カーボンニュートラル 建築 実現へ向けた取り組みと事例

カーボンニュートラル 建築 実現へ向けた取り組みと事例

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カーボンニュートラル 建築 実現への道筋

カーボンニュートラル建築の基本概念
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温室効果ガス排出ゼロ

建物のライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを実質ゼロにする取り組み

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2050年目標

日本を含む多くの国が2050年までのカーボンニュートラル実現を目指している

建築分野の重要性

建築物は温室効果ガス排出量の大きな割合を占めており、対策が不可欠

カーボンニュートラル 建築業界の現状と目標

建築業界では、2009年12月に「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050〜建築のカーボン・ニュートラル化を目指して〜」というビジョンを提言しました。このビジョンでは、新築住宅と既築住宅の両方において、二酸化炭素をほとんど排出しないカーボンニュートラル化を目指しています。

 

具体的な目標としては、今後10〜20年の間に新築住宅のカーボンニュートラル化を推進し、2050年までには既築住宅も含めた建築分野全体のカーボンニュートラル化を実現することを掲げています。

 

2021年8月には、国土交通省・経済産業省・環境省が共同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を取りまとめました。この中で、以下の3つの重要な項目が定められています。

  1. 2025年度までに住宅を含めた省エネ基準への適合義務化
  2. 遅くとも2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準に引き上げ、適合を義務化
  3. 太陽光発電設備の設置促進(将来的な設置義務化も選択肢の一つ)

これらの目標は、パリ協定に基づく2050年カーボンニュートラル実現に向けた日本の取り組みの一環として位置づけられています。

 

カーボンニュートラル 建築物のZEB化推進と効果

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、「Net Zero Energy Building」の略称で、建物で消費する年間のエネルギー量が実質ゼロ以下になる建築物を指します。ZEBは建築物のカーボンニュートラル化において中心的な役割を果たしています。

 

ZEBには以下の4つの区分があります。

  • 「ZEB」:100%以上の省エネを実現
  • 「Nearly ZEB」:75%以上100%未満の省エネを実現
  • 「ZEB Ready」:50%以上の省エネを実現(創エネなし)
  • 「ZEB Oriented」:大規模建築物で40%以上の省エネを実現(創エネなし)

ZEB化を実現するためには、以下の3つの要素が重要です。

  1. 省エネルギー:高断熱化、日射遮蔽、高効率設備の導入など
  2. エネルギーの効率的利用:BEMS(ビルエネルギー管理システム)の活用
  3. 創エネルギー:太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入

ZEB化による効果としては、光熱費の削減だけでなく、不動産価値や企業ブランドイメージの向上も期待できます。また、建物利用者の快適性や生産性の向上にもつながるという研究結果も出ています。

 

国は2030年度以降に新築される建築物について、ZEB基準の水準の省エネ性能確保を目指し、2050年にはストック平均でZEB基準の水準を目指すという目標を掲げています。

 

カーボンニュートラル 建築におけるLCCO2削減の重要性

LCCO2(ライフサイクルCO2)とは、建築物の計画・設計から、材料の製造・輸送、建設、運用、解体・廃棄に至るまでの建物のライフサイクル全体を通じて排出される二酸化炭素の総量を指します。カーボンニュートラル実現のためには、このLCCO2の削減が不可欠です。

 

建築物のライフサイクルは主に以下の段階に分けられます。

  1. 資材製造・建設段階:資材の製造過程や建設現場での排出
  2. 運用段階:建物の使用中のエネルギー消費による排出
  3. 解体・廃棄段階:建物の解体や廃棄物処理による排出

従来は運用段階でのCO2排出量が最も多いとされてきましたが、建物の省エネ化が進むにつれて、資材製造・建設段階の排出量(embodied carbon:体化炭素)の割合が相対的に高まっています。そのため、建材の選定や施工方法の工夫など、建設段階からのCO2削減が重要視されるようになっています。

 

例えば、株式会社竹中工務店では、建物ライフサイクルにおけるCO2排出ゼロを目指し、以下のような取り組みを行っています。

  • 資材製造・建設:環境負荷の少ない資材調達、高効率な生産システムの導入
  • 運用:省エネや再生可能エネルギーの活用、グリーン電力の導入
  • 解体・廃棄:環境負荷の少ない解体工法、廃棄物の削減

特に注目すべきは、CO2排出量を6割削減するコンクリートの開発など、建材自体の環境負荷低減に向けた取り組みです。

 

カーボンニュートラル 建築を実現する木造化・木質化の可能性

近年、建築物の脱炭素化を進める上で注目されているのが「木造化・木質化」です。木材は成長過程で大気中のCO2を吸収・固定するため、適切に管理された森林から調達された木材を建築に活用することで、カーボンストックとしての役割を果たします。

 

木造建築のカーボンニュートラルへの貢献は主に以下の点が挙げられます。

  1. 炭素固定:木材は成長過程でCO2を吸収し、建材として使用されている間はその炭素を固定し続ける
  2. 省エネルギー:木材は断熱性に優れており、建物の冷暖房エネルギー削減に貢献
  3. 低環境負荷:木材の加工・製造時のエネルギー消費は、コンクリートや鉄に比べて少ない

