

プライマーを1回塗っただけで上塗りを進めると、数年後に塗膜が全面剥離する現象が起きます。
打放しコンクリートは、その無機質でシンプルな美しさから建築家やデザイナーに長年愛用されてきた仕上げ方法です。しかし「美しいまま放置できる素材」という認識は、建築業に携わるプロこそが持ちやすい誤解のひとつです。
コンクリートは空気中の二酸化炭素を吸収することで、内部のアルカリ性(pH12〜13)が徐々に低下する「中性化」という劣化現象が進みます。この中性化がコンクリートの表面から内部に向かって進行し、鉄筋の被り厚さ(一般に2.0cm程度)に到達すると、鉄筋が腐食を始めます。腐食した鉄筋は体積が約2.5倍に膨張するため、コンクリートを内側から押し広げ、「爆裂」と呼ばれる大規模な剥落を引き起こします。この段階まで劣化が進むと、1箇所あたりの補修費用だけで3万〜7万円を超えることもあります。
中性化は目に見えません。
さらに打放し面は仕上げ材を持たないため、紫外線・酸性雨・凍結融解などの外的要因に直接さらされます。塗装や撥水処理が施されていないコンクリートに1年間雨に当て続けた場合と、適切な保護工法を施した場合とでは、表面の美観に一目でわかるほどの差が生じることが実験でも確認されています。打放し仕上げのメンテナンス目安は、一般的に6〜7年程度とされており、この周期を超えると修繕規模が大きくなりやすいことを現場で意識しておく必要があります。
| 劣化現象 | 主な原因 | 放置した場合のリスク |
|---|---|---|
| ひび割れ(クラック) | 乾燥収縮・荷重・温度差 | 雨水浸入・中性化促進 |
| 中性化 | CO₂浸透・アルカリ低下 | 鉄筋腐食・爆裂 |
| エフロレッセンス | 水酸化カルシウムの溶出 | 美観低下・ひび割れ促進 |
| カビ・苔の発生 | 水分保持・アルカリ低下 | 外観悪化・吸水促進 |
| 爆裂(剥落) | 鉄筋腐食による膨張 | 落下事故・大規模修繕 |
こうした劣化を防ぐための第一線として機能するのが、適切な塗装による保護工法です。エスケー化研のセラミクリート工法は、こうした打放しコンクリート特有の課題に対して、吸水防止・中性化抑制・耐候性向上を同時に実現するために設計されたシステムです。
参考リンク(打放しコンクリートの劣化現象と保護の必要性について)。
塗装で蘇る打放しコンクリートの美しさ|エスケー化研株式会社
エスケー化研のセラミクリート工法は、現場の状況(新築か改修か)と求める耐久グレードによって4つの工法バリエーションが用意されています。つまり一種類だけ覚えておけば済む話ではありません。
新築向け工法として、「セラミクリートSi工法」と「セラミクリートF工法」の2種類があります。セラミクリートSi工法は下塗りにセラミクリートプライマー、上塗りに水性アクリルシリコン樹脂を使用し、期待耐用年数は12〜15年です。一方のセラミクリートF工法は、下塗りにセラミクリートプライマー、中塗りにセラミクリートF中塗材、上塗りに水性ふっ素樹脂を使用し、期待耐用年数は15〜20年と長期にわたります。
耐用年数の差は約5年です。
価格面では、セラミクリートSi(3分艶クリヤー仕上げ)が2,500〜3,150円/㎡(下塗材込み)、セラミクリートF(3分艶クリヤー仕上げ)が3,600〜4,490円/㎡(下塗材込み)が設計価格の目安です(300㎡以上の材工共価格)。この差額を「どちらでも似たようなもの」と判断するか、「5年間の再施工コストと比べたときの判断材料」として捉えるかで、長期的な費用対効果は大きく変わります。
改修向け工法は「セラミクリートTR-Si工法」と「セラミクリートTR-F工法」です。改修工法では、通常の下塗り・上塗りに加えて中塗りとして「セラミクリートフレッシュ」を使用します。改修時には経年変化で下地の吸い込みが大きくなっているケースが多く、この専用の改修中塗り材を挟むことで仕上がりの均質性を確保できます。改修工法の対象は「未塗装、もしくは浸透性吸水防止材が施されていた下地」に限られます。既存の造膜タイプのクリヤー仕上げがある場合は、別途メーカーへの確認が必要です。
