
試料採取サンプリングとは、建築現場において地盤や材料の品質を正確に評価するため、現場から代表的な試料を採取する作業を指します。建築物の設計や施工において、地盤の支持力やコンクリートの強度を把握することは、構造物の安全性を確保する上で極めて重要です。
参考)サンプリング
サンプリングの主な目的は、室内土質試験や材料試験に供するための試料を採取することにあります。試料の採取方法が不適切であると、試験結果が正確でなくなり、建築物の安全性評価に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、試験目的に応じた適切な採取方法を選択し、試料の品質を保つことが求められます。
参考)ボーリング調査(サンプリング)
建築現場では、地盤調査におけるボーリング調査時のサンプリングや、コンクリート打設時のフレッシュコンクリートの試料採取など、様々な場面でサンプリングが実施されています。これらの試料は、設計定数の算出や品質管理の基礎データとなるため、採取段階から慎重な取り扱いが必要です。
参考)現場体験取材12~土質試験のサンプリング編~|ブログ|土木業…
試料採取方法は、採取する試料の状態によって「乱した試料(攪乱試料)」と「乱さない試料(不攪乱試料)」の2種類に大別されます。この分類は、土質試験の目的や求める情報によって使い分けられる重要な概念です。
参考)サンプリング|NGP 日本物理探鑛株式会社|見えない地質・地…
乱した試料とは、土の組織や構造が破壊された状態の試料を指します。スコップやハンドオーガーなどを用いて採取され、主に土粒子の密度試験、含水比試験、土の粒度試験、液性限界・塑性限界試験、pHテストなど、土の強度や変形性能以外の性質を調べる場合に使用されます。
参考)乱した試料とは?1分でわかる意味、採取方法、読み方、乱さない…
一方、乱さない試料とは、地盤にある状態をできるだけ維持したまま採取された試料のことです。サンプラーやサンドサンプラーなどの専用器具を用いて採取され、土の強度や変形性能を求める力学試験に供されます。固定ピストン式シンウォールサンプラー、ロータリー式二重管サンプラー、ロータリー式三重管サンプラーなどが代表的な採取方法として挙げられます。
参考)乱さない試料とは?1分でわかる意味、採取方法、不攪乱試料の読…
試料の品質は、JIS A 0207において品質クラスA~Dに分類されており、設計定数等を求めるためには品質A相当の「乱れの少ない試料」を採取することが推奨されています。標準貫入試験で採取される試料は土質判別以外の目的には適さないため、力学試験を実施する場合は別途適切なサンプリング方法を選択する必要があります。
参考)https://www.jiban.or.jp/wp-content/uploads/2024/07/d4570e96d0fa5807f2863b8e233c11a2.pdf
建築現場における試料採取方法は、対象となる地盤の種類や硬軟によって適切なものを選択します。以下では、代表的なサンプリング方法について詳しく解説します。
参考)サンプリング
地盤調査におけるサンプリング方法
軟らかい粘性土の採取には、固定ピストン式シンウォールサンプラーが用いられます。この方法では、薄肉のサンプリングチューブを地盤に静的に押し込み、試料の圧縮と脱落を防止するためにピストンを固定します。主にN値3~4以下の軟弱粘土層に適用され、孔径86mm以上のボーリング孔が必要です。
硬さが中位から硬い粘性土には、ロータリー式二重管サンプラーが使用されます。先端にビットの付いた外管で地盤を回転切削しながら、回転しない内管を地盤に押し込んで試料を採取する方式で、N値4~20程度の硬質粘性土に適しています。
砂質土の採取には、ロータリー式三重管サンプラーが主に用いられます。二重管と同様の原理ですが、三重管にすることでより乱れが少なく、適用できる土質の範囲も広がります。礫質土や軟岩に対しては、ロータリー式スリーブ内蔵二重管サンプラーが効果的です。
地表付近の土を高品質で採取する場合、ブロックサンプリングという方法があります。これは地表付近の土を、現状のまま乱すことなく土塊として切り出して採取する方法で、ほとんどすべての土質に適用可能です。
コンクリートの試料採取方法
フレッシュコンクリートの試料採取は、JIS A 1115に規定された方法に従います。トラックアジテータから採取する場合、最初に排出されるコンクリートは粗骨材が先行するため、50~100Lを除いてから採取する必要があります。
参考)JISA1115:2020 フレッシュコンクリートの試料採取…
トラックアジテータで30秒間高速かくはんした後、排出の初めと終わりの部分を避け、定間隔に3回以上採取します。分取試料は、コンクリート流の全横断面から採取することが重要です。採取した分取試料を集めて、一様になるまでショベル、スコップまたはこてで練り混ぜたものを試料とします。
参考)http://www.osaka-maruma.co.jp/testpiece.pdf
コンクリートポンプから採取する場合は、配管筒先から出るコンクリート流の全横断面から定間隔に3回以上採取するか、排出されたコンクリートの山の3か所以上から採取します。採取前に材料が分離していないことを確認することが必須です。
使用する器具は、使用前に清浄で湿布で湿らせてあることを確認し、採取日時を必ず記録します。試料は練り混ぜた後、直ちに試験に供し、試験が終わるまでは日光や風などの影響を受けないように非吸水性材料でできた容器に入れて保管します。
試料採取後の品質管理と適切な保管方法は、正確な試験結果を得るために不可欠な要素です。採取した試料の状態が変化してしまうと、本来の地盤や材料の性質を正しく評価できなくなるため、厳格な管理基準が設けられています。
参考)土質試験とは
試料採取時の重要なポイントとして、まず採取場所の決定があります。建物を建てる予定の場所や調査したい地盤の位置を正確に特定し、代表性のある試料を採取することが求められます。試料は必ずしも均質ではないため、適切なサンプリングによる代表性のある試料の採取が重要です。
