

私たちが普段何気なく選んでいるシャンプーですが、その裏面表示にある「香料」というたった二文字の言葉の裏側に、どのような化学物質が潜んでいるか詳しくご存知でしょうか。特に建築関係の仕事に従事されている方々は、化学物質に対する知識をお持ちの方も多いかと思いますが、日用品であるシャンプーに関しては意外と盲点になりがちです。ここでは、フタル酸エステルがなぜシャンプーに配合されるのか、そしてその毒性が身体にどのようなメカニズムで作用するのかを深掘りしていきます。
まず、フタル酸エステル類(特にフタル酸ジエチルなど)がシャンプーに配合される主な理由は、プラスチックを柔らかくする「可塑剤」としての役割ではなく、香りの「保留剤」としての役割が大きいです。シャンプーの魅力の一つである「良い香り」を長時間持続させるために、揮発しやすい香気成分を繋ぎ止めるアンカーのような役割を果たしているのです。しかし、日本の成分表示ルールでは、複数の成分を組み合わせて香りを構成している場合、それらをまとめて「香料」と一括表示することが認められています。これが、消費者がフタル酸エステルの有無を確認することを極めて困難にしている最大の要因です。
この物質の懸念される毒性として、最も注目すべきは「内分泌かく乱作用(環境ホルモン作用)」です。体内でホルモンの働きを模倣したり、逆に阻害したりすることで、本来の生体機能を狂わせてしまう可能性があります。具体的には以下のような懸念が研究レベルで指摘されています。
特にシャンプーやお風呂というシチュエーションは、体が温まり毛穴が開いている状態です。この状態で使用することで、通常時よりも経皮吸収のリスクが高まる可能性が考えられます。
有用な情報:厚生労働省によるフタル酸エステルの健康影響に関する検討会の中間報告です。玩具などが中心ですが、職業曝露や吸入に関するリスクについても言及があり、物質自体の毒性を理解する上で信頼できる情報源です。
厚生労働省:フタル酸エステル含有おもちゃ等の取り扱いに関する検討会 中間報告書
建築現場で汗を流し、ヘルメットで蒸れた頭皮をケアするために、爽快感のあるシャンプーや育毛効果を謳ったシャンプーを選んでいる男性は多いでしょう。しかし、もしそのシャンプーにフタル酸エステルが含まれていた場合、皮肉なことに「育毛」とは逆の効果を招いてしまう恐れがあります。ここでは、フタル酸エステルが男性ホルモンと頭皮環境に与える影響について、あまり語られることのない視点から解説します。
フタル酸エステル類は「抗アンドロゲン作用」、つまり男性ホルモンの働きを抑制する作用を持つことが動物実験などで示唆されています。男性の活力の源であり、筋肉の維持や体調管理にも重要なテストステロンの生成に干渉する可能性があるのです。一般的に薄毛(AGA)は、テストステロンが変換されたジヒドロテストステロン(DHT)が原因とされますが、そもそものホルモンバランス自体が化学物質によってかく乱されることは、毛髪の成長サイクル(毛周期)にとって決してプラスには働きません。
さらに衝撃的な事実は、頭皮の「経皮吸収率」の高さです。皮膚から物質が吸収される割合は体の部位によって大きく異なり、頭皮は非常に吸収率が高い部位として知られています。ステロイド外用薬の吸収率を比較したデータでは、腕の内側を「1」とした場合、頭皮はその「3.5倍」もの吸収率があることが分かっています。
部位別経皮吸収率の比較(腕の内側を1とした場合)
| 部位 | 吸収率倍率 |
|---|---|
| 腕の内側 | 1.0倍 |
| 手のひら | 0.83倍 |
| 背中 | 1.7倍 |
| 頭皮 | 3.5倍 |
| 頬 | 13.0倍 |
| 陰嚢 | 42.0倍 |
このデータから分かるように、頭皮は腕の皮膚よりもはるかに化学物質を通しやすい性質を持っています。毎日の洗髪で、フタル酸エステルが含まれた泡を、吸収率の高い頭皮に擦り込んでいるとしたらどうでしょうか。特にシャンプーをしている時間は数分間に及び、その間ずっと薬剤が触れ続けています。育毛のために良かれと思って行っている毎日の習慣が、実は化学物質の取り込み口となってしまっている可能性があるのです。
有用な情報:皮膚の部位による薬剤吸収率の違いについて、具体的な数値データとともに解説されています。頭皮がいかにデリケートで吸収しやすい部位であるかが医学的な観点から理解できます。
第一三共ヘルスケア:ステロイド外用剤の上手な使い方(部位別の吸収率について)
これは多くのメディアが見落としている、建築従事者であるあなただけに関わる極めて重要な視点です。一般的なオフィスワーカーと異なり、建築現場で働く方は、仕事中にすでにフタル酸エステルに「曝露(ばくろ)」している可能性が非常に高いという事実をご存知でしょうか。
