
防火設備の性能要件において、最も重要な性能基準となるのが「遮炎性能」と「準遮炎性能」です。これらは建築基準法および同施行令によって明確に規定されています。
「遮炎性能」とは、防火設備に通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一定時間、加熱面以外の面に火炎を出さない性能のことを指します。これは建築物の屋内または周囲で発生する通常の火災に対応するものです。具体的には建築基準法施行令第109条の2において「加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないもの」と定義されています。
一方、「準遮炎性能」は、建築物の周囲において発生する通常の火災に対してのみ適用される性能要件です。こちらも加熱開始後20分間、加熱面以外の面に火炎を出さないという点では遮炎性能と同じですが、火災が発生する場所についての前提条件が異なります。
この違いを簡単に言うと。
これは実際の建物における火災リスクの違いを反映したものです。建物の内部では火災のリスクが高く、また延焼した場合の被害も大きいため、内外両方からの火災に耐える性能が求められます。一方、防火地域や準防火地域内の建築物の外壁開口部などでは、主に外部からの火災による延焼を防ぐことが目的となるため、外側からの火災に対する性能のみが要求されるのです。
防火設備と特定防火設備は、求められる遮炎時間の違いによって区別されます。建築基準法では、それぞれ以下のように定義されています。
これらの技術的基準を満たすために、具体的な構造方法が建設省(現国土交通省)の告示により定められています。例えば。
材料の厚さや構造の違いは、要求される耐火時間の違いを反映したものです。60分間の耐火性能を求められる特定防火設備には、より頑丈な構造が必要となります。
また、これらの防火設備には自動閉鎖機能が求められる場合もあります。火災時に温度上昇や煙を感知して自動的に閉鎖する機能は、火災の早期検知と延焼防止に重要な役割を果たします。
防火設備の性能要件を満たす方法には、大きく分けて「告示仕様」と「大臣認定」の2種類があります。それぞれの特徴と違いについて詳しく見ていきましょう。
1. 告示仕様による防火設備
告示仕様とは、国土交通省が告示として公表している標準的な仕様のことです。この仕様に従って製造された防火設備は、個別の性能評価試験なしに防火設備として認められます。主な告示には以下があります。
2. 大臣認定による防火設備
大臣認定は、個別の製品について指定性能評価機関での試験を経て、国土交通大臣が性能を認定する方式です。認定コードによって以下のように分類されます。
大臣認定を受けるためには、指定性能評価機関(例:一般財団法人建材試験センターなど)において防耐火試験を実施し、事前評価を受ける必要があります。試験では実際の火災を想定した加熱試験が行われ、規定の時間、火炎を遮る性能があるかどうかが評価されます。
大臣認定を受けた製品には個別の認定番号が付与され、確認申請時にはこの番号の記載が求められます。これにより、その防火設備が法的要件を満たしていることを証明できます。
昨今では、デザイン性や機能性に優れた様々な防火設備が大臣認定を取得しており、建築物の美観と防火性能の両立が可能になっています。
防火設備の性能要件は、設置される場所によって異なります。建築基準法と同施行令では、建物のどの部分に防火設備を設置するかによって、必要な遮炎時間や性能が詳細に規定されています。ここでは主な設置場所ごとの要件を解説します。
1. 防火区画に設置する場合
防火区画は火災時の延焼を抑制するための重要な区画であり、特に厳しい性能要件が求められます。面積区画、竪穴区画、異種用途区画などの防火区画には、すべて特定防火設備の設置が必要です。
2. 耐火建築物または準耐火建築物の延焼のおそれのある部分
ここでいう「延焼のおそれのある部分」とは、隣地境界線や道路中心線から、1階では3m以下、2階以上では5m以下の距離にある建築物の部分を指します。この部分には両面20分間の遮炎性能を持つ防火設備が必要です。
3. 防火地域または準防火地域内の建築物の外壁開口部
防火地域や準防火地域では、市街地の火災を防ぐという観点から、外部からの火災に対する防火性能が重視されます。そのため、外壁開口部には片面20分間の準遮炎性能を持つ防火設備の設置が求められます。
4. その他の特殊な設置場所
これらの要件は、それぞれの場所での火災リスクと避難安全性を考慮して定められています。設計段階では、各開口部がどの区分に該当するかを正確に判断し、適切な防火設備を選定することが重要です。
防火設備の性能要件を満たすためには、適切な設計・施工だけでなく、機能を維持するための管理も重要です。特に、自動閉鎖装置を備えた防火設備については、定期的な点検と維持管理が不可欠です。
自動閉鎖装置の種類と要件
防火区画に設置される防火設備には、火災時に確実に作動する自動閉鎖装置が求められます。建築基準法施行令第112条第14項では、以下のような自動閉鎖装置の要件が規定されています。
これらの自動閉鎖装置は、火災時に確実に作動することが求められるため、定期的な点検と機能確認が必要です。
定期点検と維持管理の法的要件
防火設備は建築基準法第12条に基づく定期報告の対象となっており、定期的な点検と報告が義務付けられています。特に、特定行政庁が指定する特殊建築物等については、防火設備の作動確認を含む点検が必要です。
点検の主なポイントには以下が含まれます。
これらの点検は、建築基準適合判定資格者などの有資格者によって行われる必要があります。
維持管理の実務上の注意点
実務上、防火設備の維持管理で特に注意すべき点
防火設備の性能要件を継続的に満たすためには、これらの維持管理活動が不可欠です。単に設置時の基準を満たすだけでなく、建物のライフサイクル全体を通じて防火性能を維持することが、建築物の防火安全上極めて重要といえるでしょう。