
クリオンエースボードは、クリオン株式会社が製造する木造住宅用のALC薄形パネルです。厚さ35mmという薄さながら、高い耐久性と機能性を兼ね備えた外壁材として、高級木造住宅を中心に広く採用されています。ALCとは「Autoclaved Lightweight aerated Concrete(高温高圧蒸気養生した軽量気泡コンクリート)」の略称で、内部に無数の気泡を含む構造が特徴です。
クリオンエースボードの最大の特徴は、パネル内部にメタルラス(金属製の網)を補強材として埋設していることです。この補強材には防錆材被覆が施されており、パネルの耐久性を長期間維持することができます。JIS A 5416規格に準拠した製品で、ISO審査登録工場において厳格な品質管理のもとで製造されています。
標準サイズは幅606mm×長さ1820mm(2000mm製造対応可能)、厚さ35mmとなっており、軽量でありながら強度が高く、施工性にも優れています。
クリオンエースボードは、その素材特性から優れた防火性能を持っています。主原料が珪石、セメント、生石灰などの無機質材料であるため、火災時に燃えにくく、煙や有毒ガスを発生させません。外壁:例示仕様 平成12年建設省告示 第1399号の防火耐火認定を取得しており、建物の防火性能を高めることができます。
耐久性においても、クリオンエースボードは高い性能を発揮します。適切な条件で使用し、定期的なメンテナンスを行った場合、ALCパネル自体の耐用年数は50年以上とされています。これは、内部に埋め込まれたメタルラスが補強材として機能し、パネルの強度を長期間維持するためです。
また、クリオンエースボードは均一な強度を確保するための設計がなされており、経年による劣化が少ないのも特徴です。ただし、外部からの水の浸入には弱いため、適切な塗装やシーリング処理が必要となります。
クリオンエースボードの内部には無数の微細な気泡が含まれており、この構造が優れた断熱性能をもたらします。通常のコンクリートと比較して約10倍の断熱性があるとされ、夏は涼しく冬は暖かい快適な住環境の実現に貢献します。
この気泡構造は断熱性だけでなく、高い遮音性能も発揮します。外部からの騒音を効果的に遮断し、静かな室内環境を保つことができます。特に都市部や交通量の多い道路沿いの住宅では、この遮音性能が大きなメリットとなります。
具体的には、気泡が音波を捉えて振動を減衰させる効果があり、室内の音が外に漏れにくくなるとともに、外からの音も室内に入りにくくなります。ピアノなどの楽器演奏や子どもの声など、家庭内の音が近隣に迷惑をかける心配も軽減されます。
木造住宅用のALC薄形パネルとして、クリオンエースボードと旭化成建材のヘーベルパワーボードはよく比較されます。両者はともにALCパネルですが、いくつかの違いがあります。
まず、製造メーカーが異なります。クリオンエースボードはクリオン株式会社、ヘーベルパワーボードは旭化成建材株式会社の製品です。ヘーベルパワーボードは1980年に木造住宅向けに開発・販売が開始され、市場での知名度や実績ではやや優位にあります。
製品特性としては、両者とも基本的な性能(防火性、断熱性、遮音性など)は同等ですが、細部の仕様や補強方法に違いがあります。クリオンエースボードはパネル内部にメタルラスを埋設しているのに対し、ヘーベルパワーボードは独自の補強方法を採用しています。
価格面では、公表価格によると、クリオンエースボードの平パネル(厚35mm)は7,800円/m²(税別)となっています。選択にあたっては、価格だけでなく、施工業者の得意不得意や地域での流通状況なども考慮する必要があります。
クリオンエースボードの施工は、その特性を理解した上で適切に行うことが重要です。基本的な施工手順としては、下地の確認・調整、パネルの取り付け、目地処理(シーリング)、表面塗装という流れになります。
施工時の注意点として、パネル同士のつなぎ目(目地)の処理が特に重要です。ALCパネルはサイディングボードよりもサイズが小さいため、つなぎ目が多くなります。これらの目地部分は外壁材が存在しない部分であり、浸水や雨漏りのリスクが高まるため、シーリング材でしっかりと埋める必要があります。
