

酸化カルシウム(生石灰)は、炭酸カルシウムを800℃以上で焼成して得られる塩基性酸化物で、建材・土木資材として大量に使われています。[1]
この酸化カルシウムに水が加わると、水酸化カルシウムが生成される水和反応が起こり、その際にモルあたりおよそ60kJ規模の反応熱が放出されることが知られています。[2][3][4][5][1]
反応式は、現場で扱う上でも最低限押さえておきたいポイントです。
[6][1]
[3][4][5][1]
[7][8][3]
教育用の実験では、少量の酸化カルシウムと水だけで紙コップ内部の温度が急上昇し、うずら卵を焼けるほどの熱が出ることが報告されています。🔥
参考)すぐできる!なるほど★ザ★化学実験室
また、酸化カルシウムと水のモル比を1:1程度に合わせると、反応開始から数分で200℃を超えるケースもあり、加える水の量によって最高温度や持続時間が大きく変化することが確認されています。
参考)https://www.hakko.co.jp/contest/report10/10_20161220.pdf
温度上昇を左右する要因を整理すると、現場でのリスク評価がしやすくなります。
[8][7]
[9][7]
酸化カルシウムは、可燃物を直接発火させる「自燃物」ではありませんが、水との反応で可燃物に着火し得るだけの熱を放出するため、消防法上も大量取り扱い時には届け出対象となっています。
参考)酸化カルシウム - Wikipedia
特に粉末が局所的に水に触れる状況では、粉がダマになり中心部だけ極端に温度が上がるため、想定以上の高温点が生じることがあり、現場では「一点集中加熱」に注意が必要です。
酸化カルシウムの水和反応の基礎と発熱挙動の実験データを確認したい場合は、教育機関の公開実験資料が参考になります。
参考)https://osaka-kyoiku.repo.nii.ac.jp/record/2083568/files/KK_og_ikeko_22_019.pdf
酸化カルシウムなどの溶解時の発熱量に関する実験報告
酸化カルシウムと水の反応で生じる水酸化カルシウム(消石灰)は、強いアルカリ性を示す物質で、飽和溶液(石灰水)のpHはおおむね12前後とされています。[10][11][12][13][6]
電離度が高く、水中でカルシウムイオンと水酸化物イオンにほぼ完全に解離するため、「強塩基」として扱われ、酸性土壌の中和や排水処理などに広く利用されています。[11][12][13][6]
水酸化カルシウムが建築・土木分野で重要になる理由は、そのアルカリ性だけではありません。
[6]
[14]
[15][16]
建築従事者にとって実務上押さえておきたいのは、CaO/Ca(OH)₂/CaCO₃の関係です。
以下のように整理しておくと、設計・施工・維持管理の場面でイメージが共有しやすくなります。
| 物質 | 水との関係 | 主な性質・pH | 建築・土木での典型的な場面 |
|---|---|---|---|
| 酸化カルシウム CaO(生石灰) | 水と激しく反応して水酸化カルシウムを生成し、大きな発熱を伴う。 | 固体自体は強塩基性酸化物。水と接触した部分が局所的に高アルカリ状態となる。 | 石灰焼成工場、膨張材原料、乾燥剤、自己加熱式食品の発熱材など。 |
| 水酸化カルシウム Ca(OH)₂(消石灰) | 水に溶けて石灰水となり、強いアルカリ性溶液をつくる。 | 飽和溶液のpHはおよそ12前後で、強塩基として扱われる。 | モルタルやコンクリート中のアルカリ源、酸性排水の中和剤、土壌改良剤、白華の原因物質など。 |
| 炭酸カルシウム CaCO₃ | 水にはほぼ溶けないが、CO₂と水酸化カルシウムの反応で生成する。 | 弱アルカリ性で安定。白色固体として配管・表面にスケールや白華として堆積する。 | コンクリート表面の白華(エフロレッセンス)、中性化生成物、石灰岩骨材、仕上げ材の充填材など。 |
肥料用消石灰の安全情報では、「水と反応して発熱し、可燃物を発火させるに十分な熱を生じることがある」「皮膚や目に対して腐食性を持つ」などの警告が明記され、保護メガネ・手袋・マスクの着用が推奨されています。
参考)肥料用消石灰の警告表示による注意喚起について:農林水産省
