
クロメート処理とは、金属表面に耐食性・耐摩耗性・導電性・潤滑性などの性質を向上させる表面処理技術のことです 。主にアルミニウムや亜鉛合金、マグネシウムなどの金属に使用される高度な技術で、自動車部品やエレクトロニクス部品など、様々な分野で利用されています 。
参考)https://electronics.zacros.co.jp/column/cat/fastening-film/161
建築業界では、亜鉛めっきが施された鋼材や金属製品の後処理として施されるのがクロメート処理で、扉、サッシ、シャッター、壁、間仕切りなどの建築材料に広く適用されています 。処理後の金属の表面は、厚い酸化皮膜に覆われて腐食を防ぐバリア効果を持ち、金属製品の寿命を延ばすことができます 。
参考)三価クロメートとは?種類や特徴、六価クロメートとの違い|金属…
このクロメート処理は、使用するクロムの価数によって「六価クロメート」と「三価クロメート」に分類され、それぞれ異なる特性と適用範囲を持っています 。
六価クロメートは、六価クロム(Cr6+)を使用した従来の表面処理方法で、優れた防食効果を持つことで知られています 。クロムの酸化状態が+6であるため、金属表面に非常に強い酸化皮膜を形成し、金属を酸や塩分から守るだけでなく、耐摩耗性や耐熱性も向上させることができます 。
参考)https://www.kanameta.jp/column/chromate-plating
特筆すべき特徴として、六価クロメートには「自己修復機能」があります 。皮膜に疵が付くと、皮膜から水溶性の6価クロムが溶け出して、疵付いた箇所の亜鉛と反応すると自身は3価クロムになって疵付いた皮膜を修復し、白錆の発生を抑制します 。つまり、クロメート皮膜中に微量の6価クロムがあることにより、疵付いた皮膜がすぐに修復されるのです 。
参考)https://www.nipponsteel.com/company/publications/monthly-nsc/pdf/2005_6_149_09_12.pdf
しかし、六価クロムは強い毒性を持ち、発がん性も指摘されています 。長期的なばく露によって皮膚のかぶれ、炎症、アレルギー性皮膚炎、呼吸器系疾患(喘息など)、鼻中隔穿孔、がん、男性不妊などの健康被害につながる可能性があります 。国際がん研究機関(IARC)では「ヒトに対して発がん性がある」グループ1に分類されており、これはアスベストやカドミウムと同等の危険性を示しています 。
参考)六価クロムめっきの毒性とは?人体や環境への影響や三価クロムと…
三価クロメートは、三価クロム(Cr3+)を含むものの六価クロムは含まない溶液に金属を浸すことによって、金属表面で化学反応を起こし、金属表面に防食効果などを発揮する皮膜を形成する化成処理のことです 。「三価クロム化成処理」や「クロメートフリー処理」とも呼ばれます 。
三価クロメートの最大の特徴は、環境および人体に対する安全性にあります 。三価クロムは弱毒性であり、発がん性もないため、比較的安全とされています 。実際、三価クロムには全く毒性がなく、自然界の河川や海洋などにも存在している物質で、人間にとっては必須ミネラルであると考えられており、欠乏症になると糖の代謝異常を起こすとされています 。
耐食性について、三価クロメートは六価クロメートと比べて同等か、それを上回る性能を示します 。特に高温時の耐食性が高く、六価クロム化成皮膜が約70℃以上で皮膜にクラックが発生し耐食性が著しく低下する一方、三価クロム化成皮膜は約200℃の高温でもクラックが発生しにくく、耐食性の低下が起こりません 。
三価クロメートは、色調の違いにより大きく「三価白」と「三価黒」の2種類に分けられます 。三価白は、銀色、青白色(青みを帯びた銀色)または淡黃色(黄みを帯びた銀色)の色調となり、皮膜の厚さによって色調が変化します 。膜厚は0.02~0.5μm程度で、皮膜が厚いほど耐食性が高くなる特徴があります 。
三価黒は、硫黄とコバルトが反応して黒味成分となる硫化コバルトへ変化することによって黒色が実現されており、「三価黒クロメート」や「三価ブラック」とも呼ばれます 。化成皮膜は0.2~0.5μm程度の厚さで、耐食性は三価有色クロメートと同水準ですが、光沢のないマットな仕上がりとなり、耐傷性が低いという欠点があります 。
六価クロメートでは、無色(光沢)、有色(黄色)、黒色、緑色など、より多くの色調のバリエーションが可能で、それぞれの色調も六価クロメートの方が鮮やかだったり光沢が強かったりするとされています 。しかし、近年では三価クロメートでも六価クロメートの色調をほぼ実現できるようになっています 。
建築業界において、クロメート処理の選択は環境規制と密接に関連しています。EU域内では、ELV指令やWEEE指令、RoHS指令により六価クロムが規制されており、六価クロメートが使用された製品は販売できません 。これらの法令では、六価クロムの最大許容含有量は0.1wt%(1000ppm)と定められています 。
日本では六価クロムの使用が完全に禁止されているわけではありませんが、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、労働安全衛生法などで適用基準が設けられており、取り扱いには注意が必要です 。自動車や電機などの輸出企業では欧州市場を考慮して三価クロメートへの切り替えが進んでいますが、建材・建築などの国内中心の企業では未だ六価クロメートが適用された製品が使用されています 。
三価クロメートは、以前は処理剤が高価、処理工程の複雑化、良好な品質の処理剤の少なさ、設備投資の必要性などから六価クロメートよりも高コストでしたが、近年では需要増によりコストが低下し、需要が多い色調・性能の三価クロメートでは六価クロメートと同程度のコストとなっています 。
建築業界における完全クロムフリーへの移行も検討されており、クロムを全く含まない表面処理技術の開発が進められています 。これは環境保護と健康への配慮がますます重要視される中、環境への負荷を減らし、安全性を高めるために欠かせない要素となっているためです 。