

セルフレベリング用プライマー材は、下地の吸い込みを整えてセルフレベリング材(SL材)の硬化に必要な水分が急激に奪われるのを抑え、硬化不良や表面不良のリスクを下げるために使われます。
また、下地とSL材の“界面”の接着性を上げ、浮きやひび割れの原因を減らす目的でも重要です。日本建築仕上材工業会の新築工事向け施工要領でも、プライマーは打設前日に1~2回塗布し、乾燥させ、埃が入らないよう注意する、と工程として明示されています。
見落とされがちですが、プライマーは「塗れば安心」ではなく、下地が適切に処理されていて初めて効果が出ます。たとえば雨打たれ等で下地表層が脆弱になっている場合は、脆弱部を完全除去する必要があり、要領書でもポリッシャー等で除去する扱いです。下地処理を飛ばしてプライマーだけで“固める”発想になると、表面だけが落ち着いたように見えても、荷重や温湿度変化で界面破断が出やすくなります。
さらに気泡については、SL材そのものの練り混ぜだけが原因ではありません。下地コンクリートの微細な孔に入っている空気や、レイタンス層の粉っぽさが“気泡の核”になり、打設後に表面へ上がってきます。プライマーはこの空気の抜け方を抑制し、表面の気泡跡を減らすのが狙いです。
下地の種類や仕上げ計画(長尺・タイル・塗り床等)で要求性能は変わるため、基本は「SL材メーカー指定の専用プライマー」を選び、セット仕様で組むのが最も事故が少ない運用です。日本化成のプライマー資料でも、セルフレベリング材専用であること、気泡抑止と接着性向上を目的にしていることが明記されています。
【参考リンク:新築工事におけるSL材の工程(プライマー塗布回数、乾燥、室温管理、下地処理)】
日本建築仕上材工業会「セルフレベリング材施工要領書(新築工事版)」
セルフレベリング用プライマー材の前にやるべき下地処理は、まず「除去」です。施工要領では、レイタンスがある場合はポリッシャー等で完全除去、油分が浸み込んでいる場合はディスクグラインダー等で完全除去、雨打たれ等で脆弱な場合も脆弱部を完全除去とされています。
清掃は“ほうきで掃く”で終わらせず、掃除機で粉を吸い切るのが基本です。要領書でも、前処理の清掃は掃除機・ほうき等でごみ・埃を除去するとされています。粉が残ると、プライマーが粉を固めているだけになり、SL材がその粉ごと剥がれる形で浮きが出ることがあります(界面破断というより“粉層破断”)。
下地の仕上げ状態も重要です。新築で標準とされる上面仕上げは、木ごてのむらとり+金ごて1回押えが標準とされ、過度の鏡面仕上げや養生剤・塗料など接着不良の可能性がある要因も注意事項として挙げられています。現場でよくあるのが、機械ごてで鏡面に近いほど締まった床にそのままプライマーを塗り、浸透せず“膜”だけができてしまうケースです。この場合、仕様によっては目荒しが必要になり、要領書でも接着不良の可能性がある場合は目荒しして接着性を高める扱いです。
また、漏れ止めもプライマー前の重要作業です。SL材は流動性が高く、わずかな隙間から漏れて厚み不足を起こします。要領書でも、隙間・開口部は補修材等で塞ぐことが工程に含まれています。
現場での実務ポイントをまとめます。
セルフレベリング用プライマー材は、希釈倍率と塗布量がセットです。日本化成の「NS高性能プライマーSL用」資料では、5倍希釈液(プライマー1:清水4)を2回塗布し、塗布量は合計300g/m²(2回塗り)という標準仕様が示されています。さらに金ごて仕上げのコンクリート下地の場合は、3倍希釈液を200g/m²で1回塗布できる注記もあり、下地の緻密さで設計が変わることが分かります。
2回塗りの「間隔」の考え方も、事故防止に直結します。同資料では、1回目と2回目の塗布間隔は夏季1~2時間以上、冬季3~5時間以上が目安とされ、1回目塗布後に乳白色から透明になってから2回目を塗布する、と具体的な見極めが記載されています。現場ではこの“透明化”が一番使えるサインで、温湿度が変動しても判断しやすいのが利点です。
