設計ミスと損害賠償と保険と責任

設計ミスと損害賠償と保険と責任

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設計ミスと損害賠償と保険

設計ミスと損害賠償と保険:現場で困らない要点
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損害賠償の「対象」を先に分解

建物そのもの、第三者の身体・財物、工期遅延や営業損失など、何が請求され得るかで保険の当たり外れが決まります。

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保険は「発見」「請求」「遡及」が鍵

設計図書を引き渡した時点、事故の発見時期、継続加入の有無で補償対象が分かれます。

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独自視点:ミスを“損害化”させない運用

チェック体制と記録・合意形成で、争点のズレ(説明義務・因果関係・過失割合)を早期に潰すのが最短ルートです。

設計ミスの損害賠償の対象と責任


設計ミスが「損害賠償」になる場面を整理するコツは、まず損害の種類を分解することです。典型は、①対象建築物の滅失・破損(いわゆる物理損壊)、②それに起因する他人の身体障害、③それに起因する他人の財物損壊(対象建築物以外)です。建築士向けの賠償制度では、この三類型を基本補償の骨格として明記しているものがあり、設計ミス=何でも払う、ではない点が実務上の出発点になります。
一方で、施主・発注者が実際に請求してくるのは「修補費」だけとは限りません。設計変更・是正工事の直接費に加え、工期遅延による逸失利益、テナントの休業損、追加の法定設備(例:延床面積の扱いで要求が変わる設備)の設置費など、プロジェクト全体コストに波及します。構造寸法の誤りが延床面積の閾値を跨いで設備要否に影響し、追加費用が争点になった事案も紹介されています。


参考)設計ミスによる敗訴判決を高裁で逆転勝訴した事件【0286 M…

さらに現場で揉めやすいのが「因果関係」と「過失割合」です。設計ミスそのものが唯一原因ではなく、発注者側の判断・運用や、施工側の対応、確認申請図書の差替え等が絡むと、誰のどの行為が損害を拡大させたかが争点になります。説明義務違反が焦点となり、発注者側の過失割合が大きく認定されたとする資料もあり、設計ミス=設計者が全面的に負ける、という単純図式ではありません。


参考)https://www.jsce-kansai.net/data/2023/kokyo/kokyo20230728-22.pdf

実務としては「責任があるか」と「請求されるか」は別物です。責任がない(あるいは限定的)と主張できるケースでも、請求を受けて弁護士対応や調整が必要になれば、時間・信用・費用は確実に消耗します。だからこそ、賠償金だけでなく争訟費用(訴訟対応費用)の扱いが保険選定で重要になります。


参考)けんばい – 公益社団法人 日本建築士会連合会 …

設計ミスの保険の基本補償と免責

建築・設計・エンジニアリング領域の「業務過誤賠償責任保険」では、専門業務のミスが原因で顧客や第三者に経済的損害を与え、損害賠償請求を受けた場合に、損害賠償金と争訟費用を支払う趣旨が明記されています。ここで重要なのは、保険がカバーする中心が「賠償責任」と「争訟費用」であり、設計者の内部コストや手戻り全般を自動的に埋めるものではない点です。
また、補償の「土台」になりやすいのが、対象建築物の外形的かつ物理的な滅失または破損等に起因して、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担する場合、という条件です。建築士向け制度の説明では、この条件(物理損壊の発生)を核に据えつつ、法令基準未達・構造基準未達などのオプションで「壊れていないけど法令上アウト」という領域も扱う設計になっています。物理損壊の有無で補償可否が変わり得るので、設計ミスの“種類”と“発見時点の状態”を先に揃えるのが最短です。


参考)設計業務士賠償責任保険 - 安心の保険 株式会社ICS

免責(払われないケース)の代表例も、設計者が誤解しやすいポイントです。たとえば制度の例では、故意、国外物件、地震・洪水等の巨大災害、特別の約定で加重された賠償責任、提供資料(測量図・地質調査図など)の過誤、予見し得た事故などが「主な免責」として列挙されています。設計契約の段階で「通常より重い責任(違約金・無過失責任・成果保証)」を飲むと、保険の外に押し出される危険があるため、約款以前に契約条項の管理が重要です。

さらに、業務過誤賠償のパンフレットには、施工そのものの過誤による損害は対象外、という趣旨も明記されています。設計・監理と施工の切り分けが曖昧な体制(設計施工一括や、設計者が施工手順に踏み込む指示を出す等)では、事故の性質が「業務過誤」から「施工作業」に寄ってしまい、保険整理が難しくなります。

設計ミスの保険の加入条件と事故発見

設計ミス保険で見落としやすいのが、「いつ補償が成立するか」という時間軸です。建築士向け制度の説明では、保険期間中に、設計業務等に起因した事故が国内で発見されること、そして保険加入が切れ目なく継続していることが要件として示されています。つまり“数年前の設計”でも、継続加入や初年度の遡り扱い(一定期間をみなす)などの条件を満たせば対象になり得る一方、空白期間があると難しくなります。
ここで実務的に効くのが「遂行時」の定義です。制度説明では、設計業務等の遂行時とは、設計図書・指示書・施工図承認書を完成させ、発注者に引き渡した時点であり、建物の引渡し時点ではない、と明確にされています。設計図書の提出タイミングと、設計変更の確定タイミングが曖昧だと、“どの版の図面が遂行物か”が争点になり、保険の適用整理も遅れます。

