ケミカルアンカー種類と選び方の基礎知識

ケミカルアンカー種類と選び方の基礎知識

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ケミカルアンカー種類と特徴

ケミカルアンカーの基本情報
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高い固着力

コンクリートや各種母材に対して優れた接着性を発揮し、重量物の固定に適しています

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化学反応による定着

樹脂成分が化学反応により硬化し、アンカーボルトと母材を強固に接着します

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多様な用途

建築・土木工事から設備機器の固定まで、様々な現場で活用されています

ケミカルアンカーは、コンクリートや岩盤などの母材に後から穴を開け、その中に樹脂系接着剤と金属部材を挿入して固定する「あと施工アンカー」の一種です。機械的な拡張力ではなく、化学的な接着力で定着するため、高い引抜き強度や耐震性を発揮します。建築・土木工事において、重量物の固定や補強工事など幅広い用途で使用されています。

 

ケミカルアンカーの最大の特徴は、その高い固着強度と耐久性にあります。適切に施工されたケミカルアンカーは、母材の強度に近い固着力を発揮し、振動や衝撃に対しても優れた耐性を示します。また、母材との間に隙間がなく接着するため、水や化学物質の侵入による劣化が少なく、長期間安定した性能を維持できます。

 

ケミカルアンカー カプセル型の特徴と施工方法

カプセル型ケミカルアンカーは、ガラス管やプラスチック容器に主剤と硬化剤を別々に封入した製品です。このタイプは施工が比較的簡単で、現場での作業効率が高いという特徴があります。

 

カプセル型の主な特徴。

  • 予め定量化された樹脂と硬化剤がカプセルに封入されている
  • 穿孔した孔にカプセルを挿入し、アンカーボルトの回転・打撃により樹脂を撹拌・混合
  • 短時間で硬化するため、早期に荷重をかけられる
  • 一般的にエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂などが使用される

施工手順は以下の通りです。

  1. 適切な径と深さの穴を開ける
  2. 穴内部のホコリや破片を完全に除去する(ブラシやエアブローを使用)
  3. カプセルを穴に挿入する
  4. アンカーボルトを回転させながら挿入し、カプセルを破壊して樹脂を混合する
  5. 指定された硬化時間を待つ

カプセル型は施工が簡単である反面、アンカーボルトの回転による撹拌が必要なため、異形鉄筋やねじ付きアンカーなど表面に凹凸のあるものに限定されます。また、長い埋め込み長さが必要な場合は複数のカプセルを使用することがあります。

 

ケミカルアンカー 注入型の種類と選定ポイント

注入型ケミカルアンカーは、専用のディスペンサーを使用して樹脂を穴に注入するタイプです。カートリッジに充填された主剤と硬化剤が、ミキシングノズルを通過する際に自動的に混合される仕組みになっています。

 

注入型の主な種類と特徴。

  1. エポキシ樹脂系
    • 高い接着強度と耐久性
    • 硬化時間が比較的長い
    • 耐薬品性に優れている
    • 湿潤環境でも使用可能
  2. ビニルエステル樹脂系
    • 中程度の強度と耐久性
    • 硬化時間が短い
    • コストパフォーマンスが良い
    • 一般的な建築用途に適している
  3. エポキシアクリレート樹脂系
    • 硬化時間が短く、早期強度発現性が高い
    • 臭いが少なく、施工環境に優しい
    • チクソ性(流動性制御特性)があり、天井施工でも液ダレしにくい
    • -5℃~40℃の幅広い温度範囲で使用可能

注入型ケミカルアンカーの選定ポイントとしては、以下の要素を考慮する必要があります。

  • 必要な強度と耐久性
  • 施工環境(温度、湿度、母材の状態)
  • 硬化時間と作業効率
  • コスト
  • 環境への影響(VOC排出量など)

注入型は様々な形状のアンカーボルトに対応できる柔軟性が高く、穿孔条件も比較的自由に設定できるため、現場の状況に応じた施工が可能です。特に、ARケミカルセッターEA-350のような製品は、非スチレン系エポキシアクリレート樹脂を採用し、臭いが少なく、天井方向への施工でも液ダレしないという特徴があります。

 

ケミカルアンカー 施工時の注意点と品質管理

ケミカルアンカーの性能を最大限に発揮させるためには、適切な施工と品質管理が不可欠です。施工時の主な注意点は以下の通りです。

  1. 穿孔の品質管理
    • 設計図書に基づいた正確な穿孔径と穿孔深さの確保
    • 鉄筋などの埋設物を避けた穿孔位置の選定
    • ハンマードリルやコアドリルなど適切な穿孔工具の使用
  2. 孔内清掃の徹底
    • ブラシやエアブローによる孔内のホコリや破片の完全除去
    • 湿潤環境の場合は、孔内の水分を適切に処理
    • 清掃不足は接着強度の大幅な低下を招くため特に重要
  3. 樹脂の適切な取り扱い
    • 使用期限内の製品使用
    • 推奨保管温度の遵守
    • カートリッジ型の場合、最初の押し出し分(混合不良の可能性がある)は廃棄
  4. 硬化条件の管理
    • 気温に応じた硬化時間の調整
    • 低温時は硬化時間が長くなることを考慮
    • 硬化完了前の荷重負荷を避ける
  5. 施工後の確認
    • 目視による樹脂の充填状態の確認
    • 必要に応じて引抜き試験による強度確認
    • 施工記録の作成と保管

