

管理費と共益費は、不動産業界において頻繁に使用される用語ですが、実は明確な違いはほとんどありません。不動産公正取引協議会連合会の定義によると、管理費は「マンションの事務を処理し、設備その他共用部分の維持及び管理をするために必要とされる費用」、共益費は「借家人が共同して使用又は利用する設備又は施設の運営及び維持に関する費用」とされています。
参考)https://www.ekimae-r-e.co.jp/oshiete/140
定義上では管理費の方が広い範囲を指しており、共用部分の維持管理だけでなく、管理会社の運営費や事務処理費用も含まれます。一方、共益費は共用部分の維持管理に特化した費用として区別されることが多いのが特徴です。しかし実際の不動産取引においては、両者は同じ意味合いで使われており、不動産会社やオーナーによって表現が異なるだけです。
参考)https://ielove-cloud.jp/blog/entry-02648/
重要なポイントとして、管理費と共益費が両方同時に徴収されることはありません。物件によって「管理費」または「共益費」のどちらか一方の名称が使用されます。また、賃貸住宅では「管理費」、オフィスビルなどの事業用物件では「共益費」という名称が使われる傾向があります。
参考)https://www.livable.co.jp/l-note/question/s18134/
管理費・共益費は、建物の共用部分を快適に保つために幅広く使用されます。最も大きな割合を占めるのが共用部分の清掃費用で、エントランス、廊下、階段、エレベーター、ゴミ置き場などの日常的な清掃に充てられます。清掃業者への委託費用も含まれるため、定期的に清潔な環境を維持することができます。
参考)https://biz.moneyforward.com/realestate/basic/363/
光熱費も管理費の重要な用途の一つです。廊下やエントランスの照明にかかる電気代、エレベーターを動かすための電力費用、共用トイレや庭の水やりに使う水道代などが該当します。これらの費用は物件の居住者全員で共有し、毎月徴収される管理費から支払われます。
参考)https://www.retech-network.com/posts/detail/1121
設備の点検・メンテナンス費用も不可欠です。エレベーターの定期保守点検、消防用設備の点検(火災報知器、消火器など)、給水・排水設備の点検などが含まれます。また、電球・蛍光灯・非常灯バッテリーの交換、植栽の手入れ、軽微な補修作業なども管理費から賄われます。
参考)https://www.housemate-fujisawa.jp/article/for-lessees/yachin/kanrihi-kyouekihi/
さらに、管理人が常駐する物件では、その人件費も管理費に含まれることがあります。管理人は日常的な建物管理業務を行い、入居者の快適な生活をサポートする重要な役割を担っています。
参考)https://www.w-t-l.co.jp/blog/entry-306519/
管理費・共益費の相場は、一般的に家賃の5~10%程度とされています。例えば、家賃が10万円の物件であれば、管理費は5,000円~10,000円程度が目安となります。ただし、これはあくまで平均的な相場であり、物件の種類や設備によって大きく変動します。
参考)https://www.chintai.net/news/107078/
新築物件や設備が充実している物件では、管理費が高めに設定される傾向があります。オートロック、防犯カメラ、エレベーター、宅配ボックス、コンシェルジュサービスなどの設備が整っている場合、その維持費がかかるため、相場よりも高額になることがあります。逆に、アパートタイプの物件は共用部分が少ないため、マンションに比べて管理費が低く設定されることが多いです。
参考)https://www.ielove.co.jp/column/contents/03885/
管理費の設定方法として、実際にかかった維持費を戸数で按分する方法が最も一般的です。不動産の運営でかかる維持費は家賃の15~20%程度とされており、その中から適切な金額を管理費として設定します。ただし、管理費の設定に法的な規制はなく、オーナーや管理会社が自由に決定できるため、物件ごとに確認が必要です。
参考)https://growth-office.com/column/a0bJ2000000lzqIIAQ
管理費と混同されやすい費用に「修繕積立金」がありますが、両者は全く異なる性質を持っています。管理費は日常的な維持管理に使用される費用であるのに対し、修繕積立金は将来必要となる大規模修繕工事や建物全体の特別な修繕に備えて積み立てておくお金です。
参考)https://large-scale-repair.com/report-51/
