亜塩素酸の化学式と性質、用途から危険性、次亜塩素酸との違いまで解説

亜塩素酸の化学式と性質、用途から危険性、次亜塩素酸との違いまで解説

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亜塩素酸の化学式と総合解説

この記事でわかること
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亜塩素酸の基本

化学式HClO2で表される亜塩素酸。その不安定な性質や、O=Cl-OHという特徴的な分子構造について基礎から解説します。

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次亜塩素酸との違い

名前が似ている「次亜塩素酸」や「塩素酸」。これら塩素のオキソ酸ファミリーとの化学的な違いを、酸化数や酸の強さの観点から比較します。

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主な用途と危険性

強力な酸化作用を活かした漂白・殺菌消毒が主な用途です。その一方で、法律で危険物にも指定される亜塩素酸塩の危険性や、安全な取り扱い方法も紹介します。

亜塩素酸の化学式(HClO2)と不安定な性質・構造

 


亜塩素酸(あえんそさん)は、化学式 HClO2 で表される塩素のオキソ酸の一種です 。分子構造は、中心の塩素原子(Cl)に、酸素原子(O)が二重結合で1つ、そしてヒドロキシ基(-OH)が単結合で1つ付いた形 (O=Cl-OH) をしています 。この構造における塩素の酸化数は+3です 。これは、基準となる塩素酸(HClO3)よりも酸化数が少ないため、「亜」という接頭辞がついて呼ばれています 。[1][2][3]
亜塩素酸の最も大きな特徴の一つは、その極めて不安定な性質にあります。遊離酸(水溶液中でイオンにならず分子のまま存在する状態)としては単離されておらず、水溶液中でしか存在できません 。室温環境下では、自己酸化還元反応である「不均化」を起こしやすく、塩素酸(HClO3)と次亜塩素酸(HClO)を経て、最終的には二酸化塩素(ClO2)などに分解してしまいます 。そのため、亜塩素酸そのものを安定して保持することは非常に困難です。[2][1]
この不安定さから、亜塩素酸を生成する際には低温下での反応が求められます。一般的な生成方法としては、亜塩素酸バリウム(Ba(ClO2)2)の水溶液に希硫酸(H2SO4)を加え、生じた硫酸バリウム(BaSO4)の沈殿をろ過することで、亜塩素酸の水溶液を得る方法があります 。[1]


化学反応式: Ba(ClO2)2 + H2SO4 → 2HClO2 + BaSO4
このように、亜塩素酸は単独の物質として製品化されているわけではなく、特定の化学反応の中間生成物や、塩の形で利用されることが多い、非常にデリケートな化合物なのです。

亜塩素酸と次亜塩素酸・塩素酸の化学的な違いと酸化数


塩素のオキソ酸には、亜塩素酸の他にも「次亜塩素酸」「塩素酸」「過塩素酸」といった、名前がよく似た化合物が存在します。これらはしばしば混同されがちですが、化学的には明確な違いがあります。建築現場で扱う殺菌・消毒剤の知識としても、これらの違いを理解しておくことは重要です。
これらの違いを理解する鍵は、中心にある塩素原子の酸化数と、それに伴う酸素原子の数です。
以下の表は、塩素のオキソ酸ファミリーを比較したものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名称 化学式 塩素の酸化数 酸の強さ 特徴
次亜塩素酸 HClO +1 弱酸 殺菌剤として最も一般的。不安定。
亜塩素酸 HClO2 +3 中程度の酸 遊離酸は極めて不安定。
塩素酸 HClO3 +5 強酸 強力な酸化剤、加熱で爆発の危険。
過塩素酸 HClO4 +7 最も強い酸の一つ 非常に強力な酸化剤、有機物との接触は危険。

表からわかるように、酸素原子が一つ増えるごとに、塩素の酸化数も+2ずつ増加しています 。そして、酸の強さも、次亜塩素酸が弱酸であるのに対し、亜塩素酸は中程度の酸、塩素酸と過塩素酸は強酸となり、性質が大きく異なります 。[4][3]
特に「次亜塩素酸水」として知られるHClOと、亜塩素酸ナトリウムから生成されるHClO2は、有効成分やpH、殺菌のメカニズムも異なります 。例えば、次亜塩素酸水は弱酸性でお肌に近いpHですが、その塩である次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性です 。これらの性質の違いを正しく理解し、用途に応じて適切に使い分けることが、安全な作業環境を維持する上で不可欠です。[5][6]

