
蝶ナットの規格はJIS B 1185により定められており、1種から4種まで存在します。それぞれの種類には明確な特徴があります。
各種類の特徴
1種は冷間圧造により製造され、翼端が半円形になっているのが特徴です。M6からM20まで対応し、D(翼の直径)は32mm~90mmの範囲でサイズ展開されています。
2種は現在最も流通している規格で、翼端が角形になっています。R(小形)とH(大形)の2つのバリエーションがあり、M3からM12まで対応しています。小形タイプのM3では翼幅17mm、大形タイプのM10では翼幅48mmとなります。
3種はプレス製蝶ナットとも呼ばれ、薄型設計が特徴です。ねじ部の高さによって高形と低形に分類され、限られたスペースでの使用に適しています。
蝶ナットのサイズ選定には、正確な寸法データが必要不可欠です。以下に主要な規格の寸法を整理します。
2種(R=小形)の寸法表
この寸法データは設計時の干渉チェックや取り付けスペースの確認に重要です。特に翼幅(D)は回転時に必要な最小クリアランスを決定する重要な要素となります。
1種の代表的な寸法
許容差の管理も重要で、M8以下は±1.5mm、M10以上は±2mmが標準となっています。この許容差は組み付け時の調整幅に影響するため、精密な組み立てが必要な場合は考慮が必要です。
プレス製3種の特殊寸法
プレス製の3種は他の種類と異なる寸法体系を持ちます。M3で翼幅19.1mm、厚み0.8mmという薄型設計により、限られた空間での使用が可能です。
蝶ナットの材質選定は使用環境と要求性能に大きく左右されます。主な材質と特性を以下に示します。
鉄系材料の特徴
鉄製蝶ナットは最も経済的な選択肢で、屋内使用や一般的な機械部品に適用されます。三価クロメート処理により軽度の防錆効果を得られますが、厳しい腐食環境には不向きです。
ステンレス材料の優位性
ステンレス製は食品機械、医療機器、海洋環境での使用に適しています。特にSUS316Lは塩化物環境での優れた耐食性を示し、長期間のメンテナンスフリー運用が可能です。
特殊材料の応用分野
チタン製蝶ナットは重量比強度が高く、腐食環境下でも優れた性能を維持します。ただし、材料コストが高いため、特殊用途に限定されることが一般的です。
蝶ナットの性能評価において保証トルクは重要な指標です。JIS規格では材質とねじ精度に応じた保証トルク値が規定されています。
保証トルクの基準値
A種とB種の区分は材料の機械的性質の違いを示しており、A種がより高い強度を有します。設計時には使用荷重が保証トルクの70%以下になるよう安全率を設けることが推奨されます。
ねじ精度と保証トルクの関係
ねじ精度が高いほど締付けトルクの伝達効率が向上し、安定した締結力を得られます。特に繰り返し使用する用途では、精度クラスの選択が長期信頼性に影響します。
実用的な強度計算例
蝶ナットM8(保証トルク12.7N・m)を使用する場合、翼部での手締めトルクは通常5~8N・m程度となります。この値は一般成人の手締め力を考慮した実用的な範囲です。
建築業界では蝶ナットの規格選定において、従来の機械設計とは異なる特殊な要求事項が存在します。
仮設工事での規格活用
建築現場では足場材や型枠の固定に蝶ナットが多用されますが、作業員の安全性確保が最優先となります。翼幅が大きすぎると作業時の引っ掛かりリスクが高まるため、M8以下の小径サイズが好まれる傾向があります。
気象条件への対応策
屋外作業では朝露や雨天時の滑りやすさが課題となります。翼部表面に滑り止め加工を施した特注品や、グリップ性を向上させた樹脂コーティング仕様が実用化されています。これらは標準規格外の仕様ですが、現場の安全性向上に寄与しています。
解体時の作業効率向上
建築物の改修工事では、既存設備の蝶ナットが経年劣化により固着している場合があります。この際、翼部の形状が2種(角形)の方が1種(半円形)よりも工具での補助作業が容易になるという現場知見があります。
大型建築での特殊規格適用
高層建築や大型施設では、標準規格を超えるM30以上の蝶ナットが必要となる場合があります。これらは特注対応となりますが、設計荷重と風圧荷重を考慮した強度計算により、安全な締結システムの構築が可能です。