グルコン酸ナトリウムは体に悪い?毒性とコンクリート混和剤の危険性

グルコン酸ナトリウムは体に悪い?毒性とコンクリート混和剤の危険性

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グルコン酸ナトリウムが体に悪いと言われる理由

グルコン酸ナトリウムの安全性まとめ
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物質の正体

ブドウ糖由来の有機酸で、食品添加物としても認可される安全性の高い物質です。

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現場でのリスク

粉塵の吸入や、濡れたコンクリートとの長時間接触による皮膚トラブルに注意が必要です。

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対策の基本

保護手袋とマスクの着用、そして作業後の手洗いが健康被害を防ぐ鍵となります。

建設現場やコンクリート製造の現場で「遅延剤」や「減水剤」として日常的に使用されているグルコン酸ナトリウムですが、インターネット上では「体に悪い」「危険」といった検索ワードが並ぶことがあります。なぜ、食品添加物としても認められている物質にこのようなネガティブなイメージがついて回るのでしょうか。
その最大の理由は、化学物質としての「粉末の状態」と、食品に含まれる「微量な状態」の混同にあります 。確かに、化学物質としての純粋なグルコン酸ナトリウム粉末は、目に入ったり大量に吸い込んだりすれば粘膜を刺激します。しかし、これは「塩」や「砂糖」であっても、粉末を大量に吸い込めばむせたり目が痛くなったりするのと同様の物理的な刺激であることが多いのです。
参考)グルコン酸は体に悪い?危険性・安全性・食品一覧を解説

また、「ナトリウム」という名称がついていることから、グルタミン酸ナトリウム(MSG)のようなうま味調味料と混同され、「中華料理店症候群」のような神経毒性があるのではないかと誤解されることもあります 。実際には、グルコン酸ナトリウムは体内でグルコン酸とナトリウムに分解され、グルコン酸は最終的にブドウ糖と同様の代謝経路をたどるため、通常の使用範囲内での毒性は極めて低いとされています。
参考)危険で有害な食品添加物 健康生活研究所・本店

現場で働く皆さんにとって重要なのは、ネット上の漠然とした「体に悪い」という噂に踊らされることではなく、「産業用資材として大量に扱う場合」に特有の、リアルな健康リスクを正しく理解することです。次項からは、公的な毒性データやSDS(安全データシート)に基づき、プロとして知っておくべき事実を深掘りしていきます。

食品添加物としての安全性と毒性データの真実

 

まず、物質そのものの基礎的な毒性について、客観的なデータを見てみましょう。グルコン酸ナトリウムは、日本では指定添加物として認められており、食品のpH調整剤や固化防止剤、ミネラルのサプリメント(キレート剤)として広く流通しています 。
参考)公益財団法人 日本食品化学研究振興財団

毒性の強さを表す指標として「LD50(半数致死量)」という数値があります。これは、投与された動物の半数が死亡する量を体重1kgあたりで示したものです。
公的な化学物質データベースによると、グルコン酸ナトリウムのラットにおける経口LD50値は 2000mg/kg以上、あるいは 6060mg/kg と報告されています 。
参考)グルコン酸ナトリウム SDS(安全データシート )- che…


  • LD50値の比較(目安)


    • 青酸カリ:約5~10mg/kg(猛毒)

    • カフェイン:約200mg/kg(高濃度は危険)

    • 食塩:約3000mg/kg

    • グルコン酸ナトリウム:約6060mg/kg

この数値からも分かる通り、グルコン酸ナトリウムの急性毒性は食塩よりも低いか同程度であり、化学物質としては「低毒性」の部類に入ります 。SDS(安全データシート)上のGHS分類でも、多くの項目で「区分外(危険性が低い)」または「分類できない」とされており、発がん性や生殖毒性を示す明確なデータは確認されていません 。
参考)https://direct.hpc-j.co.jp/sds/jpn/H9-11.pdf

