

産業標準化法の枠組みで語られる「品質管理責任者」は、単なる品質担当ではなく、JIS認証を成立させ続けるための社内統治(社内標準化と品質管理)を回す中核です。
登録認証機関が見るのは「現場が頑張っているか」だけではなく、社内規格が制定・改廃・管理され、工程に指示が通り、異常や苦情が起きたときに是正と再発防止が回る仕組みがあるか、という点です。これは製造業だけの話に見えますが、建築分野でも “材料・部材・プレキャスト製品・設備部材” の品質は工程と外注で崩れやすく、同じ構造で管理が必要になります。
特に実務で重要なのが「承認」という言葉の重みです。品質管理責任者の職務には、登録認証機関の認証に係る鉱工業品の日本産業規格への適合性の承認、さらに出荷の承認が含まれます。これは、検査成績書に判を押す役割にとどまらず、承認に足る根拠(記録、試験、工程能力、トレーサビリティ)が整っていない状態を放置しない責任を意味します。建築の現場感覚で言えば、施工計画書や検査記録が “書類としてある” だけでは足りず、判定ロジックと記録の整合が取れているかが問われる、というイメージです。
また、外注管理が職務に明記されている点は見落とされがちです。部材加工や表面処理、試験の外部委託など、サプライチェーンが伸びた瞬間に品質事故の芽は増えます。品質管理責任者が「外注先の工程条件」「受入検査の根拠」「仕様変更時の連絡系統」を握っていないと、維持審査のタイミングで“説明できない空白”が発生しやすいのが現実です。
品質管理責任者は「誰でも任命してよい役職」ではなく、資格要件を満たしていることが前提になりやすい点がポイントです。実務では、登録認証機関が要件の判断基準を持ち、申込み段階で品質管理責任者の選任が求められます。さらに、品質管理体制が構築されてから “6カ月の生産実績” が必要とされる運用があるため、任命→体制整備→実績づくりを逆算できないと、認証スケジュールが簡単に崩れます。
具体的には、製品の製造に必要な技術に関する実務経験(例:1年以上)と、標準化および品質管理に関する実務経験(例:2年以上)といった「経験」の側面に加え、標準化・品質管理に関する専門知識の習得が求められます。専門知識の裏付けとして、工学系の大学等で品質管理に関する科目の履修(例:2単位=60時間相当)や、理解度確認の試験がある60時間以上の講習修了などが挙げられています。ここで重要なのは、“品質管理の経験はあるが、標準化(社内標準化や規格体系)の説明が弱い” という人材が現場に多い点で、審査ではそこが刺さりやすいことです。
建築従事者向けに言い換えると、コンクリート・鉄筋・金物・設備など「対象製品の技術」を説明できるだけでなく、JISの要求事項に合わせた社内規格(作業標準、検査標準、試験方法、判定基準、記録様式)の整合を説明できる力量が求められます。品質管理責任者を “品質のベテラン” から選ぶだけだと、標準化の言語化が弱くなり、組織としての再現性が説明できないリスクが残ります。
JISマーク表示制度は、国に登録された機関(登録認証機関)が、品質管理体制の審査と製品試験(または電磁的記録試験)によって適合性評価を行い、基準に適合していることが確認されると認証される仕組みです。つまり、品質管理責任者の仕事は社内だけで閉じず、登録認証機関に対して「品質管理体制が基準に適合している」と説明し、証拠を提示し、指摘に是正で返すことまで含みます。
ここで効いてくるのが、認証における関連法令・要求事項の階層です。産業標準化法だけでなく、「鉱工業品等認証省令」や、JIS Q 1001(一般認証指針)などが要求事項として並び、さらに製品JISが個別の合否要件(性能・試験方法・表示事項)を規定します。現場では“規格は品質部門が読むもの”になりがちですが、審査で問われるのは、規格要求が工程・検査・教育・外注管理に落ちているかという一点です。品質管理責任者がこの翻訳者になれないと、審査は通っても運用が崩れ、維持審査で詰まります。
意外と盲点になるのが「どの品質管理体制の基準を選ぶか」です。鉱工業品等の場合、JIS製品製造に必要な技術的生産条件に基づく品質管理体制(省令の基準)と、JIS Q 9001に基づく品質管理体制(省令の別基準)のいずれかを選べる運用が示されています。すでにISO 9001相当の仕組みがある組織は、審査結果の活用により一部が書類審査のみで可能になる場合があるため、品質管理責任者は “どの土俵で説明するか” を戦略的に決めると、負荷とリスクを下げられます。
認証制度の骨格(要求事項の全体像・審査の入り口)を一次情報で確認する。
適合性の認証に関する省令(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000F00006
JIS認証は「取って終わり」ではなく、登録認証機関による認証維持審査が、3年ごとに1回以上行われることが前提です。さらに必要に応じて臨時の認証維持審査があり、事故・苦情・工程変更・規格改正などが引き金になり得ます。建築分野の感覚では、竣工検査のような“一発勝負”ではなく、運用の継続性が監査されるモデルなので、品質管理責任者は「平時の記録が最大の防御」になります。
維持審査で効くのは、次の3つの整備です。
あまり知られていない実務上の“効きどころ”として、維持審査は「現場の出来」より「説明の一貫性」で落ちやすい点が挙げられます。例えば、検査頻度が妥当でも、なぜその頻度なのか(工程能力、過去不適合、顧客要求、リスク)を説明できないと、仕組みとして弱いと判断されやすいのです。品質管理責任者は、日々の現場判断を “標準化の言葉” に変換して残す役割を自覚すると、審査対応が急に楽になります。
認証取得前に必要となり得る「6カ月の生産実績」など、運用条件を把握して逆算する。
JIS認証の申込み・職務・資格要件の整理(JQA資料)https://www.jqa.jp/service_list/jis_a/action/pamphlet/file/pamphlet_jis_202408.pdf
検索上位の解説は、資格要件や制度説明に寄りがちですが、建築従事者にとって本当に効くのは「現場変更(イレギュラー)」をどう社内標準化に戻すか、という運用技術です。建築は、施工条件・天候・搬入制約・職人の癖など、変動要因が多く、“その場の最適”が連発されます。ここで品質管理責任者が介入しないと、現場は回っても、監査で説明できない“非公式運用”が蓄積し、維持審査や事故調査で破綻します。
社内標準化に戻すための実務フレーム(覚えやすい形)を、次のように持つと強いです。
このやり方の良い点は、属人ノウハウが “次の現場で再利用できる標準” に変わることです。標準が強くなるほど、品質管理責任者が現場の火消し役になる頻度は下がり、代わりに「仕組みが事故を未然に止める」割合が上がります。結果として、認証維持審査でも、工程変更や外注変更が起きたときの説明が一気に通りやすくなります。
独自視点としてもう一つ挙げるなら、品質管理責任者は “品質の番人” ではなく “説明責任の設計者” である点です。建築の品質は現物で証明するだけでなく、第三者が追える形で証明する必要があります。社内標準化は、その証明を再現可能にするための言語であり、品質管理責任者はその言語体系を整備する役割を担います。