水酸化カルシウムと二酸化炭素の炭酸化反応

水酸化カルシウムと二酸化炭素の炭酸化反応

記事内に広告を含む場合があります。

水酸化カルシウムと二酸化炭素の炭酸化反応

水酸化カルシウムと二酸化炭素の炭酸化反応概要
⚗️
基本的な化学反応

石灰水(水酸化カルシウム水溶液)に二酸化炭素を通すと白濁し、炭酸カルシウムが生成される

🏗️
建築業界での意義

コンクリートの中性化現象の根本的なメカニズムとして構造物の耐久性に直接影響

🔬
実用的な応用

セメント水和反応の制御や炭酸化養生技術への活用など革新的技術への展開

水酸化カルシウムの基本的性質と反応メカニズム

水酸化カルシウムは消石灰とも呼ばれ、化学式Ca(OH)₂で表される白色の粉末状物質です。この化合物は酸化カルシウム(生石灰)に水を加えることで生成され、セメントの水和反応においても重要な役割を果たしています。
参考)コンクリートの水和反応と水和生成物の化学式

 

水酸化カルシウムの水溶液である石灰水は、pH12.6の強アルカリ性を示し、このアルカリ性がコンクリート中の鉄筋を腐食から保護する重要な機能を担っています。
参考)コンクリートはなぜアルカリ性?中性化の危険性とは?

 

💡 反応の基本式
Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ + H₂Oyoutube
この反応では、アルカリ性の水酸化カルシウムが二酸化炭素と中和反応を起こし、水に難溶性の炭酸カルシウムを生成します。生成された炭酸カルシウムは白い沈殿として析出するため、透明だった石灰水が白く濁る現象が観察されます。
参考)https://katakago.sakura.ne.jp/chem/gas/gas-CaOH2.html

 

さらに興味深いことに、過剰な二酸化炭素を反応系に加え続けると、一度生成した炭酸カルシウムが再び溶解して透明になる現象が起こります。これは炭酸カルシウムと二酸化炭素、水が反応して水溶性の炭酸水素カルシウムCa(HCO₃)₂を形成するためです。
参考)水酸化カルシウム - Wikipedia

 

水酸化カルシウム炭酸化のセメント水和反応での役割

セメントの水和反応において、水酸化カルシウムは主要な反応生成物の一つとして生成されます。エーライト(C₃S)とビーライト(C₂S)の水和反応により、全セメント量の約25~30%相当の水酸化カルシウムが析出します。
参考)https://www.con-pro.net/readings/mystory/doc0003.html

 

エーライトの水和反応
2{3CaO・SiO₂} + 6H₂O → 3CaO・2SiO₂・3H₂O + 3Ca(OH)₂
ビーライトの水和反応
2{2CaO・SiO₂} + 4H₂O → 3CaO・2SiO₂・3H₂O + Ca(OH)₂
生成された水酸化カルシウムは、コンクリートの強アルカリ性環境(pH13以上)を維持し、鋼材の不動態被膜を形成して腐食を防止する重要な役割を担っています。
参考)公益社団法人 日本コンクリート工学会

 

⚠️ 実務での注意点

  • 水酸化カルシウムの析出量はセメントの種類や水セメント比によって変化
  • 初期材齢での適切な養生が水和反応の完全性に影響
  • 密実なコンクリートほど炭酸化の進行が遅くなる特性

水酸化カルシウムと二酸化炭素によるコンクリート中性化現象

コンクリートの中性化は、大気中の二酸化炭素がコンクリート内部に侵入し、水酸化カルシウムと炭酸化反応を起こす現象です。この反応により、強アルカリ性だったコンクリートのpHが徐々に低下し、最終的には中性に近づきます。
参考)(1)中性化とは

 

中性化の進行プロセスは以下の段階で進行します。
第1段階:二酸化炭素の侵入
大気中のCO₂がコンクリートの細孔を通じて内部に拡散
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/crt1990/1/1/1_37/_pdf

 