| 工法名 | 対象 | 上塗り樹脂 | 期待耐用年数 | 設計価格目安(㎡) |
|---|---|---|---|---|
| セラミクリートSi工法 | 新築 | 水性アクリルシリコン | 12〜15年 | 2,500〜3,150円 |
| セラミクリートF工法 | 新築 | 水性ふっ素樹脂 | 15〜20年 | 3,600〜4,490円 |
| セラミクリートTR-Si工法 | 改修 | 水性アクリルシリコン | 12〜15年 | 要確認 |
| セラミクリートTR-F工法 | 改修 | 水性ふっ素樹脂 | 15〜20年 | 要確認 |
また、仕上がりのバリエーションとして「クリヤー仕上げ」と「カラークリヤー仕上げ(着色透明タイプ)」を選択できます。カラークリヤーは打放しの素地感を残しながら若干の着色を行いたい場合に有効で、補修部位の色ムラが気になる現場で特に活用されます。塗り回数や所要量に仕様の差があるため、設計段階での確認が必要です。
参考リンク(セラミクリート工法の製品仕様・設計価格詳細)。
セラミクリート工法 製品情報|エスケー化研株式会社
施工品質の90%は下地処理で決まる、と言っても過言ではありません。どれだけ高性能な塗料を選んでも、下地の状態が整っていなければ塗膜は正常に機能せず、早期剥離・膨れ・色ムラといったトラブルを引き起こします。
セラミクリート工法における施工仕様書(エスケー化研)には、下地の条件として「含水率10%以下、pH10以下」が明記されています。新築コンクリートは打設後も長期間水分を保持しているため、施工前に含水率計を使った確認は必須です。特に北向きや日当たりの悪い面は乾燥が遅れやすく、見た目は乾いていても内部が基準値を超えているケースがあります。乾燥不足のまま施工を進めると、塗膜が内部の水蒸気圧に押されて膨れ、最終的に全面剥離に至ります。これは現場でゼロにできる失敗です。
下地処理の手順としては、まず「洗浄」からはじめます。粉化物(チョーキング)、エフロレッセンス(白華)、離型剤の残留物、汚れ、カビなどを高圧洗浄または専用薬品を用いて徹底的に除去します。これらが残存すると、後工程のプライマーが下地に密着せず、塗膜の付着不良を引き起こします。
次に「補修」を行います。ひび割れが1mm未満の場合はフィラー刷り込み、1mm以上の場合はVカット(Uカット)後にシーリング材を充填します。構造クラックにはエポキシ樹脂注入が必要です。また巣穴は大きさによって対応が分かれ、1mm未満はそのまま施工可能ですが、1mm以上の巣穴はセメントモルタル等で補修してからセラミクリートプライマーを施工します。表面上は小さく見える巣穴でも、内部が大きな空洞になっているケースがあるため、下地の状態に対する注意力が問われます。
補修が終わったら次が下塗りです。
セラミクリートプライマーの塗り回数判断は、経験の浅い施工者が最もミスを起こしやすいポイントです。標準は1回塗りですが、下地の吸い込みが多い場合は必ず2回塗りが求められます。判断基準は2つあり、「①1回目の塗装後に光沢が出ない」「②塗装後1時間経過して水をかけても全面が濡れ色になる」のどちらかに該当する場合、2回塗りが必要です。2回塗りの際の所要量は合計0.20〜0.26kg/㎡となります。改修工事では経年変化により吸い込みが増大していることが多く、この判断をより慎重に行う必要があります。
参考リンク(セラミクリート工法の標準施工仕様書・施工上の注意点)。
オール水性・コンクリート打放し保護工法 施工仕様書|大橋塗料(エスケー化研資料)
「シリコンで十分か、フッ素を使うべきか」という選択に迷う場面は現場で少なくありません。結論から言えば、建物の立地・用途・予算サイクルの3軸で判断することが原則です。
エスケー化研のセラミクリートFは、主剤に水性ふっ素樹脂を採用しており、セラミクリートSiとの最大の差は「低汚染機能」にあります。ふっ素樹脂の撥水・撥油性によって、外壁面への排気ガス汚れ・砂塵・カビの付着が抑制され、長期間にわたって美観が維持されます。都市部や幹線道路沿い、工業地帯に近い立地では、この低汚染機能が仕上がりの差として数年後に如実に現れます。
コストで考えるとどうでしょうか?