特に注意すべき点として、孔内清掃の不足は接着強度を50%以上低下させる可能性があります。また、気温による硬化時間の変化も重要で、一般的に気温が10℃下がると硬化時間は約2倍になると言われています。

 

品質管理においては、製品の保管状態、使用期限、施工環境(温度・湿度)、施工手順の遵守などを記録し、トレーサビリティを確保することが重要です。これにより、万が一の不具合発生時にも原因究明と対策が容易になります。

 

ケミカルアンカー 耐荷重性能と設計上の考慮点

ケミカルアンカーの耐荷重性能は、使用する樹脂の種類、アンカーボルトの径、埋め込み深さ、母材の強度など様々な要因によって決まります。設計時には以下の点を考慮する必要があります。

  1. 許容荷重の算定
    • 引張荷重:アンカーが引き抜かれる方向の力
    • せん断荷重:アンカーに対して横方向にかかる力
    • 複合荷重:引張とせん断の組み合わせ
  2. 埋め込み深さの決定
    • 一般的には、アンカーボルト径の6〜10倍が目安
    • 例えば、M16ボルトの場合、標準的な埋め込み深さは100mm(6d)〜130mm(8d)
    • 埋め込み深さが深いほど引抜き強度は増加
  3. 端距離・ピッチの確保
    • 端距離:母材端部からアンカーまでの距離
    • ピッチ:アンカー同士の間隔
    • 不足すると母材の破壊強度が低下
  4. 母材強度の影響
    • コンクリート強度が高いほどアンカーの許容荷重も増加
    • 一般的に設計基準強度Fc=21N/mm²を基準に算定

ARケミカルセッターEA-350を例にとると、M16ボルトを埋め込み深さ100mm(6d)で施工した場合、長期許容引張荷重は15.5kN、短期許容引張荷重は23.2kNとなります。同じボルトでも埋め込み深さを130mm(8d)にすると、長期許容引張荷重は23.5kN、短期許容引張荷重は35.2kNまで増加します。

 

設計上の重要な考慮点として、アンカーの破壊モードがあります。主な破壊モードには以下があります。

  • 鋼材破断:アンカーボルト自体が破断
  • 付着破壊:樹脂とボルトまたは樹脂と母材の界面での破壊
  • コーン破壊:コンクリートがコーン状に破壊
  • 母材の割裂破壊:コンクリートが割れるように破壊

安全な設計のためには、最も弱い破壊モードを想定し、適切な安全率を考慮する必要があります。また、地震時の動的荷重や疲労荷重、環境条件(温度、湿度、化学物質の影響)なども設計段階で検討すべき重要な要素です。

 

ケミカルアンカー 環境配慮型製品の最新動向

近年、建設業界においても環境への配慮が重要視されており、ケミカルアンカー製品にも環境負荷を低減する取り組みが進んでいます。最新の環境配慮型ケミカルアンカーには以下のような特徴があります。

  1. 低VOC揮発性有機化合物)製品
    • 従来のスチレン系樹脂に比べて臭気が少ない
    • 作業環境の改善と周辺環境への影響軽減
    • 非スチレン系エポキシアクリレート樹脂などの採用
  2. 無溶剤型樹脂の採用
    • 有機溶剤を含まない環境に優しい配合
    • 作業者の健康リスク低減
    • 廃棄時の環境負荷軽減
  3. 長寿命化による資源節約
    • 耐久性の向上による交換頻度の低減
    • メンテナンス負荷の軽減
    • ライフサイクルコストの削減
  4. リサイクル可能なパッケージ
    • カートリッジやディスペンサーの素材見直し
    • 分別しやすい設計
    • 廃棄物削減への貢献

例えば、ARケミカルセッターEA-350は、非スチレン系エポキシアクリレート樹脂を主成分としており、従来製品に比べて臭いが少なく、施工現場の環境改善に貢献しています。また、硬化剤にはBPO(ベンゾイルパーオキサイド)ペーストを低濃度化することで安全性を高めています。

 

最新の研究開発では、バイオマス由来原料を一部使用した樹脂や、より低温でも硬化性能を発揮する配合技術、水中でも施工可能な特殊樹脂など、さらなる技術革新が進んでいます。これらの環境配慮型製品は、グリーンビルディング認証(LEED、CASBEE等)の取得にも貢献するため、今後ますます需要が高まると予想されます。

 

また、製品のライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく環境負荷評価も進められており、製造から廃棄までの各段階での環境影響を最小化する取り組みが行われています。これにより、建設プロジェクト全体の環境性能向上に寄与することが期待されています。

 

環境配慮型ケミカルアンカーの選定にあたっては、単に「環境に優しい」というラベルだけでなく、実際の成分や製造プロセス、第三者機関による認証の有無などを確認することが重要です。また、環境性能と施工性・耐久性のバランスを考慮し、プロジェクトの要件に最適な製品を選ぶことが求められます。