

「軽くなるのに、中が空洞だと強度が落ちると思っていたら、実は最大50%軽量化しつつ剛性は変わらない部品が作れます。」
ガスアシスト射出成形(英語表記:Gas-Assisted Injection Molding、略称GAIM)とは、プラスチックの射出成形工程において、溶融した樹脂を金型内に射出した直後に、高圧の窒素ガス(不活性ガス)を注入することで、成形品の内部に中空構造(空洞)を形成する製造技術です。1970年代に旭化成が考案し、1990年代には海外メーカーも参入してブームになった歴史ある技術でもあります。
通常の射出成形では、溶融した樹脂を金型キャビティに100%充填します。一方でガスアシスト射出成形では、まず樹脂をキャビティ容積の約70〜90%程度しか充填しません。その後すぐに高圧の窒素ガス(圧力は150 kg/cm²前後が目安)を注入し、残り10〜30%の空間にガスを押し込みます。これが基本の流れです。
ガスが注入されると、まだ溶融状態にある樹脂のコア(内側)部分を外周方向へ押し広げます。樹脂は金型の壁面に密着しながら冷却・固化し、内部には中空のトンネル状空洞が形成されます。最終的に金型を開いて取り出すと、外側は均一な壁厚、内側は空洞という構造の成形品が完成します。つまり中空構造が基本です。
建築業に携わる方にとって身近なイメージで言えば、鉄骨の角パイプに近い構造です。中身が詰まった鉄棒よりも、中が空洞の角パイプの方が軽量でありながら曲げ剛性に優れています。ガスアシスト射出成形によるプラスチック部品も同様の原理で、軽いのに強い構造が実現できます。
成形工程は大きく4ステップで構成されます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 樹脂射出 | 溶融樹脂をキャビティ容積の約70〜90%充填(ショートショット) |
| ② ガス注入 | 高圧窒素ガスをノズルまたは金型から直接注入 |
| ③ 冷却・保圧 | ガス圧で樹脂を金型壁面に押し付けながら冷却・固化 |
| ④ 取り出し | 金型を開いてガスを排出し、中空成形品を取り出す |
このプロセス全体を適切に制御するためには、ガス注入タイミング・ガス圧力・樹脂充填量の3つのバランスが鍵です。ガス注入のタイミングが早すぎると樹脂が十分に広がらず、遅すぎると表面にガスが吹き抜けて欠陥(ブローアウト)が生じます。これが条件設定の難しさです。
参考:ガスインジェクション成形の基本原理とCAE解析への応用について、旭化成プラスチックスが詳しく解説しています。
ガスインジェクション成形への応用|第8回 CAE解析の基礎知識|旭化成プラスチックス
ガスアシスト射出成形の最大の特長は、複数の課題を一度に解決できる点にあります。具体的なメリットを順に見ていきましょう。
① 最大30〜50%の軽量化と剛性の両立
内部が中空になることで、成形品重量は通常の射出成形品と比較して最大30〜50%軽量化できます。東京タワーの重量を例に考えると、同じ構造で半分の重量というのは設計上の革命に近いインパクトがあります。建築現場で扱うプラスチック製手すりや窓枠フレームの場合、作業員が運搬する際の負担が大幅に軽減されます。しかも外観・剛性はそのまま維持できるため、強度を犠牲にしていません。軽量化と剛性の両立が条件です。
② ヒケ・ソリ・変形を大幅に抑制
通常の射出成形で厚肉の部品を作ると、冷却時の収縮差によって表面にへこみ(ヒケ)や変形(ソリ)が生じやすくなります。ガスアシスト成形では、ガス圧が内側から均一に樹脂を金型壁面に押し付け続けるため、こうした冷却不良を根本から抑えます。建築部材では外観品質が重要な場面も多く、ヒケゼロの表面仕上げは大きな強みです。寸法精度が高くなるということですね。
③ 材料費の削減(最大20〜40%)
中空部分の分だけ樹脂の使用量が減るため、材料費を最大20〜40%削減できます。年間10,000個の部品を生産する工場であれば、材料費削減効果は累積すると数百万円単位になることもあります。長期的な製造コスト低減に直結するポイントです。これは使えそうです。
④ 成形サイクルタイムの短縮
中空構造により樹脂体積が少なくなること、さらに低温の窒素ガスが内側から冷却することで、冷却時間が短縮されます。結果として成形サイクルタイムが短くなり、生産性が向上します。大量生産において特に効果が大きくなります。
⑤ 設計自由度の向上
スライド金型なしでは実現不可能な複雑なパイプ形状や、厚肉・薄肉が混在する複雑形状も実現できます。建築用途では、給水パイプ、排水パイプ、グリップ付きハンドル類など形状が複雑な部品への応用が期待されます。
