
日本は世界有数の地震大国として、これまで数多くの大地震に見舞われてきました。近代以降の主要な大地震を振り返ると、1923年の関東地震(関東大震災)はマグニチュード7.9を記録し、死者・行方不明者が10万人を超える甚大な被害をもたらしました。1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)はマグニチュード7.3で、死者6,434人、全壊家屋104,906棟という都市直下型地震の恐ろしさを示しました。
参考)https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/kyosei/23-1/files/3-1-2.pdf
2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)はマグニチュード9.1と日本観測史上最大規模を記録し、死者・行方不明者約18,000人、全壊家屋121,000棟以上の被害が発生しました。この地震では巨大津波が沿岸部を襲い、建築物の耐震性だけでなく津波対策の重要性が再認識されました。2024年の令和6年能登半島地震ではマグニチュード7.6、最大震度7を観測し、死者634人、全壊家屋6,532棟の被害が発生しています。
参考)日本の地震年表 - Wikipedia
建築事業者として注目すべきは、1948年の福井地震(マグニチュード7.1)を契機に建築基準法が制定され、1981年には新耐震基準が導入されたという歴史的経緯です。過去100年間で震度6強以上を観測した地震は全国各地で50回以上発生しており、どの地域でも大地震のリスクがあることを示しています。
参考)気象庁
気象庁「日本付近で発生した主な被害地震」では平成8年以降の詳細な被害データが公開されており、建築計画の参考資料として活用できます
世界規模で見ると、さらに巨大な地震が記録されています。観測史上最大の地震は1960年のチリ・バルディビア地震で、マグニチュード9.5を記録しました。この地震で発生した津波は太平洋を越えて日本にも到達し、死者142人の被害をもたらしました。
参考)https://toukeidata.com/seikatu/world_jishin_rank.html
2004年のスマトラ島沖地震はマグニチュード9.1で、インドネシアを中心に14カ国で約28万人もの犠牲者を出す史上最悪の津波災害となりました。この地震では、震源から数千キロ離れた地域でも津波による被害が発生し、津波の伝播特性と広域的な防災対策の必要性が明らかになりました。
参考)Template:規模が大きい地震 (世界) - Wikip…
2023年のトルコ・カフラマンマラシュ地震はマグニチュード7.8で、死者約60,000人、全壊・大破建物が50万棟を超える甚大な被害をもたらしました。この地震では、建築基準が存在していても適切に施工されていない建物が多数倒壊し、建築物の品質管理の重要性が浮き彫りになりました。建築事業者として、単に基準を満たすだけでなく、実際の地震時に人命を守れる建物を提供する責任があることを再認識させる事例です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10956047/
日本の東日本大震災と同規模のマグニチュード9クラスの地震は、1964年のアラスカ地震、1952年のカムチャッカ地震など、20世紀以降でも複数回発生しています。巨大地震は決して稀な現象ではなく、常に備えておく必要があります。
参考)https://www.bousai.go.jp/jishin/pdf/hassei-jishin.pdf
過去の大地震における建築物被害を分析すると、耐震基準との明確な関係性が見えてきます。阪神・淡路大震災では、死者の約8割が建物倒壊や家具の転倒による圧迫死でした。特に注目すべきは、1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物の被害が著しく大きかったことです。
参考)地震大国日本 過去の地震と被害
具体的なデータとして、阪神・淡路大震災における木造住宅の倒壊率は以下の通りです:
この結果から、耐震基準の強化が確実に人命保護につながっていることが実証されています。2016年の熊本地震でも同様の傾向が確認され、2000年基準で建てられた住宅の被害は極めて限定的でした。
