防火区画と建築基準法の設置基準と種類

防火区画と建築基準法の設置基準と種類

記事内に広告を含む場合があります。

防火区画と建築基準法の基礎知識

防火区画の基本情報
🔥
防火区画の目的

火災発生時に炎や煙の拡大を防ぎ、被害を最小限に抑えるための区画

📋
法的根拠

建築基準法施行令第112条に規定

🏢
設置義務のある建築物

主要構造部が耐火構造の建築物や延べ面積1,500㎡以上の建築物など

防火区画とは、建築物内で火災が発生した際に、炎や煙が広がるのを防ぐことを目的とした区画のことです。耐火構造の床や壁、防火設備などを使って建物内を一定の基準で区切ることで、火災の拡大を防ぎ、避難時間を確保します。

 

建築基準法施行令第112条では、防火区画の設置基準や区画方法について詳細に規定されています。この規定に従って適切に防火区画を設けることは、建築物の所有者や管理者の重要な責務となっています。

 

防火区画の設置が義務付けられている建築物は主に以下の通りです。

  • 主要構造部が耐火構造になっている建築物
  • 建築基準法施行令第2条第9号・第136条に該当する建築物
  • 延べ面積が1,500㎡以上の建築物

これらの建築物では、法律で定められた仕様や設備によって区画を行う必要があります。防火区画を適切に設けることで、万が一の火災発生時にも建築物と利用者の安全を守ることができます。

 

防火区画の4種類と定義

防火区画は目的や設置場所によって4つの種類に分類されます。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

 

  1. 面積区画

    面積区画は、建物の水平方向への延焼を防ぐために設けられる区画です。建築物の用途や構造によって、500㎡、1,000㎡、1,500㎡の3種類の区画面積が定められています。例えば、主要構造部を耐火構造とした建築物では、床面積1,500㎡以内ごとに区画する必要があります。

     

  2. 竪穴区画

    竪穴区画は、階段や吹き抜け、エレベーターシャフト、ダクトなどの竪穴部分を他の区域と区画するものです。これにより、火災時に炎や煙が上下階へ広がるのを防ぎます。主要構造部が準耐火構造で、地階または3階以上に居室がある建築物に適用されます。

     

  3. 高層階区画

    高層階区画は、建物の11階以上の部分に適用される区画です。高層階は消火・救助活動が困難なため、より厳しい区画基準が設けられています。区画面積は100㎡、200㎡、500㎡の3種類があり、内装材料によって適用される区画面積が異なります。

     

  4. 異種用途区画

    異種用途区画は、一つの建物内に異なる用途の部分が存在する場合に設ける区画です。例えば、住宅と商業施設が同じ建物内にある場合、それぞれの用途に応じて区画する必要があります。

     

これらの防火区画は、建築物の安全性を確保するために欠かせない要素であり、建築基準法に基づいて適切に設置・管理する必要があります。

 

防火区画の設置基準と構造要件

防火区画の設置基準は、区画の種類によって異なります。ここでは、各区画タイプの具体的な設置基準と構造要件について解説します。

 

面積区画の設置基準
面積区画は、建築物の規模や構造によって以下のように設置基準が定められています。

  • 主要構造部を耐火構造とした建築物または準耐火建築物(10階以下):1,500㎡以内ごとに準耐火構造(1時間以上)の床・壁と特定防火設備で区画
  • 特定避難時間倒壊防止建築物など(10階以下):500㎡以内ごとに準耐火構造(1時間以上)の床・壁と特定防火設備で区画
  • 特定避難時間が1時間以上のもの、不燃構造準耐など(10階以下):1,000㎡以内ごとに準耐火構造(1時間以上)の床・壁と特定防火設備で区画

高層階区画の設置基準
高層階区画(11階以上)の設置基準は以下の通りです。

  • 一般の建築物:100㎡以内ごとに耐火構造の床・壁と防火設備で区画
  • 内装仕上げ・下地とも準不燃材料の場合:200㎡以内ごとに耐火構造の床・壁と特定防火設備で区画
  • 内装仕上げ・下地とも不燃材料の場合:500㎡以内ごとに耐火構造の床・壁で区画
  • 共同住宅の住戸:200㎡以内ごとに耐火構造の床・壁と防火設備または特定防火設備で区画

竪穴区画の設置基準
竪穴区画は、主要構造部を準耐火構造とした建築物または特定時間倒壊防止建築物で、地階または3階以上に居室がある建築物に適用されます。メゾネット住戸、吹抜き、階段、エレベーター昇降路、ダクトスペースなどの竪穴の周囲を準耐火構造の床・壁と防火設備で区画する必要があります。

 

異種用途区画の設置基準
建築基準法第27条に該当する用途の部分とその他の部分との間は、準耐火構造(1時間以上)の床・壁と特定防火設備で区画する必要があります。

 

