置し、地震の揺れを建物に伝えにくくする構造方式です。
免震構造の計画では、以下の点に注意が必要です。
また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)への対応も重要なポイントです。公共建築物では省エネルギー性能の向上が強く求められており、ZEBReadyの認証取得を目指す庁舎が増えています。
ZEB対策として押さえるべき技術は以下の通りです。
技術分類 | 具体例 |
---|---|
パッシブ技術 | 自然採光、自然通風、日射遮蔽、断熱性能向上 |
アクティブ技術 | 高効率空調機器、LED照明、太陽光発電、BEMS |
計画の要点では、これらの技術を採用した理由と期待される効果を具体的に記述することが求められます。「南面に庇を設けることで夏季の日射を遮蔽し、冷房負荷を低減する」といった具体的な記述が高評価につながります。
一級建築士製図試験の対策方法として、独学と資格学校の通学講座があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分に合った学習方法を選ぶことが重要です。
独学のメリットは、費用を抑えられること(テキスト代のみで数万円程度)と、自分のペースで学習できることです。最近では質の高いテキストやYouTube動画も充実しており、独学でも合格は可能です。ただし、図面の添削を受ける機会が少ないため、自分の弱点に気づきにくいというデメリットがあります。
一方、資格学校の通学講座は、総合資格学院、日建学院、TACなどが有名で、受講料は30~120万円程度と高額です。しかし、専門講師による添削指導、豊富な課題演習、最新の出題傾向情報など、合格に必要な要素が網羅されています。
資格学校 | 特徴 | 合格実績 |
---|---|---|
総合資格学院 | 最大手、合格率が高い | 業界トップクラス |
日建学院 | 映像講義が充実 | 高い実績 |
TAC | 比較的リーズナブル | 安定した実績 |
独学で挑戦する場合は、製図道具の選定、基本的な作図スピードの向上、エスキスの型を習得することから始めましょう。通学講座を選ぶ場合は、3月から早期に対策を開始する完全合格対策コースがおすすめです。課題発表前の実力養成講座で作図力・計画力・時間管理力を身につけ、課題発表後に当年度課題に特化した学習を行う流れが効果的です。
製図試験で最も避けなければならないのは、ランクⅣ判定となる「重大な不適合」です。令和6年度では受験者の48.0%がランクⅣとなっており、以下のような失格要因が多く見られました。
致命的ミスのチェックリスト。
これらのミスを防ぐためには、エスキス完了時と作図完了時の2回、徹底的なセルフチェックを行うことが不可欠です。特に法規関連の確認は慎重に行い、不安な点があれば問題文を再読して確認しましょう。
見直し時間として最低20~30分を確保し、以下の順序でチェックします。
1️⃣ 課題文の要求条件を満たしているか(要求室の有無、面積、階指定など)
2️⃣ 法規違反がないか(延焼ライン、斜線制限、避難規定など)
3️⃣ 階段・廊下が成立しているか(寸法確認)
4️⃣ 図面間の整合性が取れているか(平面図と断面図の一致)
5️⃣ 計画の要点と図面の整合性があるか
完璧な図面を目指すよりも、重大なミスのない確実な図面を完成させることが合格への近道です。時間が足りない場合でも、致命的ミスだけは絶対に避けるという意識を持ちましょう。
製図試験の学習は、課題発表(7月下旬)から試験日(10月12日)までの約2.5ヶ月間が勝負となります。効果的な学習スケジュールを立て、計画的に実力を養成することが重要です。
📅 7月下旬~8月中旬(課題発表後1ヶ月)。
📅 8月中旬~9月中旬(試験1ヶ月前)。
📅 9月中旬~試験直前(最終調整期)。
独学の場合、最低でも20~30題の課題演習が推奨されます。資格学校では40~50題以上の演習機会が提供されるため、独学者は市販の課題集やオンライン教材を活用して演習量を確保しましょう。
試験直前の1週間は、新しい課題に取り組むよりも、これまで解いた課題の復習や弱点補強に時間を使う方が効果的です。本番で慌てないよう、製図道具の点検や予備の筆記用具の準備も忘れずに行いましょう。
一級建築士製図試験は決して簡単な試験ではありませんが、正しい対策を着実に積み重ねれば合格は十分に可能です。庁舎という明確なテーマが示された2025年度は、事前準備の質が合否を大きく左右します。基準階計画、ゾーニング、時間管理、計画の要点の4つの柱をしっかり固め、10月12日の試験本番に万全の状態で臨んでください。