
鉛酸カルシウム錆止め塗料は、JIS K 5629に規定された防錆塗料の一種です。この塗料の最大の特徴は、鉛酸カルシウムという白色の顔料を使用していることにあります。多くの錆止め塗料が赤褐色や橙色であるのに対し、鉛酸カルシウム錆止め塗料は白色であるため、上塗り塗料の色に影響を与えにくいという利点があります。
この塗料の防錆メカニズムは、鉛化合物の持つ防食性能によるものです。鉛酸カルシウムは金属表面に保護膜を形成し、酸素や水分の侵入を防ぎます。特に亜鉛メッキ面に対する付着性と防食性に優れており、ジンククロメート錆止めペイントよりも高い錆止め効果を発揮します。
また、白色であることから日射反射率が高く、遮熱効果も期待できるため、夏場の建物の温度上昇を抑える効果もあります。これは外壁塗装において、特に夏の暑さ対策として注目すべき特性です。
しかし、その効果の高さにもかかわらず、環境への配慮から使用が減少しているのが現状です。
鉛酸カルシウム錆止め塗料は、その名前が示す通り鉛を含有しています。鉛は環境や人体に有害な重金属であり、国際的にその使用削減が進められています。
2002年のヨハネスブルグサミット以降、「2020年までに鉛含有塗料を廃絶する」という国際的な目標が掲げられ、各国で取り組みが進められてきました。日本においても、この流れを受けて鉛含有塗料の使用削減が進められています。
具体的には、平成28年版(2016年)の公共建築工事標準仕様書(建築工事編)及び同改修工事標準仕様書、同木造工事標準仕様書から鉛酸カルシウム錆止めペイントが削除されました。これに伴い、JIS K 5629の規格自体の廃止申請も進められています。
塗料メーカーも生産を中止する方向に動いており、現在では入手が困難になりつつあります。環境保護の観点からは望ましい動きですが、その高い防錆性能を考えると、適切な代替品の選定が重要になってきます。
鉛酸カルシウム錆止め塗料の使用が制限される中、どのような代替塗料を選べばよいのでしょうか。現在、公式に認められている代替塗料は「一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント」です。
この塗料は日本塗料工業会規格JPMS 28として制定され、平成28年版公共建築工事標準仕様書に採用されています。一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、鉛を含有せず環境に優しい一方で、優れた防錆性能と作業性を兼ね備えています。
代替塗料を選ぶ際のポイントは以下の通りです。
主要塗料メーカー各社から一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが商品化されており、供給体制も整っています。価格や上塗り適合性については、各メーカーに問い合わせることをおすすめします。
外壁塗装で使用される錆止め塗料には、鉛酸カルシウム錆止めペイント以外にも様々な種類があります。それぞれの特徴を理解し、適切な選択をすることが重要です。
1. エポキシ樹脂系錆止め塗料
エポキシ樹脂に錆止め顔料を配合したもので、付着性、防食性、耐久性に優れています。エポキシ樹脂は素地の内部へ浸透し、脆弱な素地を補強する効果があります。新築工事や塗り替えで最も使用されている錆止め塗料の一つです。
2. 鉛丹(光明丹)さび止めペイント
さび止め顔料に鉛丹(光明丹)を配合した最も古くから使用されている塗料です。赤みの強い橙色が特徴で、油性系と合成樹脂系があります。鉛丹は塗膜中の樹脂成分と反応して緻密な鉛せっけん被膜を形成し、アルカリ雰囲気を作ることで防錆効果を発揮します。ただし、鉛含有のため使用が減少しています。
3. シアナミド鉛さび止めペイント
さび止め顔料にシアナミド鉛を使用しており、鉛系さび止め顔料の中で最もアルカリ性が高く、酸性水(雨水)などの中和能力が高いため、優れた防錆力を発揮します。橋梁・タンクなどの大型構造物から建築用途まで広く使用されていましたが、鉛含有のため使用が制限されています。
4. 水系さび止めペイント
シックハウス対策として開発された環境に優しい塗料です。屋内の鋼製面、亜鉛めっき面に使用できます。VOC(揮発性有機化合物)の排出が少なく、環境負荷が小さいという利点がありますが、油性系に比べると防錆性能はやや劣ります。
これらの錆止め塗料を比較した表を以下に示します。
塗料の種類 | 防錆性能 | 環境負荷 | 主な用途 | 現在の使用状況 |
