
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)において、第一種特定化学物質とは、難分解性、高蓄積性及び長期毒性または高次捕食動物への慢性毒性を有する化学物質として政令で定められたものを指します。これらの物質は環境中で分解されにくく、生物の体内に蓄積しやすい性質を持ち、人の健康や生態系に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/class1specified_index.html
化審法第二条第二項では、第一種特定化学物質の要件として「自然的作用による化学的変化を受けにくいもの」「生物の体内に蓄積されやすいもの」「継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれまたは高次捕食動物の生息または生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」という三つの性状を併せ持つことが明記されています。
参考)e-Gov 法令検索
第一種特定化学物質に指定されると、製造または輸入の許可が原則として必要となり、実質的には製造・輸入・使用が禁止されることになります。この厳しい規制は、過去のPCB(ポリ塩化ビフェニル)による環境汚染問題を教訓として設けられたものです。
参考)「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」第⼀…
2025年10月現在、第一種特定化学物質として指定されている物質は28種類あり、その多くはPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)の対象物質でもあります。代表的な物質には以下のようなものがあります。
参考)https://www.nite.go.jp/chem/jcheck/list6.action?request_locale=jaamp;category=211
主要な第一種特定化学物質の例:
参考)化審法 第1種特定化学物質リスト
参考)よくある質問
これらの物質の多くは、かつて工業製品や農薬として広く使用されていましたが、環境残留性と生物濃縮性の高さから、現在では製造・使用が厳しく制限されています。特に建設業においては、古い建材や塗料に含まれている可能性があるため、解体工事や改修工事の際には注意が必要です。
参考)職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント…
化審法における第一種特定化学物質の規制は、環境汚染を未然に防止することを目的として、製造・輸入・使用の各段階で厳格に管理されています。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/kagaku/etc/tikujyo-faq/tjk3.pdf
製造・輸入の規制:
第一種特定化学物質の製造または輸入を行う場合、化審法第6条第1項に基づき主務大臣(厚生労働大臣、経済産業大臣、環境大臣)の許可を受けなければなりません。しかし、実際にはこの許可は原則として認められておらず、事実上の製造・輸入禁止となっています。唯一の例外は、試験研究を目的とする場合のみです。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001281420.pdf
使用の規制:
第一種特定化学物質の使用についても、化審法第14条により、政令で定められた特定の用途以外での使用は禁止されています。ただし、化審法第25条では、①他の物による代替が困難であり、かつ②環境の汚染が生じて人の健康に係る被害または生活環境動植物の生息・生育に係る被害を生ずるおそれがないことを要件として、一部の用途での使用が認められる場合があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001281466.pdf
輸入製品の規制:
第一種特定化学物質が使用されている製品についても、化審法第24条第1項および施行令第7条により、輸入が禁止されています。例えば、デカブロモジフェニルエーテルを使用した難燃性生地の輸入が2018年10月1日から禁止されており、これに違反した輸入事例が2025年に確認されています。建設業においても、海外から輸入される建材や資材に第一種特定化学物質が含まれていないか確認することが重要です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/03_import/13_kagaku/kagakuhin.html
建設業における化学物質管理は、2024年4月からの労働安全衛生法改正により、より厳格化されています。建設現場では、塗装作業、接着作業、防水作業などで様々な化学物質を取り扱うため、第一種特定化学物質を含む化学物質全般の適切な管理が求められています。
参考)https://www.kensaibou.or.jp/safe_tech/leaflet/files/chemical_substance_handling_work_risk_assessment.pdf
建設業における化学物質管理の基本体制:
建設業では、業種や事業場規模にかかわらず、対象となる化学物質の製造・取扱いを行うすべての事業場が規制の対象となります。製造業だけでなく、清掃業、卸売・小売業も含まれるため、建設現場で使用する資材の調達段階から注意が必要です。
事業者は以下の措置を講じる必要があります。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001985986.pdf
建設現場特有の課題:
建設業では、現場が頻繁に変わることや、多数の協力会社が関与することから、化学物質管理が複雑になりがちです。そのため、元請事業者が中心となって、各作業における使用化学物質の把握と管理体制の構築が重要です。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/content/contents/001729856.pdf
特に解体工事や改修工事では、既存建材に第一種特定化学物質が含まれている可能性があるため、事前調査が不可欠です。古い建物には、PCBを含む塗料や絶縁材、アスベストを含む建材などが使用されていることがあり、これらを適切に処理しないと環境汚染や作業員の健康被害につながります。
建設業における化学物質取扱い作業のリスクアセスメントに関する詳細なガイドライン(一般社団法人建設業労働災害防止協会)
このガイドラインでは、建設現場での具体的なリスクアセスメント手法や、化学物質管理者の選任方法について詳しく解説されています。
化審法における第一種特定化学物質の規制違反には、厳しい罰則が設けられています。これは、環境汚染の深刻さと、一度汚染されると回復が困難であることを反映したものです。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/kagaku/etc/tikujyo-faq/tjk6.pdf
主な罰則規定:
化審法第42条(現在は第57条に改正)により、以下の違反行為には「3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科」という、化審法で最も重い罰則が科されます:
参考)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/information/kashinhou_seminar_endai1_20240214.pdf
これらの罰則は、化学物質に関係する類似の法令との均衡性を勘案して定められており、第一種特定化学物質が環境中に放出されることによる環境汚染の蓋然性が高いことから、最も厳しい量刑が設定されています。
国際的な規制動向とPOPs条約:
第一種特定化学物質の多くは、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)の対象物質として国際的に規制されています。POPs条約は、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるPCB、DDT等の残留性有機汚染物質について、製造・使用の廃絶・制限、排出の削減等を規定する国際条約です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pops.html
日本では、POPs条約で新たに対象となった物質については、化審法の第一種特定化学物質として指定する手続きが取られています。2025年6月には、クロルピリホス、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)、長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)とその塩およびLC-PFCA関連物質が新たにPOPs条約の対象となり、今後化審法での規制強化が検討されています。
参考)日本、ストックホルム条約(POPs条約)新規対象物質の化審法…
環境モニタリング体制:
化審法では、第一種特定化学物質等について一般環境中の残留状況を監視するため、化学物質環境実態調査が実施されています。この調査は、POPs条約への対応も含め、条約対象物質等の一般環境中での分布状況を継続的に把握することを目的としています。
参考)「令和5年度化学物質環境実態調査結果(概要)」について
建設業においても、これらの国際的な規制動向を把握し、海外から輸入される建材や資材が最新の規制に適合しているか確認することが重要です。特にEUのREACH規則などでは、6価クロム化合物の使用禁止が段階的に進められており、建材の表面処理などで使用される化学物質についても注意が必要です。
参考)容器,内装建材向け表面処理鋼板のクロメートフリー化の状況
経済産業省による第一種特定化学物質の最新情報と規制内容
この公式ページでは、第一種特定化学物質の指定状況や最新の規制動向について、常に更新された情報が提供されています。