建築基準法施行令第112条における防火区画と竪穴区画の実務

建築基準法施行令第112条における防火区画と竪穴区画の実務

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建築基準法施行令第112条と防火区画の要件

建築基準法施行令第112条の重要ポイント
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防火区画の基本

床面積1,500㎡以内ごとに区画する面積区画と、火災の上階延焼を防ぐ竪穴区画が主要な区画タイプです

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令和2年改正のポイント

吹抜け空間等の一定規模以上の空間部分に関する区画規定が新設されました

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実務上の注意点

面積区画の緩和が適用されても、竪穴区画は別途要求されることがあります

建築基準法施行令第112条における防火区画の種類と基準

建築基準法施行令第112条は、建築物における防火区画の設置基準を定めた重要な規定です。この条文では、建築物の火災安全性を確保するために必要な区画方法が詳細に規定されています。

 

防火区画は主に以下の4種類に分類されます。

  1. 面積区画:延べ面積が1,500㎡を超える建築物において、床面積の合計1,500㎡以内ごとに設ける区画
  2. 竪穴区画:階段や吹抜け等の竪穴部分と他の部分との間に設ける区画
  3. 異種用途区画:異なる用途の部分の間に設ける区画
  4. 高層区画高層建築物において高さ31mを超える部分とそれ以外の部分との間に設ける区画

特に第1項では、耐火建築物または準耐火建築物で延べ面積が1,500㎡を超えるものについて、床面積の合計1,500㎡以内ごとに一時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁、または特定防火設備で区画することを求めています。

 

ただし、自動式のスプリンクラー設備等が設置された部分については、その床面積の2分の1を床面積から除外して計算できるという緩和規定があります。これにより、スプリンクラー等の消火設備を導入することで、必要な防火区画の数を減らすことが可能になっています。

 

建築基準法施行令第112条の竪穴区画と避難安全検証法

竪穴区画は建築基準法施行令第112条第11項に規定されており、主要構造部を準耐火構造とした建築物または第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物で、3階以上の階や地階に居室を有するものに適用されます。

 

竪穴区画の主な目的は、階段や吹抜け等の竪穴部分を通じた上階への火災・煙の拡大を防止することです。そのため、竪穴部分とその他の部分との間には、耐火構造の壁や特定防火設備を設けて区画することが義務付けられています。

 

ただし、全館避難安全検証法(建築基準法施行令第129条の2)により全館避難安全性能が確認された場合には、この竪穴区画の規定は緩和されます。この検証法は、建物全体の避難安全性を総合的に評価するもので、一定の条件を満たせば従来の区画要件を適用しなくても良いという特例を設けています。

 

竪穴区画に関する規定の解釈で混乱が生じることがあります。例えば、改正前は「主要構造部が準耐火構造」という条件だったため、準防火地域内の3階建て計画では、あえて第136条の2第二号ロ(旧令136条の2)の基準を採用することで竪穴区画を回避する方法がありましたが、改正後はこの方法が使えなくなったと解釈されることがあります。しかし、実際には規制強化よりも明確化の側面が強いことに注意が必要です。

 

建築基準法施行令第112条の令和2年改正のポイント

令和2年(2020年)4月1日に施行された建築基準法施行令第112条の改正は、防火区画の規定に重要な変更をもたらしました。この改正は令和3年の一級建築士学科試験からも適用されており、建築実務者にとって把握が必須の内容となっています。

 

改正のポイントとしては、新設された令第112条第3項が特に重要です。この条項は、主要構造部を耐火構造とした建築物において、アトリウムなどの吹抜けとなっている部分その他の一定規模以上の空間が確保されている部分(「空間部分」と定義)に接する2以上の部分について、一定の条件を満たす場合の防火区画の取り扱いを定めています。

 

改正前は、吹抜け空間等と接する部分との間に必ず面積区画のための区画材(耐火構造の床や壁、特定防火設備など)を設ける必要がありましたが、改正後は以下の条件を満たす場合、特定防火設備で区画されているものとみなされ、区画材を設ける必要がなくなりました。

  • 通常の火災時において相互に火熱による防火上有害な影響を及ぼさない構造方法であること
  • 国土交通大臣が定めた構造方法を用いるか、国土交通大臣の認定を受けたものであること

この改正により、開放的な空間設計の自由度が高まり、デザイン面での制約が緩和されました。ただし、この規定は面積区画(令第112条第1項)にのみ適用され、竪穴区画(令第112条第11項)には適用されないことに注意が必要です。

 

建築基準法施行令第112条の空間部分と特定防火設備の関係

建築基準法施行令第112条第3項における「空間部分」とは、吹抜けとなっている部分やその他の一定規模以上の空間が確保されている部分を指します。さらに、令和2年国土交通省告示第522号第一号によれば、「特定空間部分」には以下も含まれます。

  • 直通階段を除く階段の部分(避難階段・特別避難階段は含む)
  • 昇降機の昇降路の部分(乗降ロビーも含む)

この空間部分と建築物の2以上の部分との関係において、特定防火設備による区画が不要となる条件についても具体的に定められています。ただし、同一階に2以上のみなし防火区画部分が存在する場合は、それらの間に6m以上の離隔距離を確保することが求められています。

 

特定防火設備とは、建築基準法施行令第109条に規定される防火設備のうち、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後1時間、加熱面以外の面に火炎を出さないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるか、国土交通大臣の認定を受けたものを指します。

 

特定防火設備の性能基準は厳格に定められており、火災時の延焼防止において重要な役割を果たします。特に、令第112条第1項で要求される防火区画においては、特定防火設備の適切な設置が不可欠です。

 

防火区画の種類や区画方法の詳細について

建築基準法施行令第112条と全館避難安全性能の両立方法

建築基準法施行令第112条第3項の適用により面積区画の緩和が可能になりましたが、竪穴区画については依然として別途規定が適用されます。しかし、全館避難安全検証法との組み合わせによって、より柔軟な建築計画が可能になります。

 

全館避難安全検証法(建築基準法施行令第129条の2第1項)は、建物全体の避難安全性能を総合的に検証する方法です。この検証に合格すれば、通常の竪穴区画の規定が免除されます。

 

そのため、以下のような方法で両立が可能になります。

  1. 令第112条第3項を適用して面積区画の要件を緩和する
  2. 全館避難安全検証法による検証を行い、竪穴区画の要件も緩和する
  3. これにより、吹抜け部分と吹抜け以外の部分との間に区画材による防火区画を設けずに計画することが可能になる

この両立方法は、アトリウムのある商業施設やオープンオフィスなど、開放的な空間設計を必要とする建築物で特に有効です。ただし、全館避難安全検証法の適用には詳細な避難計算や火災シミュレーションが必要となるため、専門知識を持った設計者の関与が不可欠です。

 

また、避難安全検証法を適用した場合でも、他の消防法令による規制(例:消防用設備等の設置義務)は引き続き適用されることに注意が必要です。したがって、建築基準法と消防法の両方の観点から計画を検討する必要があります。

 

防火区画を貫通する部分の取り扱いについての国土交通省通知
以上のように、建築基準法施行令第112条は防火区画の基本を定める重要な規定です。特に令和2年の改正によって導入された空間部分に関する規定は、設計の自由度を高めつつも火災安全性を確保するバランスを取るものとなっています。実務においては、面積区画と竪穴区画の両方の要件を理解し、全館避難安全検証法などの特例措置も適切に活用することが、安全で魅力的な建築空間の創出につながります。