プレボーリング工法のメリットとデメリット 施工手順と特徴

プレボーリング工法のメリットとデメリット 施工手順と特徴

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プレボーリング工法のメリットとデメリット

プレボーリング工法の基本情報
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工法の定義

掘削ビットで地盤を掘削し、根固め液と杭周固定液を注入した後、既製杭を沈設する工法

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採用状況

国土交通省告示第1113号に規定された標準工法として建設現場で広く採用

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主な特徴

騒音・振動の低減、経済性の高さ、信頼性の確保が可能な杭工法

プレボーリング工法は、建設現場で広く採用されている杭工法の一つです。この工法は、掘削ビット(オーガー)とロッドを使用して地盤を掘削し、根固め液と杭周固定液を注入した後、工場で製作されたRC杭、PHC杭、SC杭などの既製杭を沈設する方法です。国土交通省告示第1113号に規定されている標準的な工法であり、実績も豊富です。

 

この記事では、プレボーリング工法のメリットとデメリット、施工手順、他工法との比較など、建築施工に携わる方々に役立つ情報を詳しく解説していきます。現場での適用を検討する際の判断材料としてご活用ください。

 

プレボーリング工法の施工手順と流れ

プレボーリング工法の施工は、以下の手順で進められます。各ステップを正確に実施することで、高品質な杭基礎を構築することができます。

 

  1. 杭心の設置
    • 杭の中心(杭心)を地盤上に設置します
    • 杭心の間隔は、打ち込み杭の場合「杭径の2.5倍かつ75cm以上」に設定
    • 杭心の位置より返り心を直交2方向に打ち込み、定尺棒で杭心に掘削ビットの中心を合わせることで精度を確保
  2. 地盤掘削
    • 掘削ビット(オーガー)とロッドを使用して地盤を掘削
    • 掘削中は掘削液を掘削ビットの先端部から吐出し、地盤の掘削抵抗を減少
    • 地盤条件に適した速度で掘削を進行
  3. 根固め液の注入
    • 所定の深さまで掘削後、掘削液から根固め液に切り替え
    • 掘削孔の先端から注入し、ゆっくりと引き上げる
    • 根固め部の区間で上下反復を数回実施
  4. 杭周固定液の注入
    • 根固め液から杭周固定液(セメントミルクなど)へ切り替え
    • 杭周固定液を注入しながら、上下反復をしつつ掘削攪拌装置を引き上げ
    • これにより、掘削孔底部に根固め液、その上部から地表付近までを杭周固定液によるソイルセメント柱が形成される
  5. 既製杭の建て込み
    • 形成されたソイルセメント柱内に既製杭を建て込む
    • 鉛直性を保ちながら、杭を掘削孔の中心部に配置
  6. 杭の沈設
    • 杭頭部に回転キャップを設置
    • 杭の自重による自沈、または回転による圧入で杭を定着
    • 所定の深さまで沈設後、一定時間その状態を保持して地盤内で定着させる

この施工手順を適切に実施することで、安定した支持力を持つ杭基礎を構築することができます。特に掘削時の孔壁崩壊防止や、根固め液・杭周固定液の適切な注入が重要なポイントとなります。

 

プレボーリング工法のメリットと現場での利点

プレボーリング工法には、他の杭工法と比較して様々なメリットがあります。これらの利点を理解することで、現場条件に応じた最適な工法選択が可能になります。

 

1. 騒音・振動の低減
プレボーリング工法は、地盤の支持層の手前まで穴を掘り、その中に杭を打設することで、打ち込み工法よりも打撃回数を減らすことができます。これにより、施工時の騒音や振動を大幅に低減できます。特に圧入方式を採用した場合は、周辺環境への影響をさらに抑えることが可能です。

 

2. 経済性の高さ
この工法は、他の杭工法と比較して使用する機械設備が少なく済むため、コスト面で優位性があります。掘削ビットとロッド、油圧ハンマーなどの基本的な機材で施工が可能なため、設備投資や運用コストを抑えることができます。ただし、残土処理が必要な場合は追加費用が発生する点に注意が必要です。

 

3. 高い信頼性
プレボーリング工法では、打撃時の1打撃あたりの貫入量やリバウンド量を測定・記録することができます。これにより、杭の支持力を客観的かつ正確に把握することが可能となり、施工品質の信頼性が高まります。また、建設現場での採用実績が豊富であることも、信頼性の高さを裏付けています。

