温度ヒューズ防火設備の選び方と施工基準

温度ヒューズ防火設備の選び方と施工基準

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温度ヒューズ防火設備の基礎知識と施工要点

温度ヒューズ防火設備の重要ポイント
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防火ダンパーの主流

温度ヒューズ式は防火ダンパーで標準的に採用される仕組み

⚖️
法令遵守が必須

建築基準法施行令に基づく適切な設置と定期点検が義務

🔧
施工時の注意

設置環境に応じた温度設定と正しい取付方法が重要

温度ヒューズ防火ダンパーの仕組みと種類

温度ヒューズ防火設備の中核となるのが防火ダンパーです。この装置は、平常時にはダンパー羽根が開いた状態を保ち、空調システムの正常な運用を可能にしています。

 

基本的な作動原理
温度ヒューズ式防火ダンパーの作動メカニズムは以下の通りです。

  • ダンパーの羽を閉じるハンドルが鉄心に引っかかって保持
  • 鉄心はダンパー内側で温度ヒューズに接続
  • ダクト内に熱風が流れると温度ヒューズが溶融
  • 鉄心が引っ込み、ハンドルの引っかかりが外れて羽根が閉鎖

この単純ながら確実な仕組みにより、火災時の延焼拡大を効果的に防止できます。

 

主要な種類と特徴
防火ダンパーには用途に応じて複数の種類が存在します。

  • FD(防火ダンパー):温度ヒューズ72℃で作動する一般仕様
  • HFD(排煙用防火ダンパー):温度ヒューズ280℃で作動する排煙系統用
  • SFD(防煙・防火ダンパー):温度ヒューズ72℃または煙感知器連動
  • SFMD(防煙・防火ダンパー):モーター自動復帰機能付き

それぞれの特性を理解し、設置場所の要求に応じて適切に選定することが施工業者には求められます。

 

温度ヒューズ防火設備の設置基準と法令

温度ヒューズ防火設備の設置は、建築基準法施行令第112条に基づいて厳格に規定されています。施工業者として必ず押さえておくべき法的要件を詳しく解説します。

 

建築基準法による設置義務
防火区画を貫通するダクトには、以下の条件を満たす防火設備の設置が義務付けられています。

  • 建設省告示第2565号で定めた構造のもの、または大臣認定品
  • 建設省告示第2563号と同様の基準を満たすもの
  • 試験に合格した温度ヒューズを使用したもの

これらの要件を満たさない設備は法令違反となり、重大な責任問題に発展する可能性があります。

 

温度設定の法的基準
東京都建築設備行政指針では、温度ヒューズの設定温度について明確な基準を示しています。

  • 一般換気設備:72℃の温度ヒューズを使用
  • 湯沸室・厨房等:排気温度が72℃を超える場合は120℃程度
  • 特殊用途:環境に応じて最高周囲温度より20℃高い設定

これらの基準は、誤作動防止と確実な火災検知のバランスを考慮して定められており、施工時には必ず遵守する必要があります。

 

建材試験センターの合格証明書や認定書類の確認も重要な施工管理業務の一環です。

 

建築基準法令の詳細な解釈については、国土交通省の告示を参照してください。

 

国土交通省公式サイト

温度ヒューズ防火設備の選び方とポイント

適切な温度ヒューズ防火設備の選定は、建物の安全性を左右する重要な判断です。施工業者として押さえるべき選定基準を体系的に解説します。

 

環境に応じた温度設定の選択
設置環境の最高周囲温度を正確に把握することが選定の第一歩です。
一般オフィス・住宅系施設

  • 温度ヒューズ:72℃
  • 理由:通常の空調環境下で誤作動リスクが最小
  • 適用場所:事務所、会議室、居住空間等

厨房・給湯室

  • 温度ヒューズ:120℃
  • 理由:調理や給湯による高温排気への対応
  • 適用場所:レストラン厨房、給湯室、食堂等

工場・特殊施設

  • 温度ヒューズ:環境温度+20℃
  • 理由:生産工程の熱源による温度上昇への配慮
  • 適用場所:溶接工場、鋳造施設、ボイラー室等

品質と信頼性の評価基準
温度ヒューズの選定では以下の性能要件を重視します。

  • 検知精度:設定温度での確実な作動性能
  • 瞬時性:温度検知から閉鎖までの応答速度
  • 耐久性:経時変化が少ない安定した特性
  • 認定状況:建材試験センター等の合格証明

ニッケイ株式会社製H-575シリーズなど、可溶合金を使用した非復帰型温度ヒューズは、シンプルな気密構造により高い信頼性を実現しています。

 

設置場所の特殊条件への対応
腐食性環境や特殊ガス使用区画では、専用仕様の選定が必要です。

  • 重防蝕仕様エポキシ樹脂塗装(膜厚200μ)
  • 超重防蝕仕様:フッ素樹脂ライニング(膜厚300-400μ)
  • ガス圧連動型:消火ガス使用区画向け自動復帰機能付き

