視覚障害者の生活で困ること|建築業従事者が知るべき配慮と対策

視覚障害者の生活で困ること|建築業従事者が知るべき配慮と対策

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視覚障害者の生活で困ること

視覚障害者が生活で直面する主な困難
🚶
歩行時の困難

通行人や障害物の位置把握が困難で、点字ブロックや白杖が頼りになります

🏢
建物内の移動

トイレや階段、複雑なレイアウトでの位置認識に苦労します

🛒
買い物と外食

商品の値段や位置、メニューの確認が難しく支援が必要です

視覚障害者の歩行時に困ること

 

視覚障害者は日常生活において、人間が得る情報の約8割を占めるとされる視覚情報を十分に得られないため、歩行時に多くの困難に直面します。通行人や信号機、電柱などの障害物の位置関係を把握することが難しく、特に初めて訪れる場所では周囲の状況確認ができず、強い不安を感じます。
参考)https://pekoe.ricoh/pekomaga/sikakusyougaisya-komarukoto

視覚障害者は歩行の際に、黄色いタイルの点字ブロック視覚障害者誘導用ブロック)や白杖、音響式信号機の音を頼りにしています。しかし、すべての道路に点字ブロックが敷設されているわけではなく、音が鳴らない信号機も多く存在します。さらに、点字ブロックの上に自転車が置かれていたり、人が立ち話をしていたりすると、視覚障害者とぶつかる危険性が高まります。
参考)https://spot-lite.jp/life-daily-problems/

道路を横断する際には、音響付き信号機がない場所や人通りの少ない道路では、横断歩道を渡るかどうかの判断に迷うことが少なくありません。また、目的地付近に到着しても、店舗の入り口がわからないこともあり、外出そのものに不安を感じる要因となっています。​

視覚障害者が建物内で困ること

建物内では、視覚障害者は様々な場面で困難を経験します。特にトイレの利用は大きな課題となっており、トイレの場所を探す、男女別入口を認識する、個室や小便器の位置を探すなど、多くの段階で苦労します。
参考)https://www.lixil.co.jp/ud/publictoiletlab/user/visually-impaired/

複雑なレイアウトの建物は視覚障害者にとって大きなバリアとなります。アイランド型の手洗いなど、壁から離れた位置にある設備は位置認知が難しく、利用が困難です。また、トイレ内部の洗浄ボタンやレバーの位置が統一されていないことで、「流し方がわからない」「洗浄ボタンと間違えて呼び出しボタンを押してしまう」といったトラブルが発生します。
参考)https://www.sanitary-net.com/universal_design.html

慣れていない建物のトイレでは、カギやトイレットペーパーの位置、ボタン、便座など、様々な確認が必要となり、一つひとつ手探りで確認しなければならない状況に直面します。視覚障害者にとって、器具配置の統一や触って分かるボタン、点字表示などの配慮が非常に重要です。
参考)https://kokoro.metro.tokyo.lg.jp/archive/pdf/toilet_handbook.pdf

視覚障害者の買い物・外食で困ること

スーパーやデパートなどの店舗は、道路や駅と異なり点字ブロックの設置率が低いため、視覚障害者が一人で行動するのは非常に困難です。店内で困ったとき、誰に声をかければよいかわからず、買いたい商品の場所や値段を確認できないことが多くあります。​
商品に貼られている値札やラベルの情報を視覚で読み取ることができないため、消費期限、賞味期限、原産地、価格などの把握に困難があります。特に生鮮食品では、弱視の視覚障害者であっても商品に顔を近づけて確認することは行いにくい状況です。衣類を購入する際も、色、素材、模様、デザイン、価格、洗濯などの取り扱い方法を理解するのが難しく、同行者や店員の説明が必要となります。​
外食時には、店内の通路やテーブルなどの位置がわかりづらく、スタッフや周りの客にぶつかる可能性があります。せまい店内では、ものの場所や距離感を正確に把握することが難しく、人やテーブルに接触する恐れがあります。メニュー表が見えないことも大きな問題で、点字表示のメニューを導入している店舗はまだ少なく、同伴者やスタッフによる詳しい読み上げが求められます。​
テーブル上の食器の配置がわからないため、どの料理がどこに配置されているのか把握しにくく、熱い料理に誤って触ってやけどをしたり、汁物の料理をこぼしてしまう可能性があります。​

視覚障害者への建築物の配慮事項

建築物を設計する際には、視覚障害者が安全かつ円滑に利用できるよう、様々な配慮が必要です。バリアフリー法に基づき、障害者が円滑に利用できる建築物の廊下・階段等に関する基準(移動等円滑化基準)が定められており、一定規模以上の特別特定建築物の建築等については当該基準への適合が義務付けられています。
参考)https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r033/r033_023.html

建築物全体を通して、視覚情報以外の連続的な情報提供を行うよう配慮することが重要です。視覚障害者誘導用ブロックは、視覚障害者が設置箇所にはじめて踏み込む時の歩行方向に、原則として約60cmの幅で設置します。連続的に案内を行う場合は、歩行方向の直角方向に原則として約30cmの幅で設置することが基準とされています。
参考)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/bf-tebiki/documents/0203.pdf

