
貯湯式電気温水器は、本体内の貯湯タンクに貯めた水を電気ヒーターで加熱してから給湯する方式の設備です。建築業従事者にとって、この設備の構造理解は施工計画の基本となります。貯湯式は時間をかけてお湯を作るため、瞬間式と比較してヒーター容量が小さく、シンプルな構造で本体価格が抑えられている点が大きな特徴です。
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貯湯式電気温水器はさらにタンク構造により密閉式と開放式に分類されます。密閉式は給水管の水圧がそのままタンク内に伝わる構造で、シャワーなど勢いのある給湯が可能です。一方、開放式はタンク内が大気に開放されており、主に手洗い用などの用途に使用されます。建築現場では用途に応じてこれらを使い分ける必要があります。
電気を使ってヒーターを温め、そのヒーターで水を温めることでお湯を作る仕組みは、火を使わないため安全性が高く、設置場所の制約も少ないのが利点です。保温性の高いタンクにお湯を貯めておき、使用したい時にいつでも安定した温度のお湯を利用できる「貯湯式」タイプは、安定した給湯が求められる建築物に適しています。
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貯湯式電気温水器の基本構造は、外槽と内槽の二重構造になっています。内槽は深絞り加工という金属板を順次絞り伸ばす工法で成形され、外槽は深絞り加工した複数の部品を溶接して組み立てられます。この二重構造の間には断熱材が充填されており、保温性能を高めています。
参考)https://www.nishi.co.jp/module/tank-unit/electric-hot-water-tank/
缶体外面には断熱効果の高い発泡断熱材を採用している製品が多く、缶体内のお湯が冷めにくい構造となっているため、保温のための待機電力が国内メーカーの同等機種と比較して極めて少なく抑えられています。この断熱性能の高さは、ランニングコストに直結する重要な要素です。
タンク内には電気ヒーターが設置されており、このヒーターが水を加熱します。貯湯式はタンクに水を貯めてから加熱するため、ヒータの容量を小さくでき、ランニングコスト低減に貢献します。また、深夜電力を活用してお湯を作り置きすることで、電気料金が安い時間帯を有効活用できる設計になっています。
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タンクの容量は使用人数に応じて選定する必要があり、150リットルから460リットルまで幅広いラインナップがあります。貯湯式の場合、お湯の使用量の目安はタンク容量のおよそ1.8倍となっており、200リットル容量のタンクでも350リットル相当のお湯を供給することができます。
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貯湯式電気温水器の最大のメリットは、シンプルな構造により本体価格が抑えられている点です。瞬間式が瞬時にお湯を作るための大容量ヒーターを装備しているのに対し、貯湯式は時間をかけてお湯を作るため、ヒーター容量が小さくて済みます。これにより初期投資を抑えることが可能です。
もう一つの重要なメリットは、深夜電力を活用できる点です。電気料金が安い深夜の時間帯にお湯を作って貯めておくことで、ランニングコストを抑えられます。建築業従事者としては、オール電化住宅や商業施設での採用時に、この経済性を顧客に説明できることが重要です。
一方でデメリットとして、保温のための電力が必要になる点が挙げられます。タンク内のお湯を一定温度に保つため、使用していない時間帯も待機電力を消費します。また、貯湯式はお湯切れのリスクがあり、タンク容量を超える使用があった場合、お湯が使えなくなる可能性があります。
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ガス給湯器と比較すると、導入費用が高めである点もデメリットです。さらにエコキュートと比較した場合、ランニングコストが高くなる傾向があります。電気温水器の月あたりの電気代が約3,000円であるのに対し、エコキュートは約1,000円と約3分の1に抑えられます。しかし、寿命は電気温水器が10年から15年、エコキュートが8年から10年と、電気温水器の方が長持ちする傾向があります。
参考)https://mizuho-jyusetu.com/column/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E6%B8%A9%E6%B0%B4%E5%99%A8%E3%81%A8%E3%82%AC%E3%82%B9%E7%B5%A6%E6%B9%AF%E5%99%A8%E3%81%A7%E3%81%8A%E6%82%A9%E3%81%BF%E3%81%AE%E6%96%B9%E3%81%B8/
貯湯式電気温水器の年間ランニングコストは約104,000円程度とされており、都市ガスを使用するガス給湯器に比べると高くなります。月あたりの電気代に換算すると約3,000円程度です。これは貯湯タンクの保温のために常時電力を消費することが主な要因となっています。
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エコキュートと比較すると、エコキュートの年間ランニングコストは一般的な地域で約22,000円、寒冷地でも約33,000円と、貯湯式電気温水器の約3分の1から5分の1程度に抑えられます。これはエコキュートがヒートポンプ技術によって大気の熱を利用する仕組みのため、電気温水器より少ない電力で熱を作り出せるためです。