亜塩素酸の漂白・殺菌作用と建築現場での意外な用途


亜塩素酸は不安定な化合物ですが、その塩である亜塩素酸ナトリウム (NaClO2) は比較的安定しており、その強力な酸化作用を活かして様々な分野で利用されています。建築業界においても、直接的・間接的にその恩恵を受ける場面があります。

主な用途 漂白剤・酸化剤


亜塩素酸ナトリウムの最も代表的な用途の一つが、繊維や紙、パルプの漂白です。その酸化力を利用して色素を分解し、白く仕上げます。また、有機合成化学の分野では、アルデヒドをカルボン酸へと酸化させるための酸化剤として精密な反応に使われることもあります 。[7][8]

殺菌・消毒剤としての利用


亜塩素酸は、その強い酸化作用により、細菌やウイルス、真菌に対して高い殺菌・消毒効果を発揮します 。[9]

  • 🦠 食品添加物: 日本では食品添加物の殺菌料として認可されており、カット野菜や果物、水産物などの洗浄・殺菌に利用されています 。
  • [10]

  • 🏥 医療・衛生分野: アメリカでは、病院や歯科治療室、製薬工場のクリーンルームといった高い衛生基準が求められる場所の殺菌・消毒に利用されています 。また、酪農における乳牛の乳頭消毒剤としても実績があります 。
  • [10]

  • 💊 医薬品: 日本国内でも、亜塩素酸水を転用して製造販売承認を取得した第2類の一般用医薬品や医薬部外品が存在します 。
  • [9]


建築現場での応用可能性



建築現場で「亜塩素酸」そのものを直接使用するケースは稀ですが、その優れた殺菌・消毒能力は、建築プロジェクトの様々なフェーズで応用できる可能性があります。


  • 竣工清掃・消毒: 建物の引き渡し前に行われる竣工清掃において、病院や食品工場、クリーンルームなどの建設プロジェクトでは、亜塩素酸を利用した空間全体の消毒・殺菌が有効です。これにより、施主が求める高い衛生環境を実現できます。

  • 💧 給水設備の洗浄: 給水管や貯水槽の洗浄・殺菌作業にも応用が考えられます。法的な基準を遵守しつつ、安全性の高い殺菌方法として検討の価値があります。

  • 🌲 木材のカビ防止: 建築中の木材が雨に濡れるなどして、カビが発生することがあります。亜塩素酸系の薬剤を用いることで、木材の風合いを損なわずにカビの発生を抑制・除去する効果が期待できます。



このように、亜塩素酸の特性を理解することで、建築従事者として、より衛生的で安全な建物を顧客に提供するための新たな選択肢が見えてきます。

以下のリンクは、厚生労働省による亜塩素酸水の詳細な資料です。食品添加物としての有効性や安全性に関する情報が記載されています。
亜塩素酸水(厚生労働省)

亜塩素酸と亜塩素酸ナトリウムの危険物としての法規制と危険性


亜塩素酸の強力な酸化作用は、有用な効果をもたらす一方で、取り扱いを誤ると重大な事故につながる危険性をはらんでいます。特に、その塩である亜塩素酸ナトリウムは、日本の消防法において危険物第1類(酸化性固体)に指定されており、法的な規制のもとで厳重な管理が求められます 。[11]

亜塩素酸ナトリウムの危険性


亜塩素酸ナトリウムは無色の結晶性粉末ですが、以下のような危険な性質を持っています。

     

  • 🔥 火災・爆発のリスク: それ自体は燃えませんが、可燃物や有機物、その他の還元剤と混合されると、加熱や衝撃、摩擦によって極めて激しく反応し、発火や爆発を引き起こす危険性があります 。
  • [12]

     

  • ☣️ 有毒ガスの発生: 直射日光や紫外線に長時間さらされたり、塩酸などの強酸と接触したりすると分解し、有毒で爆発性の気体である二酸化塩素 (ClO2) を発生させます 。このガスは呼吸器系に深刻なダメージを与える可能性があります。
  • [11]

     

  • 人体への毒性:

