

供試体の締固め温度を1℃ズラすだけで、動的安定度が20%以上変わることがあります。
ホイールトラッキング試験(Wheel Tracking Test)は、アスファルト舗装の耐わだち掘れ性を評価するための室内試験です。夏場の高温時に路面が変形しやすい性質(塑性流動)を、実際に荷重輪を繰り返し走行させることで再現します。
この試験の中心にあるのが「供試体」です。供試体とは、試験に使用するために人工的に作製したアスファルト混合物の試験体のことで、現場の舗装状況を室内で忠実に再現するために作られます。つまり、供試体の品質=試験結果の信頼性、と考えてよいです。
JIS A 1454(熱可塑性エラストマー舗装用ブロックの試験方法)ではなく、舗装調査・試験法便覧(日本道路協会)に基づいて実施されるケースが多く、試験機関や発注機関によって細かい手順が異なる点に注意が必要です。
供試体のサイズは一般的に以下の通りです。
| 項目 | 標準値 |
|---|---|
| 供試体幅 | 300 mm |
| 供試体長さ | 300 mm |
| 供試体厚さ | 50 mm(表層用) |
| 試験温度 | 60℃ |
| 荷重輪走行速度 | 42 往復/分 |
| 輪荷重 | 686 N(70 kgf) |
試験温度60℃は、夏季の路面温度を想定した設定です。実際の路面温度は炎天下で70℃を超えることもありますが、60℃が試験の標準値として定着しています。
この試験で求められる指標が「動的安定度(DS:Dynamic Stability)」で、単位は「回/mm」です。DS値が大きいほど耐わだち掘れ性が高いことを示します。基本はここから理解しておけばOKです。
供試体の作製で最もシビアな工程が、締固めです。現場でよく見られるのが「大体この温度でいいだろう」という感覚的な温度管理ですが、それが試験結果に直結するリスクがあります。
アスファルト混合物は、温度が下がるほど粘性が高まり、同じ締固めエネルギーを加えても密度が出にくくなります。逆に高すぎると骨材の再配列が起こり、配合本来の性状が再現できなくなります。
締固め温度の管理目安は以下の通りです。
締固め方法はローラーコンパクターを使用するのが標準です。ローラーコンパクターで所定の空隙率(通常3〜5%程度)に仕上げる必要があり、空隙率が規定値から外れると供試体として使用不可となります。
空隙率の確認は、コアを採取してかさ密度を測定し、理論最大密度(ライス密度)との比較で行います。空隙率が高すぎると(8%超など)、DS値が実態より低く出る傾向があります。
空隙率は供試体の信頼性を左右します。コンパクション回数や速度をあらかじめ試験体で確認しておくことで、本番の供試体作製の再現性が上がります。これが基本です。
締固め後の養生も、見落とされがちな重要工程です。
供試体は作製後、試験前に60℃の恒温槽で一定時間(通常5時間以上、または規定値)養生させます。この養生時間が不足すると、供試体内部の温度が均一にならず、表層と内部で硬さに差が生じます。
意外ですね。養生が「おまけ工程」ではなく、試験精度の根幹を支えるプロセスだということです。
養生に関して現場でよく起こるミスを整理します。
養生後は速やかに試験機にセットすることも重要です。恒温槽から取り出した後、室温に放置する時間が長くなると供試体表面から冷え始めます。取り出しから試験開始まで5分以内を目安とする機関が多いです。
供試体の養生は「時間・温度・配置」の3点が条件です。
参考として、国土交通省国土技術政策総合研究所(国総研)が公開している舗装に関する技術資料も、試験方法の解釈に役立ちます。
試験の結果として得られるDS値(動的安定度)は、次の式で算出されます。
DS(回/mm)=(42 × 60 × (t2 − t1))÷(d2 − d1)
ここで、t1・t2は計測時刻(分)、d1・d2はそれぞれの時刻における変形量(mm)です。計測区間は通常45分〜60分の間を使用します。
DS値の判定基準は発注機関によって異なりますが、代表的な基準を示します。
| 用途・条件 | DS値の目安(回/mm) |
|---|---|
| 一般国道(通常交通) | 1,000以上 |
| 交通量の多い幹線道路 | 1,500〜3,000以上 |
| NEXCO高速道路(表層) | 3,000以上(改質Ⅱ型使用時) |
| バスレーン・停留所付近 | 3,000〜5,000以上を要求するケースも |
DS値が基準を下回った場合、まず確認すべきは「供試体の空隙率」と「バインダの種類・量」です。バインダ(アスファルト)量が0.3%過剰なだけでDS値が半減するケースも報告されており、配合設計の見直しが必要になります。
これは痛いですね。現場施工済みの材料でDS値が出なかった場合、配合の再設計・再試験・場合によっては施工済み区間の打ち換えにつながるリスクがあります。
判定に落ちた際の対応フローとしては、①空隙率の確認 → ②バインダ量の再計算 → ③改質アスファルトへの変更検討 → ④再試験、という順序が一般的です。
結論はDS値と空隙率の両方を管理することです。
日本道路協会の「舗装調査・試験法便覧」は、試験手順の詳細と判定基準の根拠として参照できます。
一般的な記事では触れられていませんが、室内試験の供試体と現場から採取したコアを比較検証するプロセスが、試験精度の担保において非常に重要です。
室内で作製した供試体は、あくまでも「設計配合の理想状態」を再現したものです。実際の施工では、混合温度のばらつき・敷均し時の偏析・ローラー転圧パターンの差異などによって、現場の舗装体は室内供試体とは異なる密度・空隙率・骨材配向を持ちます。
具体的には、現場コアのDS値が室内供試体のDS値と比べて30〜40%低くなるケースも確認されています。これは単純な「現場の施工精度の問題」だけでなく、室内試験の締固め方法が現場のローラー転圧を完全には模倣できないことにも起因します。
この差を定量的に把握するためには、施工後に現場コアを採取してDS値を測定し、室内供試体との差を「補正係数」として管理することが有効です。一部の高規格道路の施工管理では、この補正係数を使ってDS基準値そのものを現場向けに再設定する手法が取られています。
これは使えそうです。補正係数の考え方を導入することで、室内試験の結果と現場品質のギャップを可視化でき、施工管理の精度が上がります。
現場コアとの比較検証を実施する際の留意点を整理します。
こうした「試験室と現場をつなぐ品質管理」の視点は、特に大型工事の品質証明や第三者検査が求められる場面で差別化ポイントになります。施工管理担当者がこの補正概念を理解していると、発注者との協議でも根拠ある説明ができるようになります。
舗装工学の学術的な参考情報については、土木学会の技術資料も確認する価値があります。