参考:ガスアシスト成形の特徴と製品事例について、射出成形金型.COMが詳しく解説しています。
優れた技術である一方で、ガスアシスト射出成形には無視できないデメリットも存在します。導入を検討する際には、メリットだけでなくこちらも必ず確認してください。
① 初期設備投資が高額になる
ガスアシスト射出成形を実施するには、通常の射出成形機に加えて専用のガス供給システム(高圧窒素ガス発生装置・ガス制御バルブ・注入ノズルなど)が必要です。また、ガス流路を考慮した専用金型の設計・製作が必要になるため、通常の金型よりも製作費が高くなります。小ロット生産やコスト試算が厳しいプロジェクトへの単純導入は慎重に考える必要があります。初期投資は必須です。
② 金型設計・成形条件の難易度が高い
ガスアシスト成形の金型では「樹脂の入り口(ゲート)」と「ガスの入り口(ガスノズル)」の2箇所を最適化する必要があります。この2点の位置設定が難しく、CAE(コンピューター援用設計)シミュレーションを活用してもその通りにならないケースが多いとされています。ゲートやガス注入口の位置は、金型製作後に変更することが極めて困難です。万一失敗すると金型を作り直す必要が生じ、数百万円単位の損失につながることもあります。厳しいところですね。
③ 使用できる樹脂材料に制限がある
全ての樹脂材料がガスアシスト成形に適しているわけではありません。流動指数(MFI)が高すぎる樹脂はガスが通り抜けてしまい(ブローアウト)、均一な中空構造が作れません。一方、粘度が高すぎる樹脂は金型内の充填が不十分になります。主に適している材料はABS、PP、PA(ナイロン)、PCなどです。材料選定は専門家に相談するのが原則です。
④ 耐久性が通常成形品より低下する場合がある
中空構造である分、壁厚が薄くなります。使用環境によっては耐久性が通常の成形品と比べて劣る場合があります。特に繰り返し荷重がかかる部材や衝撃を受けやすい箇所への適用には、事前の強度試験・耐久性試験が不可欠です。強度試験は必須です。
| デメリット | 主なリスク | 対策 |
|---|---|---|
| 初期設備投資 | 数百万〜数千万円規模のコスト | 生産量・単価でROI試算を行う |
| 金型設計難易度 | 金型作り直しによる損失 | 経験豊富な専門メーカーに依頼 |
| 材料制限 | ブローアウト・充填不良 | 適合樹脂リストを確認する |
| 耐久性低下リスク | 現場での破損・クレーム | 事前に強度・耐久性試験を実施 |
ガスアシスト射出成形は、建築業種に近い産業でも着実に導入が広がっています。建設現場や建築資材の製造場面でどのように活用されているのか、具体的な応用事例を確認しましょう。
樹脂製パイプ・配管部品
建築設備で使われる給水パイプや排水パイプなど、パイプ形状の樹脂部品はガスアシスト成形の代表的な活用分野です。スライド金型では製造困難な複雑なカーブ付きパイプ形状でも、ガスアシスト成形なら一体成形が可能です。継ぎ目がなく強度が均一な中空パイプを実現できます。
手すり・グリップ・ハンドル類
階段手すりや扉のグリップ、ハンドル類はガスアシスト成形の得意分野です。内部が中空でも外径・肉厚は十分確保できるため、握り心地や強度は維持しつつ軽量化できます。建設現場で職人が取り付け作業をする際、部材が軽くなれば高所作業の安全性向上にもつながります。これは使えそうです。
樹脂窓枠・外装フレーム部材
樹脂窓枠(樹脂サッシ)は長尺で厚みがあり、ソリやヒケが発生しやすい典型的な成形難形状です。ガスアシスト成形を採用することで寸法精度が向上し、取り付け時の建具との隙間不具合を防ぐことができます。さらに軽量化によって輸送・施工コストの削減にも貢献します。
オフィス家具・インテリア部品
オフィスチェアのフレームやアームレストなど、建築・インテリア分野の家具部品にも採用されています。見た目は重厚でも実際には軽いという設計が可能で、商業施設や集合住宅の内装工事における施工性向上に貢献します。
参考:ガスアシスト成形(ガスインジェクション成形)によるコストダウンと軽量化の実事例として、柿原工業株式会社の取り組みが参考になります。
軽量化を実現しコストダウンに貢献するガスインジェクション成形|柿原工業株式会社
建築業に携わる方がガスアシスト射出成形を理解しておくべき理由は、単に「プラスチック成形の一手法を知る」ためだけではありません。発注側・施工側の立場から見ると、調達コスト・現場の安全性・品質クレームの観点でも直結する知識です。