フタル酸エステルは、塩化ビニル樹脂(PVC)の可塑剤として大量に使用されています。建築現場には、これらを含む建材が溢れています。
現場での作業、特に解体作業や切断、サンディングなどの加工時には、これらの建材から微細な粉塵やガスとしてフタル酸エステルが大気中に放出されます。現場で呼吸をするたびに、微量ながら肺から、あるいは皮膚に付着した粉塵から、フタル酸エステルを取り込んでしまっているリスクがあります(職業性曝露)。
ここで問題になるのが「複合汚染(カクテル効果)」です。
昼間は現場で建材由来のフタル酸エステルを吸入し、帰宅してからはシャンプー由来のフタル酸エステルを経皮吸収する。この「吸入」と「経皮」のダブルパンチを受けているのが建築従事者の現状かもしれません。体内の総負荷量(ボディバーデン)が許容量を超えやすくなる環境にあると言えます。
また、現場仕事特有の「発汗」もリスク要因です。汗をかくと皮膚の水分量が増し、角質層がふやけた状態になります。これは通常時よりも物質の浸透性が高まっている状態です。その状態で、洗浄力の強いシャンプー(フタル酸エステルを含む合成香料入り)を使用することは、乾いた肌に使うよりもさらに深部への浸透を許してしまう可能性があります。現場の汚れを落としたい一心で、ゴシゴシと強く洗う行為も、頭皮のバリア機能を壊し、化学物質の侵入を助長してしまいます。
有用な情報:環境省による調査報告書で、フタル酸エステル類の吸入曝露による生体影響について詳述されています。建材などからの放散や、工場労働者に見られる神経系への影響など、専門的なリスク評価が確認できます。
環境省:フタル酸エステル吸入曝露による生体影響の解明とリスク評価
では、自身の健康と将来の髪を守るために、具体的にどのような基準でシャンプーを選べば良いのでしょうか。前述の通り、成分表示には「フタル酸エステル」とは書かれておらず、「香料」の中に隠れています。完全に避けるためには、成分表示の読み解き方をマスターし、リスクの高い製品を消去法で除外していくスキルが必要です。
建築資材のスペックを確認する時のように、シャンプーの裏面も厳しくチェックしましょう。以下の基準を参考にしてください。
1. 「合成香料」を避けるのが最善策
最も確実な方法は、「無香料」または「天然精油(エッセンシャルオイル)のみ使用」の製品を選ぶことです。
特に海外製の安価な製品や、香りの持続性を強く謳っている製品は要注意です。一方で、オーガニック認証(エコサートやUSDAなど)を取得している製品は、合成香料の使用やフタル酸エステルの使用が厳しく制限されているため、安全な選択肢となります。
2. 「フタル酸フリー」の明記を探す
近年、健康意識の高まりにより、メーカー側も自主的に「フタル酸フリー(Phthalate-free)」をパッケージに明記するケースが増えています。特に育毛シャンプーやスカルプケア製品では、差別化のためにこの表記を行うことがトレンドになっています。
3. メーカーの姿勢を確認する
成分表示だけでは判断がつかない場合、メーカーの公式サイトを確認するのも手です。「全成分開示」を行っているか、あるいは「使用していない成分リスト」を公開しているかを確認します。信頼できるメーカーは、消費者の不安に対して透明性を持って情報を開示しています。
4. 容器の材質にも注意を払う
意外な盲点ですが、シャンプーのボトル自体が軟質塩化ビニル製の場合、容器から内容液にフタル酸エステルが溶け出す(移行する)可能性があります。PET素材(ポリエチレンテレフタレート)やPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)など、可塑剤を必要としない硬質プラスチック容器の製品を選ぶとより安心です。
現場での安全管理と同様に、自宅で使用する日用品についても「危険予知」を行い、リスクを最小限に抑える対策をとることが、長く健康で働き続けるための投資となります。今日から浴室にあるシャンプーの裏面を、図面を見るような鋭い目つきでチェックしてみてください。
有用な情報:塩ビ工業・環境協会によるフタル酸エステルの安全性情報です。産業界側の視点からの安全性主張ですが、逆にどのような用途(建材など)に使われているか、規制の現状はどうなっているかを把握するために役立ちます。中立的な判断材料として参照してください。
塩ビ工業・環境協会:フタル酸エステルの安全性情報

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