アスファルトウレタン塗膜系防水の特徴と施工方法
アスファルトウレタン塗膜系防水の基本
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信頼性の高さ
アスファルト防水は100年以上の歴史があり、耐用年数が長く高い信頼性を持つ防水工法です。
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相性の問題
アスファルト系とウレタン系の組み合わせには注意が必要で、適切な界面処理が重要です。
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施工方法の多様化
近年は施工性や防水性向上のため、熱工法、冷工法、トーチ工法など様々な工法が開発されています。
アスファルト防水の歴史と種類別特徴
アスファルト防水は建築防水の歴史において最も古い工法の一つで、100年以上の実績を持ちます。その高い信頼性と耐用年数の長さから、現在でも多くの新築現場で採用されています。アスファルト防水には主に3つの工法があり、それぞれ特徴が異なります。
- 熱工法(溶融アスファルト工法)
- アスファルトを溶融釜で220℃〜270℃に加熱・融解
- アスファルトルーフィングを貼り付けて防水層を形成
- 最も歴史のある工法だが、煙と臭気が強く火災や火傷のリスクあり
- 施工に熟練技術が必要で、作業者の後継者不足により利用が減少
- 冷工法(常温工法)
- アスファルトルーフィングに粘着層を設け、常温で貼り重ねる
- 溶融釜不要で煙や臭気の心配がほぼなし
- 熱工法やトーチ工法に比べて接着性がやや低い
- シートを何枚も重ねるため重量が大きく建物への負荷が増加
- トーチ工法
- アスファルトルーフィング裏面をバーナーで炙りながら敷設
- 冷工法より接着性が良いが、火気使用に注意が必要
- 加熱不足による施工不良が発生しやすく、熟練技術が必要
- 狭小な場所では施工性が良くない
現在では火気をほぼ使わない冷工法が主流になりつつありますが、それぞれの工法には長所と短所があり、施工条件や要求性能に応じて選択する必要があります。
ウレタン塗膜防水の特性とアスファルトとの相性
ウレタン塗膜防水は柔軟性に優れ、複雑な形状にも対応できる防水工法として広く利用されています。しかし、アスファルト防水との組み合わせには重大な注意点があります。
ウレタン塗膜防水の主な特徴:
- 伸縮性に優れ、建物の動きに追従できる
- 複雑な形状や細部の処理が容易
- 軽量で建物への負担が少ない
- 一般的に溶剤系の材料が多い
アスファルトとウレタンの相性問題:
ウレタン防水材の多くは溶剤系であり、この溶剤がアスファルト層を浸食してしまうという大きな問題があります。アスファルトは溶剤に弱く、ウレタン防水材を直接アスファルト層の上に施工すると、時間をかけて徐々に浸食が進行します。
この浸食は施工直後ではなく、じわじわと時間をかけて進行するため、改修工事完了から1年程度で不具合が発生するケースもあります。一度浸食が原因で漏水が発生すると、既存防水層まで全て撤去して防水をやり直す必要が生じ、大きなコストと労力がかかります。
対策方法:
- 適切なプライマー処理(界面処理)を行う
- 水性タイプのウレタン防水材を選択する
- アスファルトと相性の良い防水材(同質系)を使用する
アスファルト防水の上にウレタン防水を施工する場合は、必ず専門業者に相談し、適切な界面処理や相性の良い材料選定を行うことが重要です。
アスファルトウレタン塗膜系防水の取り合い部分での不具合要因
シート系防水と塗膜防水の取り合い部分は、防水工事において特に注意が必要な箇所です。「取り合い」とは、平場をシート系防水、架台などの複雑部位に塗膜防水を施工する場合の界面(接触する部分)を指し、この部分での防水層の層間処理が防水性能を左右します。
主な不具合要因:
- 伸縮の相違
- シート系防水材と塗膜防水材では伸縮率が異なる
- 建物の動きによって取り合い部分に応力が集中
- 伸縮の差により接着面が剥離するリスクが高まる
- 可塑剤の影響
- 可塑剤とは「材料を柔らかくする性質を有する添加剤」
- 可塑剤を含む異種の防水層が接触すると、濃度平衡により可塑剤が移行
- 可塑剤が多い防水材から少ない防水材へ移行し、移行先の防水層が軟化
- 塩ビシートやウレタン系塗膜防水材に多く含まれ、ゴムシートには少ない
- シートの特性による問題
- シート自体の特性(硬さ、柔軟性など)が取り合い部分の性能に影響
- 特に異種材料との接着性能が良くないシートもある
- ゴムシートは異種材料との接着性能が良好ではない
- 溶剤による浸食
- 溶剤系のウレタン防水材がアスファルト層を浸食
- 時間の経過とともに徐々に浸食が進行
- 最終的に防水機能が損なわれ漏水の原因となる
これらの不具合要因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。シート系防水と塗膜防水の取り合いには、「3種のシート」と「2種の塗膜」を組み合わせた6パターンがあり、それぞれ相性が異なります。
シート系防水と塗膜防水の相性表:
シート種類 |
アスファルト系塗膜防水 |
ウレタン系塗膜防水 |
アスファルト系防水 |
◎ (最適) |
△ (注意が必要) |
塩ビシート防水 |