発注・調達コストに与える影響
樹脂建材を仕入れる際、ガスアシスト成形で製造されている部品はそうでない部品よりも材料費がかかっていない分、適正単価が変わります。材料使用量が最大40%削減されていながら価格が同じなら、発注側が本来得られるはずのコスト削減メリットを享受できていない可能性があります。調達先のメーカーに製造方法を確認する価値があります。
軽量化が現場安全性に直結するケース
建設現場では、重い部材の取り扱いが腰痛や落下事故の原因になることがあります。仮に毎日100本の樹脂手すりを取り付ける作業があったとして、1本あたり300g軽量化された製品を使えば、1日あたりの総持ち上げ重量は30kg以上削減されます。身体への負担は1週間・1か月単位で蓄積されるため、軽量素材の採用は労働安全衛生の観点でも重要です。
品質クレームの見極めポイント
現場で発生する樹脂部材のソリ・ヒケ・歪みは、通常射出成形を使った製造品に多く見られます。こうしたクレームが繰り返し発生している場合、仕入れ先に対してガスアシスト成形での製造切り替えを提案することが根本的な解決策になる可能性があります。発注仕様書に製造方法の要件を明記することも有効です。
「金型を作り直すリスク」を発注段階で減らす方法
ガスアシスト成形用金型はゲートとガス注入口の位置設定が非常に難しく、設計ミスがあると金型ごと作り直しになります。この問題を防ぐためには、CAEシミュレーションを用いた事前検証を実施できるメーカーに依頼することが大切です。発注時に「ガスインジェクション成形の設計実績」と「CAE解析サービスの有無」を確認することが条件です。
また、ガスアシスト射出成形の技術的な可否判断には専門的なノウハウが必要です。信頼できる成形メーカー・金型メーカーと早期に連携し、製品形状の段階から相談を始めることが、失敗リスクの最小化につながります。
参考:ガスアシスト成形の設計・製作ノウハウと適した形状提案について、射出成形金型.COMが詳しく解説しています。
ガスアシスト成形とは(設計・製作ノウハウ)|射出成形金型.COM
ガスアシスト射出成形がすべての場面で最適というわけではありません。通常の射出成形と適切に使い分けることが、コストと品質の最適化につながります。ここでは2つの工法の違いを整理します。
部品の大きさ・肉厚による選択
通常の射出成形は小型〜中型で薄肉の部品に向いており、シンプルな形状・短納期・低コストが求められる場合に強みを発揮します。一方でガスアシスト射出成形は、大型・厚肉・複雑形状の部品に適しています。目安として、肉厚が3mm以上になる部品はガスアシスト成形の検討対象になります。
ヒケ・ソリが許容されるかどうか
建築外装部材や意匠性が求められる内装部品では、表面のヒケや変形は外観クレームの原因になります。こうした用途ではガスアシスト成形のヒケ防止効果が大きな価値を持ちます。一方、外部から見えない構造材や機能部品であれば、通常成形でも問題ない場合が多いです。
生産量・コスト構造による判断
初期の金型費・設備費を考えると、少量生産ではガスアシスト成形のコストメリットが出にくい面があります。逆に年間数万個以上の大量生産品では、材料費削減・サイクルタイム短縮の効果が積み重なり、トータルコストでは有利になることが多いです。生産量が条件です。
以下に主要な比較ポイントをまとめます。
| 比較項目 | ガスアシスト射出成形 | 通常射出成形 |
|---|---|---|
| 部品重量 | 最大50%軽量化可能 | 充実した固体構造 |
| ヒケ・ソリ | ほぼ発生しない | 厚肉部品では発生しやすい |
| 設計自由度 | 高い(中空・複雑形状対応) | 比較的低い |
| 材料費 | 最大40%削減 | 標準 |
| 初期設備費 | 高い(専用設備が必要) | 比較的低い |
| 適した生産量 | 中量〜大量生産向き | 少量〜大量まで幅広い |
| 金型設計難易度 | 高い(専門知識が必要) | 標準的 |
結論は「部品サイズ・用途・生産量の3つで判断する」です。建築資材の仕入れ・発注に携わる立場であれば、供給メーカーにこの3点を確認した上で製造工法の妥当性を評価することをおすすめします。
参考:ガスアシスト射出成形と通常射出成形の違いについて、Neway Precisionが技術的な観点から詳しく比較しています。
ガスアシスト射出成形で軽量かつ剛性の高いプラスチック部品を製造|Neway Precision