
フェノールフタレインは、pH8.3からpH10.0の範囲で無色から赤紫色へと変色するpH指示薬です。この変色域は塩基性領域に位置しており、アルカリ性物質の検出に適しています。化学式ではpH8.0以下で無色の構造を持ち、pH10.0以上になると濃いピンク色を呈する構造変化が起こります。
参考)【高校化学基礎】「指示薬の選択」
建築現場では、コンクリートのpH測定に広く使用されており、特にコンクリート中性化深さの測定において重要な役割を果たしています。通常のコンクリートはpH12~13の強アルカリ性を示すため、フェノールフタレイン溶液を噴霧すると赤紫色に変色します。中性化が進行してpHが低下した部分では無色のままとなるため、劣化の進行度を視覚的に判定できるのです。
参考)https://www.nstec.nipponsteel.com/download/technical/files/kk-0044.pdf
この指示薬は1%エタノール溶液として調製され、JIS A 1152でコンクリート中性化測定の標準試薬として規定されています。フェノールフタレイン法は、コア抜き試験やドリル法と組み合わせることで、構造物の耐久性評価や寿命予測に不可欠なデータを提供します。
参考)コンクリートの中性化深さの測定に使用できるフェノールフタレイ…
メチルオレンジは、pH3.1からpH4.4の酸性領域で赤色から黄色へと変色するpH指示薬です。この変色域は酸性側に位置しているため、酸性物質の検出や酸性条件下での反応確認に使用されます。
参考)【変色域ゴロ】メチルオレンジとフェノールフタレインの覚え方 …
中和滴定においては、強酸と弱塩基の組み合わせで使用されるのが一般的です。弱塩基の水溶液に強酸を滴定していくと、中和点が酸性側に位置するため、メチルオレンジの変色域と一致します。これにより、中和点を正確に検出することが可能になります。
参考)中和滴定まとめ(原理・実験レポート考察・器具や指示薬)
実験室では、目視で「目(メチルオレンジ)あ(赤)き(黄)さん(酸性)」という語呂合わせで覚えられることが多く、pH4程度で明確な色の変化を確認できます。メチルオレンジは酸性側での検出に特化しているため、塩基性側で変色するフェノールフタレインとは相補的な関係にあり、測定対象のpH範囲に応じて適切に使い分けることが重要です。
参考)球磨工ブログ - 球磨工業高等学校
中和滴定で適切な指示薬を選択するには、中和点のpHと指示薬の変色域が一致することが必須条件です。強酸と強塩基の中和では中和点がpH7付近の中性を示すため、フェノールフタレインとメチルオレンジの両方が使用可能です。滴定曲線では中和点前後でpHが急激に変化する「pHジャンプ」が生じ、両指示薬の変色域がこの範囲に含まれるためです。
参考)【化学基礎】中和滴定の指示薬の種類と使い分けについて徹底解説…
弱酸と強塩基の中和では、中和点が塩基性側(pH8~10程度)に位置するため、フェノールフタレインのみが使用できます。逆に強酸と弱塩基の中和では中和点が酸性側(pH4~6程度)となるため、メチルオレンジのみが適しています。これは生成する塩の加水分解により中和点のpHが変化するためです。
参考)https://sekatsu-kagaku.sub.jp/neutralization.htm
指示薬の選択を誤ると、中和点で色の変化が起こらず、正確な滴定が不可能になります。そのため、滴定する酸と塩基の強弱を事前に確認し、中和点のpHを予測してから適切な指示薬を選択することが、正確な定量分析の基本となります。
参考)https://www1.doshisha.ac.jp/~bukka/lecture/general/resume_g/GC-13-11.pdf
コンクリート中性化測定は、建築構造物の耐久性評価において最も重要な試験の一つです。中性化とは、大気中の二酸化炭素(CO₂)がコンクリート内部に浸透し、水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)と反応して炭酸カルシウムを生成することでpHが低下する現象を指します。通常pH12~13の強アルカリ性であるコンクリートが、中性化によりpH9以下に低下すると、内部の鉄筋が腐食しやすくなり構造物の安全性が損なわれます。
