

建築の現場で「MEK系洗浄溶剤」という言い方をすると、多くの場合は“MEK(メチルエチルケトン)単体”または“MEKを含む洗浄用シンナー/溶剤ブレンド”を指して会話が進みます。厚労省のGHSモデルMSDSでも、メチルエチルケトンは推奨用途として「各種合成樹脂、ラッカー用溶剤、接着剤、印刷インキ用、洗浄剤」などが明記されており、溶解・洗浄用途の代表格であることが分かります。なお、三成化工の製品情報でもMEK(メチルエチルケトン)の用途として「塗料、インキ、ラッカー、接着剤、各種溶剤」が挙げられています。
ただし、現場の「落ちる・落ちない」は化学名よりも“対象物が何の樹脂か”で決まります。例えば、同じ接着剤でも、溶剤型で未硬化の段階なら拭き取りで動く一方、二液硬化(ウレタン・エポキシ等)で架橋が進むと、MEKで膨潤はしても除去に時間がかかり、結果として「強い溶剤を大量に使う」→「蒸気が増える」→「危険側に寄る」という悪循環になりがちです。だからこそ、MEK系を“万能クリーナー”として雑に使うより、工程の前倒し(硬化前に洗浄)、必要量の最小化、拭き取り材(ウエス)運用、換気をセットにして設計するのが現場向きです。
また「シンナー」という現場語の中身にMEKが含まれるケースは珍しくありません。現場向けの解説でも、シンナーは目的に合わせたブレンドで、トルエン・キシレン等の芳香族、酢酸エチルなどのエステル、そしてMEKやMIBKなどのケトン類が組み合わされると説明されています。つまり、ラベルに「MEK」と書いていなくても、SDSを見ると“ケトン類として含有”していることがあるので、購入や持ち込み時点でSDSを回収・共有する運用が重要です。
参考:メチルエチルケトン(MEK)のGHS分類・危険有害性・管理濃度・応急措置・法令(SDSの読みどころ)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0618.html
MEKの本質的な難しさは、「よく落ちる」より先に「揮発して吸われる」点です。厚労省のGHSモデルMSDSでは、メチルエチルケトンは引火性液体(区分2)で、皮膚刺激・眼刺激があり、特定標的臓器毒性(単回ばく露)として中枢神経系・腎臓、さらに反復ばく露として中枢神経系・末梢神経系が挙げられています。つまり、臭いが強い・頭がぼーっとする、といった感覚は「気のせい」ではなく、ばく露管理の対象です。
管理濃度の目安も重要です。厚労省の同MSDSには、MEKの管理濃度として200ppmが記載されています。現場でppmを測らない運用でも、この数値は「換気が弱いと簡単に超える領域がある」ことのサインとして扱うべきです。さらに、現場の“あるある”として、洗浄を始めると作業者の周りだけ局所的に濃度が上がり、部屋全体は臭いが薄いのに本人は過ばく露、という状況が起きます。なので、全体換気だけで安心せず、発散源(拭き取り面・容器口・廃液)を局所的に抑える考え方が必要です。
具体策は次の通りです(入れ子にしない箇条書きで整理します)。
参考:MEKの引火点・爆発範囲・保護具(防毒マスク、有機ガス用/吸着缶管理など)を含むSDSの具体例
https://www.sankyo-chem.com/wp/wp-content/uploads/mek.pdf
MEK系で最も取り返しがつかない事故は火災・爆発です。厚労省のGHSモデルMSDSでは、MEKの引火点は-9℃(密閉式)とされ、爆発範囲(下限1.8 vol%、上限11.5 vol%)などのデータも示されています。つまり冬の現場でも普通に引火性蒸気が出る前提で、火気・火花・静電気をゼロに寄せる必要があります。
さらに見落とされがちなのが「溶剤が入っていた容器・缶」の危険です。厚労省MSDSの災害事例には、密封缶を持ち帰り、そのままガス切断した瞬間に爆発した例が記載されています。これは「液がないから安全」ではなく、「蒸気が残っているから危険」という典型で、建築現場での廃材加工や金物加工と“洗浄工程”が近いと起きやすい事故類型です。
現場運用としては、次のような“火種の分離”が効きます。
「低臭」や「速乾」を求めるほど揮発は上がりやすく、結果として引火性蒸気も増える、という逆説を忘れないことが重要です。強い洗浄力だけを見て採用すると、現場の火気リスクとぶつかります。
MEK系は、SDSを読んで初めて“現場のやり方”が確定するタイプの材料です。厚労省のGHSモデルMSDSには、保護手袋・保護眼鏡・保護面の着用、屋外または換気の良い区域でのみ使用、防爆型の電気機器や換気装置の使用、静電気放電の防止などが注意書きとして整理されています。つまり、手袋なしの素手拭き、ゴーグルなしの上向き作業、換気ゼロの密室拭き取りは、SDSの前提に反します。
保護具は「付ければ終わり」ではなく、適合が重要です。例えば呼吸用保護具なら、三協化学のMEK SDSでは有機ガス用防毒マスクが挙げられ、高濃度の場合は送気マスクや空気呼吸器の選択肢にも触れられています。さらに吸着缶の厳格な管理が必要と書かれており、“いつの缶か分からないマスク”は意味が薄い、という現場の痛点に直結します。
建築従事者向けに、最低限の「確認ポイント」をまとめます。
参考:現場で使われるシンナーの中身(MEKやMIBK等のケトンを含むブレンド)と、PPE・換気・法令の基本整理
現場で使われるシンナーとは?用途・危険性・正しい使い方を徹底…
検索上位で多いのは「危険」「換気」「用途」ですが、現場で事故・監査・コストに直撃するのは“廃棄設計”です。ここが甘いと、換気が良くても、作業が上手くても、最後に問題が起きます。厚労省のGHSモデルMSDSでは、廃棄について「関連法規ならびに地方自治体の基準に従う」「許可を受けた専門の廃棄物処理業者へ委託」などが明記されています。つまり、流しに捨てる・土に吸わせて終わり、は論外です。
意外に見落とされるのが「ウエス=蒸気発生装置」になり得る点です。拭き取り直後のウエスは表面積が大きく、液体より速く揮発し、作業者の顔の近くで濃度を上げます。さらに、ウエスを山積みにして放置すると、局所的に蒸気が滞留しやすく、火気・静電気があれば危険側に寄ります。ここは“作業の腕”ではなく“置き場と容器”で決まるため、現場ルール化が効きます。
運用のコツは次の通りです(どれも手順として決めると強いです)。
この“出口設計”を押さえると、結果として作業エリアの蒸気も減り、換気負荷が下がり、火気リスクも下がります。MEK系洗浄溶剤は「使っている間」より「使い終わった後」に現場が油断しやすいので、最後の5分を重視してください。