

はめあいを読む第一歩は、「穴は大文字(H7など)、軸は小文字(h6など)」という公差クラスのルールを押さえることです。穴・軸の公差クラスは“文字(公差域)+数字(公差等級)”の組合せで示され、図示サイズの後ろにH7、h6のように記入して指定します。これにより、現場や図面で「どの程度のすきま/しめしろを狙っているのか」を共通言語化できます。
次に重要なのが、単位感覚です。公差表では多くの場合、許容差がμmで示されます(例:10~14mm区分の穴H7が「+18 0」のように記載される)。数字をmm換算せずに感覚で扱うと、加工側と組立側で認識がズレてトラブルになりがちです。とくにベアリングは“回転精度・音響・寿命”に直結するため、一般機械よりも公差の影響が表に出ます。
公差表の見方は、ざっくり以下の手順が確実です。
実務で参照される「穴の公差表・軸の公差表」は、JIS B 0401の抜粋として整理されていることが多く、穴H系や軸h系、さらにK6・M6・N6・P6など中間~しまり方向の公差域がまとまっています。たとえば、三木プーリの資料はJIS B 0401-1/0401-2の抜粋として、穴(E7~H10、Js6~R7)と軸(d8~h9、js5~r6)の許容差表を一覧化しています。
公差表は「加工の許容範囲」を示すだけで、ベアリングの推奨はめあいそのもの(用途条件ごとの推奨公差域)はベアリングメーカーのカタログ側に載る、という切り分けも押さえておくと迷いません。つまり、JISの公差表で“数字を確定”し、メーカー推奨で“どの記号を選ぶか”を決めるイメージです。
穴・軸の公差表(JIS B 0401抜粋)で、具体的な許容差を確認できる。
はめあい公差一覧表(JIS B 0401 抜粋)|三木プーリ
ベアリングのはめあいは、「内輪と軸」「外輪とハウジング」の2か所で成立します。ここで失敗しやすいのが、“どっちをきつくするか”を、なんとなくの慣習で決めてしまうことです。メーカー解説では、不適切なはめあいが原因で、軌道輪の割れ・早期剥離・軌道輪の移動、クリープやフレッチング(はめあいさび)による摩耗、内部すきま過小による焼付き、回転精度や音響不良などが起きうるとされています。
選定の大原則は、ラジアル荷重の作用方向がその軌道輪に対して“相対的に回転する”なら、その軌道輪はしまりばめが基本という考え方です。NTNの解説では「回転荷重が作用する軌道輪はしまりばめ」「静止荷重が作用する軌道輪はすきまばめにできる」と整理され、荷重の性質で内輪・外輪の固定方針が変わることが示されています。ここが、建築設備(ファン・搬送・プーリ・ローラ)や仮設機械の設計で効いてきます。
ただし例外もあります。非分離形(代表:深溝玉軸受)の場合、内輪・外輪の両方をガチガチに固定すると、熱伸びや取付誤差の逃げがなくなり、組立性や寿命に不利になることがあります。NTNの説明でも「非分離形軸受では、内輪または外輪のいずれか一方をすきまばめとするのが一般的」とされ、軸方向固定はナット・止め輪など別手段も含めて確実にする必要がある、とされています。
現場での“あるある”を挙げると、次のようなパターンです。
このため「しまりばめ/すきまばめ」は、固定したいから・抜けたら困るから、だけで決めず、荷重の性質・温度・組立性・内部すきま(後述)までセットで検討するのが安全です。メーカーのはめあい章には、使用条件(材料・肉厚・面粗さ・速度・温度など)を踏まえて推奨公差域クラスを選ぶ必要がある、と明記されています。
はめあいが原因で起きる不具合(クリープ、フレッチング、焼付き等)の整理ができる。
NTN カタログ「7. はめあい」(PDF)
「公差表はあるけど、結局どのくらいのすきま/しめしろになる?」を数字で把握しておくと、加工・検査・組立の会話が一気にラクになります。基本は次の式で、最小値と最大値を両方出します(ここでは穴-軸を“すきま”として表現します)。
たとえば穴がH7で、軸がh6なら「穴はプラス側に広がる」「軸はゼロ基準でマイナス側に入る」組合せになり、一般に“すきま寄り(組立しやすい)”になります。逆に、軸がk6・m6・n6・p6…と進むほど、軸公差域がプラス側へ寄り、しめしろ(圧入)が発生しやすくなります。三木プーリの公差表には、穴のH6/H7/H8や、軸のh5/h6、さらにk5/k6、m5/m6、n6、p6など、よく使うクラスがまとまっているため、設計者が“候補の当たり”を付けやすいのが利点です。