これらの設置基準に加えて、防火区画を貫通する管やダクトがある場合は、貫通部分の周囲を不燃材料で埋め、貫通部分の前後1mは不燃材料の管等を使用することが求められています。

 

防火区画における防火設備の種類と役割

防火区画を構成する重要な要素の一つが防火設備です。防火設備には様々な種類があり、それぞれ異なる役割と性能要件を持っています。

 

防火設備の主な種類

  1. 防火戸

    防火戸は、開口部に設置される防火性能を持った扉です。常時閉鎖式と常時開放式(自動閉鎖式)の2種類があります。

     

  • 常時閉鎖式:通常は閉じられており、使用時のみ開く防火戸
  • 常時開放式:通常は開いた状態で、火災時に自動的に閉鎖する防火戸
  1. 防火シャッター

    防火シャッターは、大きな開口部に設置される防火設備です。火災時に自動的に閉鎖して区画を形成します。

     

  2. 防火ダンパー

    防火ダンパーは、ダクトなどの貫通部に設置され、火災時に自動的に閉鎖して火炎や煙の拡散を防ぎます。

     

防火設備の性能要件
防火設備には、以下のような性能要件が定められています。

  • 遮炎性能:火炎を一定時間遮る性能
  • 遮煙性能:煙の拡散を防ぐ性能
  • 耐熱性能:高温に耐える性能

特に、竪穴区画や高層階区画に設置される防火設備には、遮煙性能が求められることが多く、煙感知器や熱煙複合式感知器と連動して自動閉鎖する機能が必要です。

 

防火設備の連動システム
防火設備は、以下のような感知器と連動して作動します。

  • 煙感知器:煙を検知して防火設備を作動させる
  • 熱感知器:熱を検知して防火設備を作動させる
  • 熱煙複合式感知器:熱と煙の両方を検知して防火設備を作動させる
  • 温度ヒューズ:一定の温度で溶けて防火設備を作動させる

これらの連動システムにより、火災発生時に迅速に防火区画を形成し、火災の拡大を防ぐことができます。

 

防火設備の適切な選択と設置は、防火区画の有効性を確保するために非常に重要です。建築物の用途や規模、防火区画の種類に応じて、適切な防火設備を選定する必要があります。

 

防火区画の免除・緩和条件と特例

防火区画は原則として設置が義務付けられていますが、特定の条件を満たす場合には免除や緩和が認められています。ここでは、主な免除・緩和条件と特例について解説します。

 

面積区画の免除条件

  1. 特定用途による免除
    • ボウリング場、劇場、映画館、演劇場、公会堂、集会場の客席、体育館、工場などの用途に供する部分は、その用途上やむを得ない場合、面積区画が免除されます。
    • ただし、これらの用途に供しない部分がある場合は、その部分には面積区画の規定が適用されます。
  2. 階段室等の免除
    • 階段室、昇降機の昇降路(乗降ロビーを含む)で、1時間耐火基準に適合する準耐火構造の床・壁または特定防火設備で区画された部分は、面積区画が免除されます。

竪穴区画の免除条件

  1. 避難階の上下階のみに通じる吹抜け
    • 避難階の直上階または直下階のみに通じる吹抜け部分、階段部分などで、内装(下地含む)を不燃材料で造ったものは、竪穴区画が免除されます。
  2. 小規模住宅の免除
    • 階数が3以下で延べ面積が200㎡以下の一戸建て住宅、長屋、共同住宅の住戸(床面積合計が200㎡以下)の吹抜き、階段部分、昇降機の昇降部分等は、竪穴区画が免除されます。

消火設備設置による緩和
面積区画や高層階区画において、スプリンクラー、泡消火設備その他これらに類する自動式の消火設備を設置している場合、設置部分の床面積の1/2を区画面積から除くことができます。これにより、実質的に区画面積の緩和が認められています。

 

異種用途区画の特例
物販店舗と飲食店は原則として異種用途であり、相互に区画する必要がありますが、物販店舗の一角にある喫茶店、食堂等で管理者が同一、利用者が一体施設として利用するなどの要件に該当すれば、区画が不要となる特例があります。

 

これらの免除・緩和条件は、建築物の特性や用途に応じて適用されるものであり、安全性を確保しつつ合理的な設計を可能にするためのものです。ただし、免除・緩和を適用する場合でも、火災安全性に十分配慮する必要があります。

 

防火区画の施工における注意点と維持管理

防火区画は設計段階だけでなく、施工時の正確な実施と竣工後の適切な維持管理が重要です。ここでは、防火区画の施工における注意点と維持管理のポイントについて解説します。

 

