
ラミナ(Laminar)とは、集成材を構成する基本的な要素である挽き板あるいは小角材のピースのことを指します。集成材は複数のラミナを接着して製造される木質建材であり、現代の木造建築において欠かせない存在となっています。
かつては集成材は製材の残りものから作られるという印象がありましたが、現在では丸太の製材段階から計画的にラミナを挽くことが一般的になっています。例えば、一山木材のような桧ラミナ専門のメーカーも存在し、専門的な生産が行われています。
ラミナは集成材製造において非常に重要な原料であるだけでなく、森林資源の有効活用という観点からも注目されています。小径木から大径木まで、様々な径級の木材を利用して製材された挽き板を人工乾燥させ、集成材用のラミナとして大量生産する体制が整っています。
近年では、唐松(カラマツ)、ヒノキ、スギなどの国産材樹種によるラミナの生産も増加傾向にあり、国内林業の活性化にも貢献しています。ラミナの特徴として、どのような樹種でも利用して製材できる点が挙げられ、これが木材資源の多様な活用を可能にしています。
ラミナから集成材が製造される工程は、いくつかの重要なステップに分けられます。まず最初に行われるのが、ラミナの乾燥工程です。適切な乾燥を行うことで、完成した集成材の寸法安定性が確保されます。
乾燥方法としては、人工乾燥機を用いるのが一般的です。この際、木材工場では端材をリサイクルしてボイラーの燃料として活用するなど、資源の循環利用も行われています。乾燥の際には、板の間に桟木を挟み、まんべんなく乾燥を促進させる工夫がなされています。また、乾燥時のそりを防ぐため、ラミナ材を重ねた上にコンクリートの塊を置くといった方法も採用されています。
人工乾燥の期間は工場によって異なりますが、一般的には6日程度かけて行われます。中には品質向上のためにより長い時間をかける工場もあります。例えば、齋藤木材では湾曲やひび割れを避けるために時間をかけた乾燥を行っているそうです。乾燥過程では湿気を与えながら徐々に乾燥させていくことで、木材の品質を保ちます。特にカラマツのようにヤニが多い樹種では、乾燥によりヤニを飛ばす効果も期待できます。
乾燥後は、含水率計による含水率の確認やグレーティングマシンを使用した強度検査が行われます。含水率が目標より高い場合は再度乾燥が行われ、強度検査の結果に基づいてラミナはグレード別に色分けされます。
次に行われるのが、フィンガージョイントによる縦継ぎです。これにより、4mから6mのラミナへと加工されます。フィンガージョイントの方法にもメーカーごとのこだわりがあり、例えば齋藤木材では流れながら嚙み合わせるのではなく、一時停止してしっかりと差し込むことでより強固な縦継ぎを実現しているそうです。
縦継ぎされたラミナは表面を磨いた後、最終的に接着して集成材となります。この積層接着の工程では、ラミナの品質や配置が最終製品の強度や性能に大きく影響するため、厳格な品質管理が行われています。
ラミナ材の品質管理と強度検査は、高品質な集成材を製造するうえで非常に重要なプロセスです。乾燥後のラミナは、含水率と強度の両面から厳密な検査が行われます。
含水率の検査では、含水率計を用いて木材内部の水分量を測定します。集成材に使用されるラミナの含水率は一定の範囲内に収まっていることが求められ、基準を満たさない場合は再乾燥が行われます。含水率が高すぎると、接着不良や完成後の寸法変化の原因となるため、この工程は特に重視されています。
強度検査では、グレーティングマシンと呼ばれる専用の機械を使用して、ラミナの曲げ強度や弾性係数などの機械的性質を非破壊で測定します。この検査結果に基づいて、ラミナは強度別に5色程度に色分けされ、集成材の各部位に適切に配置されます。例えば、高い曲げ強度が求められる梁の外層部には高強度のラミナが使用されるなど、部位に応じた使い分けが行われます。
また、ラミナの節や割れなどの欠点も厳しくチェックされます。大きな節や割れは除去されるか、あるいは集成材内で分散配置されることで、最終製品の強度低下を防いでいます。
これらの品質管理プロセスは、JAS(日本農林規格)などの規格に基づいて行われており、製品の信頼性と安全性を確保する上で欠かせないものです。特に構造用集成材は建築物の安全性に直結するため、原料となるラミナの品質管理は極めて厳格に実施されています。