視覚障害者誘導の考え方として、単純でわかりやすい誘導を原則とし、目的地となる利用居室等まで誘導を行うとともに、利用居室等から道等までの帰路も誘導することが求められます。手すり、触知図、視覚障害者誘導用ブロック、点字表示、音声案内システムなどの誘導補助設備を単独で配備するのではなく、それぞれの特性を効果的かつ複合的に組み合わせることが重要です。​
弱視者や色覚障害者向けには、認識しやすい色を使用することも配慮事項の一つです。建築物のバリアフリー化を推進するため、所管行政庁により認定を受けた優良な建築物に対しては支援措置等が講じられています。
参考)https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h26hakusho/zenbun/h1_07_01_03.html

視覚障害者に配慮した階段・手すりの設計基準

階段は視覚障害者にとって特に注意が必要な場所であり、適切な設計と誘導が求められます。階段を利用する際は、階段には直角に近づき、できる限り階段に近づいて一度停止し、上り階段なのか下り階段なのかの情報提供を行うことが基本です。
参考)https://sanai-heartyhand.jp/news/blog/dokoengo/kaidan/

手すりは、歩行する際のガイドレールとして重要な役割を果たすため、設置が望ましいとされています。ただし、袖口が手すりの端に引っかかり転倒につながる危険性があるため、手すり端部は必ず壁側か下方に折り曲げる必要があります。手すりの延長長さについては、歩き始めの安定確保や視覚障害者の利用に配慮し、スロープや階段の始点・終点より45cm以上水平に延長することが望ましいとされています。
参考)https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/cmsfiles/contents/0000011/11886/02_01_kenchiku_01.pdf

視覚障害者が階段を利用する場合、手すりを使用するかどうかを事前に確認し、手すりがある方向へ誘導を行います。誘導者は視覚障害者の足より一歩先を進むようにし、階段を利用している最中は常に直角に進むようにして向きを変えないようにすることが重要です。階段の終わりには「あと一段です」や「この段で終わりです」など、声をかけて知らせることが必要です。
参考)https://www.city.joetsu.niigata.jp/uploaded/attachment/140428.pdf

らせん階段の場合は、階段の外側を視覚障害者が歩くようにし、一段ずつ進むごとに停止をしたり、危険がないような位置を取るなどの配慮が必要となります。階段の踏み板部分に色のついたマットを敷いたり、段鼻に滑り止めを取り付けることで、段差を認識しやすくする工夫も有効です。
参考)https://note.com/onestep_sayu/n/ned29518daada

視覚障害者に対する階段下の安全確保の措置も重要で、固定手すりの延長長さは移動手すりの先端から100cm以上とし、案内表示を設けることが推奨されています。
参考)https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kiban/machizukuri/manual05.files/03irasutokyoudouzyuutaku.pdf

建築業従事者が実践できる視覚障害者への独自配慮

建築業従事者として、従来のバリアフリー基準を超えた独自の配慮を実践することで、視覚障害者の生活の質を大きく向上させることができます。家庭内での工夫として、視覚障害者にとっては空間を広く取れる間取りよりも、両手で幅員が確認できる程度の廊下幅が望ましい場合があります。広すぎるとドアの場所がわからないなどの問題が発生することもあるため、利用者の状況に応じた設計が重要です。
参考)https://www.sumirin-ht.co.jp/oyakudachi/reform/barrierfree/000007.html

家具の配置については、壁に沿って一列に配置し、床置きの家具はなるべく固定することが推奨されます。生活に必要なものや重要なものは、視覚で捉えやすいよう動線に沿って左右に配置することで、手探りでの移動が安全になります。物の配置場所を決め、家族で共有することで、探す手間を減らすことができます。​
照明の工夫も重要な配慮事項です。目に負担のかからない間接照明を活用し、眩しさを感じる場合は光量や色の調節ができるものを選ぶと良いでしょう。視覚障害者にとって、認識しやすい色とコントラストの使用は、建物内の移動を大きく助けます。​
トイレ設計では、壁面と小便器の色のコントラストで位置をわかりやすくし、小便器と小便器の間に仕切りを設けることで、壁面部に用を足してしまうことを防ぐことができます。手すりを設置することで、小便器までの距離を把握しやすくなります。​
国土交通省が発行する「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」には、視覚障害者への配慮に関する詳細な基準と事例が掲載されています。
国立障害者リハビリテーションセンターの「視覚障害支援ハンドブック」では、視覚障害者への具体的な支援方法と配慮事項が解説されています。
建築業従事者は、これらの基準を参考にしながら、利用者一人ひとりの見え方や症状に応じた柔軟な設計を行うことで、真に使いやすい建築物を実現できます。黙って物を動かすことは「物が無くなった」「物が無いと思って歩いたらぶつかった」という困難を生むため、建物内の備品の設置場所を固定し、変更する際は必ず利用者に伝えるルール作りも重要です。
参考)https://www.rehab.go.jp/hakodate/files/handbook.pdf

視覚障害者の日常生活への不便さに対しては、ちょっとした工夫や道具の活用、それに応じたトレーニングを受けることで軽減することができます。建築業従事者は、設計段階から視覚障害者のアクセシビリティを念頭に置くことで、特別な設備を最小限にとどめつつ、すべての人々にとって便利な建築物を設計することが可能です。
参考)https://www.jarvi.org/for-life/


同行援護ハンドブック-視覚障害者の外出を安全に支援するために【第4版】