

トレーサビリティとは、商品の原料や取引の履歴を遡って確認できるよう情報公開を積極的に行う仕組みです。不動産業界では、建造物に使用される建材の原産地追跡と、物件の取引実績という二つの領域で活用されています。
参考)https://hedge.guide/feature/property-management-traceability-importance-case-study.html
建設業界においては、建設工事で発生する残土が発生場所からどこへ運ばれたかを記録し、追跡できるようにする「残土トレーサビリティ」が注目されています。2021年7月の熱海土石流事件を受けて、国土交通省は建設残土のトレーサビリティ制度の導入を検討しており、建設発生土が適切に処分されているかを判断する材料として使われています。
参考)https://www.danpoo.co.jp/zando_trace.html
不動産管理において、トレーサビリティは単なる追跡システムではなく、物件の価格が適正か判断しやすくし、資産価値の保全につながる重要な仕組みとなっています。建材に問題があったり、過去に深刻な入居者トラブルがあった物件は、周辺の適正水準より低い価格で取引されるケースがあるため、情報の透明性向上が投資家の判断材料として機能します。
建材のトレーサビリティは、環境負荷の軽減や物件の安全性を証明する上で重要な役割を果たします。特に木造建築においては、どの地域のどのような木から製造されたかを追跡する目的で、トレーサビリティが推進されてきました。これは海外の森林破壊を抑えようという意識や地産地消という考え方とも結びついたものです。
トレーサビリティの本質は、何か問題が起こった場合の原因や責任の所在を明確にすることです。一つのプロジェクトに多企業が関わる建築・建設業界においては、材料の原産地や加工業者、解体・廃棄した場合の処分先まで追跡できるようにしておくことで、確かな安心・安全と手厚い補償サービスにつながります。
参考)https://www.okajimawood.co.jp/column/202307_01/
実際の活用例として、シノケンプロデュースではアパートの建築に必要な木材などの原料トレーサビリティを開始しています。木材のトレーサビリティは、アパートに欠陥木材が使用されていないか、また問題が起きた時にどのような要因があったのかを確認するために大切な情報となり得ます。
トレーサビリティが発達すれば不動産物件それぞれに想定されるリスクが可視化されます。過去に浸水した実績があれば浸水対策を手厚くしておく必要があり、犯罪が懸念されるということであれば質の高い防犯対策が必要になります。修繕実績をもとに、次に修繕が必要になる箇所の見通しを立て、合理的な計画を立てられるようにもなります。
建設発生土トレーサビリティシステムの利点として、建設発生土を適正に処理した記録を確保できること、紙伝票の管理から解放されること、集計機能で工程管理や出来高集計に利用できることが挙げられます。4連紙伝票の確認・押印・印刷工数・コスト削減が最大のメリットとなっています。
参考)https://www.actec.or.jp/ss-trace_system/index_02.html
リスク管理の観点では、トレーサビリティシステムの導入により、責任の所在を明確にし、問題が起こった際の原因の特定が可能になります。蓄積したデータから効率的な業務や生産管理、品質管理の改善にも活用でき、企業の信用力向上にもつながります。
参考)https://www.j-ems.jp/public-ict/column/column-002/
トレーサビリティシステムを導入する際は、段階的なアプローチが不可欠です。まず現状分析と目的設定を行い、期待される効果や対象とする範囲を明記して、どのような考えでトレーサビリティシステムを作るのかを明確にする基本構想書を作成します。
参考)https://www.smart-logistic.jp/hub/ja-jp/blog/article02-traceability.html
次に、役割と責任の明確化を行います。基本構想書に基づいて、経営者や担当責任者などの役割と責任を明確にし、システムを運用する組織を設立します。実施計画を作成し、運用管理の手順書を作成した上で、導入スケジュールを決定し、関係者の研修を実施します。
参考)https://hnavi.co.jp/knowledge/blog/traceability-cost/
トレーサビリティシステムの段階的導入方法については、製造業での実践例も参考になります
システム設計と開発の段階では、導入範囲と方法の決定、組織体制の構築とリソース確保が重要です。パイロット導入と検証を経て、全社展開と教育訓練を行い、継続的な改善と最適化を図ることで、効果的なトレーサビリティシステムの導入が可能となります。
不動産業界では、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティの飛躍的向上が期待されています。ブロックチェーンは、暗号技術を用いて取引記録を多数の参加者で分散・共同管理する仕組みで、従来型の中央集権的なネットワークよりも改ざんや不正侵入が難しいため、膨大な取引証跡を正確に残していけると考えられます。
大和地所レジデンスの事例では、顧客の情報管理体制の強化とトレーサビリティ推進を同時に行っています。クライアント操作ログ管理ソフトウェアを採用して、顧客の機密情報や取引ログの管理、情報漏洩リスクの低減などを実現し、プライバシーマーク(Pマーク)を取得しています。
ESGに配慮した不動産の開発・流通を促進するためにも、トレーサビリティは不可欠です。環境負荷の少ない建材の使用や建築手法の導入は、不動産における環境貢献において重要な要素であり、建築時に使用された建材や建築手法の情報が蓄積していなければ、投資家はESGに対する貢献度の高い物件の選別ができません。
不動産トレーサビリティの活用により、物件の価格が適正か判断しやすくなり、資産価値の保全につながります。トレーサビリティに積極的な物件の方が買い手から信頼され、適正な売値がつきやすくなることから、市場価格でみたときの資産価値の保全につながるのです。
| メリット | 具体的な効果 | 実現方法 |
|---|---|---|
| 適正価格の判断 | 建材品質や取引履歴の透明性向上 | 建材追跡システムの導入 |
| 資産価値保全 | 物件の信頼性向上と適正な売値設定 | 修繕履歴のデジタル記録化 |
| リスク管理 | 過去の問題可視化と予防策立案 | ブロックチェーン技術の活用 |
| ESG対応 | 環境配慮建材の証明と評価 | 原材料追跡記録の整備 |
トレーサビリティの導入により、不動産従事者は品質管理と安全性の向上、リスク管理とコンプライアンスの強化、ブランド価値と顧客信頼の向上といった多岐にわたるメリットを享受できます。
製品に問題があった場合、迅速に対応することができ、問題の特定が速やかに行えることで、時間や手間などのコストを抑えることにつながります。製造工程だけに限らず、製品が消費者に届くまでの全ての流通過程を網羅することで、責任の所在や原因の特定が明確になり、対策を速やかに行えます。
参考)https://i-reporter.jp/column/1002/
建築業界におけるトレーサビリティの具体的な活用方法については、木材業界の事例が参考になります
トレーサビリティシステムの費用は、会社の規模や導入する機能にもよりますが、オンプレミス型で100万~1,000万円程度で導入できます。社内にデータを保有できる点やカスタマイズ性が高い点がメリットとなります。
今後、不動産業界でブロックチェーンによる取引が普及すれば、ペーパーレスでの効率的な取引が実現し、トレーサビリティの飛躍的な向上が見込まれます。正確に取引記録を残せるようになることで、物件の取引実績や管理実績などの情報の透明性が高まり、投資家の判断材料として機能します。