
アスロックは、建築業界で広く使用されている押出成形セメント板の代表的な製品です。1970年に株式会社ノザワが世界で初めて量産化に成功し、以来50年以上にわたり多くの建築物に採用されてきました。正式には「押出成形セメント板(Extruded Cement Panel、略称:ECP)」と呼ばれ、セメントやケイ酸などを主材料として板状に押出成形した建材です。
この建材の特徴は、板の中に空洞部分を持つ中空構造であり、高温・高圧の蒸気がま「オートクレーブ」内で蒸気養生を行うことで強度を高めています。現在では、国土交通省監修の「公共建築工事標準仕様書」にも記載され、JIS規格(JIS A 5441:2023)も制定されており、建築業界における信頼性の高い外壁材として確立されています。
アスロックの製造プロセスは、その性能を決定づける重要な要素です。セメントと繊維質材料を主原料とし、押出成形機を使用して中空構造の板材に成形されます。この製造方法により、以下のような特徴が生まれます。
製造工程では、原料の調合から押出成形、養生、検査まで厳格な品質管理が行われています。特に、オートクレーブでの高温高圧蒸気養生は、アスロックの強度と耐久性を高める重要なプロセスです。
埼玉工場と播州工場(兵庫県)の2か所で生産され、JIS Q9001:2015規格に基づく品質管理システムにより、厳しい検査基準をクリアした製品だけが出荷されています。この徹底した品質管理が、アスロックの信頼性を支えています。
アスロックの最も重要な特性の一つが優れた耐火性です。建築基準法に基づく外壁や間仕切壁に必要な耐火認定を取得しており、建築物の防火対策において重要な役割を果たしています。
アスロックの耐火性能は以下のように分類されます。
これらの認定により、アスロックは様々な用途の建築物に適用できます。特に、柱・梁の合成被覆耐火構造と組み合わせて使用されるケースが多く、建物全体の防火性能を高めることができます。
耐火性能試験では、200サイクルの凍結融解試験後も著しい割れ、膨れ、剥離がなく、質量変化率も5%以下という優れた結果を示しています。この高い耐火性能により、万が一の火災時にも建物の安全性を確保することができます。
また、アスロックは不燃材料として認定されており、石綿(アスベスト)を含まない環境に配慮した製品であることも重要なポイントです。近年の建築基準法の改正に対応し、より安全で環境に優しい建材として評価されています。
アスロックは優れた耐震性を持ち、建物の層間変位に対応できる設計となっています。これは、Z型のクリップによる取り付け工法を標準採用しているためで、地震時の建物の揺れに対して柔軟に対応することができます。
2016年には、より高い耐震性能を持つ「アスロックNeo」が開発され、2017年4月から販売が開始されました。この新素材は従来のアスロックよりも素材強度が向上し、特に高層建築向けに開発された「アスロックNeo-HS(ハイスペック)」は、センターロッキング工法の採用により建物の揺れに伴うパネルの動きを半減させることに成功しています。
アスロックの耐震性能は以下のように分類されます。
これらの工法により、中低層(31m未満)から高層(31m~60m)、超高層(60m以上)まで、建物の高さに応じた適切な施工方法を選択することができます。特に高層建築向けの「アスロックNeo-HS」は、PCパネルなどの重量外装材と比較して軽量であるため、構造体への負担が少なく、施工用重機費用も削減できるというメリットがあります。
阪神淡路大震災や東日本大震災などの大規模地震においても、アスロックは外的要因以外の損傷がほとんど報告されておらず、その耐震性能の高さが実証されています。
アスロックは外部側のシーリングが破損しても室内側へ雨水が侵入しないよう、二次防水工法を標準化しています。これにより、長期にわたって高い水密性を維持することができます。
アスロックの水密性能は工法によって異なり、以下のように分類されます。
特に注目すべきは、2017年に発売された高層専用工法「アスロックNeo-HS」の水密性能です。3,500Paという高い水密性能は、1㎡あたり約350kgの圧力(瞬間最大風速76m/sに匹敵する暴風雨)に耐えることができます。これは、観測史上最大となる1965年の台風23号(風速69.8m/s)に匹敵する暴風雨でも漏水しない性能です。