参考リンク:日本食品化学研究振興財団によるグルコン酸ナトリウムの毒性試験結果(ラット・イヌでの実験データ詳細)
しかし、「無毒」であることと「無害」であることはイコールではありません。特に注意が必要なのは、**「キレート作用」**という化学的性質です。
グルコン酸ナトリウムは金属イオンを挟み込んで安定化させる(キレートする)力が非常に強く、これがコンクリートの遅延剤として働くメカニズムそのものです(カルシウムイオンを捕捉して結晶化を遅らせる)。
参考)グルコン酸ナトリウム遅延剤がセメントの耐久性を高める仕組み

この性質により、理論上は「大量に摂取し続けると体内の必須ミネラル(カルシウムや鉄など)のバランスを崩す可能性がある」と懸念されることがありますが、これはあくまで極端な過剰摂取の場合です 。通常の食事や、現場で少し粉が口に入った程度で直ちにミネラル欠乏症になることは考えにくいですが、サプリメントとして濃縮されたものを摂取する場合は注意が必要です。
参考)https://hommez.co.jp/column/504

コンクリート混和剤として扱う際の皮膚への刺激とリスク

建設現場において最も現実的なリスクは、**「皮膚および眼への刺激」**です。
多くのSDSでは、皮膚腐食性・刺激性について「区分外」や「軽度の刺激」としていますが、これはあくまで「乾燥した粉末」や「中性水溶液」での試験結果に基づいています 。
参考)グルコン酸ナトリウム

現場でグルコン酸ナトリウムを扱うシーンを想像してください。多くの場合、セメントと水と一緒にミキサーに投入するか、既に混練されたコンクリートに「遅延剤」として添加するはずです。ここで最大の問題となるのは、グルコン酸ナトリウムそのものの毒性ではなく、セメントとの相互作用によるリスクの増大です。


  • 物理的刺激(スクラブ効果):
    グルコン酸ナトリウムは結晶性の粉末であることが多く、汗ばんだ皮膚や衣服の擦れる部分(首元、手首)に付着すると、粒子の摩擦によって物理的に皮膚表面を傷つけることがあります(機械的刺激)。微細な傷がついた皮膚はバリア機能が低下し、そこから他の化学物質が浸透しやすくなります。
    参考)https://redox.com/wp-content/sds/3318.pdf


  • 脱脂作用:
    グルコン酸ナトリウムには優れた洗浄効果(金属表面の錆取りなどにも使われる)があります。これが皮膚に長時間付着すると、皮膚表面の皮脂を必要以上に奪い取り、カサカサの状態(脱脂状態)を引き起こす可能性があります。冬場の現場など、乾燥した環境ではこれが「あかぎれ」や「手荒れ」の重症化につながります。

参考リンク:Chemate Groupによるグルコン酸ナトリウムのコンクリート混和剤としての詳細な特性解説
さらに、コンクリート混和剤として使用する場合、グルコン酸ナトリウムは水に溶けやすい性質を持っています 。汗や雨で溶け出した高濃度の溶液が、手袋の中や長靴の中に滞留すると、皮膚への浸透圧ストレスやpHの変化により、接触皮膚炎のリスクが高まります。特にアトピー性皮膚炎などの既往がある方は、皮膚のバリア機能が弱いため、わずかな刺激でも痒みや発疹が出ることがあります 。
参考)グルコン酸ナトリウム粉末 98%以上 - Fengbai G…

SDSから見る吸引・接触時の正しい応急処置

現場監督や職長クラスであれば、万が一の事故に備えてSDS(安全データシート)の「応急処置」の項目を頭に入れておく必要があります。グルコン酸ナトリウムのSDSには、以下のような具体的な指示が記載されています 。
参考)https://www.yone-yama.co.jp/shiyaku/msds/pdfdata/BC0263.pdf