一方、企業向けの業務過誤賠償では「保険期間中に損害賠償請求が最初になされた場合」に対象となる趣旨(いわゆる請求ベースの考え方)も示されています。制度によって「発見ベース」「請求ベース」「遡及日」などの設計が異なるため、加入している保険のタイプを把握しないまま事故対応を進めるのは危険です。

また、初動対応で“保険が効く行為”を潰してしまうことがあります。たとえば賠償責任の承認や賠償金額の決定に際し、引受保険会社の同意が必要とされる旨が制度説明に書かれています。現場で善意で即答したり、施主の怒りを鎮めるために口頭で責任を全面承認したりすると、保険実務が複雑化するため、事故受付→保険会社・弁護士と方針確認→合意、の順番を守る価値は大きいです。

設計ミスの損害賠償の争訟費用と示談

損害賠償は、最後は「誰がいくら払うか」だけでなく、「どうやって決めるか」が重い論点になります。建築・設計・エンジニアリング向けの保険案内では、損害賠償金に加えて争訟費用(調査、防御、査定、和解、上訴にかかる合理的費用等)が対象となる趣旨が記載されています。つまり、争いが長引くほど膨らむコストを、一定の枠内で吸収できる可能性があります。
ただし、示談交渉の運用も確認が必要です。保険案内には、事故発生時は相談しながらも、被保険者自身で示談交渉を進める旨が書かれているものがあります。自動車保険のように保険会社が全面的に交渉代行する前提ではない場合があるので、社内の責任者・顧問弁護士・保険代理店の役割分担を先に決めると事故時の混乱を減らせます。

示談・訴訟で争点になりやすいのは次の3つです。


  • 🧩 設計ミスの特定:どの図面・どの指示・どの判断が誤りか(版管理・指示書の証拠性)。​
  • 🔗 因果関係:ミスと損害(修補費、追加設備費、遅延損害)がどこまで直結するか。​
  • ⚖️ 過失割合:発注者・施工者・設計者の役割分担、説明義務や確認の程度で動く。​

意外に効くのが「証拠の取り寄せ」です。設計ミスを争う局面では、消防署提出書類や確認申請関連資料の取り寄せで、図面の記載や差替えの経緯を立証し、結論が逆転したとする事例紹介もあります。設計者側が“記録を持たない”状態で争うと不利になりやすいので、提出図書の保全・履歴管理は保険以前の防御線です。

設計ミスの保険の独自視点の運用

検索上位の解説は「どの保険に入るか」「免責は何か」に寄りがちですが、実務で差が出るのは“ミスを損害賠償事件にしない運用”です。ここは設計事務所の管理能力の話に見えますが、実際は保険の要件(遂行時、発見、同意、免責)を満たしやすくするための設計でもあります。制度説明が「設計図書の引渡し時が遂行時」「賠償額決定に同意が必要」などを明記している以上、運用がズレると補償整理が難しくなります。
まず、設計業務の「版管理」を契約実務に組み込むのが効果的です。設計図書・指示書・施工図承認書の提出単位で、提出日・提出先・承認の有無・前版との差分をログ化し、発注者にも“最新版の定義”を合意しておくと、後で「どれが契約成果物か」が争点になりにくくなります。これは地味ですが、事故が起きたときに因果関係の線引きを短時間でできるため、争訟費用の膨張を抑えます。

次に、説明義務・合意形成の“記録化”です。設計ミスがないのに説明義務違反が認められたとする資料もあるため、設計の正否だけでは守り切れない場面があります。仕様選定のリスク、コスト増の可能性、法令要件の境界(床面積や用途で設備義務が変わる等)について、説明した事実と判断主体(発注者の最終決定)を残すと、過失割合の整理に寄与します。

最後に、保険の“効く初動”を手順化します。


  • 📞 事故を把握したら、まず保険代理店・保険会社に連絡し、同意が必要な範囲を確認する(賠償承認・金額合意の前)。​
  • 📂 設計図書・指示書・提出図書・議事録・メールを保全し、版の整合を取る(提出先が行政・消防・施主で異なる場合も含む)。​
  • 🧑‍⚖️ 争点整理(損害の種類、因果関係、過失割合)を先に作り、示談交渉の着地点を“数字で”持つ(感情戦にしない)。​

参考リンク(業務の定義・補償条件・免責の具体例がまとまっていて、加入要件の確認に使える)
建築士賠償責任補償制度(けんばい)概要(業務定義/補償条件/免責)
参考リンク(業務過誤賠償で、損害賠償金と争訟費用、対象外の例が確認できる)
AIG 業務過誤賠償責任保険(損害賠償金/争訟費用/免責例)




からだの設計にミスはない