
簡易消火器具は、消火器ではないものの消防法及び関係政令上で消火器の代替が認められる重要な防災設備です。建築現場や住宅において、初期消火に大きな役割を果たします。
主な簡易消火器具の種類
特に注目すべきは三角バケツです。内部に隔壁があり、一度に全量が出ずに数回にわたって散水可能な設計となっています。7リットルのもの2個で消火バケツ3個と同等の効果を発揮するため、限られたスペースでの設置に適しています。
投てき式消火弾の活用
1960年代まで広く普及していた投てき式消火弾も簡易消火器具として認められています。塩化アンモニウム-炭酸ナトリウム等の水溶液をガラス製アンプルや割れやすいプラスチック容器に封入し、火災時に火元に投げ込んで消火を図る仕組みです。古くからあるガラス製のものは6個で消火専用のバケツ3個と同等とみなされます。
エアゾール式簡易消火具は、消火剤を充填ガス(空気、窒素、ヘリウムまたは液化二酸化炭素)の圧力により噴霧状に放射して消火する装置です。家庭内で発生する天ぷら鍋の油の過熱による発火、石油ストーブの注油中の引火による火災、小規模の普通火災などの比較的初期段階の火災に有効です。
エアゾール式簡易消火具の特徴
建築現場では、作業用プレハブや仮設事務所での電気火災対策として特に有効です。従来の消火器よりもコンパクトで場所を取らず、キッチンやリビングなどに手軽に設置できます。
薬剤の種類と選択基準
エアゾール式簡易消火具には粉末、強化液、ハロンなどの種類があります。ただし、ハロンのエアゾール式簡易消火具は天ぷら油火災には有効ではないとされているため、用途に応じた適切な選択が重要です。強化液タイプは水(浸潤剤等入り)400gが火面に放射すると炎を押さえる防炎性と再燃防止を発揮します。
参考情報:消防機器の詳細な技術基準について
https://www.jfeii.or.jp/pdf/lecture/18.pdf
建築現場における簡易消火器具の設置は、消防法に基づく厳格な基準に従う必要があります。適切な配置により、火災発生時の迅速な初期対応が可能となります。
配置に関する基本要件
消火器具は階ごとに設置し、各部分からそれぞれの消火器具間での歩行距離が20m以下(大型消火器では30m以下)になるよう配置する必要があります。また、通行・避難に支障なく、使用に際して容易に持ち出せ、床面からの高さが消火器具の上部が1.5m以下になる場所に設置することが求められます。
建築現場特有の考慮事項
能力単位による設置計画
簡易消火器具の能力単位は、消火上の能力を数値で表したものです。A火災では水バケツ3杯で能力単位1、B火災ではスコップ2杯の砂で能力単位1単位とします。建築現場の規模や用途に応じて、必要な能力単位を満たす組み合わせで設置計画を立てることが重要です。
建築現場や関連施設では、一般的な可燃物火災以外にも様々な特殊火災のリスクが存在します。特に調理施設を併設する現場事務所や宿舎では、天ぷら油火災への対策が不可欠です。
火災の種別と対応方法
建築業界で遭遇する主な火災種別は以下の通りです。
天ぷら油火災は油火災(B火災)に分類され、水による消火は油が飛び散る危険があるため、適切な消火剤の選択が重要です。エアゾール式簡易消火具の強化液タイプは、天ぷら油火災に対して特に高い効果を発揮します。
電気火災への特別な配慮
建築現場では大量の電気設備を使用するため、電気火災のリスクが高くなります。電気火災に対しては、感電の危険を避けるため、電源を遮断してから消火活動を行うのが原則です。粉末消火器や二酸化炭素消火器、エアゾール式簡易消火具が適用できます。
再燃防止対策
粉末消火器は一瞬で消火できるものの、浸透性がないため燃焼物(木材など)によっては再燃の恐れがあります。一方、強化液消火器は一瞬の消火には不向きですが、水系薬剤のため浸透性があり、木材などの消火に有効で冷却効果も高く、再燃防止に優れています。
建築業者として理解すべき消防法上の要件は、単純な設備設置にとどまらず、事業運営全体に関わる重要な法的責務を含んでいます。
設置の制限と緩和措置
二酸化炭素消火器、ハロン1301以外のハロゲン化物を放射する消火器には設置制限があります。消防法施行令第10条第2項1号により、換気について有効な開口部の面積が床面積の30分の1以下で、かつ当該床面積が20平方メートル以下の地階、無窓階又は居室には設置できません。
一方で、消火器具の設置を必要とする防火対象物に他の消火設備等を設置した場合、消火器の設置を緩和することができる場合があります。これにより、総合的な防災計画の中で効率的な設備配置が可能となります。
定期点検と更新の義務
住宅用消火器の使用期限は製造後5年から8年で、薬剤の点検は不要ですが消火薬剤の詰替えはできません。本体に表示してある使用期限などを定期的に確認することが事業者の責務です。エアゾール式簡易消火具についても、標準的に製造年月より3年の使用期間が設定されており、適切な更新計画が必要です。
建築基準法との関連性
建築基準法第2条第4号に規定する居室の定義は、消防設備の設置要件にも影響します。建築業者は新築・改築時において、建築基準法と消防法の両方を満たす設計・施工を行う責任があります。特に防火対象物の用途変更を伴う工事では、消火設備の見直しが必要となる場合があります。
作業員への教育義務
簡易消火器具の効果的な活用には、作業員への適切な教育が不可欠です。放射時間が10数秒程度と短く、燃えているものに的確に放射する必要があるため、定期的な訓練により正しい使用方法を習得させることが重要です。また、適応する火災の種別や使用方法について、本体表示の確認方法も含めて指導する必要があります。
消防防災博物館による詳細な消火器具の解説
https://www.bousaihaku.com/preparation/537/
建築現場における防災対策は、単なる法令遵守を超えて、作業員の生命と財産を守る重要な経営課題です。簡易消火器具の適切な選択と配置により、火災リスクを大幅に軽減し、安全で効率的な建設作業環境を構築することができます。