 

4. 環境への配慮
事前に掘削装置を使用して地盤に所定の深さまで穴を掘ることで、杭打設時の環境負荷を軽減できます。特に市街地や住宅密集地域での施工において、周辺環境への影響を最小限に抑えることができる点は大きな利点です。

 

5. 適応性の高さ
様々な地盤条件に対応可能であり、RC杭、PHC杭、SC杭など多様な既製杭を使用できます。また、掘削液(ベントナイト泥水や水)を使用することで、孔壁の崩壊を防止しながら施工を進められるため、比較的軟弱な地盤でも適用可能です。

 

これらのメリットにより、プレボーリング工法は多くの建設現場で標準的な杭工法として採用されています。特に市街地や周辺環境への配慮が必要な現場では、その利点を最大限に活かすことができるでしょう。

 

プレボーリング工法のデメリットと施工上の注意点

プレボーリング工法には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや施工上の注意点も存在します。これらを理解し適切に対処することで、より安全で効率的な施工が可能になります。

 

デメリット:

  1. 支持力の制限
    • 打込み杭工法と比較して支持力が低くなる傾向があります
    • 大規模な構造物や特に高い支持力が必要な場合には不向きな場合があります
  2. 残土処理の必要性
    • 掘削により発生する残土の処理が必要となり、追加コストが発生します
    • 特に汚染土壌が存在する場合、適切な処理が必要となり費用が増大する可能性があります
  3. 施工精度の管理
    • 掘削精度や杭の鉛直性確保に細心の注意が必要です
    • 精度管理が不十分な場合、杭の支持力低下や偏心荷重の発生につながります
  4. 地下水位の影響
    • 地下水位が高い場所では、掘削孔の安定性維持が難しくなる場合があります
    • 孔内水位の管理が不適切だと、杭先地盤や杭周辺地盤が緩む原因になります

施工上の注意点:

  1. 掘削時の留意事項
    • 掘削中は適切な速度で進行し、過度の掘削や長時間の攪拌による周辺地盤の乱れを防止する
    • 土質条件によって掘削孔が崩壊するような場合は、ベントナイト泥水などの掘削液を使用する
    • 孔内水位を低下させることは杭先地盤や杭周辺地盤を緩める原因となるため避ける
  2. 根固め液・杭周固定液の管理
    • 根固め液と杭周固定液の品質管理を徹底する
    • 適切な配合比と注入量を確保し、均一な品質のソイルセメント柱を形成する
    • 気温や地盤条件に応じて、固化時間や強度発現に配慮する
  3. 杭の建込み・沈設時の注意点
    • 杭の鉛直性を確保するため、建込み時の位置決めを正確に行う
    • 自沈や回転圧入時に過度の力をかけず、杭と周辺地盤の一体化を図る
    • 深く自沈しすぎないよう、沈設後は一定時間その状態を保持する
  4. 品質管理と記録
    • 1打撃あたりの貫入量やリバウンド量を正確に測定・記録する
    • 施工データを適切に管理し、支持力の確認と品質保証に活用する
    • 不測の事態に備え、代替案や対処方法を事前に検討しておく

これらのデメリットや注意点を十分に理解し、適切な対策を講じることで、プレボーリング工法の欠点を最小限に抑えながら、そのメリットを最大限に活かした施工が可能になります。特に施工前の地盤調査や施工計画の段階で、これらの点を考慮した準備を行うことが重要です。

 

プレボーリング工法と中掘り杭工法の比較と選定基準

既製杭工法の中でも、プレボーリング工法と中掘り杭工法は埋込み杭工法として分類され、似た特徴を持っていますが、施工方法や適用条件に違いがあります。両工法の特徴を比較し、現場条件に応じた最適な工法選定の基準を解説します。

 

プレボーリング工法と中掘り杭工法の主な違い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比較項目 プレボーリング工法 中掘り杭工法
施工方法 掘削後に杭を挿入(圧入) 先端開放の杭を掘削しながら同時に沈設
杭の建込みタイミング 掘削・固定液注入後 掘削と同時
先端処理 根固め液による処理 打撃貫入による処理
支持力 やや低め 比較的高い
騒音・振動 比較的少ない 先端処理時に大きい

