ファラデーの電磁誘導の法則の導出を高校物理の公式と磁束で学ぶ

ファラデーの電磁誘導の法則の導出を高校物理の公式と磁束で学ぶ

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ファラデーの電磁誘導の法則の導出を高校物理で

ファラデーの電磁誘導の法則の[公式]で求める誘導起電力の大きさ

 

電気工事士や施工管理技士として現場で電気を扱う私たちにとって、電気の「発生原理」を知ることはトラブルシューティングの勘を養う上で非常に重要です。その根幹にあるのが、高校物理で習った「ファラデーの電磁誘導の法則」です。現場では変圧器(トランス)や発電機の原理として直感的に理解していることも多いですが、数式として厳密に理解し直すことで、ノイズ対策や配線のインダクタンスへの理解が深まります。
まず、結論となる「公式」を再確認しましょう。ファラデーの電磁誘導の法則は、コイルを貫く磁束が変化するとき、その変化を打ち消そうとする方向に起電力(電圧)が生じるというものです。これを数式で表すと以下のようになります。
V=NΔΦΔtV = -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t}V=−NΔtΔΦ
ここで登場する各変数の意味を整理します。



  • VVV(ボルト [V]): 誘導起電力。回路に発生する電圧の大きさです。


  • NNN(回): コイルの巻き数。巻き数が多いほど、発生する電圧は比例して大きくなります。現場でトランスの巻き数比を変えて電圧変換する原理そのものです。


  • Φ\PhiΦ(ウェーバ [Wb]): 磁束(じそく)。磁力線の束の量と考えます。磁束密度 BBB [T] と、コイルの断面積 SSS [m²] の積で表され、Φ=BS\Phi = BSΦ=BS という関係があります。


  • Δt\Delta tΔt(秒 [s]): 変化にかかった時間。


  • ΔΦ\Delta \PhiΔΦ(ウェーバ [Wb]): その時間の間に変化した磁束の量。


この公式が示しているのは、「短時間(Δt\Delta tΔtが小さい)で、大量の磁束(ΔΦ\Delta \PhiΔΦが大きい)を変化させればさせるほど、強烈な電圧(VVV)が発生する」という事実です。
参考)ファラデーの電磁誘導の法則


電気工事の現場で、通電中の大きな負荷を開閉器で遮断した瞬間にアークが飛ぶことがあります。あれはまさに、電流が急激にゼロになる(Δt\Delta tΔtが極小)ことで、回路のインダクタンス成分(コイル的性質)が「磁束の急激な減少」を感知し、ファラデーの法則に従って極めて大きな逆起電力を発生させている現象なのです。この式を頭に入れておくことで、なぜスイッチング時にサージ電圧が発生するのか、その物理的背景が明確になります。公式は単なる暗記対象ではなく、現場現象を読み解くためのツールなのです。
参考リンク:電磁誘導の基礎とファラデーの法則の直感的理解(電気の管理技術者向け解説)

ファラデーの電磁誘導の法則を[導体棒]とローレンツ力から導出

高校物理において、ファラデーの法則を「導出」する最も有名なアプローチは、磁場中を動く「導体棒」を用いた方法です。これは公式を丸暗記するのではなく、「なぜ電圧が生まれるのか」というメカニズムを電子の動き(ローレンツ力)から解き明かすプロセスであり、非常に論理的です。
1. 設定の確認
一様な磁束密度 BBB [T] の磁場が、紙面の裏から表に向かって垂直にかかっているとします。この磁場の中に、「コの字型」のレールを置き、その上を長さ lll [m] の導体棒が、右向きに速さ vvv [m/s] で滑らかに移動している状況を想像してください。このとき、導体棒には起電力が発生し、一種の「電池」になります。
2. 電子にかかるローレンツ力
導体棒の中には自由電子(電荷 e-e−e)がたくさん存在します。導体棒が右へ速さ vvv で動くと、中の電子も一緒に右へ動きます。
磁場中で電荷が動くと、ローレンツ力を受けます。ローレンツ力の大きさは f=qvBf = qvBf=qvB なので、電子1個あたり f=evBf = evBf=evB の力を受けます。
フレミングの左手の法則(あるいはローレンツ力の向きの規則)を適用すると、正電荷なら下向きに力を受けますが、電子は負電荷なので、上向き(図の設定によっては逆になりますが、ここでは棒の片側に電荷が偏る力)に力を受けます。これにより、導体棒の一端にマイナスの電荷が、もう一端にプラスの電荷が溜まり始めます。
参考)なぜ「ファラデーの電磁誘導の法則」は2とおりの方法で導かれ…