貯湯式電気温水器の寿命は一般的に10年から15年程度とされています。ただし、これは取扱説明書に記載されている使い方で、定期的に点検やメンテナンスを行った場合の寿命です。使用頻度や使い方によっても異なりますが、10年を過ぎると故障や不具合が出やすくなるため注意が必要です。
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メンテナンスについては、1年に1回から2回の頻度で行うことが推奨されています。貯湯タンクや配管は使用していると汚れが蓄積していき、故障の原因になるだけでなく、身体に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。また、減圧弁やパッキンといった部品は消耗品のため、10年よりもっと早いタイミングで交換が必要となります。建築業従事者としては、施主に対してこうした維持管理の重要性を伝えることが大切です。
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貯湯式電気温水器を選ぶ際、最も重要なのはタンク容量の選定です。使用人数に応じた最適な容量を選ぶことで、コストとスペースの無駄を防ぎ、同時にお湯切れのリスクも回避できます。使用人数が少ないにも関わらず大容量タイプを選べば、コストもスペースも無駄になります。
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タンク容量の目安として、使用人数が1人から2人なら約200リットル程度、3人から4人であれば約370リットル、4人から6人では約460リットルほどの容量が推奨されています。ただし少人数であっても、日頃からお湯の使用量が多い場合は、容量が多いタイプを検討する必要があります。
建築物の用途による選定も重要です。住宅向けと業務用では求められる性能が異なります。業務用の場合、一度に大量のお湯を使用するケースが多いため、より大容量のタンクや複数台設置が必要になることがあります。また、設置場所の制約も考慮する必要があり、容量が大きくなればなるほど設置するタンクの大きさも大きくなります。
参考)給湯設備施工に関する情報
地域性による選定も無視できません。寒冷地に住んでいる場合、寒冷地仕様の電気温水器を選ばなければ、すぐに故障してしまう可能性があります。同様に、海が近い地域では塩害対策仕様のものを選ぶ必要があります。建築業従事者としては、プロジェクトごとの立地条件を十分に考慮した機種選定が求められます。
機能とランニングコストのバランスも選定の重要なポイントです。機能が豊富で快適な分だけ、ランニングコストも高くなる傾向があるため、施主のニーズと予算を考慮しながら選ぶ必要があります。長期的な視点では、初期費用は高くてもランニングコストの低いエコキュートへの切り替えも検討価値があります。
電気温水器には貯湯式と瞬間式の2種類があり、それぞれ加熱方式が大きく異なります。瞬間式は給水管から入った常温水が管を通る際に「瞬間的」に加熱してお湯にする方式で、利用者が水道を使うと同時に加熱し始めるため、待機時は電力を消費しません。
貯湯式は給水管から入った常温水をいったんタンクに貯め、中で加熱してお湯にする方式です。タンクに貯めたお湯を保温のために一定温度に下がると自動的に加熱し電力を消費します。また、利用者が水道を使用すればタンクのお湯が減り再び常温水が補給されるので、さらに加熱で電力を消費します。
瞬間式のメリットは、使う時に使う分しか電力を使わず、湯切れがない点、そして貯湯タンクがないため本体が小さい点です。一方でデメリットとして、瞬時にお湯を作るための大容量ヒーターが装備されているため、電気設備容量も大きなものが必要となります。建築物の電気容量に余裕がない場合は、瞬間式の採用が難しいケースもあります。
貯湯式のメリットは、時間を掛けてお湯を作るためヒーター容量が小さく、シンプルな構造で本体価格が抑えられている点です。デメリットは保温のための電力が必要になることと、タンク容量を超える使用があった場合にお湯切れが発生する点です。建築業従事者としては、これらの特性を理解し、建物の用途や電気設備の状況に応じて適切な方式を選定することが重要です。
サイズと消費電力の違いも大きなポイントです。瞬間式はタンクが不要なためコンパクトですが、大容量ヒーターを装備するため電気設備容量が大きくなります。貯湯式はタンクのスペースが必要ですが、ヒーター容量は小さく、深夜電力を活用することで経済的な運用が可能です。
平成24年12月12日に「建築設備の構造耐力上安全な構造方法を定める件(平成12年建設省告示第1388号)」が改正され、平成25年4月1日より施行されました。この改正により、満水時質量が15kgを超える全ての給湯設備について、転倒防止等の措置の基準が明確化されました。
参考)給湯設備の施工に関するお知らせ
この告示改正の背景には、大規模地震による給湯設備の転倒・移動による被害を防止する目的があります。貯湯式電気温水器は、タンクに水を満たした状態では非常に重量が大きくなり、地震時の転倒リスクが高いため、適切な耐震施工が不可欠です。
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建築業従事者にとって、この耐震施工基準の遵守は法的義務であり、施工不良による事故は重大な責任問題につながります。平成25年4月1日以降、給湯設備はこの告示に基づき設置することが義務付けられており、施工時には必ず基準を満たす措置を講じる必要があります。
LIXIL等の主要メーカーでは、貯湯量が8L以上の製品が耐震施工の対象となっており、製品本体に同梱の固定金具を使用し、施工説明書に従って固定することが求められています。これは小型電気温水器であっても対象となるため、建築現場では見落とさないよう注意が必要です。