塗り方は、ローラーでサッと塗るより「刷り込み」が基本です。日本化成の資料では、左官刷毛等を用いてむらなく丁寧に塗布すること、ゴムベラ・スプレー・ローラー等による塗布は避けることが明記されています。理由はシンプルで、プライマーは表面に均一な膜を作る材料というより、下地表層へ浸透させて吸水ムラと気泡要因を潰す“前処理材”だからです。
ここで、ありがちな誤解を潰しておきます。
【参考リンク:希釈倍率・塗布量・刷毛塗り推奨・乾燥判断(乳白色→透明)、冬夏の塗布間隔】
日本化成「NS高性能プライマーSL用 カタログ(PDF)」
工程管理としては「プライマーは前日」が基本線です。日本建築仕上材工業会の施工要領では、プライマーはSL材打設前日に1~2回塗布し、塗布後は半日以上乾燥させ、埃が入らないよう注意する、とされています。前日施工に寄せるのは、乾燥不足による溶け出し・界面不良・気泡多発を避ける意味が大きく、時間がない現場ほど守る価値があります。
温度条件も、プライマーの造膜(乾燥して膜として成立すること)に直結します。施工要領では、プライマー塗布からSL材硬化までの室温は5℃以上を標準とし、室温が5℃以下の場合は採暖する、とされています。日本化成の資料でも、気温が3℃以下になる場合には施工を避ける注意があり、低温時は「乾かない」だけでなく「膜が成立しない」リスクが上がります。
乾燥確認は、触ってベタつかない、だけでは不十分なことがあります。前述の通り、2回塗り仕様では「乳白色から透明」が見極めに使えます。加えて、乾燥後の埃付着は接着性を阻害するため、なるべく早い時期にSL材を打設するか、埃が付着しないよう養生する、と日本化成資料に書かれています。つまり「乾かしたら勝ち」ではなく、「乾かして、汚さず、すぐ次工程へ」が一連の品質条件です。
施工手順を“現場で回る形”に落とすと次の通りです。
品質事故の多くは「乾燥不足」と「粉・埃の再付着」です。次工程までの動線(他職が通る、資材が跨ぐ)を含めて、立入禁止と養生の徹底が結果的に早く終わります。
検索上位の一般説明では「プライマーを塗る」で止まりがちですが、実際の現場で差が出るのは“吸い込み診断”をしてから仕様を守れているかです。日本建築仕上材工業会の施工要領でも、プライマーの吸い込みが大きい、あるいは殆どない下地の場合には製造業者に確認すると明記され、下地が一様でない前提が示されています。つまり、同じフロアでも打継ぎ・補修・雨掛かり・レイタンス残りで吸水状態がバラつき、同じ希釈・同じ塗布量でも結果が変わります。
そこで現場で使える「吸い込み診断」の考え方を紹介します(※材料メーカーの仕様が最優先で、それを外すための裏技ではありません)。
もう一つの独自ポイントは「塗り方の道具選び」です。日本化成資料にはローラー等を避ける注意がありましたが、これは単にメーカーの好みではなく、ローラーだと下地の孔へ押し込む力が弱く、塗布ムラ(薄い/厚い)が出やすいからです。刷毛やデッキブラシでの刷り込みは、下地表層の孔へ“押し込む+かき出す”動きができ、気泡の核を減らしやすいのが利点です。
最後に、現場での再発防止チェックを表にまとめます。
| チェック項目 | NGのサイン | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 清掃(粉) | 手で擦ると白い粉が付く/掃除機後に足跡が粉っぽい | 再研削+再清掃、立入禁止の徹底(要領書の清掃工程を厳守) |
| レイタンス・脆弱層 | 表面がザラつく/雨打たれ部が砂状に崩れる | ポリッシャー等で完全除去(施工要領の下地処理に準拠) |
| 希釈倍率 | 「濃くした」「余ったから原液寄りで」 | 希釈倍率を厳守(希釈倍率逸脱は気泡・接着不良の原因と注意あり) |
| 乾燥 | 生乾きで打設/埃が乗ったまま打設 | 半日以上乾燥+防塵養生(施工要領・製品資料の注意に準拠) |
| 温度 | 5℃以下の室温で放置/夜間冷え込み | 採暖・温度管理(施工要領の室温条件、製品注意の低温回避) |
“意外に効く”のは、プライマー乾燥後の防塵です。乾燥までやっても、その上を人が歩いて埃が付けば接着性が落ちる、と製品資料で明確に言及されています。養生は手間に見えて、実は補修より最短です。