3. 電場による力とのつり合い
電荷が溜まると、導体棒内部に電場 EEE [V/m] が発生します。電子はこの電場から fE=eEf_E = eEfE=eE の力を受けます。
電荷の蓄積は、ローレンツ力と電場による力がつり合うまで続きます。
evB=eEevB = eEevB=eE
これより、導体棒内部の電場の強さは E=vBE = vBE=vB となります。
4. 電位差(電圧)の導出
一様な電場 EEE が長さ lll の区間に発生しているため、導体棒の両端の電位差(電圧) VVV は次のように計算できます。
V=El=(vB)l=vBlV = El = (vB)l = vBlV=El=(vB)l=vBl
これが、導体棒が動くことで発生する誘導起電力の大きさです。
参考)【ファラデーの電磁誘導の法則】難し目の典型問題で効率的に慣れ…

5. ファラデーの法則との一致
では、これを「磁束の変化」という視点で見てみましょう。
導体棒が Δt\Delta tΔt 秒間に動く距離は vΔtv \Delta tvΔt です。
この移動によって、回路(コイル)が囲む面積 SSS は ΔS=l×(vΔt)\Delta S = l \times (v \Delta t)ΔS=l×(vΔt) だけ増加します。
面積が増えた分、回路を貫く磁束 Φ\PhiΦ も増加します。その増加分 ΔΦ\Delta \PhiΔΦ は、
ΔΦ=BΔS=B(lvΔt)\Delta \Phi = B \Delta S = B (lv \Delta t)ΔΦ=BΔS=B(lvΔt)
となります。
これをファラデーの法則の形(ΔΦΔt\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}ΔtΔΦ)に変形してみましょう。
ΔΦΔt=BlvΔtΔt=vBl\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} = \frac{Blv \Delta t}{\Delta t} = vBlΔtΔΦ=ΔtBlvΔt=vBl
これは、先ほどローレンツ力から導いた電圧 V=vBlV = vBlV=vBl と完全に一致します。
つまり、「導体棒内の電子がローレンツ力を受けて移動すること」と、「回路を貫く磁束が変化すること」は、物理学的に同じ現象を別の視点から記述しているに過ぎないのです。この美しい整合性が、高校物理のハイライトの一つと言えます。
参考リンク:導体棒の誘導起電力とローレンツ力の詳細な計算プロセス

ファラデーの電磁誘導の法則と[レンツの法則]で決定する向き

ファラデーの法則の公式 V=NΔΦΔtV = -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} V=−NΔtΔΦ についている「マイナス(-)」の符号。これこそが「レンツの法則」を数式的に表現したものであり、電気回路における「慣性」のような性質を示しています。
レンツの法則を現場感覚で翻訳すると、「コイルは変化を嫌う」という性格を持っています。現状維持をしようとする天邪鬼(あまのじゃく)な性質です。



  • 磁束が増えようとすると…
    外部から磁石が近づいてきて、コイルの中を通る磁束が増えそうになると、コイルは「増えるな!」と抵抗します。具体的には、自分自身で「逆向きの磁束」を作り出して、増分を打ち消そうとします。そのために必要な向きに電流(誘導電流)を流そうとするのです。


  • 磁束が減ろうとすると…
    逆に磁石が遠ざかって磁束が減りそうになると、コイルは「減るな!(行かないで!)」と抵抗します。今度は自分自身で「減少を補う向きの磁束」を作り出そうとします。そのために、さっきとは逆向きの電流を流します。
    参考)電磁誘導(ファラデーの電磁誘導の法則) - 電気主任技術者の…

この「変化を妨げる向き」に発生するという性質が、数式上のマイナス符号として現れています。
高校物理の問題を解く際や、現場で検電を行う際、誘導起電力の「大きさ」はファラデーの法則で計算し、「向き」はレンツの法則で別個に判断する、という手順(2段階法)をとるとミスが激減します。
例えば、電線管の中に並行して敷設された強電線(動力線)と弱電線(通信線)の間でノイズが乗る現象も、このレンツの法則とファラデーの法則の相互作用です。動力線の電流が急変すると周囲の磁束が変化し、隣接する通信線という「コイル」に、その変化を妨げようとする電圧(ノイズ)が誘起されるのです。シールド線を使う理由は、この磁束の結合を切る、あるいは打ち消すためであると理解できます。
参考リンク:レンツの法則の「天邪鬼」な性質と誘導電流の向きの決定法

