
日本品質保証機構(JQA)計量計測センターは、東京都八王子市南大沢4-4-4に拠点を置く国家標準供給機関として、建築業を含む幅広い産業分野に計測器の校正サービスを提供しています。計量計測センターは、国際規格ISO/IEC 17025に基づく認定を受けた校正機関であり、計量法トレーサビリティ制度(JCSS)の認定事業者として登録されています。この認定により、校正証明書は国際MRA(相互承認協定)に対応し、世界中で通用する信頼性を持つことが特徴です。
計量計測センターの主な業務は、長さ・質量・力・温度・圧力・電気などの物理量に関する計測器の校正と、計量法に定められた特定計量器の検定です。建築業界では、工事現場で使用される測定器の精度管理が品質保証の根幹を成すため、JQAの校正サービスは施工品質の信頼性確保に直結する重要な役割を担っています。さらに、計量計測センターは米国試験所認定協会(A2LA)からも認定を受けており、国内外の規格に対応した柔軟な校正サービスを提供しています。
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計量法トレーサビリティ制度(JCSS:Japan Calibration Service System)は、計量法に基づいて1993年に施行された国家計量標準供給制度です。この制度は、産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)が管理する国家計量標準を起点として、認定された校正事業者を通じて産業界に標準を供給する体系を構築しています。建築業においてJCSSが重要視される理由は、施工に使用される測定器の精度が建築物の安全性や品質に直結するためです。
JCSSの認定を受けた校正事業者が発行する校正証明書には、認定シンボルが付与されており、「切れ目のない校正の連鎖」「測定の不確かさの明記」「文書化された校正記録」「国際単位系(SI)への参照」という計量トレーサビリティの要件をすべて満たしています。建設現場で使用される直尺、ノギス、マイクロメータ、水準器、レーザー距離計などの測定器をJCSS校正機関で校正することで、測定結果が国家計量標準まで遡れることが証明され、ISO 9001などの品質マネジメントシステムの監査にも対応可能となります。
JQA計量計測センターは、JCSS認定番号0029を持つ指定校正機関として、長さや質量などの基本量について国家計量標準を認定事業者に供給する役割を果たしています。建築業者がJCSS校正証明書を活用することで、取引先や発注者に対して測定の信頼性を客観的に証明でき、品質保証体制の透明性が向上します。
建築業において測定器の適切な管理は、施工品質を維持するための基本要件です。測定器管理の中心となるのが「測定器管理台帳」の作成と、定期的な校正の実施です。管理台帳には、各測定器の固有管理番号、名称、型式、製造番号、購入日、保管場所、管理担当者、校正周期、校正期限、校正証明書の有無などを記録し、一元的に管理します。
校正周期の設定は、測定器の使用頻度、使用環境の厳しさ、要求される精度レベル、製造者の推奨などを総合的に考慮して決定します。一般的に建築現場で使用される長さ測定器の校正周期は1年が推奨されていますが、過酷な環境で頻繁に使用される場合は6ヶ月に短縮することも検討すべきです。測定器の校正期限が近づいたら、管理担当者が計画的にJQAなどの認定校正機関に校正を依頼し、校正証明書を受領後、管理台帳を更新します。
ISO 9001規格の7.1.5.1項「監視及び測定のための資源」では、測定結果の妥当性と信頼性を保証するための体制維持が要求されており、ISO認証取得企業だけでなく、すべての建築業者が測定器の校正管理を実施することが品質保証の基本となっています。JQAでは、校正証明書のデジタル発行サービスも提供しており、PDF形式で受領した証明書を電子データとして保管・管理することで、ペーパーレス化とデータの転記効率向上が実現できます。
