
構造用集成材は、小さな木材(ラミナ)を接着剤で貼り合わせて作られた建材です。一方、無垢材は1本の木を伐採し、乾燥させただけの天然木材です。この基本的な製造方法の違いが、両者の特性に大きな影響を与えています。
集成材は工業製品として製造されるため、品質が均一で安定しています。含水率も日本農林規格(JAS)により15%以下と定められており、寸法安定性に優れています。無垢材は自然素材のため、1本1本に個性があり、湿度変化による膨張・収縮が起こりやすいという特徴があります。
見た目の違いも重要なポイントです。集成材は複数の木材を貼り合わせているため、断面に接着層が見えます。無垢材は1本の木から切り出されているため、自然な木目が美しく、温かみのある質感が特徴です。
住宅の構造材として使用する場合、この違いは見えない部分になることが多いですが、梁や柱を見せる意匠的な設計の場合は、見た目の違いも選択の重要な要素となります。
構造用集成材の最大の強みは、強度性能のばらつきが少なく、品質が安定していることです。製造過程で木材の持つ大節や割れなどの欠点を除去し、小さな節などの許容できる欠点は製品内に分散されるため、強度のばらつきが抑えられ、品質が均一化されます。
製造時には、材料となるひき板(ラミナ)を目視および機械的方法により等級区分(グレーディング)し、必要に応じて適切なひき板を組み合わせて接着集成します。これにより、強度性能が安定した長尺大断面の材料が得られるのです。
特に性能規定化された建築基準法のもとでは、強度性能が表示でき、かつ保証される集成材は信頼性の高い部材として評価されています。設計者にとっては、構造計算の精度を高めやすく、安全性の確保がしやすいというメリットがあります。
また、集成材は幅、厚さ、長さ方向を自由に接着調整できるため、長大材や湾曲材など、無垢材では実現が難しい形状の部材を製造することが可能です。自由なデザイン、構造計算に基づいて必要とされる強度の部材を供給できる点も大きな優位点です。
構造用集成材の最大の懸念点は、長期的な耐久性です。特に問題となるのが「剥離(はくり)」と呼ばれる現象です。2005年には海外製構造用集成材が剥離した事故が発覚し、業界に大きな衝撃を与えました。
剥離が起こるメカニズムは、木材同士を接着剤で貼り付けた集成材において、木材1つ1つが無垢材と同じように膨張や収縮を繰り返す中で、接着面に大きな負荷がかかることに起因します。接着力が高ければ木材の膨張や収縮にも耐えられますが、周囲の環境や木材と接着剤との相性などによっては、時間の経過とともに接着部が割れ出し、強度が衰えてしまうのです。
集成材に使用される接着剤は大きく分けて2種類あります。イソシアネート系接着剤(通称「白のり」)は硬化すると白または透明になり、木肌がきれいに見えることから人気がありますが、過去に剥離事故を起こした集成材のほとんどがこのタイプの接着剤を使用していました。一方、レジルシノール系接着剤(通称「黒のり」)は硬化後の色が黒くなり、古くから構造用集成材に使用されていますが、ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物が含まれており、健康面での懸念があります。
構造材の場合、建物が完成すると見えなくなる部分であるため、知らぬ間に剥離が進行し、大きな地震の揺れに耐えられなくなる可能性があることは、重大な問題です。
構造用集成材は、無垢材と比較して一般的に価格が安いというメリットがあります。これは、様々な木材を寄せ集めて貼り合わせることで、1本の木を余すことなく使えるためです。家づくりのコスト削減を考える上で、この価格面での優位性は大きな魅力となっています。
また、環境面でも集成材には利点があります。小径木や間伐材など、これまで構造材としては使いにくかった木材も有効活用できるため、森林資源の有効利用につながります。さらに、集成材の製造過程では、木材の欠点部分を除去するため、無垢材よりも木材の歩留まりが良くなる場合もあります。
一方で、接着剤の使用による環境負荷や、製造過程でのエネルギー消費など、環境面での課題も存在します。特に接着剤に含まれる化学物質が室内環境に与える影響については、シックハウス症候群との関連で懸念されることもあります。
コストと環境のバランスを考えると、短期的なコスト削減だけでなく、長期的な耐久性や健康への影響も含めた総合的な判断が必要です。特に、家族が長く健康に暮らせる住環境を重視する場合は、初期コストだけでなく、メンテナンスコストや住環境の質も含めた検討が重要です。
木材は燃えるという性質がありますが、構造用集成材には意外にも優れた防火性能があります。木材は断面が大きくなると、表面が焦げて炭化層ができ、内側への酸素の供給が絶たれるため燃えにくくなるという特性を持っています。炭化実験によると、木材は1分間に0.6mm-0.8mmの速度で炭化すると言われています。
この炭化層が保護層となり、内部温度は発火点以下に抑えられるため、構造上必要な強度を保つことができます。建築基準法令でも集成材の防火性能が認められており、「燃えしろ設計」という手法が採用されています。
燃えしろ設計とは、柱や梁の表面部分が燃えても構造耐力上支障がないように断面積を大きくすることで、木材の表面を見せたまま木造の準耐火構造とする設計手法です。設計にあたっては、表面の「燃えしろ」部分を除いた残存断面を使って構造計算を行い、火災時に表面部分が焼損しても建築物が倒壊しないことを確認します。
集成材では「燃えしろ」部分の厚さは、火災の想定時間によって25mmから45mmとされています。この設計手法を活用することで、木の温かみを活かした意匠性と防火性能を両立させた建築物を実現できます。
特に公共建築物や大規模木造建築において、この燃えしろ設計は重要な役割を果たしており、集成材の特性を活かした設計手法として注目されています。木造建築の可能性を広げる上で、構造用集成材の防火性能と燃えしろ設計の理解は欠かせません。
住宅の構造材として構造用集成材と無垢材のどちらを選ぶかは、単なる好みの問題ではなく、住宅の長期的な性能に大きく影響します。選択の基準として考慮すべき重要なポイントをいくつか挙げてみましょう。
まず、耐久性の観点では、無垢材は年数が経つほど乾燥が進み強度が増していくという特性があります。一方、集成材は接着剤の経年劣化による剥離のリスクがあるため、30年、50年といった長期スパンで考えると無垢材の方が優位性があるとされています。
健康面では、無垢材は自然素材であるため、集成材のように接着剤を使用しないことからホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物によるシックハウス症候群の心配が少ないというメリットがあります。
コスト面では、集成材の方が一般的に安価ですが、長期的な耐久性を考慮すると、メンテナンスや将来的な補修・交換のコストも含めた総合的な判断が必要です。
施工性については、集成材は品質が安定しているため施工する職人の腕に左右されにくく、仕上がりも一定の品質を保ちやすいという利点があります。無垢材は1本1本の特性が異なるため、扱いには熟練の技術が求められます。
最終的には、住宅の設計コンセプト、予算、住まい手の価値観などを総合的に考慮して選択することが重要です。特に「長く住み続けられる家」を目指す場合は、初期コストだけでなく長期的な視点での判断が求められます。
家づくりは一生に一度の大きな買い物です。構造材の選択は、目に見えない部分ではありますが、住宅の寿命や住環境の質に大きく関わる重要な決断と言えるでしょう。