第2段階:炭酸化反応
Ca(OH)₂ + CO₂ + H₂O → CaCO₃ + 2H₂O
参考)#01|コンクリートの劣化機構についての豆知識(その1) -…

 

第3段階:アルカリ性の低下
炭酸カルシウム(pH約8.6)の生成により局所的なpH低下
🔍 中性化に影響する環境要因

  • 二酸化炭素濃度:高濃度ほど反応速度が増大
  • 湿度条件:50~70%で最も進行が速い
  • 温度:高温ほど反応が促進される
  • コンクリート密度:密実なほど進行が遅い

中性化の進行により鉄筋周囲のアルカリ性が失われると、不動態被膜が破壊され、酸素と水分の存在下で鉄筋腐食が開始されます。これは構造物の耐荷性と耐久性に深刻な影響を与える重要な劣化機構です。

水酸化カルシウム炭酸化の建築材料への応用技術

近年、水酸化カルシウムの炭酸化反応を積極的に活用した革新的な建築技術が開発されています。特に注目されているのが、二酸化炭素を意図的にコンクリートに固定化する技術です。
参考)コンクリートに二酸化炭素を封じ込める。カナダのクリーンテック…

 

カーボンキュア技術の原理
コンクリートの練り混ぜ時に液化二酸化炭素を噴射し、セメントから溶出したカルシウムイオンと炭酸イオンを反応させて炭酸カルシウムを瞬時に生成させます。この「鉱化」プロセスにより、以下の効果が得られます:

  • 炭酸カルシウムがセメント水和物に沈着し強度向上
  • 二酸化炭素の恒久的な固定化
  • 水和反応の促進効果

炭酸化養生技術の発展
従来有害とされていた炭酸化現象を制御技術として活用する研究も進んでいます。γ-C₂S(ダイカルシウムシリケート相)を混和材として用い、若材齢から強制炭酸化させることで:
参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/42/042-01-1224.pdf

 

📈 技術的優位性

  • セメント硬化体の緻密化
  • 物質移動抑制による耐久性向上
  • 膨張性炭酸カルシウム(バテライト)による空隙充填
  • CO₂削減への貢献

この技術では、水酸化カルシウムをほとんど生成せずに直接炭酸カルシウムが生成されるため、従来の収縮問題を回避しながら強度向上を実現できます。

水酸化カルシウム炭酸化反応の実験的検証と品質管理

水酸化カルシウムの炭酸化反応を建築現場で適切に管理するためには、反応条件の詳細な理解と実験的検証が不可欠です。実際の施工において、反応速度や生成物の性状は環境条件によって大きく変化します。
参考)http://www.db.shibaura-it.ac.jp/~iyoda/iyo_web2/paper_list/2022/JCI2022/Masunaga%20Karen%20Midori_1201,Vol44,No.1,2022.pdf

 

最適炭酸化条件の検討
廃棄コンクリート微粒を用いた研究では、従来のコンクリート硬化体とは異なる最適条件が確認されています:
🧪 実験結果からの知見

  • 粉体状態では二酸化炭素の拡散律速とならない
  • 湿度60%程度では液相としての水分が不足
  • 水中炭酸化では効果的な反応が進行

水中炭酸化の実験では、市販の炭酸水程度の濃度でも有効な炭酸化が確認されており、簡易な施工法での実用化可能性を示しています。
品質管理のポイント
炭酸化反応の制御には以下の管理項目が重要です。

⚗️ 実務での検証方法
フェノールフタレイン溶液による簡易pH測定で炭酸化深さの確認が可能です。中性化した部分は無色、アルカリ性部分は赤紫色を示すため、現場での品質管理に有効活用できます。
参考)https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/19383/files/sk041009011.pdf

 

さらに、加熱による逆反応(炭酸水素カルシウム→炭酸カルシウム+CO₂+H₂O)を利用した確認試験も実施可能で、反応の完全性を検証できます。
参考)石灰水が濁って透明に?! - VCPteam’s blog