施工時の主な注意点

  1. 貫通部の処理

    防火区画を貫通する配管やダクト、電気配線などの周囲は、不燃材料で適切に埋める必要があります。また、貫通部分の前後1mは不燃材料の管等を使用することが求められています。貫通部の処理が不適切だと、火災時に炎や煙が隣接区画に拡大する恐れがあります。

     

  2. スパンドレル等の設置

    面積区画、高層階区画、竪穴区画と接する外壁には、スパンドレル(開口部からの延焼を防ぐ、防火区画に接する外壁)、そで壁(柱から突き出た幅の狭い壁)、ひさし(窓や扉の上部に付けられる小屋根)を適切に設ける必要があります。

     

  3. 防火設備の適切な選定と設置

    防火区画に使用する防火設備は、区画の種類や用途に応じて適切なものを選定し、正確に設置する必要があります。特に、常時開放式の防火設備は、感知器との連動システムが正しく機能するよう注意が必要です。

     

竣工後の維持管理のポイント

  1. 定期点検の実施

    防火区画は、建築基準法第12条に基づく特定建築物定期調査(1~3年毎)の対象となります。また、防火区画に設置される防火設備(防火扉や防火シャッターなど)は、毎年、防火設備定期検査を実施して特定行政庁に報告する必要があります。

     

  2. 防火設備の作動確認

    防火設備、特に常時開放式の防火戸や防火シャッターは、定期的に作動確認を行い、火災時に確実に閉鎖することを確認する必要があります。感知器との連動システムも含めて点検することが重要です。

     

  3. 区画の維持

    防火区画の壁や床に新たな開口部を設けたり、防火設備を改変したりする場合は、防火区画の性能を損なわないよう注意が必要です。改修工事を行う際は、防火区画の要件を満たすよう適切に計画・実施することが重要です。

     

  4. 記録の保管

    防火区画の設計図書や点検記録は適切に保管し、維持管理や改修工事の際に参照できるようにしておくことが望ましいです。

     

適切な施工と維持管理により、防火区画の性能を長期にわたって維持することができます。特に、防火設備の定期点検は専門資格・知識が必要となるため、有資格者に依頼することが重要です。

 

防火区画の維持管理に関する消防庁の通知(PDF)

防火区画の実務的な設計アプローチと最新動向

防火区画の設計は、建築物の安全性を確保するうえで非常に重要なプロセスです。ここでは、実務的な設計アプローチと最新の動向について解説します。

 

実務的な設計アプローチ

  1. 早期の計画統合

    防火区画は建築物の基本設計段階から考慮する必要があります。後付けで対応すると、空間構成や動線計画に大きな影響を与える可能性があります。特に、面積区画や異種用途区画は、建物の用途計画と密接に関連するため、早期から検討することが重要です。

     

  2. BIMを活用した設計

    最近では、BIM(Building Information Modeling)を活用した防火区画の設計が増えています。BIMを使用することで、3次元的に防火区画を可視化し、貫通部の処理や区画の連続性を確認しやすくなります。また、法規チェック機能を活用して、区画面積や防火設備の要件を自動的に確認することも可能です。

     

  3. 性能設計の活用

    建築基準法の性能規定化により、防火区画についても性能設計(性能的な検証に基づく代替措置)が認められるケースが増えています。特に大規模・複雑な建築物では、避難安全検証法や耐火性能検証法を用いて、より合理的な防火区画計画を実現することができます。

     

最新の動向と技術

  1. 新しい防火材料と工法

    防火区画の構成材料や工法は日々進化しています。特に、貫通部の処理に使用するファイアストップ材料は、施工性や信頼性が向上しています。また、防火シリコーンやインテュメッセント(膨張性)材料など、新しい材料の採用も増えています。

     

  2. スマート防火設備の普及

    IoT技術を活用したスマート防火設備が普及しつつあります。これらの設備は、火災検知の精度向上や遠隔監視機能を備えており、防火区画の信頼性向上に寄与しています。また、防火設備の作動状況をリアルタイムで監視・記録することで、維持管理の効率化も図られています。

     

  3. 環境配慮と防火性能の両立

    環境配慮型建築が求められる中、防火性能と環境性能を両立させる取り組みが進んでいます。例えば、自然換気を活用しながら防火区画を確保する設計手法や、環境負荷の少ない防火材料の開発などが行われています。

     

  4. 国際基準との整合

    グローバル化に伴い、日本の防火基準と国際基準との整合性が求められています。特に、ISO(国際標準化機構)の防火試験方法や評価基準との整合が進んでおり、国際的な建築プロジェクトでは、これらの基準を考慮した防火区画設計が求められることがあります。

     

これらの最新動向を踏まえつつ、建築物の特性や用途に応じた適切な防火区画設計を行うことが重要です。また、法令改正や新技術の動向にも常に注意を払い、最適な防火対策を講じることが求められます。

 

建築研究所による最新の防火区画技術に関する研究報告