参考)https://www.pwri.go.jp/jpn/results/report/report-seika/2008/pdf/2008-1-2-2.pdf
測定方法は、JIS A 1152で規定されたフェノールフタレイン法が標準です。コンクリートコアを採取するか、表面を斫って新鮮な断面を露出させ、そこに1%フェノールフタレイン・エタノール溶液を噴霧します。pH8.2~10.0以上のアルカリ領域では赤紫色に変色し、中性化が進行した部分(pH8以下)は無色のまま残ります。
参考)中性化
表面から無色部分までの深さをノギスで測定し、これを中性化深さとして記録します。測定値は鉄筋のかぶり厚と比較され、中性化が鉄筋位置まで達しているかを判定します。近年では、画像解析技術を組み合わせることで、変色の濃淡からpH分布をより詳細に評価する研究も進められています。
参考)コンクリートの中性化試験の試験方法と中性化による劣化の対策案…
建築現場におけるpH指示薬の活用は、コンクリート構造物の品質管理と劣化診断に不可欠です。特に下水道施設やマンホール、トンネル型大口径管などの鉄筋コンクリート構造物では、定期的な中性化試験が維持管理の基本となっています。フェノールフタレイン法による現場測定では、コアドリルやチッパーで断面を採取し、スプレー容器で試薬を噴霧して即座に判定できるため、迅速な診断が可能です。
参考)下水道構造物の“中性化試験”とは?
測定結果は構造物の補修要否の判断根拠となり、中性化残り(かぶり厚-中性化深さ)が小さい場合は早急な対策が必要と判断されます。また、生コンクリートの品質管理では、塩化物総量規制やアルカリ骨材反応抑制対策として、0.05N塩酸標準液とフェノールフタレイン指示薬を用いた滴定分析も実施されます。これにより、コンクリート中のアルカリ濃度を定量的に評価できます。
参考)http://www.qsr.mlit.go.jp/onga/cpds_20160907/images/h25/siryou_0829_1_2.pdf
建設現場での実務では、pH測定の他にも、セメントの成分分析や混和剤の化学的特性評価など、様々な化学試験が行われています。これらの試験において、フェノールフタレインとメチルオレンジの適切な使い分けは、正確な品質評価と構造物の長寿命化に直接貢献する重要な技術知識となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8672277/
pH指示薬の変色域は、単なる化学的特性ではなく、実務における測定精度を左右する重要な要素です。フェノールフタレインの変色域がpH8.3~10.0である特性を利用すると、コンクリート中性化測定において微妙なpH変化も検出できます。実際には、変色の濃淡によってpH10以上の濃いピンク、pH9前後の薄いピンク、pH8以下の無色という段階的な判定が可能であり、これを画像解析で定量化する技術も開発されています。
参考)https://data.jci-net.or.jp/data_pdf/31/031-01-1331.pdf
さらに、複数の指示薬を組み合わせる多段階測定法も実務で活用されています。例えば、炭酸ナトリウム水溶液の滴定では二段階滴定曲線が現れ、第一中和点でフェノールフタレインが変色し、第二中和点でメチルオレンジが変色します。この特性を利用すれば、一度の滴定で複数の成分を定量分析できます。
参考)https://kouronpub.com/pdf/correction/koshu/koshu_2020_corre.pdf
BTB(ブロモチモールブルー)などの他のpH指示薬と併用することで、より広範囲のpH測定が可能になります。BTBは酸性側で黄色、中性付近で緑色、塩基性側で青色を示すため、pH7付近の精密な測定に適しています。建築現場では、測定対象や目的に応じて、これらの指示薬を戦略的に使い分けることで、より正確で効率的な品質管理が実現できるのです。
参考)pH指示薬の「変色範囲」を教えてください。|お問合せ|試薬-…