有毒ガスと建築材料の燃焼時における危険性と対策

有毒ガスと建築材料の燃焼時における危険性と対策

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有毒ガスと建築材料の危険性

建築火災における有毒ガスの基本知識
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主な死因

建築火災による死亡の多くは、実は焼死ではなく有毒ガスによる窒息死です

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危険度の要因

燃焼物の種類、量、室内の燃焼状態によって危険度が変化します

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建物の影響

建物の規模、用途の複雑化により、有毒ガスの危険性は増大します

有毒ガスの種類と建築火災での発生メカニズム

建築火災において発生する有毒ガスは、人命を脅かす最も危険な要素の一つです。火災による死亡原因の多くは、実は「焼死」ではなく、有毒ガスによる窒息死であることをご存知でしょうか。これらのガスは、建物内の区画火災において特に問題となります。

 

火災時に発生する主な有毒ガスには以下のようなものがあります。

  • 一酸化炭素(CO): 最も一般的で危険な有毒ガスで、不完全燃焼によって発生します
  • 二酸化炭素(CO2): 高濃度では呼吸困難を引き起こします
  • シアン化水素(HCN): 特に合成高分子化学物質から発生する非常に有毒なガス
  • 塩化水素(HCl): 塩化ビニル等の燃焼で発生し、呼吸器系を激しく刺激します

これらのガスの発生量と危険度は、燃焼物の種類、量、および室内の燃焼状態によって大きく異なります。特に建物の規模が大きくなり、用途が複雑化するにつれて、有毒ガスによる危険性は増大します。

 

有毒ガスと建築材料の関係性と燃焼時の危険性

建築材料の種類によって、火災時に発生する有毒ガスの種類と量は大きく異なります。区画火災における燃焼物としては、区画の内装材料とその区画の用途に応じた収納物品があります。内装材料は建物に固着しているため、火災時のガス毒性を建物固有の性質として評価する上で重要です。

 

特に注意すべき建築材料には以下のようなものがあります。

  • ビニールクロス: 塩化ビニルを含み、燃焼時に塩化水素ガスを発生
  • ウレタン系断熱材・塗装: 燃焼時にシアン化水素などの有毒ガスを発生
  • 合成接着剤: 様々な有害化学物質を含み、燃焼時に複数の有毒ガスを発生
  • プラスチック系建材: 燃焼時に多種多様な有毒ガスを発生

これらの材料が燃焼する際のガスの毒性は、与えられた加熱条件における材料固有の値と熱分解特性の両方に影響されます。そのため、ガス毒性の低減対策としては、材料そのものの毒性対策と同時に、難燃化による熱分解量の低下対策も重要となります。

 

有毒ガスによる健康被害と人体への影響

建築火災で発生する有毒ガスは、人体に様々な悪影響を及ぼします。その影響の程度は、ガスの種類、濃度、暴露時間によって異なりますが、短時間でも致命的な被害をもたらすことがあります。

 

主な有毒ガスの人体への影響は以下の通りです。

ガスの種類 主な発生源 人体への影響 危険濃度
一酸化炭素 ほぼすべての有機物の不完全燃焼 酸素運搬能力の低下、意識障害、死亡 1,000ppm以上で1時間以内に意識不明
二酸化炭素 完全燃焼 呼吸促進、窒息 5%以上で呼吸困難
シアン化水素 窒素含有物質(ウレタン、ナイロン等) 細胞呼吸阻害、急速な意識喪失、死亡 100ppm以上で数分以内に致命的
塩化水素 塩化ビニル製品 気道刺激、肺水腫 50ppm以上で即時の呼吸困難

火災現場では、これらの有毒ガスが複合的に発生するため、相乗効果によってさらに危険性が高まります。また、煙による視界不良と相まって、避難を困難にする要因となります。

 

大規模火災事例として、1972年の大阪市千日デパート火災(死者118人)や1973年の熊本大洋デパート火災(死者100人)では、多くの犠牲者が有毒ガスによる窒息で亡くなりました。これらの事故を契機として、建築材料のガス有害性に関する試験方法の開発が進められました。

 

有毒ガス対策と建築基準法における規制

建築火災における有毒ガスの危険性を低減するため、日本では建築基準法に基づく様々な規制が設けられています。1976年(昭和51年)には、旧建設省告示として「ガス有害性試験」が制定されました。

 

建築基準法における主な規制と対策には以下のようなものがあります。

  1. 内装材料の燃焼性能規制
    • 建築物の用途・規模に応じて、内装材料の不燃性能が規定されています
    • 特に避難経路となる廊下や階段では、厳しい基準が適用されます
  2. 防火区画の設置
    • 火災と有毒ガスの拡散を防ぐため、一定規模以上の建物には防火区画の設置が義務付けられています
    • 防火戸や防火シャッターなどによって区画を形成します
  3. 排煙設備の設置
    • 有毒ガスを含む煙を排出するための設備の設置が義務付けられています
    • 自然排煙と機械排煙の2種類があります
  4. ガス有害性試験
    • 建築材料から発生するガスの毒性を評価する試験方法
    • マウスの行動停止時間を指標として毒性を評価します

これらの規制は、建築物の用途や規模によって適用される基準が異なります。特に不特定多数の人が利用する建物や就寝を伴う施設では、より厳しい基準が適用されます。

 