状況 応急処置のポイント 注意点
吸入した場合 新鮮な空気のある場所に移動し、呼吸しやすい姿勢で休息させる。 咳や喉の痛みが続く場合(気道刺激の兆候)は、直ちに医師の診断を受けること。大量吸入は気管支炎のリスクあり。
皮膚についた場合 多量の水と石鹸で洗い流す。汚染された衣類は脱ぐ。 ゴシゴシこすると粒子で皮膚を傷つけるため、流水で優しく洗い流すのがコツ。皮膚刺激が続く場合は医師へ。
眼に入った場合 水で数分間注意深く洗う。コンタクトレンズ着用者は、容易に外せる場合は外して洗う。 眼への刺激性は「強い眼刺激(区分2A)」とされる場合があるため、最低でも15分間の洗浄が推奨されることが多い。絶対に擦らないこと。
飲み込んだ場合 口をすすぐ。気分が悪い時は医師に連絡する。 無理に吐かせないこと(誤嚥性肺炎のリスクがあるため)。意識がない場合は何も口に入れてはいけない。


特に注意すべきは「粉塵の吸入」です。
袋を開封してホッパーに投入する際、白い粉塵が舞い上がることがあります。グルコン酸ナトリウムの粉塵は、吸入すると気道を刺激し、咳や息切れを引き起こすことがあります 。SDSの「呼吸器への刺激のおそれ(区分3)」に該当する場合があるため、投入作業を行う際は必ず防塵マスク(N95規格など)保護メガネを着用してください。​
「ただの砂糖の仲間だろ?」と甘く見てマスクなしで作業をしていると、慢性的な喉の不調や気管支炎のような症状に悩まされる可能性があります。特に喫煙者は気道粘膜が既に弱っていることが多いため、粉塵の影響を受けやすくなります。

【独自視点】遅延剤の効果が招く「アルカリ火傷」の隠れたリスク

最後に、一般的なWeb記事やSDSにはあまり書かれていない、**建設現場特有の「間接的な危険性」**について指摘しておきます。それは、グルコン酸ナトリウムが持つ「遅延効果」そのものが引き起こす、アルカリ火傷(化学熱傷)のリスク増大です。
グルコン酸ナトリウムは、コンクリートの凝結を遅らせる「遅延剤」として非常に優秀です 。夏場の暑中コンクリート工事や、コールドジョイント(打ち継ぎ目)を防ぐために、あえてコンクリートが固まるのを数時間~十数時間遅らせる目的で使われます。また、洗い出し仕上げのために表面だけ固まらせない「表面遅延剤」としても使われます。
参考)グルコン酸ナトリウムコンクリート混和剤 98% Chemat…

ここに落とし穴があります。
通常、コンクリートは打設後数時間で硬化が始まり、表面の自由水(ブリーディング水)も引いていきます。しかし、グルコン酸ナトリウムによって遅延されたコンクリートは、長時間にわたって「濡れた状態(プラスチックな状態)」を維持します
コンクリートの水分は、セメント由来の水酸化カルシウム等が溶け出しており、pH12~13という強アルカリ性を示します。強アルカリはタンパク質を溶かす性質があり、皮膚に付着すると痛みを感じないまま深部まで浸食し、重篤な化学火傷を引き起こします。


  • リスクのシナリオ:


    1. 遅延剤(グルコン酸Na)が効いているため、コンクリートがいつまでもドロドロしていて作業しやすい。

    2. 作業員が油断して、防水性の低い手袋や靴で長時間作業を続けてしまう。

    3. 「まだ固まってないから大丈夫」と思い込み、付着したノロ(セメントペースト)をすぐに洗い流さない。

    4. グルコン酸ナトリウム自体は無害でも、それが維持している強アルカリ環境に長時間曝露されることで、通常よりも深刻な皮膚障害が発生する。

つまり、グルコン酸ナトリウムが体に悪いのではなく、**「グルコン酸ナトリウムが作り出す『長時間乾かないコンクリート』という環境」**が、作業員の皮膚にとって極めて過酷なのです。
「遅延剤を使っている日は、いつもより念入りに装備を固める」。これが、ベテランの職人が実践している身を守る知恵です。物質そのものの毒性データだけに目を奪われず、現場での「使われ方」に潜むリスクを見抜くことこそが、真の安全管理と言えるでしょう。
参考リンク:コンクリート用化学混和剤貯蔵タンク内での事故例と安全管理(労働安全衛生コンサルタント会)

 

 


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