また、クリオンエースボードは吸水性が高い素材であるため、防水性を高めるための塗装処理が必須です。塗装には透湿性のある塗料を使用することが推奨されており、適用下地にALCと記載のある塗料を選ぶことが大切です。
施工の際は、パネルの取り扱いにも注意が必要です。クリオンエースボードは軽量ではありますが、衝撃に弱い面もあるため、運搬や設置の際に角が欠けたり、ひび割れが生じたりしないよう慎重に扱う必要があります。
クリオンエースボードを長持ちさせるためには、適切な塗装とメンテナンスが不可欠です。ALCパネルは吸水性が高く、防水性が低いため、定期的な塗装によって外壁を保護する必要があります。
塗装時期の目安としては、築15年前後が初回の塗装タイミングとされています。塗料選びでは、透湿性のある塗料を使用することが重要です。特に直貼り工法の場合は、ALCパネルの内部の湿気を外に逃がすために透湿性が必要となります。適用下地にALCと記載のある塗料であれば使用可能です。
また、クリオンエースボードの塗装においては、コーキング(シーリング)工事が非常に重要です。塗装よりもコーキングが要といっても過言ではないほどです。築15年程度の初回工事では、コーキング増し打ち工法(既存のコーキングの上から新たにコーキング材を施工する方法)が一般的です。この方法は、目地の溝が十分に確保されているため、既存のコーキングを撤去せずに上から増し打つことが可能で、比較的安価に施工できます。
一方、2回目の塗装工事(築30年頃)では、コーキング撤去打ち替え工法が必要となります。これは、初回工事でコーキング増し打ちをしたことで目地の溝がほぼなくなっているため、既存のコーキングをカッターなどで取り除き、新しいコーキングを充填する必要があるためです。この工法は撤去工程が増える分、増し打ち工法より高額になります。
コーキング材にはウレタン系のものを使用するのが一般的です。適切なコーキング工事を行わないと、雨水の侵入による雨漏りのリスクが高まるため、塗装工事と合わせて必ず実施することが推奨されます。
定期的な点検も重要です。外壁の色あせや塗膜の剥離、シーリングの劣化、パネルのひび割れや欠損などがあった場合は、年数に関わらず早めに対処することが大切です。特に目地部分のコーキングは定期的に点検し、劣化が見られたら補修を行いましょう。
クリオンエースボードの価格は、他の外壁材と比較するとやや高めの設定となっています。公表価格によると、クリオンエースボードの平パネル(厚35mm)は7,800円/m²(税別)、ファッションパネルスタンダードシリーズ(厚35mm)は10,900円/m²(税別)、ファッションパネルアドバンスシリーズ(厚35mm)は11,200円/m²(税別)となっています。
これに対して、一般的な窯業系サイディングは3,000円/m²~、金属系サイディングは4,000円/m²~、モルタルは4,500円/m²~と、クリオンエースボードの方が初期投資としては高額になります。
しかし、クリオンエースボードは耐久性が高く、適切なメンテナンスを行えば50年以上使用できるとされています。長期的な視点で見ると、耐用年数の短い外壁材を何度も張り替えるよりも、コストパフォーマンスが良い場合もあります。
また、クリオンエースボードの高い断熱性能は、冷暖房費の削減にもつながります。夏は涼しく冬は暖かい住環境を維持しやすくなるため、エネルギーコストの面でもメリットがあります。
さらに、防火性や遮音性といった付加価値も考慮すると、初期費用の高さを補って余りある価値があると言えるでしょう。特に長期間住み続ける予定の住宅や、防火性・遮音性を重視する環境では、クリオンエースボードの採用を検討する価値があります。
ただし、定期的な塗装やコーキング工事などのメンテナンス費用も考慮する必要があります。30坪の外壁塗装の平均相場は約95.8万円(税別)とされており、15年~20年ごとにこの費用が発生することを念頭に置いておくべきです。特にコーキング工事費用は、目地が多いALCパネルでは高くなる傾向があります。