計量法では、適正な計量実施の観点から、18品目の計量器を「特定計量器」として指定し、取引または証明に使用する場合には検定合格品の使用を義務付けています。建設業に関連する特定計量器には、非自動はかり(台はかり、吊りはかりなど)、照度計、騒音計、振動レベル計などが含まれます。これらの測定器は、構造や器差(測定誤差の許容範囲)に係る基準が政令で定められており、検定に合格したもののみが取引・証明用途に使用できます。
特定計量器の多くには有効期間が設定されており、期間内のものを使用する必要があります。例えば、照度計の検定有効期間は2年、騒音計は5年、振動レベル計は6年と定められています。建設現場で作業環境測定や騒音・振動測定を実施する際、これらの測定器が有効期間内の検定合格品でなければ、測定結果を公的な証明として使用することができません。
JQA計量計測センターは、計量法に基づく特定計量器の検定業務も実施しており、建設業者は測定器の購入時や有効期間満了時にJQAで検定を受けることができます。検定を受けた測定器には検定証印が付され、その有効期間が明示されます。建設業者は、測定器管理台帳に検定の有効期限を記録し、期限切れにならないよう計画的に再検定を受けることが法令順守の観点から重要です。
建築業界では、品質保証体制の強化が競争力の源泉となっており、測定器の校正管理はその中核を成す要素です。発注者や元請業者は、下請業者の品質管理能力を評価する際、測定器の校正状況や管理体制を重視する傾向が強まっています。JCSS校正証明書やA2LA認定シンボル付き校正証明書を保有することで、国際的に通用する測定の信頼性を客観的に証明でき、受注機会の拡大や取引条件の改善につながります。
また、建築現場では多様な測定器が使用されるため、校正の優先順位を戦略的に設定することが重要です。施工品質に直接影響する寸法測定器(直尺、ノギス、マイクロメータなど)や、安全性に関わる環境測定器(照度計、騒音計など)は、JCSS認定校正機関での校正を優先すべきです。一方、日常的な点検用の測定器については、一般校正(JCSS認定外の校正)を活用することで、コストと信頼性のバランスを最適化できます。
JQAの校正サービスを活用する利点として、多様な測定器に対応できる幅広い校正能力、国際規格に基づく信頼性の高い校正結果、デジタル校正証明書による効率的な管理、全国展開する試験センターによるアクセスの良さなどが挙げられます。建設プロジェクトの品質記録として校正証明書を保管することで、完成後の瑕疵責任や品質トラブル発生時にも、適切な測定管理を実施していた証拠として活用できます。
建築現場では、測定器が厳しい環境条件下で使用されるため、通常のオフィス環境とは異なる管理上の課題が存在します。現場の温度変化、粉塵、振動、落下などの物理的衝撃により、測定器の精度が損なわれるリスクが高く、定期校正の間にも精度異常が発生する可能性があります。この課題に対しては、「日常点検」と「定期校正」を組み合わせた二重管理体制の構築が効果的です。
日常点検では、作業開始前に既知の寸法を持つ標準ゲージやブロックゲージで測定器の指示値を確認し、許容範囲内であることを記録します。指示値に異常が認められた場合は、直ちに使用を中止し、予備の測定器に交換するとともに、早期に再校正を実施します。この日常点検記録は、品質管理の証跡として重要であり、ISO監査や発注者検査の際にも提示を求められることがあります。
また、建設現場では複数の協力会社が同じ現場で作業するため、測定器の管理責任が不明確になりやすいという課題もあります。これに対しては、現場入場時に全作業員の使用測定器をリスト化し、校正証明書のコピーを現場事務所で一元管理する方法が有効です。現場管理者が定期的に測定器の校正期限を確認し、期限切れの測定器の使用を防止することで、現場全体の品質保証レベルを維持できます。
さらに、JQAなどの認定校正機関では、出張校正サービスや一括校正サービスも提供されており、多数の測定器を効率的に管理したい建設会社にとって有用な選択肢となっています。計量トレーサビリティの意外な効果として、測定器の校正管理を徹底することで作業員の品質意識が向上し、施工不良の未然防止につながるという副次的なメリットも報告されています。