

建築の図面や仕様書を扱う現場では、発注者や協力会社から「このフォントで作ったPDFが文字化けする」「PDF保存時にエラーが出る」といった相談が定期的に発生します。原因として名前が挙がりやすいのが「Arial Unicode MS」です。
ただし結論から言うと、「Arial Unicode MSを公式サイトから単体で安全にダウンロードして導入する」という発想自体が、現在では成立しにくいです。Microsoft Q&Aの回答では、ArialUnicodeMSが含まれている製品一覧は提示される一方で「現時点では公式には新規に入手する方法は無いようです」と明言されています。つまり、持っている“正規ライセンスの製品に含まれている範囲”で取り出すのが前提になります。
現場でよくあるパターンは次の2つです。
・古いOffice環境(または別PC)には入っているが、今のPCには無い
・CAD/3D/文書ソフトがPDF生成時だけこのフォントを要求してくる
この状況で「とりあえず入れれば直る」だけで動くと、コンプライアンス事故になりやすいのがフォントです。特に取引先への成果物(図面PDF・検査記録・施工要領書)に関わると、後から是正が効きません。まず“入手の筋”を整理してから、技術的な解決に進めるのが安全です。
参考:SOLIDWORKSでPDF保存時にArial Unicode MSが必要になる背景(エラー原因と回避策)
https://www.cad-solutions.co.jp/solidworks/faq/l/ba0009/
「昔は入っていたのに、今は無い」という話には理由があります。SOLIDWORKSのFAQでは、Arial Unicode MSは「Microsoft Office 2013以前のものであれば含まれておりましたが、Microsoft Office 2016には含まれておりません」とされています。つまり、同じ“Office”でも世代で同梱状況が異なるため、PC更改やVDI移行のタイミングで欠落しやすいわけです。
また、PDF変換や図面出力で問題になるのは「表示できるか」よりも「出力時に必要と判断されるか」です。SOLIDWORKS側の説明では、図面に英語以外の文字が含まれているPDF変換でArial Unicode MSを利用することがあり、フォントが見つからないとレンダリングに失敗してエラーになる、とされています。つまり、普段は英語図面だけで回っている部署が、突然日本語注記つきの図面を扱うと発火します。
この手のトラブルは、建築・設備・土木のいずれでも起きます。例えば、
・設備側の図面テンプレートだけ注記が日本語
・外注図面の属性情報(ブロック属性)に多言語が混ざる
・検査帳票をOfficeで回し、図面管理システムがPDF化する
のようなケースです。
対策としては「Officeの版を戻す」よりも、フォント依存を外す(テンプレートの置き換え、PDF生成の設定変更、代替フォントの指定)のほうが長期的に安定します。ただし短期の復旧では、次章の“コピー入手”が候補に上がりやすいので、そこに潜む危険を知っておく必要があります。
ネット検索をすると「arialuni.ttfを落としてC:\Windows\Fontsに入れる」といった手順が多く見つかります。しかし、この手順の“技術部分”だけを真似すると危険です。フォントはソフトウェアであり、入手経路と再配布条件が重要だからです。
SOLIDWORKSのFAQは、エラー回避の手段として「他の端末でArial Unicode MSフォントがあれば、それをコピーして入手する」手順を掲載しています。ただし同じページ内で「Microsoft Officeのライセンスをお持ちであることが前提」と明確に条件を付けています。ここが実務の肝です。
・ライセンスを持つ端末 → その端末内で利用する、が基本
・組織内の複製・展開 → 契約形態やEULA条項に依存し、勝手にやると危険
特に建築の現場では、協力会社へ「このフォントを入れてください」とファイルを渡してしまいがちです。しかしフォントファイルをそのまま渡す行為は、許諾が無い限り再配布に該当し得ます。成果物がPDFでも、元データ(DWG/SLDPRT/Excel)を渡すときにフォント同梱が必要になり、そこから事故が起きます。