たとえば200㎡の打放し外壁に施工する場合、セラミクリートSi(3,000円/㎡換算)では60万円、セラミクリートF(4,000円/㎡換算)では80万円、差額は20万円です。一方で耐用年数がSiで12年・Fで20年とすると、20年間での塗り替え回数はSiで約1.7回分、Fで1回分となります。単純計算でも、差額20万円を払ってFを選んだ方が長期コストを抑えられる可能性が高い。これが現場の技術者として顧客に説明できる根拠になります。
ただし、フッ素上塗りのセラミクリートFは2液型(主剤+硬化剤1.33重量比で混合)であり、混合比率を誤ったり可使時間を超過して使用したりすると、低汚染機能が正常に発揮されません。可使時間内での計画的な施工管理が求められます。
また、カラークリヤー仕上げを選ぶ場合、一度に厚塗りすると色調の修正が難しくなり色ムラの原因となるため、薄く均一に重ね塗りするのが基本です。色を濃くしたいときは塗り回数を2回に増やし、所要量を0.20〜0.26kg/㎡に調整します。現場でのカラー確認は必ず試し塗りから入ることが条件です。
参考リンク(セラミクリートF・Siの仕様比較と施工上の注意)。
セラミクリート工法の4つの特長|三誠ホームサービス
セラミクリートTR工法(Total-Refresh工法)は、改修専用の工法でありながら、その内容が現場で正確に理解されていないケースが目立ちます。「改修はTR工法を使えばいい」で止まってしまい、工程の意味や適用条件の差を把握せずに施工して失敗するパターンが実際に発生しています。
TR工法の要になるのが「セラミクリートフレッシュ」という中塗り材です。これは改修専用の塗材であり、経年劣化した打放し面の吸い込み差・色ムラ・補修跡を均質化するために設計されています。この材料を省略して新築用のSiまたはF工法で対応しようとすると、補修部位と未補修部位で吸い込み差が生じ、プライマー施工後に色違いが発生します。乾燥後には塗装部と未塗装部の区別がつきにくいため、施工中の確認が難しくなる点も要注意です。TR工法での中塗り材は省略できません。
また、TR工法の対象下地は「未塗装、または浸透性吸水防止材が施されていた下地」に限定されています。これが意外に知られていないポイントで、造膜タイプのクリヤーがすでに施工されている場合は別途対応が必要です。旧塗膜の種類が不明なときは、試し塗りや密着試験を行い、互換性を事前に確認してから本施工に進むことが原則です。
施工順を整理するとこうなります。
各工程の間隔時間(インターバル)は気温・湿度によって変化します。最終養生時間の24時間以内に降雨があると、塗膜の膨れ・白化・つや引けが発生するリスクがあります。特にセラミクリートFの低汚染機能は乾燥後の塗膜で発揮されるため、乾燥過程での降雨は機能を損なう原因になります。施工当日の天気予報だけでなく翌日の気象確認まで含めた養生計画が必要です。これは見落とされやすい管理ポイントです。
現場ごとの素地状態は異なり、均一な「正解」があるわけではありません。エスケー化研の仕様書には「試し塗りで確認の上、本施工へ」と明記されています。この一手間を惜しまない姿勢が、施工後のクレームゼロにつながります。
参考リンク(TR工法の施工手順・改修標準塗装仕様の詳細)。
セラミクリートTR工法 改装標準塗装仕様書|エスケー化研(大橋塗料掲載資料)