

「現場では試験本数を3本やれば十分」と思っていると、不合格が出た瞬間にロット全数の検査が必要になります。
あと施工アンカーの引抜試験(引張試験)は、施工後に実施される品質確認のための検査です。アンカーが設計仕様どおりに固着しているかどうかを、実際に荷重をかけて確認します。目視だけでは判断できない施工内部の固着状態を数値で確認できるため、建築・土木を問わず欠かせない工程です。
試験の根拠となる規定は複数ありますが、建築分野では国土交通省が定めた「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」や、一般社団法人日本建設あと施工アンカー協会(JCAA)の「あと施工アンカー施工指針(案)」が主に参照されます。これらの指針では、試験本数の考え方や合格基準が具体的に示されています。
では、試験本数はどのように決まるのでしょうか?
特記仕様書に別途指定がない限り、原則として「1ロットあたり全施工本数の0.5%かつ最低3本以上」が基本です。たとえばロット内のアンカーが200本であれば、0.5%は1本になりますが「最低3本」の条件が優先されるため、3本の試験が必要になります。500本なら0.5%で2.5本、切り上げて3本となり、やはり3本が最低ラインです。600本になると0.5%が3本となるため、ちょうど3本になります。
3本以上が原則です。
ただし「3本やれば終わり」ではない点に注意が必要です。現場でよくある誤解のひとつが、「ロットの構成」を正しく把握せずに試験計画を立ててしまうことです。ロットの数が増えれば、それに応じて試験回数も増えます。このロットの考え方こそが、試験本数の計画において最も重要なポイントです。
アンカー引抜試験.com(JCAAの試験指針・自主検査・立会い検査の詳細解説)
「1ロット」とは、同じ条件で施工されたアンカーのひとまとまりを指します。具体的には、以下の条件がすべて一致したものが同一ロットとして扱われます。
- アンカーの種類(金属系 or 接着系)
- アンカーの径(M12、M16など)
- 埋込長
- 施工日(打設日)
- 施工場所(同一基礎か否か)
- 施工者・班
逆に言えば、これらのうちひとつでも異なれば、別ロットとして扱われ、それぞれ3本以上の試験が必要になります。これが実務上の落とし穴です。
たとえば、1日に2つの班が同じM16アンカーを施工していた場合、「同一班が施工した」という条件を満たさないため、班ごとに別ロットとなり、合計6本以上の試験が必要です。つまり単純に「今日は何本施工したから3本でいい」と考えると、試験本数が足りなくなります。
別のケースとして、同じ基礎・同じアンカー種でも「埋込長が異なる」だけでロットが分かれます。埋込長が100mmのものと150mmのものが同じ工区に混在している場合、それぞれ独立したロットになるため、それぞれ3本、合計6本以上の試験が必要です。これも現場ではよく起きる状況です。
ロット分割が増えるほど試験本数も増えます。
さらに打設日が違うだけでもロットは分かれます。月曜日に施工した分と火曜日に施工した分は別日の施工として扱われ、各ロットに3本以上の試験が必要です。「まとめてやった方が楽」という判断は、試験基準からすれば通りません。
試験本数と同様に重要なのが、「何kNで引っ張るか」という確認荷重の設定です。ここを誤ると、試験自体が無効になりかねません。
確認荷重は、以下の破壊荷重のうち最も小さい値の「2/3」を基本とします。
- 鋼材破壊による引張荷重(アンカーボルト自体が破断する荷重)
- コンクリートコーン状破壊による引張荷重(コンクリートが円錐状に破壊する荷重)
- 接着系アンカーの場合は付着破壊荷重も加えた3種類の中の最小値
この2/3という値が非破壊試験の検査荷重として使われます。つまり、破壊荷重そのものでなく、非破壊で確認できる上限を検査荷重にしているわけです。2/3が基本です。