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貯湯式電気温水器の設置では、まず既存設備の撤去を行い、同じ場所または別の場所にユニットを設置します。タンクはお湯を満タンまで入れると400kg以上になることも珍しくないため、設置場所によっては追加工事が必要です。
設置予定場所がコンクリートの場合は、強度を調べて直接アンカーを打ち込んで倒れないように固定します。設置場所が砂利や土の場合は、エコベースもしくは先行土間打ちを行います。エコベースとは、電気温水器や蓄電池を設置する際に使用する基礎のことで、高い強度と安全性を誇り、作業時間が短いことから簡易基礎とも呼ばれています。
国土交通省告示第1447号(平成25年4月1日施行)に適合した設置工事が必要であり、必ずメーカー指定の据付工事を実施する必要があります。取付方法によって対応できる耐震性能が異なるため、施工説明書を熟読し、正確な施工を行うことが求められます。
参考)https://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/ldg/wink/ssl/wink_doc/m_contents/wink/MA_IM/t965z220h06.pdf
配管工事では、給水・給湯配管工事、ヒートポンプ配管工事などを行います。また、凍結防止・保温工事も重要な工程であり、特に寒冷地では入念な施工が必要です。階上(2、3階)給湯や階下給湯など、設置場所による配管制約も考慮しなければなりません。
貯湯式電気温水器の耐震施工では、製品に付属または別売の耐震用脚を使用することで、告示に適合した施工を行うことが可能です。耐震用脚を使用した施工により、告示第4号の耐震性能を満たすことができます。
製品によって固定方法が異なり、キャビネット内設置の場合は底面への固定、カウンター下設置の場合は壁面への固定が一般的です。また、電気温水器周囲に丈夫な壁や囲いを設けるなどの施工を現場で行う方法もあります。建築業従事者は、設置場所の状況に応じて最適な固定方法を選択する必要があります。
貯湯量別の対象・非対象については、各メーカーの仕様表を確認する必要があります。例えば、6Lや12Lといった小容量の製品でも、自動水栓機能部を電気温水器本体に固定した場合は耐震施工義務があります。ただし、自動水栓以外の水栓をセットする場合でも、建築躯体との強固な固定により安全性がさらに向上するため、耐震用脚の使用が推奨されています。
施工の際は、製品本体に同梱の施工説明書をよく読み、正しく施工することが重要です。耐震用脚の詳細については、各メーカーのカタログを参照し、適切な部材を使用する必要があります。建築現場では、施工後に据付工事後の確認チェックリストを用いて、確実に基準を満たしているか検証することが求められます。
貯湯式電気温水器の電気工事では、まず貯湯ユニットへの配線工事を行います。電気温水器は専用回路を必要とし、電源容量も適切に確保する必要があります。貯湯式は瞬間式と比較してヒーター容量が小さいため、電気設備容量は比較的抑えられますが、それでも専用ブレーカーの設置は不可欠です。
アース工事も重要な工程です。貯湯ユニットとヒートポンプユニット(エコキュートの場合)の両方に適切なアース工事を施す必要があります。これは感電事故を防ぐための安全対策であり、建築基準法でも義務付けられています。
リモコン工事では、操作パネルの配線と設置を行います。リモコンは使いやすい位置に設置し、配線も美観を損なわないよう配慮する必要があります。浴室リモコンを設置する場合は、防水性能も考慮しなければなりません。
電気工事完了後は、試運転を実施して正常に動作するか確認します。この試運転では、加熱機能、温度制御、安全装置の動作確認などを行い、施工不良がないことを確実に検証する必要があります。建築業従事者としては、電気工事業者と密接に連携し、工程管理を適切に行うことが重要です。
建築業従事者が貯湯式電気温水器を施工する際、特に注意すべき点がいくつかあります。まず、設置スペースの確保です。貯湯式電気温水器はタンクが必要なため、十分なスペースを確保する必要があります。容量が大きくなればなるほどタンクも大きくなるため、設計段階で適切な容量選定とスペース計画が重要です。
新築物件の場合は、電気容量の計画も重要です。貯湯式電気温水器は専用回路が必要であり、分電盤の容量計画に組み込む必要があります。オール電化住宅の場合は、電力会社との契約容量も考慮しなければなりません。深夜電力を活用する場合は、時間帯別電灯契約などの適切な電気料金プランを施主に提案することも建築業従事者の役割です。
給水配管の計画も慎重に行う必要があります。貯湯式電気温水器への給水は、水圧や水質も考慮しなければなりません。特に密閉式の場合は、給水圧力が適切でないと十分な給湯性能が得られないことがあります。また、硬水地域では水垢の付着が早まるため、メンテナンス計画も施主に伝える必要があります。
メンテナンススペースの確保も見落としがちなポイントです。貯湯式電気温水器は定期的なメンテナンスが必要であり、1年に1回から2回の頻度で点検を行うことが推奨されています。そのため、設置場所は点検作業が容易に行える位置である必要があります。タンクの排水作業や部品交換ができるスペースを確保することが、長期的な使用において重要となります。
建築現場では複数の工種が並行して進むため、電気温水器の搬入・設置タイミングも重要です。タンクは重量があるため、床の養生や搬入経路の確保が必要です。また、施工後の試運転は他の設備工事が完了してから行う必要があるため、工程管理を適切に行い、各工種間の調整を図ることが建築業従事者に求められます。