品質管理の徹底により、集成材は無垢材に比べて強度のばらつきが少なく、寸法安定性に優れた建材として広く認知されるようになりました。これが現代の木造建築において集成材が多用される理由の一つとなっています。
ラミナを活用した木質建材には、様々な種類があります。最も一般的なのは構造用集成材と造作用集成材です。構造用集成材は建築物の柱や梁などの耐力部材として使用され、高い強度と寸法安定性が求められます。一方、造作用集成材は内装材や家具などに使用され、見た目の美しさや加工のしやすさが重視されます。
構造用集成材は、しっかりと乾燥させたラミナから腐れ・割れ・大きな節などを除去あるいは分散させて積層接着するため、寸法安定性や強度性能に優れています。特に、長大スパンの梁や大断面の柱など、無垢材では対応が難しい部材の製造が可能となっています。
また、ラミナの積層方法によっても集成材の特性は変わります。同一樹種のラミナを繊維方向に平行に積層した「同一等級構成集成材」、強度の異なるラミナを適材適所に配置した「異等級構成集成材」、異なる樹種を組み合わせた「異樹種構成集成材」などがあります。
近年注目を集めているのが、CLT(Cross Laminated Timber)と呼ばれる直交集成材です。CLTはラミナを層ごとに繊維方向が直交するように積層接着した面材で、従来の集成材とは異なる特性を持っています。CLTは面材としての強度を活かした建築が可能で、様々な工法に活用できる点が特徴です。日本では2016年4月に基準強度が定められ、普及が期待されている木材です。
また、LVL(Laminated Veneer Lumber)も重要な木質建材の一つです。LVLはベニヤ(薄い単板)を繊維方向を揃えて接着した木材で、通常は大きな板状の原版として製造されます。完全に乾燥された単板によって作られるため、サイズの狂いが出にくいという特徴があります。原版を幅方向に切り出し、柱や梁などとして利用されることが多くなっています。
これらの木質建材は、それぞれ異なる特性を持ち、建築物の用途や要求性能に応じて選択されます。ラミナを基本とした木質建材の多様化により、木造建築の可能性は大きく広がっています。
ラミナを活用した木質建材は、持続可能な建築の実現に大きく貢献しています。木材は再生可能な資源であり、適切な森林管理のもとで生産されれば、環境負荷の少ない建材として評価されています。特にラミナは、小径木から大径木まで幅広い径級の木材を有効活用できるため、森林資源の持続的な利用に適しています。
また、木材は成長過程で二酸化炭素を吸収し、建材として使用されている間はその炭素を固定し続けるため、地球温暖化対策としても注目されています。集成材やCLTなどの木質建材を積極的に活用することで、建築分野における炭素排出量の削減に貢献できます。
日本では、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:木材利用促進法)が2010年に施行され、公共建築物における木材利用が推進されています。これにより、学校や公共施設などでラミナを活用した集成材やCLTの採用が増えています。
技術面では、ラミナの生産効率向上や品質安定化に向けた研究開発が進められています。AI技術を活用した木材等級区分の自動化や、より環境に配慮した接着剤の開発など、様々な技術革新が行われています。
また、木造高層建築の実現に向けた取り組みも進んでおり、海外では既に10階を超える木造建築物が建設されています。日本でも法改正により中高層木造建築の規制緩和が進み、ラミナを活用した大規模木造建築の可能性が広がっています。
一方で、長期的な耐久性や接着剤の経年変化など、まだ解明されていない部分もあります。建築用語集によれば、「接着剤はいまだ長い年月を経験していないので、はたして寿命がどの程度かは未知数である」と指摘されています。今後は長期的な性能検証や維持管理技術の確立も重要な課題となるでしょう。
ラミナの活用は、単に建築技術の進化だけでなく、林業の活性化や地域経済の発展、そして環境問題への対応など、多面的な価値を持っています。持続可能な社会の実現に向けて、ラミナを基盤とした木質建材の可能性はさらに広がっていくことが期待されます。
林野庁:公共建築物等における木材の利用の促進について - 木材利用促進法に関する詳細情報
一般社団法人日本木質構造協会:木質構造の技術情報 - 集成材やCLTなどの技術基準や研究成果