クリオンエースボードには多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。これらを理解し、適切な対策を講じることで、より長く快適に使用することができます。
最大のデメリットは吸水性の高さです。クリオンエースボードは主成分がセメントであるため、防水性が低く水を吸収しやすい特性があります。また、サイディングボードなどと異なり、外壁内部に透湿シートを張らないため、塗膜の機能が低下すると水が侵入しやすくなります。
水が侵入した状態を放置すると、冬場の寒さによって内部の水が凍結・膨張し、ひび割れの原因となります。これにより建物の耐久性が低下したり、雨漏りを引き起こしたりする可能性があります。
対策としては、定期的な塗装メンテナンスが不可欠です。防水性の高い塗料を選び、適切な時期に塗り替えを行うことで、外壁内部への水の侵入を防ぐことができます。特に、透湿性のある塗料を使用することで、内部の湿気を外に逃がしながら外部からの水の侵入を防ぐことができます。
もう一つのデメリットは、パネル同士のつなぎ目(目地)が多いことです。これにより雨水の侵入リスクが高まります。対策としては、シーリング材による適切な目地処理と定期的な点検・メンテナンスが重要です。特に、コーキング工事は塗装工事と同時に行い、雨水の侵入を防ぐことが大切です。
また、クリオンエースボードは左官仕上げや石張りには適していません。表面の強度が一般的なコンクリートに比べて弱いため、重量のある石材や大型タイルなどを直張りすることはできません。仕上げ方法を検討する際には、この点に注意が必要です。
さらに、施工の工程が多いことも一つのデメリットです。サイディングボードなどは工場出荷時にすでに防水塗装されているものが多いのに対し、クリオンエースボードは施工現場で表面を塗装する必要があるため、その分の工程が追加されます。
これらのデメリットを理解した上で、適切な施工と定期的なメンテナンスを行うことで、クリオンエースボードの優れた性能を長期間にわたって活かすことができます。特に、塗装とコーキング工事は専門知識を持った業者に依頼し、確実な施工を心がけることが重要です。
クリオンエースボードは、その高い性能と信頼性から、多くの住宅で採用されています。ここでは、実際の施工事例を紹介し、どのような仕上がりになるのかをイメージしていただきます。
まず、外壁塗装の事例として、大阪府松原市の物件があります。築15年の住宅で、面積166m²の外壁に関西ペイント RSゴールドSI 水性2液超低汚染シリコンを使用した塗装工事が行われました。工事期間は18日間、費用は142万円でした。この事例では、クリオンエースボードの特性を活かした超低汚染型シリコン塗料が選ばれ、美観と耐久性を両立させています。
また、東大阪市の事例では、築14年、面積154m²の住宅で、関西ペイント RSゴールドSIを使用した外壁塗装とコーキング増し打ち工事が行われました。工事期間は14日間、費用は96万円でした。この事例では、初回の塗装工事としてコーキング増し打ち工法が採用されています。
堺市の事例では、築約30年、面積397m²の住宅で、関西ペイント アレスダイナミックMUKI(無機フッ素塗料)を使用した外壁塗装とコーキング工事が実施されました。工事期間は15日間、費用は198万円でした。築30年ということで、2回目の塗装工事としてコーキング撤去打ち替え工法が採用されたと考えられます。
これらの事例から、クリオンエースボードの塗装工事では、築年数や状態に応じて適切な塗料とコーキング工法が選ばれていることがわかります。特に、築15年前後の初回工事ではコーキング増し打ち工法、築30年前後の2回目工事ではコーキング撤去打ち替え工法が一般的であることが確認できます。
また、塗料選びでは、シリコン系や無機フッ素系など、耐候性の高い塗料が選ばれる傾向にあります。これは、クリオンエースボードの防水性を高め、長期間にわたって保護するためです。
クリオンエースボードは、適切な施工と定期的なメンテナンスによって、その優れた性能を長期間維持することができます。実際の施工事例を参考に、自身の住宅に適した施工方法や塗料を選ぶことが大切です。