同様のアルカリ性と刺激性は建築現場でも変わらないため、セメントやモルタル扱い時と同様、CaO系材料には一貫した個人防護具の選定が求められます。
水酸化カルシウムのアルカリ性や中和反応については、化学教育向けの日本語解説が充実しており、現場教育に流用しやすい内容も多くあります。
参考)水酸化カルシウムの電離式・価数・水溶液のph計算・イオン式・…
水酸化カルシウム - 基本性質と反応の解説
セメント中に含まれる酸化カルシウムは、水和反応を通じて水酸化カルシウムを生成し、その後、炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムへと変化していきます。[16][15]
この一連の「水和→アルカリ化→炭酸化」というサイクルが、コンクリートの強度発現と同時に、中性化・膨張・ひび割れ・白華など、多様な劣化現象の起点となります。[21][19][20][16]
コンクリートやモルタル中で酸化カルシウム・水酸化カルシウムが関与する代表的な現象を整理してみます。
[22]
[19][20]
[18][15][16][22]
一方、酸化カルシウムの発熱性は、自己加熱式食品や発熱材としても広く利用されており、発熱材の中にはアルミニウム粉末と酸化カルシウム粉を水と反応させ、1分以内に約98℃まで到達させる製品も存在します。
参考)発熱材による水のあたたまり
弁当用の加熱袋では、ペットボトル飲料の加熱は容器変形や熱湯噴出の危険があるため禁止されており、耐熱容器や水専用の使用が求められています。
参考)よくあるご質問
建築現場では、以下のような場面で「酸化カルシウム+水」の危険性を意識しておくと実害を減らせます。
[23]
[14][1]
[15][16][21][19]
国土交通省や各種団体の資料では、セメント由来の生石灰やアルカリがコンクリートひび割れの一因となること、適切な材料選定と温度管理、JIS規格に適合したセメント使用が対策として示されています。
参考)http://www.qsr.mlit.go.jp/onga/cpds_20160907/images/h25/siryou_0829_1_1.pdf
遊離石灰をあえて利用する膨張材も存在し、初期膨張で収縮を抑えてひび割れ低減を狙う製品もあるため、「CaO=悪」ではなく、設計意図と制御の有無が重要な判断ポイントになります。
参考)コンクリートのひび割れの原因と膨張コンクリートの有効性につい…
コンクリートの中性化とひび割れに関する体系的な解説は、技術者向けのオンライン解説が参考になります。
参考)コンクリートが中性化する原因と対策方法
コンクリートの中性化の原因と対策方法(技術解説)
酸化カルシウムと水の反応は、教科書的には単純な水和反応ですが、目の前で起こる「発熱」「蒸気」「pH変化」を体験すると、作業者の安全意識が一気に変わることがあります。[3][4][7][8]
日本の化学教育用コンテンツでも、少量の生石灰と水の反応熱だけで目玉焼きをつくる実験などが紹介されており、火を使わずに200℃近い温度に達する事実は、現場教育にも応用しやすい題材です。[7][8][3]
現場のKY(危険予知)活動や安全ミーティングで、「酸化カルシウム+水」の反応をどのように見える化できるか、いくつかのアイデアを挙げてみます。
[8][7]
[10][12][11][6]
[20][19][16]
こうした小さな体験学習を、石灰乾燥剤の廃棄ルールや、自己加熱式食品の使用条件などとセットで説明すると、「なんとなく危なそう」から「この条件で反応が暴走する」というレベルまで、現場の理解度を引き上げられます。
参考)発熱・発火する恐れも?!石灰乾燥剤の捨て方・廃棄する際の注意…
特に若手や異業種からの転入者に対しては、抽象的な「強アルカリ」「高発熱」よりも、目の前で手袋越しに感じる温かさや、pH試験紙の変色の方が、記憶に残りやすい安全教育になります。
参考)反応熱で卵を焼く
酸化カルシウムと水の反応熱を利用した教育実験や教材は、分析化学系の専門学校や理科教育サイトで詳細に紹介されており、安全上の注意点も含めて参考になります。
酸化カルシウムと水の反応熱を使った教育実験の紹介