具体的には、管理費は共用部分の清掃、設備点検、光熱費など日々発生する費用に充てられます。一方、修繕積立金は外壁工事、屋上防水、建物診断、設備配管の大規模改修など、定期的に実施される大規模修繕に使用されます。このように、管理費は「日常的な維持管理費用」、修繕積立金は「将来の大規模修繕費用」という明確な違いがあります。
参考)https://www.bk.mufg.jp/column/events/home/0002.html
賃貸物件において重要なポイントは、修繕積立金は原則として大家さん(オーナー)が負担するものであり、入居者に請求されることはありません。ただし、入居者が故意や過失で外壁や共用部分を傷つけた場合には、その修繕費用を請求されることがあります。分譲マンションでは、区分所有者(持ち主)が毎月修繕積立金を支払う必要がありますが、賃貸マンションでは入居者ではなくオーナーの負担となります。
最近の賃貸市場では「管理費ゼロ」を謳う物件が増えていますが、これには注意が必要です。管理費ゼロ物件は、一見すると年間36,000円~60,000円も節約できるように見えますが、実際には管理費を家賃に含めているケースがほとんどです。つまり、管理費が本当にゼロというわけではなく、家賃として一本化されているだけなのです。
参考)https://www.graceroyal.net/post/common-service-fee-free-of-charge-caution
管理費ゼロ物件のメリットとしては、会社の家賃補助制度を活用しやすい点が挙げられます。多くの企業では家賃のみが補助対象となるため、管理費も含めた家賃設定であれば、全額を会社が負担してくれる可能性があります。これにより、実質的な自己負担を減らすことができます。
参考)https://www.winslink.co.jp/article/knowledge/management.php
しかし、デメリットも存在します。賃貸契約時の初期費用は家賃をベースに計算されることが多いため、管理費が家賃に含まれている場合、敷金・礼金・仲介手数料などが高額になる可能性があります。また、契約更新時の更新料も家賃ベースで計算されるため、長期的には負担が大きくなることもあります。
さらに重要なのは、本当に管理が行われていない「管理費ゼロ物件」も存在することです。こうした物件では、共用部分の清掃や設備点検が適切に行われず、住環境が悪化するリスクがあります。物件を選ぶ際には、管理費の有無だけでなく、実際の管理状況をしっかり確認することが重要です。
参考)https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/chintai/fr_money/kanrihi/
管理費・共益費の税務処理について、居住用と事業用では大きな違いがあります。居住用賃貸物件の場合、家賃と同様に管理費・共益費には消費税がかかりません。国税庁の規定によると、「住宅を共同で利用するうえで居住者が共通に使用すると認められる部分の費用を居住者に応分に負担させる性格のものについては、共益費、管理費等その名称にかかわらず非課税となります」とされています。
参考)https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/09/02.htm
ただし、駐車場代や倉庫使用料を個別の項目で請求している場合は課税対象となるため注意が必要です。また、2023年10月から開始されたインボイス制度においても、居住用物件の管理費・共益費は非課税であるため、インボイス制度の対象にはなりません。
一方、事業用賃貸物件(オフィスビル、店舗など)では、賃料と管理費の両方に消費税がかかります。法人がテナントを借りて事業を行う場合、共益費は「管理費」などの科目で経費計上することになります。ただし、賃料と共益費の区分が曖昧だと、消費税の申告や経費処理で問題が生じる可能性があるため、契約時に明確にしておくことが重要です。
参考)https://krasula.jp/notes/tenantcommonareafeesconsumptiontax
テナント物件で注意すべきは、水道光熱費などの共益費が「通過勘定」として実費精算される場合です。ビル管理会社がテナントから受け取る水道光熱費等の共益費は、実費精算的な性格を有するため、課税対象外として扱われることがあります。契約内容によって税務処理が異なるため、専門家に相談することをお勧めします。
参考)https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/22.htm
国税庁「集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定」では、管理費・共益費の消費税に関する詳細な判定基準が解説されています