

技術者の資格を増やせば経審点数は必ず上がると思っていませんか?実は、有資格者が増えても申請業種に紐づけていなければ、点数はまったく動きません。
経営事項審査(経審)は、国や地方公共団体が発注する公共工事を受注したい建設業者が必ず受けなければならない審査制度です。この審査で算出される「総合評定値(P点)」が、公共工事の入札参加資格の等級を決定づける重要な指標となります。
P点は以下の5つの評点を加重平均して算出されます。
| 評点記号 | 評価内容 | 配点ウェイト |
|---|---|---|
| X1 | 完成工事高(工事種別年間平均) | 0.25 |
| X2 | 自己資本額・利払前税引前償却前利益 | 0.15 |
| Y | 経営状況分析(財務指標8項目) | 0.20 |
| Z | 技術職員数・元請完成工事高 | 0.25 |
| W | 社会性等(労働環境・企業姿勢) | 0.15 |
計算式で表すと次のようになります。
$$P = 0.25X_1 + 0.15X_2 + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W$$
それぞれのウェイトを見ると、X1(完成工事高)とZ(技術力)が各0.25と最も高く、合計で全体の半分を占めます。つまり、売上規模と技術者の数・質が、P点を左右する最大の要因です。
ただし、P点の最大値は2,150点、最低値は-659点と幅があります。国土交通省の統計によると、全業種の平均P点は700~900点台に集中しており、1,000点を超えると上位層に入ると考えてよいでしょう。東京ドームのグラウンド面積に例えるなら、業者全体の点数分布は中央のベース周辺に密集しているようなイメージです。平均をわずかに上回るだけで、入札競争において有利なポジションに立てます。
P点の算出に直結する経営状況分析(Y点)は、民間の分析機関に申請して取得するもので、財務諸表の内容が反映されます。Y点は財務状況が良好なほど高くなりますが、赤字決算が続くと大幅に下がる仕組みになっています。Y点が低い場合は、財務改善が根本的な対策となります。
参考リンク:P点の算出方法と各評点の詳細は国土交通省の公式資料で確認できます。
X1評点は「完成工事高」の大きさを評価します。単純に「売上が大きいほど点が高い」と思われがちですが、計算方法に注意が必要です。
X1は、審査基準日(決算日)を起点とした直近2年または3年の平均完成工事高で算出されます。2年平均か3年平均かは業者が選択できるため、直近に大型工事が集中している場合は2年平均、平準化されている場合は3年平均が有利になることがあります。選択を誤るだけで、数十点単位の差が生まれます。
また、X1は業種ごとに別々に計算される点も重要です。たとえば「土木工事業」と「建築工事業」を両方保有している場合、それぞれの業種で計上できる工事高を正確に按分する必要があります。誤った按分や計上漏れがあると、実態より低い点数になってしまいます。これは見落としがちなポイントです。
完成工事高を増やす即効策はありませんが、「決算期の調整」は検討する価値があります。たとえば、大型工事の完成時期に合わせて決算期を変更することで、完成工事高が高い時期を審査対象期間に含められる場合があります。ただし、決算期変更には税務上の影響もあるため、税理士への相談が先決です。
元請完成工事高の比率もX1評点に影響します。下請けばかりで元請工事が少ない会社は、同じ売上規模でも点数が伸びにくい構造になっています。中長期的には、元請受注比率を高める営業戦略が経審対策としても有効です。
Z評点は「技術職員数」と「元請完成工事高」で構成されます。なかでも技術職員数の部分は、細かいルールを正確に把握しているかどうかで点数が大きく変わります。
技術職員は、保有資格と審査業種への「業種コード紐づけ」の両方が必要です。たとえば一級建築士を持つ社員がいても、「建築工事業」の技術職員として経審申請書に記載していなければ、その資格は一切Z点に反映されません。資格があるだけではダメということです。
さらに、技術職員のポイントは資格の種類によって異なります。
一級資格者1人が6点であるのに対し、二級資格者は2点です。単純計算で、一級資格者1人の増員は二級資格者3人分に相当します。少人数の会社ほど、社員の資格取得(特に一級へのステップアップ)が点数に与えるインパクトは大きくなります。