これらの選択により、過酷な環境下でも長期間安定した防火性能を維持できます。

 

温度ヒューズ防火設備の点検とメンテナンス

温度ヒューズ防火設備は設置後の適切な維持管理が安全性確保の鍵となります。法定点検から日常メンテナンスまで、施工業者が理解すべき要点を解説します。

 

法定点検の要件と頻度
建築基準法第12条に基づく定期点検では、以下の項目が義務付けられています。

  • 外観点検:温度ヒューズの破損・変形・腐食状況
  • 作動点検:ダンパー羽根の開閉動作確認
  • 温度ヒューズ点検:設定温度表示と取付状態
  • 周辺環境点検:ダクト内の汚れ蓄積状況

点検頻度は用途に応じて年1回または6ヶ月に1回実施が基本となります。

 

メンテナンス上の注意点
温度ヒューズは非復帰型のため、一度作動すると交換が必須です。メンテナンス時の重要ポイント。
交換時期の判断基準

  • 作動後は必ず新品と交換
  • 経年劣化による性能低下の兆候確認
  • 製造から5-10年経過での予防交換検討

清掃の重要性
防火ダンパーの汚れ蓄積は重大な機能不全の原因となります。実際に汚れが原因で防火ダンパーが閉鎖せず火災が拡大した事例も報告されています。

 

定期清掃では以下に注意。

  • ダンパー羽根周辺の油脂・埃除去
  • 温度ヒューズ本体への汚れ付着防止
  • ダクト接続部のシール材確認

記録管理の徹底
点検・メンテナンス記録は法的要求事項であり、以下の情報を必ず記録保管します。

  • 点検実施日時と担当者
  • 温度ヒューズの型式と設定温度
  • 交換部品の製造番号と交換日
  • 不具合発見時の対応措置

これらの記録は建築主への報告義務もあり、適切な管理体制の構築が求められます。

 

防火設備の点検基準については、消防庁の技術基準を参照してください。

 

消防庁公式サイト

温度ヒューズ防火設備の施工時注意点

温度ヒューズ防火設備の施工では、単純な取付作業以上の専門知識と注意深い施工管理が求められます。現場で起こりがちな問題とその対策を中心に解説します。

 

施工前の事前調査の重要性
既設建物での注意点
既設建物への後付け施工では、以下の事前調査が不可欠です。

  • ダクト系統の詳細把握:図面と現場の相違確認
  • 防火区画の境界確定:正確な設置位置の特定
  • 周辺温度環境の実測:適切な温度ヒューズ選定のための現地調査
  • アクセス性の確認:将来のメンテナンス作業性の検討

特に厨房やボイラー室などでは、設計時の想定と実際の運用温度に大きな差異が生じる場合があります。現地での温度測定を実施し、誤作動防止と確実な火災検知のバランスを慎重に判断する必要があります。

 

取付精度と調整作業
止め金式ヒューズ装置の施工ポイント
NEW STAR製止め金式ヒューズ装置などの面付けタイプでは。

  • 取付位置の精度確保:ドア開放時の確実な保持
  • 最大保持力の確認:100N以下での調整
  • 温度ヒューズの方向性:落下防止機構の正しい向き
  • 既設品との互換性:廃番品H-2Fとの互換確認

格納式ヒューズ装置では左右兼用設計を活用し、ヒューズホルダーの向きを現場状況に応じて調整します。

 

配線・制御系統との連携
SFD(防煙・防火ダンパー)では温度ヒューズと煙感知器の双方からの信号処理が必要です。

  • 感知器回路の確認:煙感知器からの制御信号配線
  • 電源系統の整備:停電時の動作確保
  • 動作試験の実施:両系統からの作動確認

施工後の動作確認と調整
段階的な動作試験

  1. 手動作動試験:止め金解除による手動閉鎖確認
  2. 温度ヒューズ試験:適切な方法での温度上昇試験
  3. 復帰動作確認:モーター付きタイプの復帰動作
  4. 連動試験:煙感知器連動タイプの総合動作

よくある施工不良とその対策
現場でよく見られる問題。

  • 温度設定の選択ミス:環境温度を考慮しない72℃固定選択
  • 取付角度の不適切:ダンパー羽根の重力バランス無視
  • 清掃アクセスの未考慮:将来メンテナンスの困難性

これらを防ぐため、施工図面段階での詳細検討と現場確認の徹底が重要です。

 

竣工書類の整備
施工完了時には以下の書類整備が必須。

  • 使用部材の認定書写し
  • 施工写真(取付状況・銘板等)
  • 動作試験記録
  • メンテナンス要領書

これらは建築主への引渡し時だけでなく、将来の改修工事時にも重要な参考資料となります。適切な書類管理により、長期間にわたる安全性確保に貢献できます。