例えば、あるマンションプロジェクトでは、最上階を木造化することで、すべてRC造鉄筋コンクリート造)とした場合と比較して約108トンの二酸化炭素排出量を削減できたという事例があります。これは、樹齢約50年のスギ約7,700本が1年間に貯蔵する量に相当します。

 

また、耐火性能を持たせた集成木材「燃エンウッド」のような技術開発により、中高層建築物の木造化も可能になってきています。こうした技術の普及により、都市部の建築物においても木材の活用が進むことが期待されています。

 

カーボンニュートラル 建築における先進企業の取り組み事例

建築業界では、多くの企業がカーボンニュートラル実現に向けて先進的な取り組みを行っています。以下に、代表的な企業の事例を紹介します。

 

竹中工務店
竹中工務店は、建物のライフサイクル全体でのCO2排出ゼロを目指しています。特に注目すべきは、耐火性能を持たせた集成木材「燃エンウッド」の開発です。この技術により、木材の断熱効果と吸熱効果を活かしながら、火災時の安全性も確保することができます。また、自社の東京本店では、二酸化炭素制御の導入や照明のLED化を進め、環境配慮型オフィスとしてのモデルケースを示しています。

 

鹿島建設
鹿島建設は、世界初のカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」を開発しました。このコンクリートは、セメントの代わりに特殊混和材を使用し、硬化過程で二酸化炭素を吸収・固定する仕組みになっています。カーボンネガティブとは、温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る状態で、カーボンニュートラルよりさらに進んだ概念です。

 

三井住友建設
三井住友建設は、2030年までの環境目標として「Green Challenge 2030」を掲げています。この中には、二酸化炭素排出量の削減、再生可能エネルギー事業の推進、建設廃棄物のリサイクル率100%などが含まれています。具体的な取り組みとしては、ZEB・ZEHの提案営業活動の推進や関連技術開発、太陽光発電所の建設、超高耐久橋梁や超高耐久床板などの長寿命化技術の開発などがあります。

 

東急建設
東急建設は、ZEBプランナーの認定を取得し、新築住宅やリフォームのZEB化を積極的に推進しています。同社が設計する物件のZEB化を進めており、提案した15件のうち10件が実現しているという実績があります。また、ZEB、ZEH-Mのゼロエネルギー化を進めるシミュレーションツールを独自に開発・運用しており、顧客自身が自由に使用できるツールの公開も予定しています。

 

戸田建設
戸田建設は、自社の筑波技術研究所をグリーンオフィス棟へリニューアルし、太陽光発電・地中熱利用・AIで制御された空調などを導入して省エネルギー化を図っています。また、現場での軽油使用量削減のため、燃料添加剤の活用やバイオディーゼル燃料、GTL燃料(天然ガス由来の軽油代替燃料)の導入など、建設現場からのCO2排出削減にも積極的に取り組んでいます。

 

これらの先進的な取り組みは、建築業界全体のカーボンニュートラル化を加速させる原動力となっています。

 

カーボンニュートラル 建築を支援する補助金制度の活用法

カーボンニュートラル建築の実現には、初期投資コストの課題がつきものです。しかし、国や自治体はさまざまな補助金制度を設けており、これらを活用することで経済的負担を軽減しながら脱炭素化を進めることができます。

 

既築建築物向けの主な補助金制度
環境省が実施している主要な補助金制度には以下のようなものがあります。

  1. 断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ事業)
    • 予算額:1,350億円
    • 対象:既存住宅の窓の断熱改修、蓄電池・太陽光発電設備等の導入
  2. 業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ事業)
    • 対象:既存の業務用建築物の省エネ改修、再エネ設備の導入等

これらの補助金は、2050年にストック平均でZEB基準の水準の省エネ性能を確保するという目標達成のために重要な役割を果たしています。特に既築建築物は数が多いにもかかわらず、これまで支援が限定的だった領域であり、今後の脱炭素化に向けて重点的に取り組むべき分野です。

 

ZEB・ZEH関連の補助金
ZEB・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現を支援する補助金も多数あります。

  • ZEBの実証支援事業:ZEBの設計費用や設備導入費用の一部を補助
  • ZEH支援事業:ZEHの新築・改修費用の一部を補助
  • 次世代ZEH+実証事業:より高性能なZEHの普及を目指した補助金

補助金活用のポイント
補助金を効果的に活用するためのポイントは以下の通りです。

  1. 早期の情報収集:補助金は予算に限りがあり、早期に締め切られることが多いため、情報収集を早めに行う
  2. 専門家への相談:ZEBプランナーなどの専門家に相談し、最適な補助金の選定や申請サポートを受ける
  3. 複数の補助金の組み合わせ:条件によっては複数の補助金を組み合わせて活用できる場合もある
  4. 長期的な視点での投資判断:初期コストだけでなく、ランニングコスト削減効果も含めた長期的な視点で判断する

補助金制度は毎年見直されることが多いため、最新情報を常にチェックすることが重要です。また、自治体独自の補助金制度もあるため、国の制度と合わせて確認することをおすすめします。

 

環境省のZEH・ZEB補助金に関する最新情報はこちらで確認できます
以上のように、カーボンニュートラル建築の実現には、技術的な取り組みと経済的支援の両面からのアプローチが不可欠です。補助金制度を上手に活用しながら、脱炭素社会の実現に向けた建築の取り組みを加速させていくことが求められています。