また、鉄筋コンクリート造の橋脚についても、1980年以前に建設されたものは阪神・淡路大震災で多数崩壊しましたが、これは耐震設計以前の基準で建設されたコンクリートのじん性(粘り強さ)が不足していたためです。この教訓から耐震改修法が制定され、既存建築物の耐震診断・改修促進のための支援措置が設けられました。
参考)日本を襲った過去の大規模地震を振り返る~大地震による被害と教…
さくら構造「高耐震化を広める」では、建築基準法の耐震性能と実際の地震時の建物挙動について、建築事業者向けの詳細な解説が掲載されています
建築事業者が大地震に備えるためには、耐震・免震・制震という3つの地震対策技術を正しく理解し、建物の用途や要求性能に応じて適切に選択する必要があります。
耐震構造は、柱・梁・壁の強度と剛性で地震に耐える最も一般的な構造形式です。建物自体を強固に作ることで倒壊を防ぎますが、地震の揺れは建物内に直接伝わるため、揺れ自体は大きくなります。建築基準法では、震度5弱程度の中地震時に構造体が軽微なひび割れ程度に留まり、震度6強程度の大地震時に構造体の一部損壊を許容しつつ倒壊を防ぐことを目標としています。コストを抑えられるため、小規模住宅から高層建築まで幅広く採用されています。
参考)免震・制震・耐震の違い
免震構造は、建物と地盤の間に免震装置を設置し、地震の揺れを建物に伝えにくくする技術です。免震装置には揺れを吸収するダンパーと、建物を支えながらゆっくり移動させるアイソレータ(積層ゴムなど)が使われます。地震の揺れを建物が受け流すため、建物内部の揺れが大幅に低減され、家具の転倒や設備機器の損傷も最小限に抑えられます。ただし、初期コストが高く、建物周囲に免震装置の可動スペース(クリアランス)を確保する必要があります。
参考)地震対策技術はここまで進んだ!建物と人を揺れから守る 最先端…
制震構造は、建物内部にダンパーなどの制震装置を組み込み、地震エネルギーを吸収して揺れを軽減する技術です。特に高層建築では上階ほど揺れが大きくなりますが、制震装置によってこれを抑制できます。免震よりコストが安く、維持管理も容易で、既存建物への後付けも可能です。
各構造の比較。
構造種別 | 初期コスト | 揺れの低減効果 | メンテナンス | 適用範囲 |
---|---|---|---|---|
耐震 | 低 | 揺れは直接伝わる | 不要 | あらゆる建物 |
免震 | 高 | 非常に高い | 定期点検必要 | 中低層が中心 |
制震 | 中 | 高い | ほぼ不要 | 高層建築に有効 |
建築事業者としては、クライアントの予算、建物用途、要求性能を総合的に判断し、最適な地震対策を提案することが求められます。
日建設計「建築的視点から見た地震対策」では、各構造形式の詳細な技術解説と実際の適用事例が紹介されています
大地震時に見過ごせないリスクとして、地盤の液状化現象があります。液状化とは、地震の揺れによって地盤が液体状になる現象で、建物の沈下や傾斜、地下埋設物の浮き上がりなどの被害をもたらします。
参考)地震時の液状化について知ろう!
液状化が発生しやすい地盤条件は以下の3つです:
📍 地表面から20m以内の深さに存在する地層
📍 中粒砂など粒径が均一な砂質土(細粒分含有率35%以下)
📍 地下水位より深く、水で飽和している状態
特に、埋立地、旧河川敷、沼地や湿地を埋め立てた場所、砂丘間低地、盛土地などは液状化リスクが高い地域です。2011年の東日本大震災では、東京湾岸の埋立地や千葉県浦安市などで大規模な液状化被害が発生し、多数の戸建て住宅が傾斜しました。2016年の熊本地震でも液状化による建物被害が報告されています。
参考)建築物に関する液状化対策/大阪府(おおさかふ)ホームページ …
建築事業者が取るべき液状化対策として、以下の手法があります:
事前調査段階
設計・施工段階
液状化の判定には、地震時の加速度、土質特性、地下水位などを総合的に評価する必要があります。建築基準法では液状化のおそれがある地盤での適切な対策を求めており、建築事業者は設計段階で十分な検討を行う責任があります。
住宅購入者に対しても、液状化リスクの説明と対策の必要性を適切に伝えることが、建築事業者の重要な役割です。液状化による被害は地震後の生活に長期的な影響を及ぼすため、予防的な対策が何より重要です。
大阪府「建築物に関する液状化対策」では、液状化メカニズムの詳細と具体的な対策手法について、建築実務者向けの情報が提供されています