
バイオマスエネルギーは、再生可能エネルギーの一つとして近年注目を集めています。特に建築業界では、工事現場から発生する建築廃材をバイオマス資源として有効活用する取り組みが広がっています。この記事では、バイオマスと建築の関係性について詳しく解説し、持続可能な社会の実現に向けた建築業界の取り組みを紹介します。
バイオマス発電において、建築廃材は重要な燃料源となっています。建設現場や解体現場から排出される木材は、適切に処理することでバイオマス発電の燃料として再利用できます。
具体的な活用方法としては、まず建築廃材を回収し、選別・破砕処理を行います。金属や石などの不燃物を取り除いた後、木質チップに加工し、バイオマス発電所へ供給します。発電所では、これらの木質チップをボイラーで燃焼させ、その熱エネルギーで蒸気タービンを回転させて発電を行います。
住友林業グループなどの企業は、建築廃材に含まれる木材を原料とするリサイクルチップを燃料として利用する木質バイオマス発電事業を積極的に展開しています。これにより、これまで廃棄物として処理されていた建築廃材が、貴重なエネルギー資源として再生されています。
建築廃材の活用には課題もあります。例えば、建築廃材には釘や金具などの金属片が混入していることが多く、これらが発電設備に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、三菱重工パワーインダストリーなどの企業は、建築廃材を効率よく燃焼させるための技術開発に取り組んでいます。散気管方式の流動層ボイラを採用し、不燃物が取り出しやすく、建築廃材を効率よく燃焼させられる高性能ボイラを実現しています。
バイオマスエネルギーの最大の特徴は、そのカーボンニュートラル性にあります。木材などのバイオマス資源は、成長過程で光合成により大気中のCO2を吸収します。そのため、バイオマスを燃焼させて放出されるCO2は、成長過程で吸収したCO2と相殺され、ライフサイクル全体では大気中のCO2を増加させないという考え方です。
この特性は、カーボンニュートラルを目指す建築業界にとって非常に重要です。建設工事では多くのエネルギーを消費し、CO2を排出します。また、建物の運用段階でも多くのエネルギーが必要となります。バイオマスエネルギーを活用することで、これらのCO2排出量を削減することができます。
具体的には、建設現場での重機や車両の燃料をバイオマス由来の燃料に置き換えたり、建物の暖房や給湯にバイオマスボイラーを導入したりする取り組みが進められています。また、バイオマス発電で生成された電力を建設現場や建物で使用することも、CO2排出削減に貢献します。
さらに、建築廃材をバイオマス発電の燃料として活用することで、廃棄物処理に伴うCO2排出も削減できます。通常、建築廃材は廃棄物として処理される際にCO2を排出しますが、バイオマス発電の燃料として再利用することで、その排出量を抑制できます。
このように、バイオマスのカーボンニュートラル性を活かした取り組みは、建築業界の環境負荷低減に大きく貢献しています。
バイオマス発電所の建設と運用には、いくつかの技術的課題があります。特に建築廃材を燃料とする場合、その特性に合わせた設備設計や運用方法が求められます。
まず、燃料の品質管理が重要な課題です。建築廃材は、その発生源や種類によって含水率や発熱量が異なります。また、前述のように金属片などの不純物が混入していることも多いため、これらを効率的に除去する前処理設備が必要です。
次に、燃焼技術の最適化が課題となります。建築廃材は形状や密度が不均一であるため、安定した燃焼を維持するためには高度な制御技術が必要です。三菱重工パワーインダストリーなどの企業は、流動層ボイラを採用し、建築廃材の特性に合わせた燃焼技術を開発しています。
また、排ガス処理も重要な課題です。建築廃材には塗料や接着剤などの化学物質が含まれていることがあり、燃焼時に有害物質が発生する可能性があります。そのため、高性能な排ガス処理設備が必要となります。例えば、バグフィルタを設置して燃焼ガス中のばいじんを集じん除去し、集じん灰はセメント原料として再利用する取り組みも行われています。
さらに、発電効率の向上も課題です。バイオマス発電は、一般的に火力発電と比べて発電効率が低いとされています。そのため、蒸気タービンの最適化や熱回収システムの導入など、効率向上のための技術開発が進められています。例えば、大阪ガスでは、発電効率で優れる「2車室型」の蒸気タービンを採用し、発電所のヒートバランスを最適化する取り組みを行っています。
これらの技術的課題を解決することで、建築廃材を活用したバイオマス発電の普及が進み、建築業界の環境負荷低減に貢献することが期待されています。
バイオマス発電の持続的な運用のためには、安定した燃料供給が不可欠です。建築廃材は、その発生量が建設・解体工事の動向に左右されるため、安定供給のための仕組みづくりが重要となります。
国土交通省のH30建設副産物実態調査によれば、建設廃棄物の排出量の総量は7,440万トン、そのうち建設発生木材(建築廃材)は553万トンとされています。この膨大な量の建築廃材を効率的に回収し、バイオマス発電の燃料として活用するためには、広域的な収集・運搬システムの構築が必要です。
