
構造用集成材は、その断面の大きさによって3つのカテゴリーに区分されています。この区分は日本農林規格(JAS)によって明確に定義されており、建築設計や施工において適切な材料選定の基準となります。
大断面集成材は、短辺が15cm以上かつ断面積が300cm²以上のものを指します。主に大規模木造建築の梁や柱として使用され、大きな空間を支える重要な役割を担っています。大断面集成材は固定荷重や積載荷重が大きい場所に適しており、その強度と安定性から公共施設や商業施設でよく採用されています。
中断面集成材は、短辺が7.5cm以上、長辺が15cm以上で、大断面の基準に満たないものです。一般的な住宅建築において最も多く使用されるサイズで、標準的な流通材として梁幅105mmまたは120mm、梁せいは150mmから450mmまでのものが市場に出回っています。特に梁せいは30mmごとに製造されており、180mm、210mmなどのサイズが一般的です。
小断面集成材は、短辺が7.5cm未満または長辺が15cm未満のものを指します。小規模な構造部材や造作材として使用されることが多く、軽量で扱いやすいという特徴があります。
これらの区分は単なるサイズ分けではなく、使用環境や要求される強度性能に応じた適材適所の選択基準となります。大規模木造建築では、空間が大きくなるほど固定荷重や積載荷重も増大するため、それに対応できる部材寸法を選択することが重要です。
構造用集成材は、ラミナ(ひき板)の構成方法によっても分類されます。同一等級構成集成材と異等級構成集成材の2種類に大別され、それぞれ異なる特性と用途を持っています。
同一等級構成集成材は、同じ品質・強度のラミナを均一に積層したものです。材料全体で均一な強度特性を持ち、どの方向から力がかかっても同様の性能を発揮します。一方、異等級構成集成材は、外側の層ほど強度の高いラミナを配置する工夫がされています。これにより、曲げ応力が大きくかかる部分に強いラミナを効率的に配置できるため、材料の性能を最大限に引き出すことが可能です。
異等級構成集成材はさらに3つのタイプに分けられます:
強度等級については、曲げヤング係数(E)と曲げ強さ(F)の組み合わせによって表示されます。例えば「E105-F300」という表記は、曲げヤング係数が10.5GPa、曲げ強さが30.0N/mm²であることを示しています。この強度等級は樹種やラミナの構成によって様々なバリエーションがあります。
代表的な樹種ごとの標準的な強度等級は以下の通りです:
これらの強度等級を理解することで、建築物の要求性能に合わせた適切な構造用集成材を選定することができます。
構造用集成材の品質を保証するJAS規格では、接着性能に関して厳格な基準が設けられています。特に重要なのが使用環境に応じた接着剤の要求性能区分で、A、B、Cの3段階に分類されています。
使用環境A区分は最も厳しい条件で、屋外(防水層の外側)での使用や、火災時に高度な接着性能が要求される環境に対応します。構造物の耐力部材として、接着剤の耐水性、耐候性、耐熱性について最高レベルの性能が求められます。
使用環境B区分は、使用環境C区分の条件に加えて、構造物の火災時における高度な接着性能が要求される環境に適用されます。屋内での使用でも、火災安全性が特に重視される場所に適しています。
使用環境C区分は、屋内(防水層の内側)での使用を想定し、構造物の耐力部材として通常レベルの接着剤の耐水性、耐候性、耐熱性が要求される環境に対応します。一般的な住宅の室内構造材などがこれに該当します。
接着剤の種類としては、ユリア樹脂接着剤、メラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、またはこれらを共縮合または混合した接着剤が使用されます。水性高分子イソシアネート系接着剤を使用する場合は、日本接着剤工業会の基準に適合した製品であることが求められます。
JAS規格では接着性能の試験方法も明確に規定されており、浸せきはく離試験や減圧加圧はく離試験、煮沸はく離試験などを通じて、接着の耐久性を厳しくチェックしています。これらの試験に合格した製品のみがJASマークを表示することができ、使用者に対する品質保証となります。
建築設計者や施工者は、建築物の用途や設置環境に応じて適切な使用環境区分の構造用集成材を選定することが重要です。例えば、浴室や屋外デッキなど湿気の多い場所では使用環境Aの製品を、一般的な室内空間では使用環境Cの製品を選ぶといった判断が必要になります。
構造用集成材におけるホルムアルデヒド放散量は、室内の空気質と居住者の健康に直接関わる重要な品質指標です。JAS規格では、ホルムアルデヒド放散量に応じて4つの区分が設けられており、それぞれに明確な基準値が定められています。