建築材料の燃焼ガスの毒性に関する詳細な研究論文

有毒ガスと建築現場での安全対策と施工時の注意点

建築現場では、工事中に予期せぬ有毒ガスに遭遇するケースもあります。特に地盤からのメタンガス発生は、建設工事中に注意すべき重要な安全課題です。

 

メタンガス自体は無色・無臭・無毒ですが、可燃性であり、空気中の濃度が約5%~15%で火源があると爆発する危険があります。大阪・関西万博会場の建設現場でも、メタンガスの検出が問題となりました。

 

建築現場での有毒ガス対策として、以下の点に注意が必要です。

  1. 事前の地質調査
    • 特に埋立地や旧ゴミ処分場などでは、メタンガスの発生リスクを事前に評価
    • 上総層群などの地層では天然ガスの存在に注意
  2. 掘削工事中の監視体制
    • ガス検知器による定期的な測定
    • 監視員の配置と異常時の対応手順の確立
  3. 火気使用の管理
    • ガス濃度が高い場合は火気使用を禁止
    • 溶接作業等の前には必ずガス検知器でガスの有無を確認
  4. 換気対策
    • 必要に応じて送風機による強制換気
    • 閉鎖空間での作業時は特に注意
  5. ガス抜き設備の設置
    • 地下構造物周辺のガス滞留防止対策としてガス抜き管の設置
    • 竣工後も定期的なガス濃度の計測を推奨

杭の施工方法の選択も重要です。杭周固定液等を使用する工法や場所打ちコンクリート杭は、杭周囲が固められるため、ガス漏出の心配が比較的少なくなります。また、既成杭の継ぎ手溶接は火気を使用するため、機械式継ぎ手の採用も検討すべきでしょう。

 

建築工事の掘削中にメタンガスが漏出した事例と対策

有毒ガスと自然素材建築の関係性と安全性

近年、環境や健康への配慮から自然素材を活用した建築が注目されています。自然素材建築は、火災時の有毒ガス発生リスクという観点からも大きなメリットがあります。

 

自然素材建築の有毒ガス発生リスクに関する特徴は以下の通りです。

  • 木材・竹・土・石などの自然素材: 燃焼時には主に一酸化炭素と二酸化炭素が発生しますが、合成建材のような特殊な有毒ガスは発生しにくい
  • 漆喰・珪藻土などの自然塗り壁: 不燃性が高く、燃焼時の有毒ガス発生リスクが低い
  • 天然繊維の断熱材: 羊毛、麻、セルロースなどは、合成断熱材に比べて燃焼時の有毒ガス発生が少ない
  • 自然塗料・オイル: 化学塗料に比べて燃焼時の有害物質発生リスクが低い

自然素材建築でも、不完全燃焼による一酸化炭素や二酸化炭素の発生は避けられませんが、合成建材から発生する複雑な有害化学物質のリスクは大幅に低減できます。特に、塩化ビニル、ウレタン、合成接着剤などに含まれる有機化学物質から発生する有害ガスの心配がほとんどないという大きなメリットがあります。

 

ただし、自然素材だからといって火災に強いわけではなく、適切な防火対策は必要です。また、建築基準法の防火規制を満たすための工夫も求められます。

 

自然素材建築と火災時の安全性に関する情報

有毒ガス検知と建築物の定期点検における重要性

建築物の安全性を維持するためには、竣工後も定期的な点検が重要です。特に有毒ガスの検知と対策は、建物の長期的な安全性を確保する上で欠かせません。

 

建築物の定期点検における有毒ガス検知の重要ポイントは以下の通りです。

  1. 地盤由来のガス検知
    • 特に埋立地や旧ゴミ処分場の上に建つ建物では、メタンガスなどの検知が重要
    • 地下室や配管スペースなど、ガスが滞留しやすい場所の定期的な測定
  2. 建材からの揮発性有機化合物(VOC)の検知
    • 新築時だけでなく、経年変化によるVOC放出の可能性
    • リフォーム後の室内空気質の測定
  3. 設備由来のガス漏れ検知
    • ガス配管や燃焼設備からの漏れ
    • 給排水設備からの硫化水素などの発生
  4. 検知器の種類と選定
    • 固定式ガス検知器: 常時監視が必要な場所に設置
    • ポータブルガス検知器: 定期点検や臨時点検に使用
    • 複合型ガス検知器: 複数の有毒ガスを同時に検知可能
  5. 点検頻度と記録管理
    • 建物の用途や立地条件に応じた適切な点検頻度の設定
    • 点検結果の記録と長期的なデータ管理

特に重要なのは、建物の特性に応じたリスク評価です。例えば、地下室を持つ建物や地盤からのガス発生リスクがある場所では、メタンガスなどの検知が重要になります。また、化学物質を扱う施設や特殊な建材を使用している建物では、それに応じた検知計画が必要です。

 

定期点検で異常が見つかった場合は、原因究明と適切な対策が必要です。場合によっては、換気システムの強化やガス抜き設備の追加設置などの対策が求められることもあります。

 

建築物の定期点検における有毒ガス検知は、入居者の健康と安全を守るだけでなく、火災や爆発などの重大事故を未然に防ぐためにも重要な役割を果たします。建築・外壁塗装に従事する専門家は、これらの知識を持ち、適切な点検と対策を提案できることが求められています。