また、建築廃材の品質管理も重要な課題です。バイオマス発電の燃料として適した品質を確保するためには、建設現場での分別の徹底や、中間処理施設での適切な選別・加工が必要となります。さらに、建築廃材の発生量は景気や建設需要の変動に影響されるため、安定供給のためには複数の燃料源を確保することも重要です。
持続可能性の観点からは、建築廃材だけでなく、間伐材や剪定枝なども含めた多様なバイオマス資源の活用が求められます。例えば、大月バイオマス発電所では、山梨県内を中心に関東圏から搬出される未利用材や剪定枝を細かくした木質チップを燃料として利用しています。
また、輸入バイオマス燃料の活用も選択肢の一つです。大林神栖バイオマス発電所では、東南アジアや北米から輸入する木質ペレットやパームオイルの搾油過程で発生するPKSを使用しています。これらの燃料は「FSC認証」や「PEFC認証」といった独立した森林認証機関によって持続可能性が認証されています。
このように、建築廃材を含む多様なバイオマス資源を組み合わせることで、安定した燃料供給と持続可能な発電事業の実現が可能となります。
バイオマスエネルギーの活用は、発電だけでなく熱利用の面でも大きな可能性を秘めています。特に建築物の暖房や給湯などの熱需要に対して、バイオマス熱利用は高い効率性を発揮します。
資源エネルギー庁の「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」によれば、エネルギー需要の過半は熱利用であり、脱炭素化に向けては熱利用での再生可能エネルギー導入が必須とされています。木質バイオマスは、熱利用での利用効率が化石燃料と遜色がなく、発電に比べて有効であるとされています。
建築物の設計段階から、バイオマス熱利用を組み込むことで、省エネルギー性能の高い建物を実現することができます。例えば、木質ペレットやチップを燃料とするバイオマスボイラーを導入し、建物の暖房や給湯に活用する取り組みが進められています。
また、バイオマスを利用したコージェネレーションシステム(熱電併給)も注目されています。このシステムでは、バイオマスを燃焼させて発電を行うと同時に、発生する熱も有効利用します。発電効率は低くても、熱も含めたエネルギー利用効率は高くなるため、建築物のエネルギー供給システムとして有効です。
さらに、建築廃材を原料とした木質ペレットやチップを地域内で生産・消費する「地域内エコシステム」の構築も進められています。これにより、輸送に伴うCO2排出を最小限に抑えつつ、地域経済の活性化にも貢献することができます。
ただし、熱利用の場合は木質チップの乾燥が必要となるため、乾燥工程でのエネルギー消費や環境負荷を考慮した設計が求められます。また、建築物の用途や規模に応じた最適なシステム設計も重要です。
このように、バイオマス熱利用を建築物の省エネルギー設計に応用することで、環境負荷の低減と快適な室内環境の両立が可能となります。今後、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に伴い、バイオマス熱利用の重要性はさらに高まると考えられます。
環境省「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」に関する詳細情報
バイオマス発電事業の経済性は、燃料調達コスト、設備投資、運用コスト、売電価格など様々な要因に影響されます。特に建築廃材を燃料とする場合、その調達コストと前処理コストが事業採算性に大きく影響します。
FIT(固定価格買取制度)では、バイオマス発電の種類や規模に応じた買取価格が設定されています。建築廃材などの一般木質バイオマスを燃料とする発電所の買取価格は、他のバイオマス燃料と比較して比較的高く設定されており、事業の採算性を確保しやすい状況にあります。
しかし、FITの買取期間(通常20年)終了後の事業継続性については課題があります。そのため、発電効率の向上や運用コストの削減、熱利用との組み合わせによる総合効率の向上など、長期的な事業継続のための取り組みが進められています。
建築業界への波及効果としては、まず建築廃材の処理コスト削減が挙げられます。従来、廃棄物として処理していた建築廃材をバイオマス発電の燃料として有価で取引することで、廃棄物処理コストを削減できます。
また、バイオマス発電所の建設自体が建設需要を創出します。例えば、八代バイオマス発電所の建設では、出力75,000kWの木質専焼発電プラントのEPC工事が実施され、ボイラ設備、タービンおよび発電機設備、燃料受入および搬送設備、灰処理設備、用役設備など多岐にわたる設備の建設が行われました。
さらに、バイオマス発電所の運営・保守(O&M)事業も新たな雇用を創出します。発電所の安定運転のためには、燃料の受入・管理、設備の運転・監視、定期的なメンテナンスなど様々な業務が必要となり、地域の雇用創出に貢献します。
加えて、バイオマス発電の普及は、関連技術・製品の開発・製造にも波及効果をもたらします。燃料の前処理設備、高効率ボイラ、排ガス処理設備など、様々な技術・製品の需要が生まれ、関連産業の発展にも寄与します。
このように、バイオマス発電事業は、建築廃材の有効活用による環境負荷低減だけでなく、経済的な側面でも建築業界に様々な波及効果をもたらしています。