

誇大広告とは、事実と明らかに異なる表示や、実際のものよりも著しく優良・有利であると消費者を誤認させるような表示を含む広告のことです。建築業界では、宅地建物取引業法第32条により、物件の規模、形質、環境、交通、代金などについて、著しく事実と異なる表示や誤認を招く表示が禁止されています。
参考)https://ielove-cloud.jp/blog/entry-04241/
JARO(公益社団法人日本広告審査機構)は、1974年に設立された広告・表示に関する民間の自主規制機関です。「ウソ、大げさ、まぎらわしい」広告に対して指導を行い、消費者から信頼される良い広告を育てることを目的としています。JAROには広告に関連する企業889社が会員として加盟しており、広告・表示の適正化を目指して活動しています。
参考)https://note.com/inatch/n/n443d625d02ac
2024年度上半期の統計によると、JAROに寄せられた苦情は4,095件に達しました。業種別では医薬部外品、健康食品、オンラインゲームが上位を占めていますが、建築・不動産業界からの相談も少なくありません。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000150351.html
建築業者が誇大広告を行った場合、複数の法律に基づいて処罰される可能性があります。まず景品表示法違反では、実際よりも優れているように見せる「優良誤認」や、競合他社よりも優れているように見せる「有利誤認」が不当な顧客誘引として禁止されています。
参考)https://cyberhorn.co.jp/blog/construction-company-advertisement/
宅地建物取引業法上の誇大広告の禁止に違反した場合、指示処分や業務停止処分となります。情状が特に重い場合や業務停止処分に違反した場合は、免許取り消しという厳しい処分が科されることもあります。また、広告規制を守らずに出稿すると、行政指導や措置命令を受ける恐れがあり、顧客の信頼を失うことにもつながります。
参考)https://ielove-cloud.jp/blog/entry-04182/
具体的な違反事例としては、建築確認を取得する前に架空の建築確認番号を記載して新築住宅として広告した事例や、実際の価格よりも安い価格を掲載した事例などがあります。これらは特に重大な不当表示として厳重警告や違約金の対象となりました。
参考)http://tokyo.zennichi.or.jp/tamaminami/wp-content/uploads/2020/12/a8846de2a553fea96dcc169b5816e346.pdf
JAROでは、広告・表示に関する消費者や企業からの意見・相談を複数の方法で受け付けています。相談方法は、オンライン(ウェブサイトの送信フォーム)、電話(03-3541-2811、受付時間は平日9:30~12:00、13:00~16:00)、FAX(03-3541-2816)、郵便などがあります。
参考)https://www.jaro.or.jp/news/20160601_001.html
JAROの苦情処理プロセスは3つのステップで構成されています。第1ステップでは、相談員が相談内容を受け付け、問題があると判断した場合は広告主に文書で問い合わせを行います。第2ステップでは、業務委員会で審議し、「厳重警告」「警告」「要望」「助言」の4段階で見解を作成します。第3ステップでは、学識経験者7名で構成される審査委員会で最終判断となる「裁定」が示されますが、このレベルに至るケースはまれです。
参考)https://www.nissankyo.or.jp/adviser/about/torikumi/torikumi10-2.html
JAROの「見解」には行政のような強制力はありませんが、広告主の約8割から「表示を見直す」という回答が得られており、実効性の高い仕組みとなっています。
建築業界では、特に注意すべき広告表現がいくつかあります。まず、根拠のない表現は誇大広告に該当します。例えば「日当たり抜群」「特選住宅」「公園すぐ」などの表現は、客観的な根拠を示さない限り使用できません。物件に関する有利な情報を表示する際には、客観的な根拠もあわせて明示する必要があります。
参考)https://f-mikata.jp/rule/
駅までの徒歩分数や物件周辺の環境についても表現に注意が必要です。「バス停徒歩3分」など最寄り駅からバス停までの所要時間が不明確な表現や、土地面積のおおむね30%以上が路地状部分で占める場合に、その旨を記載しないことも違反となります。
建築条件付土地の広告にも注意が必要です。建築確認を受ける前の新築住宅を「建築条件付土地」と称して広告することは脱法行為であり認められません。また、「このプランでなければだめです」などと制限をかけて販売すると、建築確認前の建物広告である「青田売り」と判断され、宅建業法違反として行政処分を受ける可能性があります。
参考)https://takizawalaw.com/column/real-estate/4868/
2024年度上半期の問題広告パターンとして、「若返りすぎて炎上」「医療級 塗るボトックス」など極端な効果を標榜する表現や、「このページから離れると特別価格での購入ができない」「残り3個」など虚偽の希少性や緊急性をあおる表現が確認されています。
参考)https://markezine.jp/article/detail/47805
誇大広告を未然に防ぐためには、企業内部での広告表現のチェック体制を構築することが重要です。まず、広告を作成する部署だけでなく、法務部門や広報部門など、複数の部署が連携してチェックを行う体制を整える必要があります。
参考)https://trusquetta.net/trusquetta-insights/006/
広告表現のチェックにおいては、専門家(弁護士や広告審査機関)の意見を取り入れ、客観的な視点からのチェックも行うことが望ましいです。広告表現チェックリストを作成し、法的に問題がないか、消費者に誤解を与えるような表現がないかを一つ一つ確認することが重要です。
JAROでは、企業からの広告制作時の事前相談である「照会」にも対応しています。2013年度の統計では、相談受付総数5,640件のうち「照会」が2,227件を占めており、特に近年は会員社からのニーズが高まっています。事前相談を活用することで、広告出稿前に問題点を洗い出し、法令違反のリスクを回避することができます。
組織として誇大広告の予防や対策に対応するためには、体制の整備が欠かせません。広告の制作基準をあらかじめ作成して、誤った方向に進まないようにしておくことが大切です。また、ガイドラインをあらかじめ作成しておけば、万が一問題が発生した際には迅速に対応できます。体制を整備するには、法律を正しく理解する従業員を増やす必要もあり、社内教育の強化が求められます。
参考)https://www.yakujihou.com/knowledge/exaggerated-ad/
公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)公式サイト
JAROの相談窓口の利用方法や最新の審査状況が確認できます。
国土交通省 宅地建物取引業法
建築・不動産業の広告規制に関する法令の詳細が確認できます。