工法選定の基準

  1. 地盤条件による選定
    • 硬質地盤や礫層が存在する場合:中掘り杭工法が適している
    • 軟弱地盤や均質な地盤の場合:プレボーリング工法が効率的
    • 地下水位が高い場所:両工法とも注意が必要だが、プレボーリング工法では掘削液の使用で対応可能
  2. 周辺環境による選定
    • 市街地や住宅密集地域:騒音・振動の少ないプレボーリング工法が有利
    • 工業地域や騒音規制の緩い地域:支持力重視なら中掘り杭工法も選択肢に
  3. 構造物の規模・荷重による選定
    • 大規模構造物や高い支持力が必要な場合:中掘り杭工法が適している
    • 中小規模の構造物:プレボーリング工法で十分な場合が多い
  4. 経済性による選定
    • 初期コスト重視:プレボーリング工法が有利
    • ライフサイクルコスト重視:支持力の高い中掘り杭工法が長期的に有利な場合も
  5. 施工条件による選定
    • 工期が厳しい場合:中掘り杭工法は掘削と杭建込みが同時に行えるため効率的
    • 施工スペースが限られている場合:使用機械が少ないプレボーリング工法が有利

実際の工法選定においては、これらの基準を総合的に判断することが重要です。また、地盤調査結果を詳細に分析し、構造設計者と施工者が連携して最適な工法を選定することが、安全で経済的な基礎構造の実現につながります。

 

プレボーリング工法における施工トラブルと対策方法

プレボーリング工法は標準的な杭工法として広く採用されていますが、施工中に様々なトラブルが発生する可能性があります。ここでは、代表的な施工トラブルとその対策方法について解説します。

 

1. 孔壁の崩壊
孔壁崩壊は最も頻繁に発生するトラブルの一つで、杭の品質や支持力に大きく影響します。

 

  • 原因
    • 地下水位が高い地盤での施工
    • 砂質土や緩い地盤での掘削
    • 掘削速度の不適切な管理
    • 掘削液の品質不良や量の不足
  • 対策
    • ベントナイト泥水などの適切な掘削液を使用する
    • 掘削速度を地盤条件に合わせて調整する
    • 孔内水位を地下水位より高く保持する
    • 必要に応じて先行削孔や補助工法を検討する

    2. 杭の偏心・傾斜
    杭の位置ずれや傾斜は、構造物の安定性に直接影響する重大なトラブルです。

     

    • 原因
      • 杭心設置の不正確さ
      • 掘削時のビットの偏心
      • 硬質層や転石による掘削ビットの逸脱
      • 杭建込み時の位置決め不良
    • 対策
      • 杭心の正確な設置と確認
      • 掘削開始時の鉛直性確保
      • 硬質層を事前に調査し、適切な掘削方法を選定
      • 杭建込み時に複数点での位置確認と調整

      3. 根固め部・杭周固定部の品質不良
      根固め部や杭周固定部の品質不良は、杭の支持力低下や長期的な沈下の原因となります。

       

      • 原因
        • 根固め液・杭周固定液の配合不良
        • 注入量の不足
        • 注入速度の不適切な管理
        • 地下水による希釈
      • 対策
        • 根固め液・杭周固定液の品質管理の徹底
        • 適切な注入量と注入速度の確保
        • 地下水位や土質条件に応じた配合設計
        • 施工記録の詳細な管理と分析

        4. 支持層の見極め不良
        支持層の誤認は、杭の支持力不足や過剰な施工コストにつながります。

         

        • 原因
          • 地盤調査の不足
          • 地層構成の誤認
          • 掘削抵抗の誤判断
          • 局所的な地盤変化の見落とし
        • 対策
          • 十分な地盤調査の実施
          • 掘削時の抵抗変化の詳細な記録
          • 必要に応じて試験杭の実施
          • 地盤条件の変化に応じた設計変更の柔軟な対応

          5. 既設構造物・地下埋設物との干渉
          既設構造物や地下埋設物との干渉は、施工の中断や設計変更を余儀なくされる深刻なトラブルです。

           