ニューセフティ工法では、特殊なヒレ型のガスケットで水みちを作り雨水を最下層へ導く構造や、クロス目地部の塞ぎゴムが連結部の弱点を克服する設計になっています。また、低反発で柔軟な特殊ウレタンフォームを全てのアスロック目地に採用することで、形状追従性に優れ、圧縮に対する復元性と圧縮の残留ひずみが小さく、長期にわたり止水性能を保持します。
建築外壁材を選定する際、アスロックとALC板(軽量気泡コンクリート板)はよく比較検討されます。両者はそれぞれ異なる特性を持っており、建築物の用途や要件に応じて適切に選択することが重要です。
以下に、アスロックとALC板の主な違いをまとめます。
性能項目 | アスロック | ALC板 | 選定ポイント |
---|---|---|---|
製造方法 | 押出成形(中空構造) | 発泡コンクリート(多孔質構造) | 用途に応じた構造特性の選択 |
重量 | 中空構造で軽量(ただしALC板より若干重い) | 非常に軽量 | 構造負荷の制約による選択 |
耐火性 | 優れている(1時間耐火構造認定取得) | 非常に優れている | 防火要件による選択 |
耐凍害性 | 優れている(密度が高く吸水性が低い) | やや劣る | 寒冷地や水分暴露環境での選択 |
遮音性 | 優れている(中空層による遮音効果) | 良好(気泡による遮音効果) | 遮音要件による選択 |
デザイン性 | 非常に優れている(タイル張りなど多様な仕上げ) | やや劣る(素地の印象が安価) | 外観要件による選択 |
施工性 | 良好(工場製作・現場組立) | 良好(工場製作・現場組立) | 施工環境による選択 |
アスロックの特長としては、密度の高い材質による低い吸水性と高い耐候性、中空構造による優れた遮音性、豊富なデザインバリエーションが挙げられます。特にタイル張りなどの仕上げが容易で、高級感のある外観を実現できる点が大きな魅力です。
一方、ALC板は超軽量であることから構造負荷を軽減できる点や、優れた断熱性能が特長です。ただし、アスロックと比較すると耐凍害性やデザイン性ではやや劣ります。
建築物の用途、立地条件、デザイン要件、予算などを総合的に考慮し、それぞれの特性を活かした適材適所の選択が重要です。例えば、高層建築物で高い水密性と耐震性が求められる場合はアスロックが、軽量化が最優先される場合はALC板が適しているといえるでしょう。
アスロックは50年以上の歴史を持ちながらも、常に技術革新を続けています。2017年に発売された「アスロックNeo」は、従来品から素材強度を大幅に向上させた画期的な製品です。この技術革新により、より過酷な環境条件下でも安定した性能を発揮することが可能になりました。
最新のアスロック技術における主な進化ポイントは以下の通りです。
また、アスロックは環境対応商品の開発にも積極的に取り組んでいます。太陽光パネルや壁面緑化パネルなど、環境に配慮した製品ラインナップを拡充しています。これらの製品は、建築物の環境性能向上に貢献するとともに、SDGsへの取り組みとしても評価されています。
さらに、施工の効率化と品質向上のための技術開発も進んでいます。例えば、ガスケットを予め工場で貼る「工場プレ加工対応」を導入し、現場での作業効率向上と施工品質の安定化を実現しています。これにより、剥離紙ゴミの軽減や粉じんの減少など、作業環境の改善にも貢献しています。
アスロックの技術革新は、単に製品性能の向上だけでなく、施工性の向上や環境負荷の低減など、建築業界全体の課題解決にも貢献しています。今後も、より高性能で環境に優しい建材として、さらなる進化が期待されています。
アスロックの性能を最大限に発揮するためには、適切な施工方法と現場での取り扱いが重要です。アスロックの施工は、主に縦張り工法と横張り工法に大別され、それぞれに特徴があります。
縦張り工法の主なポイント:
横張り工法の主なポイント:
施工時の主な注意点としては、以下が挙げられます。
また、アスロックは最大長さ5mまで製造可能で、働き幅は900mmと600mmを標準としています。用途に応じて様々な厚さ、働き幅が用意されているため、設計段階から適切な寸法計画を行うことが重要です。
施工品質の向上と効率化のために、近年では工場でのプレ加工対応も進んでいます。例えば、ガスケットを予め工場で貼り付けることで、現場での作業効率向上と品質の安定化を図っています。
アスロックの施工は、専門的な知識と経験が必要です。適切な施工を行うことで、アスロックの優れた性能を長期にわたって維持することができます。施工に際しては、メーカーの技術資料や施工マニュアルを十分に確認し、必要に応じて専門業者に相談することをお勧めします。