参考)https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2019/201901minifile.pdf
乱さない試料の場合、採取時に土が乱れないように細心の注意を払う必要があります。専門の採取道具を使って地面から一定の深さの土を掘り出す際、土の組織や構造を破壊しないよう慎重に作業を進めます。採取した土は密封容器に入れ、試料の状態が変わらないように保管することが基本です。
コンクリート試料の場合、採取した試料を一様になるまで練り混ぜ、容器を使用する場合は2L以上採取することが規定されています。試料は直ちに非吸水性材料でできた容器に入れて、日光、風などの影響を受けないように保護します。
参考)https://www.jtccm.or.jp/sites/default/files/2023-12/28_Practical_examination_criteria%EF%BC%88gr%EF%BC%89.pdf
医薬品製造の分野では、ロット毎に所定の試験検査に必要な量の2倍以上の量を保管することが推奨されており、建築分野においても同様の考え方で、追加試験に備えた十分な量の試料を確保することが望ましいとされています。試料の保管量は製品や試験の種類ごとに検討する必要があります。
参考)https://www.pref.kyoto.jp/yakumu/documents/iso22716-4.pdf
試料採取作業において、適切な手順を踏まないと重大な失敗につながる可能性があります。建築現場で実際に発生した事例から、注意すべきポイントを把握することが重要です。
採取時の基本的な注意事項
トラックアジテータからコンクリートを採取する場合、最初に排出されるコンクリートには粗骨材が先行するという特性があるため、この部分を除いて採取する必要があります。材料分離が発生している可能性がある場合、ショベルなどでコンクリートを一様になるように練り直してから採取することが求められます。
参考)http://www.cgr.mlit.go.jp/ctc/pdf/technology/concrete/check.pdf
地盤調査のサンプリングでは、標準貫入試験で使用されるサンプラーは「土質判別」以外の目的には適さないという点に注意が必要です。土が採取できれば良いというものではなく、土質試験に供する試料を採取するという認識を持つことが重要です。
CBR試験の試料採取では、締め固める土の採取(乱した試料)と、乱さない土の採取(現状土)の2種類があり、土質の特性に応じて適切な方法を選択する必要があります。関東ロームのように土を乱すと著しく強度が下がってしまうことが分かっている土では、モールドの先端にカッターを取り付けて押し込む方法で乱さない状態での採取が必須です。
参考)CBR試験の試料採取方法【箇所数、深度の注意点】
環境面での安全対策
化学物質を扱うタンクからのサンプリング作業では、静電気対策を怠ると爆発や火災の危険性があります。実際の失敗事例として、トルエンタンクの屋根部からサンプル採取器を使いサンプリング中に、静電気帯電防止対策をまったく取っていなかったため、サンプル採取器に帯電した静電気が原因で爆発が発生した事故が報告されています。
参考)失敗事例 href="https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200044.html" target="_blank">https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200044.htmlgt; トルエンタンクサンプリング作業中の静電気蓄積に…
ベンゼンタンクでの試料採取中の爆発・火災事例では、静電気蓄積による着火が原因で、タンクが全面火災になり15時間も火災が続いた深刻なケースがあります。このような事例から、可燃性物質を扱う現場では、接地(アース)の確実な実施、導電性の採取器具の使用、静電気除去装置の設置など、徹底した静電気対策が不可欠であることが分かります。
参考)失敗事例 href="https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200001.html" target="_blank">https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0200001.htmlgt; ベンゼンタンクでの試料採取中の爆発・火災
品質保証のための確認事項
サンプリング実施前には、担当者に注意事項を十分に伝え、モチベーションを高めたうえで展開することが、安心・安全で効果的なサンプリングにつながります。使用する器具が清浄で、適切に湿らせてあることを確認し、採取日時を必ず記録に残すことも品質管理の基本です。
参考)建築・建設サンプリングとは?メリット3選と事例を紹介|ルート…
試料の代表性を確保するため、できるだけ多くの箇所から採取することが推奨されています。特に排出されたコンクリートの山では材料が分離しているおそれがあるため、3か所以上からの採取が必須とされています。
サンプリング誤差には「かたより」と「ばらつき」の両方が含まれるため、複数箇所からの採取と適切な混合により、誤差を最小限に抑える工夫が求められます。試料採取から試験結果の解析までの一連の流れを理解し、各ステップで適切な品質管理を実施することが、信頼性の高いデータを得るための鍵となります。
参考)【QC検定3級解説】サンプリングと誤差
建築現場における試料採取サンプリングは、単なる作業ではなく、構造物の安全性を左右する重要な技術プロセスです。適切な採取方法の選択、厳格な品質管理、そして過去の失敗事例から学ぶ姿勢が、高品質な建築物の実現につながります。
港湾空港技術研究所のボーリング調査サンプリングに関する詳細情報(サンプリングの基本概念と設計定数の関係について解説)
JIS A 1115:2020 フレッシュコンクリートの試料採取方法の公式規格(コンクリート試料採取の標準手順)