ただし、ベアリングのはめあいで厄介なのは「相手が一般の穴・軸だけではない」点です。内輪・外輪そのものにも寸法公差があり、さらに実際には面粗さや真円度、円筒度が影響します。NTNの資料では、はめあい面の粗さが“しめしろの減少”につながり、研削軸で1.0~2.5μm、旋削軸で5.0~7.0μm程度の減少を見込む必要があると説明しています。表で出したしめしろが小さい場合、この「粗さで消える分」を加味しないと、計算上は圧入でも実機は“ゆるい”という逆転が起きます。
さらに、NTNの解説では「上限値は軸径の1/1000以下を目安」といった過大しめしろの注意も示されています。圧入が強すぎると、軌道輪に応力が入って割損や寿命低下の原因になり得るため、無理にきつくするのは危険です。はめあいは“固定”と“寿命・すきま・温度”のバランス問題だと割り切ると、設計が安定します。
現場で使える簡易チェックとして、次をおすすめします。
はめあいの失敗が“壊れる”方向に進む代表例が、内部すきまの過小化です。圧入(しまりばめ)を与えて取り付けると、内輪は膨張し外輪は収縮するため、ラジアル内部すきまが減少します。メーカー技術資料でも、しまりばめが内部すきまを減らすことが明確に示されており、単に「抜けないようにきつくした」の結果として、すきま不足→発熱→焼付き、という流れが起きます。
さらに、運転温度が絡むと計算が一段難しくなります。NTNの資料では、内輪と軸のしめしろは、運転時の温度差により減少し、その必要しめしろ(減少量)は式(7.3)として ΔdT = 0.0015・d・ΔT(μm)で見積もれる、と説明されています。ここでdは軸受内径(mm)、ΔTは軸受温度と周囲温度との差(℃)です。つまり、同じ公差でも、温度差が大きい設備(高回転、密閉、熱源近接)ほど、常温での“見かけのしめしろ”が運転中に目減りします。
温度だけでなく材料の線膨張係数も要注意です。NTNの資料では、軸やハウジングに鋼材以外(軽合金や樹脂など)を用いる場合、線膨張係数の違いで、はめあい(しめしろ)が変化するとして、ΔdTE =(α1-α2)× d × ΔT の形で変化量を扱える、と説明しています。建築設備でも、アルミハウジングや樹脂部品を使うケースが増えているので、“常温の圧入感”だけで判断するのは危険です。
よくある誤解に、「温度が上がると全部きつくなる」があります。内輪・外輪・軸・ハウジングは温度上昇や材料によって膨張の仕方が違い、内輪側はしめしろが減る一方で、外輪側は状況により逆にしめしろが増大する可能性も指摘されています。設計としては、固定側/自由側(軸方向の逃げ)を明確にして、どこで熱伸びを逃がすかを先に決めるのが安全です。
この領域で役に立つ“チェック項目”は次です。
温度差によるしめしろ減少の式や、しめしろ設定の考え方がまとまっている。
NTN カタログ「7. はめあい」(PDF)
検索上位では「はめあい=公差表で決める」が中心になりやすい一方、建築・設備の現場では“施工・保全の管理項目”としてはめあいを見ると事故が減ります。なぜなら、はめあい不良が生む故障は、加工ミスだけでなく「据付時の打撃」「振動」「締付不足」「分解整備の繰り返し」「保管時の腐食」など、施工・運用要因でも発生するからです。NTNの故障観察ページでも、フレッチング(はめあいさび)は振動、軸のたわみ、取付誤差、しめしろ不足などが原因になり得るとされ、対策として固定やしめしろ見直しが挙げられています。
ここで意外と効くのが、「据付後の“初期なじみ”」を前提にした管理です。NTNのはめあい解説には、はめあい面が滑らかになることでしめしろが減少する(面粗さ起因の減少)という話がありました。これを現場目線に翻訳すると、組立直後は圧入っぽく見えても、運転・微振動・温度サイクルで“有効しめしろが落ちる”ことがある、ということです。つまり、最初に問題が出なくても、数週間~数か月でクリープやフレッチングが顕在化することがあります。
そこで、施工・保全でできる実務的な工夫をまとめます。
そして、建築従事者向けに強調したいのは「公差表どおり=正しい」ではなく、「設備の使われ方(振動・温度・整備頻度)に合うか」が勝負、という点です。たとえば整備頻度が高い装置は、作業性を優先して“すきま寄り”にしつつ、回り止めや軸方向固定で逃げる設計が有効な場合があります。逆に、振動が大きく分解しない装置は、しまりばめ優先+内部すきま選定をセットで固める、という設計思想が合います。
フレッチング(はめあいさび)の原因と対策を写真付きで確認できる。
フレッチング・はめあいさび|NTN