    • 皮膚・眼への刺激: 皮膚に触れると刺激があり 、特に眼に入ると強い刺激を引き起こします 。
    • [12]

       

    • 吸入・経口摂取の危険: 粉じんを吸入したり、誤って飲み込んだりすると、生命に危険が及ぶ可能性があります 。体内に摂取されると、胃液中の酸と反応して亜塩素酸となり、赤血球に酸化的損傷を与えることが報告されています 。
    • [13][14][12]

       

安全な取り扱いと保管方法


これらの危険性を踏まえ、亜塩素酸ナトリウムを取り扱う際には以下の点に厳重に注意する必要があります。

     

  1. 隔離: 可燃物、有機物、酸類、還元剤など、混触危険物質から離れた場所で保管・使用する。
  2.  

  3. 換気: 取り扱い場所は十分に換気し、粉じんや分解ガスの吸入を防ぐ。
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  5. 保護具の着用: 保護メガネ、保護手袋、保護マスクなどの適切な保護具を必ず着用する。
  6.  

  7. 熱・衝撃の回避: 加熱や衝撃、摩擦を避け、火花や裸火などの着火源がない環境で使用する。
  8.  

  9. 漏洩時の対応: 漏洩した場合は、乾燥した砂などで覆って回収し、水との接触を避ける。

建築現場で亜塩素酸系の薬剤を使用する際は、製品の安全データシート(SDS)を必ず確認し、記載された指示に従って、細心の注意を払って作業を行うことが極めて重要です。

職場のあんぜんサイト(厚生労働省)では、亜塩素酸ナトリウムのGHS分類や危険有害性情報が詳細にまとめられています。
職場のあんぜんサイト:化学物質: 亜塩素酸ナトリウム

亜塩素酸イオンが環境や人体へ与える影響と水道水質基準


亜塩素酸そのものだけでなく、それが分解して生じる「亜塩素酸イオン (ClO2-)」もまた、私たちの生活環境、特に飲料水との関連で注意が必要な物質です。建築プロジェクト、特に給排水設備に関わる従事者にとっては、知っておくべき知識と言えるでしょう。

亜塩素酸イオンの生成過程


亜塩素酸イオンは、主に水道水の消毒に用いられる二酸化塩素 (ClO2) が分解する過程で生成されます 。二酸化塩素は、従来の塩素消毒で発生が懸念されるトリハロメタンを生成しにくいという利点から、浄水処理で利用されることがあります。しかし、その過程で副生成物として亜塩素酸イオンや、さらに酸化が進んだ塩素酸イオン (ClO3-) が水中に残る可能性があるのです。[15]

人体への影響


亜塩素酸イオンの摂取が人体に与える影響については、複数の研究や動物実験が行われています。

     

  • 🩸 赤血球への酸化的ダメージ: 人体に関する最も主要な毒性として、赤血球への酸化的損傷が挙げられます 。動物実験では、亜塩素酸イオンが赤血球に損傷を与え、酸素運搬能力のないメトヘモグロビンを増加させる「メトヘモグロビン血症」を引き起こすことが確認されています 。
  • [14][15]

     

  • その他の影響: 高濃度の摂取は、ラットを用いた実験で前胃(人間にはない器官)に過形成や潰瘍などを引き起こしたという報告もあります 。
  • [13]

水道水質基準における位置づけ


このような健康への影響の懸念から、日本の水道法に基づく水質基準では、亜塩素酸は直接の基準項目ではありませんが、「水質管理目標設定項目」の一つとして位置づけられています。これは、人の健康に影響を及ぼす可能性がある、あるいは水道水中で検出される可能性があるなど、水質管理上、注意を喚起すべき項目です。
目標値は 0.6 mg/L 以下 と定められており、水道事業者はこの目標値を達成するよう努めることとされています。
建築物が完成し、人々が生活を始める際、その蛇口から出る水は安全でなければなりません。消毒剤の副生成物である亜塩素酸イオンの存在と、それが水質基準によって管理されているという事実は、安全な水環境を提供するという建築従事者の責務にも繋がる、見過ごせない知識なのです。

国土交通省のサイトでは、水質用語集の中で亜塩素酸イオンについて簡潔に解説されています。
亜塩素酸イオン - 国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所

 

 


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