          • 原因
            • 事前調査の不足
            • 図面と実際の位置のずれ
            • 記録にない埋設物の存在
            • 施工計画の不備
          • 対策
            • 詳細な事前調査の実施(試掘を含む)
            • 関係機関との綿密な協議
            • 非破壊探査技術の活用
            • 干渉の可能性がある場合の代替施工計画の準備

            これらのトラブルに対して、事前の十分な調査と計画、施工中の細心の注意と管理、そして問題発生時の迅速かつ適切な対応が重要です。特に施工記録の詳細な管理と分析は、トラブルの早期発見と対策、さらには将来の施工品質向上にも役立ちます。

             

            プレボーリング工法の最新技術動向と将来展望

            プレボーリング工法は長年にわたり改良が続けられており、最新の技術開発や将来の展望について知ることは、建設業界の専門家にとって重要です。ここでは、プレボーリング工法における最新の技術動向と将来の展望について解説します。

             

            1. ICT・IoT技術の活用
            建設業界全体でデジタル化が進む中、プレボーリング工法においてもICT・IoT技術の活用が進んでいます。

             

            • リアルタイムモニタリングシステム
              • 掘削深度、貫入抵抗、杭の鉛直度などをリアルタイムで計測・記録
              • データのクラウド保存と関係者間での即時共有が可能
              • 異常値の自動検知による早期トラブル発見
            • 自動制御システム
              • 掘削速度や注入量の自動制御による品質の均一化
              • オペレーターの技量差による品質のばらつきを低減
              • 作業効率の向上と人的ミスの削減

              2. 環境負荷低減技術
              持続可能な建設への要求が高まる中、環境負荷を低減する技術開発が進んでいます。

               

              • 低排出ガス型施工機械
                • 電動・ハイブリッド型の掘削機の開発と実用化
                • 騒音・振動のさらなる低減技術
                • 燃料消費量と二酸化炭素排出量の削減
              • 環境配慮型材料
                • 産業副産物を活用した根固め液・杭周固定液の開発
                • 生分解性の高い掘削液の実用化
                • リサイクル材を活用した既製杭の普及

                3. 高支持力化技術
                プレボーリング工法の弱点である支持力を向上させる技術開発が進んでいます。

                 

                • 先端拡大技術
                  • 杭先端部を拡大することによる支持力の向上
                  • 特殊ビットによる先端地盤の締固め効果
                  • 根固め部の形状最適化による支持力増大
                • 複合支持力技術
                  • 周面摩擦力と先端支持力を最適に組み合わせる設計手法
                  • 地盤条件に応じた杭周固定液の配合最適化
                  • 杭表面処理による周面摩擦力の向上

                  4. 施工の高速化・効率化
                  労働力不足や工期短縮の要求に応える技術開発も進んでいます。

                   

                  • 高速施工技術
                    • 掘削・注入・建込みの同時施工技術
                    • 高性能掘削ビットによる掘削速度の向上
                    • 急速硬化型の根固め液・杭周固定液の開発
                  • 省力化技術
                    • 施工の自動化・ロボット化
                    • 遠隔操作による施工管理
                    • AIによる最適施工パラメータの自動設定

                    5. 将来展望
                    プレボーリング工法の将来展望として、以下のような方向性が考えられます。

                     

                    • デジタルツイン技術の活用
                      • 地盤と杭の挙動をリアルタイムでデジタル空間に再現
                      • 施工シミュレーションによる最適工法の事前検討
                      • 完成後の構造物の長期モニタリングと維持管理への活用
                    • AI・機械学習の応用
                      • 過去の施工データを学習したAIによる最適施工条件の提案
                      • 地盤条件の変化を予測する技術の開発
                      • トラブル予測と自動対策提案システム
                    • 持続可能な建設への貢献
                      • カーボンニュートラルを実現する施工技術の確立
                      • 資源循環型の材料開発と普及
                      • レジリエンス(強靭性)の高い基礎構造の実現

                      これらの技術動向と将来展望は、プレボーリング工法がより安全で効率的、環境に優しい工法として発展していくことを示しています。建設業界の専門家は、これらの最新動向を把握し、適切に取り入れることで、より高品質な基礎構造の実現に貢献することができるでしょう。

                       

                      プレボーリング工法は、その基本原理を保ちながらも、時代のニーズに合わせて進化を続けています。技術革新と環境配慮の両立が、この工法の将来の発展の鍵となるでしょう。