実務として安全な順番は、次の通りです。
・まず、社内で正規に保有している製品(古いOffice等)に含まれているか確認する(監査しやすい)
・次に、社内の同一ライセンス条件で導入できる手順に落とす(端末コピーをするなら根拠を残す)
・それが無理なら、代替フォントに切り替えてフォント依存を断つ(取引先含め再現性が高い)
参考:ArialUnicodeMSは「含まれている製品一覧」はあるが、公式の新規入手は無いという整理
https://learn.microsoft.com/ja-jp/answers/questions/4962322/arialunicodems
建築従事者にとって重要なのは、「フォントを入れたら直った」で終わらせず、“再発しない仕組み”にすることです。特にPDFは、発注者提出・確認申請・施工図承認など、工程の節目で大量に生成されます。ここでエラーや文字化けが出ると、スケジュールに直撃します。
SOLIDWORKSのFAQが示す通り、図面に英語以外の文字が含まれているPDF変換でArial Unicode MSを利用する場合があります。つまり、PDF出力パイプライン(CAD→PDF、Office→PDF、PDM/EDMS→PDF)にフォント依存が潜んでいると、端末差・環境差で事故が起きます。
実務での対策例(社内標準化しやすい順)
・図面テンプレート(タイトル枠・注記スタイル)の標準フォントを、全端末で入手容易なものに統一する
・PDF生成側でフォント埋め込みができるなら、埋め込み設定を標準化する(相手先環境差を潰す)
・「フォント不足でエラーになるソフト」は、出力前にフォントチェックを行う運用を作る(チェックリスト化)
・外注成果の受け入れ基準に「使用フォント」「PDF化条件」を追加する(手戻りを契約的に減らす)
ここでよく誤解されるのが、「PDFなら必ずフォントが埋め込まれる」という思い込みです。生成方法次第で埋め込まれない、または一部サブセットのみ、ということがあり得ます。だからこそ、フォントが無い端末でも必ず同じ見た目で出るように、最初から“依存しない設計”に寄せるのが強いです。
検索上位の記事は「入手方法」や「インストール手順」に寄りがちですが、建築の現場で本当に効くのは“運用の設計”です。特に複数社協業(設計・施工・設備・メーカー)が前提の案件では、特定フォントへの依存は、協力会社の環境差を増幅させます。
そこで独自視点として提案したいのは、「Arial Unicode MSを探す」よりも、次の3点をセットで整備することです。
・図面テンプレートの棚卸し:タイトル枠、注記、寸法スタイル、属性文字がどのフォントに依存しているか一覧化する
・出力ルールの固定:PDF保存の手順を作業者依存にせず、PDM/バッチ出力など“同じ変換器”に寄せる
・代替フォント戦略:端末配布が容易で、和文・記号・矢印・丸数字などの不足が起きにくいフォントを採用する
意外と見落とされるのが「記号・外字・矢印・機器記号」の領域です。建築図面では、文字そのものよりも、注記内の記号や丸囲み数字、単位記号(μ、φなど)で崩れることが多いです。つまり“日本語が出るか”だけでなく、“現場で使う記号が欠けないか”がフォント選定の評価軸になります。
さらに、図面のライフサイクル(設計→施工→維持管理)を考えると、今のPCで出力できても、数年後に同じフォントが入手できず再現できないのは大問題です。Microsoft Q&Aで「公式には新規に入手する方法は無い」とされるフォントに依存したままだと、将来の再現性が弱くなります。だから、短期復旧としてArial Unicode MSの導入が必要な場合でも、中期で“依存を外す”ロードマップを引くのが、建築従事者として現実的です。
もし社内の状況(Windowsの版、Office契約、SOLIDWORKS以外のCAD/図面管理、PDF生成経路)が分かれば、「Arial Unicode MSが必要な箇所」と「代替で潰せる箇所」を切り分けた手順に落とし込めます。どのソフトでPDF保存時にエラーが出ていますか?