× (不適) |
〇 (プライマー処理必要) |
ゴムシート防水 |
× (不適) |
△ (接着性に課題あり) |
適切な組み合わせと処理方法を選択することで、不具合リスクを大幅に低減できます。
アスファルト系防水の改修工法と選定ポイント
アスファルト防水は高い信頼性を持ちますが、経年劣化により改修が必要になります。改修工法には主に「カバー工法」と「撤去工法」の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。
カバー工法と撤去工法の比較:
工法 |
長所 |
短所 |
カバー工法 |
・既存防水を撤去しないので廃材が少ない・既存防水の機能を継続利用可能・工期が短く、コストを抑えられる |
・適切な下地処理が必要・新規防水材の重量が加算される・新規防水材との相性に注意が必要 |
撤去工法 |
・新築時と同じ仕上がりになる・適切な下地処理がしやすい・防水層の総重量を抑えられる |
・撤去の手間が膨大・廃材処理に多額の費用が必要・仮防水が必要で工期が長くなる |
改修工法選定のポイント:
- 既存防水層の状態評価
- 劣化状態の詳細な調査
- 膨れや破れの範囲と程度の確認
- 下地の状態確認
- 建物の構造負荷の検討
- 新たな防水層の重量が建物に与える影響
- 特に冷工法でのカバー工法は重量増加に注意
- 新規防水材との相性確認
- 既存アスファルト防水との相性
- 溶剤系材料の使用可否
- 界面処理の必要性
- 予算と工期の制約
- 撤去工法は費用と工期がかかる
- カバー工法は比較的短期間で完了
- 環境への配慮
- 廃材量の削減
- 臭気や有害物質の発生抑制
- 周辺環境への影響
多くの場合、予算と工期の制約から、既存防水層があまり傷んでいなければカバー工法が選択されます。カバー工法を選択する場合は、既存アスファルト防水との相性が良く、溶剤による浸食リスクの少ない防水材を選定することが重要です。
アスファルトウレタン塗膜系防水の最適な組み合わせと施工技術
アスファルト防水とウレタン塗膜防水を組み合わせる場合、それぞれの特性を理解し、最適な施工方法を選択することが重要です。特に既存のアスファルト防水上にウレタン塗膜防水を施工する場合は、相性の問題に注意が必要です。
最適な組み合わせ:
- アスファルト系シート防水 + アスファルト系塗膜防水
- 同質系材料のため最も相性が良好
- 「アスリード工法」:超耐久加熱型改質アスファルト塗膜防水工法
- 「キュービックコート」:常温型アスファルト塗膜防水工法
- 架台回りや立ち上がり部分に特に有効
- 塩ビシート防水 + ウレタン塗膜防水
- プライマー処理(界面処理)が必須
- 「可塑剤」「接着性能」対策として適切な界面処理が必要
- 水性タイプのウレタン防水材を選択するとより安全
- ゴムシート防水 + ウレタン塗膜防水
- 接着性能対策としてプライマー処理が必要
- ゴムシート自体が異種材料との接着性が良くないため注意が必要
施工技術のポイント:
- 下地処理の徹底
- 既存防水層の清掃(ホコリ、油分の除去)
- 膨れや破れ部分の適切な補修
- 段差や凹凸の調整
- プライマー(界面処理剤)の選定と塗布
- 既存防水層との相性を考慮したプライマー選択
- 均一な塗布と適切な乾燥時間の確保
- 塗布量の管理(少なすぎても多すぎても不具合の原因)
- 防水材の施工
- 推奨される塗布量・厚みの確保
- 均一な塗布と適切な重ね代の確保
- 気温や湿度に応じた施工管理
- 複雑部位の処理
- 架台回りや配管貫通部などの複雑形状部位の丁寧な処理
- 補強布の適切な使用
- 立ち上がり部の処理と水切りの設置
- 仕上げ材の選定と施工
- 紫外線対策としてのトップコート選定
- 防滑性や耐候性を考慮した仕上げ材の選択
- 均一な塗布と適切な乾燥時間の確保
施工上の注意点:
- アスファルト防水上にウレタン塗膜防水を施工する場合は、溶剤系ではなく水性タイプを選択する
- 異なる防水材の取り合い部分は、十分な重ね代(100mm以上)を確保する
- 気温や湿度の条件を考慮し、適切な施工環境を確保する
- 施工後の養生期間を十分に確保する
適切な組み合わせと施工技術により、アスファルト防水とウレタン塗膜防水の長所を活かした信頼性の高い防水層を形成することができます。
水性塗膜防水材によるアスファルト防水の改修事例と効果
アスファルト防水の改修において、溶剤系ウレタン防水材の使用は浸食リスクがあるため、水性塗膜防水材を用いた改修事例が増えています。ここでは、実際の改修事例と効果について紹介します。
水性塗膜防水材の特徴:
水性塗膜防水材は、有機溶剤を含まないため、アスファルト防水層を浸食するリスクがありません。また、臭気が少なく、健康被害の懸念も低減できるため、居住者がいる建物の改修工事に適しています。
改修事例1:集合住宅屋上の防水改修
- 改修前の状況。
- 築25年の集合住宅
- 既存アスファルト防水の劣化(部分的な膨れと亀裂)
- 一部漏水が発生
- 採用工法。
- 完全水性の通気緩衝工法(ビッグサンRX工法相当)
- 下地調整からトップコートまで全て水性材料を使用
- 施工プロセス。
- 既存防水層の清掃と部分補修
- 水性プライマーの塗布
- 通気緩衝シートの敷設と固定
- 水性防水材の塗布(2〜3回)
- 水性トップコートの塗布
- **改