具体的なイメージとして、M12の接着系アンカー(許容引張荷重:長期13.7kN)の場合、設計上の計算値から求めた確認荷重は、アンカー耐力の計算で得られた値の2/3が目安になります。耐震補強工事の場合は、予想破壊荷重(終局引張荷重)の2/3が確認荷重となります。この値は特記仕様書に記載されていることが多く、記載がない場合は工事監理者との協議で決定します。
なお、合格の判定基準は「検査荷重まで加力した際に、急激な抜け出しやコンクリート表面のひび割れが生じないこと」です。荷重の数値だけでなく、目視による観察も重要な判定要素になります。
トラスト株式会社FAQ(確認荷重・試験本数についてのよくある質問回答)
不合格が出た場合こそ、正確な対応手順を知っておく必要があります。
1本でも不合格が出ると、そのロットに対して追加検査が義務づけられます。追加検査の方式はいくつかあり、JCAAの施工指針では以下のような例が示されています。
- 例1:不合格ロットの20%を抜き取り検査し、さらに不合格が出たら残り全数を検査
- 例2:不合格ロットの残り全数を検査
- 例3:同日施工した残り全数を検査
- 例4:接着系アンカーで鉄骨ブレース増設・増し打ち壁などの耐震補強の場合は、1構面全数の検査
つまり最悪のケースでは、1本の不合格が引き金となり、ロット内の全アンカーを検査しなければならなくなります。ロット内に100本あれば全100本分の試験コストと時間が発生します。これは痛いですね。
不合格になった原因としては、接着系アンカーの場合は「樹脂の硬化不良」や「施工不良による付着力不足」が代表的です。金属系アンカーでは「拡張部の施工不足」などが原因になります。いずれも穿孔時の清掃不足や気温管理のミスが背景にあることが多く、施工段階の丁寧な工程管理が根本的な対策です。
再施工が必要な場合は、不合格アンカーを切断・除去し、同箇所を補修した上でアンカーを打ち直します。施工済みの設備や構造物に影響が出ることもあるため、不合格が出てからの対処は時間もコストも大きくかかります。試験を甘く見ないことが条件です。
なお、追加検査の方針は監理者と協議して決定するため、「自分たちで勝手に判断する」のは認められません。現場責任者は監理者との連絡体制を整えておく必要があります。
アンカー引張試験.com(不合格時の対応・追加検査例の解説)
接着系アンカーを使う現場で、特に見落としやすいのが「試験タイミング」の問題です。
金属系アンカーは施工完了後すぐに引張試験が可能ですが、接着系アンカーは接着剤(樹脂)が所定の硬化時間に達するまで試験ができません。これが原則です。
国土交通省の「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」では、接着系アンカーの養生時間は「原則24時間」とされています。旭化成のARケミカルセッターのように代表的な製品でも、「引張試験前の養生時間は24時間が確実」と明示しています。お急ぎの場合でも、少なくとも製品仕様書に定められた硬化時間以上を確保した上で、長期許容荷重以内の荷重をかけることが求められます。
この24時間という制約が、現場の工程に影響を与えることがあります。たとえば月曜日に施工した接着系アンカーは、最短でも火曜日に試験が行えます。スケジュールの余裕がない工事では、試験の順番待ちが工程全体の遅延要因になることもあります。
試験前に養生確認が必要です。
気温の低い冬場は特に注意が必要です。接着剤は低温になると硬化が遅くなるため、5℃以下の環境下では指定の養生時間を大幅に超えても十分な強度が発現しないことがあります。製品によっては気温別の硬化時間が仕様書に記載されているので、施工前に必ず確認してください。施工後すぐに試験しようとして不合格になるケースの一因は、養生時間不足であることが少なくありません。
試験のタイミングを間違えると、本来合格できるはずの施工でも不合格になり、不要な追加検査が発生します。計画段階で試験日を1日後にずらすだけで、このリスクを回避できます。
国土交通省「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」(接着系アンカーの養生・試験に関する規定)