CPD(継続能力開発)単位の取得による加点も、近年注目されています。建設業関連の学会や団体が認定するCPD制度に登録し、一定の単位を取得すると1点加算されます。費用は登録団体によりますが年間数千円程度のところも多く、コストパフォーマンスは高い加点手段です。これは使えそうです。
参考リンク:技術職員の評価基準と資格点数の詳細は以下で確認できます。
W評点は「社会性等」を評価するもので、具体的には労働環境への配慮や企業の姿勢・信頼性を数値化します。W評点は最大196点で、対策さえすれば確実に積み上げられる得点源です。
W評点で加点される主な項目は以下の通りです。
なかでも「建退共(建設業退職金共済)」への加入は、加入するだけで15点の加点があります。建退共は中小建設業者の従業員の退職金を国が管理する制度で、月々の掛金も1日あたり320円(2024年時点)と低コストです。未加入であれば、経審対策として加入を検討する価値は十分あります。
「建設業経理士」の資格も、W評点を上げる有効な手段です。1級建設業経理士は4点、2級建設業経理士は2点が加算されます。経理担当者が資格取得に挑戦するだけで、直接点数に貢献できます。難易度は2級であれば市販のテキストで独学できるレベルです。
社会保険(雇用保険・健康保険・厚生年金)への加入は、未加入だと大幅な減点対象となります。加入が条件です。
参考リンク:建退共の制度詳細と加入方法はこちらで確認できます。
Y点は「経営状況分析」の結果で決まり、民間の登録分析機関に財務諸表を提出して算出してもらいます。Y点に使われる財務指標は8つあり、流動比率・負債回転期間・売上高経常利益率など、いずれも財務健全性を測るものです。
Y点は-595点から+1,595点という非常に広い範囲を持ちますが、実際には500~800点台の企業が多く、850点を超えると優良企業と見なされます。財務改善が最もY点に直結します。
Y点の改善には、以下の取り組みが有効です。
見落とされやすいのが「未収金や仮払金の処理」です。決算書上に大きな未収金や仮払金が残っていると、実態以上に財務が悪く見えることがあります。決算前に回収・精算するだけで、指標が改善するケースがあります。
また、Y点は経審申請の直前の決算が対象となるため、決算期のタイミング管理も重要です。財務が改善した期の決算後に速やかに申請することで、良い数字を審査に反映させることができます。
経営状況分析の申請先は複数の登録機関があり、手数料は機関によって若干異なります(数千円から2万円前後が目安)。費用と審査結果の返却期間を比較して選ぶとよいでしょう。申請は郵送または電子申請に対応している機関が多いです。
参考リンク:登録経営状況分析機関の一覧と選び方は以下の国土交通省ページで確認できます。
経審の有効期限は審査基準日(決算日)から1年7カ月です。この期限内に次の経審を取得しなければ、公共工事の受注資格が失効します。期限切れは受注機会の喪失に直結します。
実務では、決算後の書類準備→税務申告→経営状況分析申請→経審申請という一連の流れを、毎年同じサイクルで回すことになります。
| タイミング | 作業内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 決算日直後 | 決算書・財務諸表の確定 | 決算後1〜2ヶ月 |
| 税務申告後 | 経営状況分析機関へ申請 | 申告後すみやかに |
| 分析結果受領後 | 経審申請書類の作成・提出 | 2〜4週間 |
| 経審結果通知後 | 各発注機関への入札参加資格申請 | 通知後すみやかに |
年間スケジュールを組む際の重要ポイントは「点数アップのための施策は決算前に完了させる」ことです。たとえば建退共加入や技術者のCPD単位取得などは、審査基準日(決算日)時点での状況が評価されます。決算を迎えてから慌てても、その期の審査には間に合いません。
また、毎年の経審申請を行政書士に依頼している場合、申請の2〜3カ月前から準備の打ち合わせをしておくと、加点項目の見直しができます。スケジュール管理が基本です。
近年は電子申請が普及し、以前より申請から結果通知までの期間が短縮された都道府県もあります。管轄の都道府県の経審窓口や公式サイトで、電子申請の対応状況を確認してみてください。電子申請に切り替えるだけで、書類郵送の手間とコスト(往復で数千円)を削減できます。これはいいことですね。
経審の点数は「ある日突然上がるもの」ではなく、日常の経営活動の積み重ねが数字に表れるものです。年間スケジュールを意識して、加点項目の準備を日常業務に組み込んでいくことが、持続的な点数アップの近道です。結論は、早期からの準備が得点力を決めます。