---|---|---|---|---|
鉛酸カルシウム | 高い | 高い(鉛含有) | 亜鉛メッキ面 | 使用減少中 |
エポキシ樹脂系 | 非常に高い | 中程度 | 一般鉄部、新築・塗替 | 広く使用中 |
鉛丹系 | 高い | 高い(鉛含有) | 一般鉄部 | 使用減少中 |
シアナミド鉛系 | 非常に高い | 高い(鉛含有) | 橋梁・タンク等 | 使用減少中 |
水系 | 中程度 | 低い | 屋内鋼製面 | 使用増加中 |
一液形変性エポキシ | 高い | 低い | 亜鉛メッキ面 | 使用増加中 |
鉛酸カルシウム錆止め塗料を使用する場合(または同等の代替塗料を使用する場合)の正しい施工方法について解説します。適切な施工は塗料の性能を最大限に引き出すために不可欠です。
1. 下地処理の重要性
錆止め塗料の効果を十分に発揮させるためには、下地処理が極めて重要です。特に以下の点に注意しましょう。
不適切な下地処理は、どんなに高品質な錆止め塗料を使用しても十分な効果を得られない原因となります。
2. 塗装のタイミングと環境条件
錆止め塗料の塗装には適切な環境条件が必要です。
特に湿度が高い日本の梅雨時期は塗装に適さない場合が多いので注意が必要です。
3. 塗装方法と乾燥時間
一般的な塗装手順は以下の通りです。
特に乾燥時間は重要で、短すぎると塗膜が十分に形成されず、長すぎると層間付着性が低下する可能性があります。製品の説明書に記載された時間を厳守しましょう。
4. 外壁塗装への応用
外壁塗装において錆止め塗料は主に以下の部位に使用されます。
これらの部位に適切な錆止め処理を行うことで、建物全体の耐久性を大幅に向上させることができます。
なお、現在では鉛酸カルシウム錆止め塗料の代わりに一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントを使用することが推奨されています。施工方法は基本的に同じですが、製品ごとの指示に従うことが重要です。
環境への配慮から鉛酸カルシウム錆止め塗料の使用が制限される中、外壁塗装業界はより持続可能な方向へと進化しています。この変化は単なる規制対応ではなく、業界全体の技術革新を促進する機会となっています。
環境に配慮した新世代の防錆塗料
鉛やクロムなどの有害物質を含まない新世代の防錆塗料が次々と開発されています。これらの塗料は環境負荷を低減しながらも、従来の鉛系塗料に匹敵する、あるいはそれ以上の性能を発揮するものもあります。
例えば、ナノテクノロジーを応用した防錆塗料は、微細な粒子が金属表面の微小な隙間にまで浸透し、優れた防錆効果を発揮します。また、自己修復機能を持つ塗料も開発されており、小さな傷が付いても自動的に修復する革新的な技術も実用化されつつあります。
水性塗料の進化
VOC(揮発性有機化合物)排出削減の観点から、水性塗料の開発も急速に進んでいます。初期の水性防錆塗料は性能面で油性に劣る部分がありましたが、技術の進歩により性能差は縮まりつつあります。
水性塗料のメリットは、環境負荷の低減だけでなく、施工者や居住者の健康リスクを減らせる点にもあります。シックハウス症候群のリスク低減にも貢献するため、特に住宅の外壁塗装においては今後さらに普及が進むと予想されます。
長期的な視点での塗料選び
外壁塗装を検討する際は、初期コストだけでなく、耐久性や環境への影響も含めた総合的な判断が重要になってきます。安価な塗料を選んで頻繁に塗り替えるよりも、多少高価でも耐久性の高い環境配慮型の塗料を選ぶ方が、長期的には経済的かつ環境にも優しい選択となる場合が多いです。
特に、日本の気候は高温多湿で塗膜の劣化が進みやすいため、耐候性・耐久性に優れた塗料の選択が重要です。シリコン系やフッ素系など、高耐久の上塗り塗料と相性の良い防錆下塗り塗料を選ぶことで、塗装システム全体の耐久性を高めることができます。
業界の取り組みと消費者の選択
日本塗料工業会をはじめとする業界団体は、環境に配慮した塗料の開発・普及に積極的に取り組んでいます。消費者としても、こうした環境配慮型の塗料を選択することで、持続可能な社会の実現に貢献することができます。
塗装業者を選ぶ際には、単に価格だけでなく、どのような塗料を使用しているか、環境への配慮はどうかといった点も確認することをおすすめします。信頼できる業者は、環境に配慮した最新の塗料について適切な説明ができるはずです。
環境規制の強化は一見制約のように感じられますが、実際には業界全体の技術革新を促し、より優れた製品の開発につながっています。鉛