F☆☆☆☆(Fフォースター):最も厳しい基準で、平均値0.3mg/L以下、最大値0.4mg/L以下
F☆☆☆(Fスリースター):平均値0.5mg/L以下、最大値0.7mg/L以下
F☆☆(Fツースター):平均値1.5mg/L以下、最大値2.1mg/L以下
F☆S:平均値3.0mg/L以下、最大値4.2mg/L以下
これらの区分は、2003年7月1日から施行された建築基準法のホルムアルデヒド規制と密接に関連しています。建築基準法では、内装材として使用する建材のホルムアルデヒド放散量を制限し、室内の空気環境を保全する規定が設けられています。
構造用集成材の軸材(柱、梁、長押、鴨居、敷居、窓枠、枠材、階段の手摺、支柱、側板など)は基本的に規制対象外とされています。ただし、線的な部分の面積が設置部分の見付面積の1/10を超える場合は規制対象となり、使用面積の制限を受ける場合があります。
F☆☆☆☆の等級を持つ構造用集成材は、軸材・面材を問わず規制対象外となり、使用量に制限なく自由に使用できます。一方、F☆☆☆やF☆☆の等級の面材(床材、壁材、カウンターの天板、階段の踏板、蹴込板など)を内装仕上げ材として使用する場合は、使用面積に制限が課せられることがあります。F☆Sの面材は内装仕上げ材としての使用が認められていません。
近年の健康志向や環境配慮の高まりから、F☆☆☆☆の製品が主流となっています。特に住宅や学校、病院などの建築では、居住者や利用者の健康を考慮して、ホルムアルデヒド放散量の少ない建材が積極的に採用されています。
また、2008年からはホルムアルデヒドに加えて、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンの4種類のVOC(揮発性有機化合物)についても自主規制が始まりました。「4VOC基準適合」表示制度により、これらの物質の放散速度が基準値以下であることが確認された建材が認定されています。構造用集成材も、適切な接着剤を使用することでこの基準に適合することが可能です。
構造用集成材は、単なる建築材料を超えて、持続可能な社会の実現に貢献する重要な素材として注目されています。特にSDGs(持続可能な開発目標)の観点から見ると、構造用集成材の活用は複数の目標達成に寄与します。
まず、構造用集成材は間伐材や端材からも製造可能であり、木材資源を無駄なく有効活用できるという特長があります。これはSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」に直接貢献します。森林の持続可能な経営を促進し、生態系の保全にもつながるのです。
また、木材は成長過程で二酸化炭素を吸収し、伐採後も炭素を固定し続けます。構造用集成材として建築物に使用することで、長期間にわたって炭素を固定することができ、カーボンニュートラルの実現に貢献します。これはSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」に合致します。
構造用集成材の製造過程は、鉄やコンクリートなどの他の構造材料と比較してエネルギー消費量が少なく、CO2排出量も抑えられます。また、木材は加工しやすく、集成材は無垢材では難しい湾曲加工も可能なため、加工時のエネルギー消費や廃棄物の発生を抑えることができます。これはSDGs目標12「つくる責任、つかう責任」に貢献します。
さらに、木造建築は居住者に心理的な安らぎを与え、生活の質を向上させる効果があります。構造用集成材を使った木造住宅や建具、家具は見た目や風合いが良く、人々の生活満足度を高めます。これはSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に寄与します。
日本の林業振興の観点からも、国産材を活用した構造用集成材の普及は重要です。地域の森林資源を活用することで、地域経済の活性化や雇用創出にもつながり、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献します。
実際に、近年では「木材利用ポイント制度」や「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」など、木材利用を促進する政策も進められています。これらの取り組みにより、構造用集成材を含む木材の利用拡大が図られています。
建築業に携わる私たちは、構造用集成材の持つこうした環境的・社会的価値を理解し、適材適所で活用していくことが求められています。特に地域の木材を活用した構造用集成材を選ぶことで、地域循環型の持続可能な建築に貢献することができるでしょう。