

シャックル規格の根幹をなすJIS B 2801-1996規格は、1996年に制定された日本工業規格で、シャックルの品質と安全性を保証する重要な基準です。この規格では、シャックルを製造時の材質や処理方法によりM級、S級、T級、V級の4つの等級に分類しています。
M級シャックルは最も一般的で、軟鋼(SS400相当)を使用した標準グレードです。価格が安価で入手しやすいため、建築現場での軽作業や仮設工事に広く使われています。使用荷重は0.2トンから10トンまでの範囲で、サイズは6mmから40mmまで展開されています。
S級以上(S級、T級、V級)のシャックルでは、本体の穴部分に機械加工が必須となっており、より精密な仕上がりが要求されます。特にV級シャックルは高強度合金を使用し、M級と比較して大幅な強度向上を実現している高品質製品です。
関西工業株式会社の技術資料
V級JIS規格シャックルの詳細仕様と強度比較データ
等級T以上のシャックルには特別な熱処理要件が設けられており、焼入後に400℃以上での焼戻し処理が義務付けられています。この熱処理により、シャックルは高い強度と靭性を両立し、建築現場での過酷な使用条件にも耐える性能を獲得します。
超強力JISシャックル(TSタイプ)では、構造用合金鋼SCM435を素材として使用し、使用荷重が通常品の約2倍という驚異的な性能を実現しています。10mmサイズで1.25トンから90mmサイズで125トンまでの幅広い荷重範囲をカバーし、重量物の吊り上げ作業に威力を発揮します。
硬さ試験についても、JIS Z 2243またはJIS Z 2245に規定される方法で実施され、品質の均一性が厳格に管理されています。この品質管理システムにより、同一規格のシャックルであれば製造メーカーが異なっても同等の性能が保証されています。
JIS規格シャックルは形状により**ストレート型(S系)とバウ型(B系)**に大別され、さらに固定方式により細かく分類されています。SC型シャックルは螺子込み式で、ピンの取り外しが頻繁な作業に適しており、6mmから40mmまでのサイズで0.2トンから10トンの使用荷重に対応します。
SB型シャックルはボルト・ナット・割りピン式を採用し、ピンが抜けにくい構造が特徴です。10mmから90mmまでの幅広いサイズ展開で、0.6トンから50トンまでの重荷重作業に対応できます。一方、SA型シャックルは割りピン式のみで、取り外し頻度が少ない箇所での長期使用に向いています。
SD型シャックルは他の型式と比べて口幅が広い特殊設計となっており、複数のスリングや太いワイヤーロープを通す必要がある場合に重宝されます。ただし、口幅を広くした分、若干の荷重低下があるため用途に応じた選択が重要です。
大洋製器工業株式会社の技術カタログ
JISシャックル各型式の詳細寸法表と組合せ指針
JIS規格シャックルには法定表示が刻印されており、使用者は一目で仕様を確認できる仕組みになっています。表示内容には、製造者名、材質記号、使用荷重、製造年月、検査合格マークなどが含まれ、トレーサビリティの確保と安全管理に役立っています。
安全率については一律5倍が設定されており、破断荷重の5分の1が安全使用荷重として表示されています。この安全率は建築現場での動的荷重や衝撃荷重を考慮した十分な余裕度であり、適正な使用方法を守る限り高い安全性が確保されます。
重量表示も重要な要素で、例えば30mmのSCシャックルM級では約2.7kg、同サイズの超強力型では約4.4kgと、強度向上に伴う重量増加も考慮して選定する必要があります。建築現場では作業効率と安全性のバランスを取りながら、適切なグレードの選択が求められます。
日本のJIS規格以外にも、国際的にはISO規格やUS規格などが存在し、それぞれ異なる設計思想と試験方法を採用しています。US強力シャックルはISO規格準拠で、特殊合金鋼への熱処理により強度・靭性・耐摩耗性に優れた性能を発揮します。
興味深いことに、欧米の引張試験方法は日本のJIS規格とは異なるアプローチを取っており、破断点までの引張特性評価により安全性を判断します。この違いにより、同等の使用荷重でも設計マージンや材料特性に微妙な差が生まれます。
建築業界のグローバル化に伴い、海外製の建設機械や輸入資材と組み合わせる場面では、規格の互換性確認が重要になります。特に大型プロジェクトでは、JIS規格とISO規格の混在使用による安全性への影響を事前に検討し、適切な規格統一または併用基準の策定が必要です。