ファラデーの電磁誘導の法則における[時間変化]と微分の意味

高校物理の範囲では Δ\DeltaΔ(デルタ)を使って「平均の変化率」として扱いますが、より厳密な電気工学や物理学の世界では、これを極限まで短くした「微分」の概念が必要になります。
数式を Δt0\Delta t \to 0Δt→0 の極限で見ると、以下のように書き換わります。
V=NdΦdtV = -N \frac{d\Phi}{dt}V=−NdtdΦ
この dΦdt\frac{d\Phi}{dt}dtdΦ は、「磁束の時間微分」、つまり「その瞬間にどれだけの勢いで磁束が変化しているか」を表します。
「磁束の量そのもの」ではなく「変化のスピード」が電圧を決めるという点が最大のポイントです。
参考)大学物理のフットノート


  • 磁束が大きくても、変化していなければ電圧は0
    どんなに強力なネオジム磁石の近くにコイルを置いても、磁石が止まっていれば(dΦdt=0\frac{d\Phi}{dt} = 0dtdΦ=0)、電圧は一切発生しません。


  • 磁束が小さくても、超高速で変化すれば電圧は巨大
    微弱な磁気でも、それがマイクロ秒単位で反転するような状況(高周波回路など)では、dΦdt\frac{d\Phi}{dt}dtdΦ の値は巨大になり、大きなノイズや起電力を生みます。


建築電気設備の分野では、インバータ制御やPWM制御が多用されます。これらは電圧を高速でスイッチングするため、dΦdt\frac{d\Phi}{dt}dtdΦ が非常に大きくなります。これが原因でモーターのベアリング電食が起きたり、漏電ブレーカーが誤動作したりすることがあります。
高校物理で習う「Δt\Delta tΔt で割る」という操作は、単なる割り算ではなく、「変化の激しさ(傾き)を見ているのだ」という微分の視点を持つことで、現場でのノイズトラブルの原因究明に役立つ「技術者の目」を養うことができます。

ファラデーの電磁誘導の法則の[コイル]応用と相対性理論


最後に、少し視点を変えて、この法則の奥深さと現場機器への応用について触れます。
ファラデーの電磁誘導の法則は、実はアインシュタインが相対性理論を構築するきっかけになった重要なパラドックスを含んでいます。


  1. 磁石が止まっていて、コイルが動く場合
    コイル内の電子がローレンツ力を受けて動くことで電流が発生する(先ほどの導体棒の説明)。


  2. コイルが止まっていて、磁石が動く場合
    電子は止まっているのでローレンツ力は受けないはず。しかし、変化する磁場が空間に「渦電流のような電場」を生み出し、その電場が電子を動かす。

この2つは現象としては「磁石とコイルが近づいた」という同じことなのに、説明する物理法則が「ローレンツ力」と「電場の発生」という全く別のものに見えます。しかし、計算結果(発生する電圧)は完全に一致します。「観測する立場(どちらが動いていると見るか)によって物理法則が変わるのはおかしいのではないか?」という疑問が、物理学の革命につながりました。
参考)ファインマンも解けなかった問題を解明 ~ファラデーの電磁誘導…

私たち建設・設備業の実務において、この「相対運動」の原理を極限まで利用しているのが発電機と**変圧器(トランス)**です。
発電機は、タービンで「コイル(または磁石)」を物理的に回転させ、強制的に dΦdt\frac{d\Phi}{dt}dtdΦ を作り出し、巨大な電力を生み出します。
一方、変圧器は物理的には全く動きません。しかし、一次側コイルに交流電流(時間変化する電流)を流すことで、鉄心内の磁束を絶えず変化させ、二次側コイルがあたかも「磁石が動いている」かのような状態を作り出します。
動いていないのに電磁誘導が起きるのは、交流という「時間変化する電流」が、「動く磁石」の代わりを果たしているからです。
建設現場に鎮座する巨大なトランスや、非常用発電機。それらはすべて、19世紀にファラデーが発見し、高校物理で私たちが学んだ V=NΔΦΔtV = -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t}V=−NΔtΔΦ というたった一行の数式によって支配されています。この数式の意味を「コイル」「磁束」「時間変化」という要素に分解して理解しておくことは、電気設備という巨大なシステムを制御・管理する私たちにとって、最強の武器となるはずです。

ファラデーの電磁誘導の法則
基本公式と意味

V = -N(ΔΦ/Δt)。電圧は磁束の変化スピードに比例する。変化が急激なほど高電圧が発生。

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レンツの法則(向き)

コイルは変化を嫌う。「来るな」「行くな」と抵抗する向きに電流が流れる天邪鬼な性質。

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現場での応用

発電機や変圧器の動作原理そのもの。ノイズやサージ電圧の原因究明にも必須の知識。






光と電磁気 ファラデーとマクスウェルが考えたこと 電場とは何か? 磁場とは何か? (ブルーバックス)