
異形鉄筋の規格は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)によって厳格に定められています。現在、JIS規格に認定されている異形鉄筋は5種類存在し、それぞれが異なる強度特性を持っています。
異形鉄筋の材料記号は「SD○○」の形式で表記され、「S」はSteel(鋼)、「D」はDeformed(異形棒鋼)を意味します。数字部分は降伏点の下限値を示しており、この数値が大きいほど高強度の鉄筋となります。
注目すべき点として、2020年のJIS規格改正により、SD295Bが廃止されました。SD295BはSD295Aよりも性能が高い鉄筋とされていましたが、下位降伏点から引張強度までの強度差が明確で靭性を考慮した構造設計が可能でした。しかし、実務では単に下位降伏点が規定されていて必要十分でより安価なSD295Aが採用されるようになり、SD295Bを使うのであれば強度として上位規定となるSD345を使うのが一般的になったため、廃止に至りました。
異形鉄筋の強度特性は、降伏点と引張強度によって決定されます。これらの数値は構造計算において極めて重要な要素となり、建築物の安全性を左右します。
各規格の詳細な強度特性は以下の通りです。
SD295A
SD345
SD390
SD490
これらの強度特性の違いは、建築物の用途や要求される構造性能に応じて使い分けられます。例えば、SD295Aは一般的な住宅や低層建築物に、SD490は超高層ビルや大規模構造物に使用されます。
化学成分についても厳格な規定があり、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の含有量が規格ごとに定められています。これらの成分比率が鉄筋の機械的性質に大きく影響するため、製造過程での品質管理が重要となります。
異形鉄筋の寸法規格は、呼び名、公称直径、公称断面積、単位重量によって体系化されています。これらの数値は構造計算や施工計画において基礎的なデータとなります。
主要な寸法規格は以下の通りです。
大径鉄筋では以下の規格が用意されています。
これらの寸法データから、必要な鉄筋量の計算や重量計算が可能になります。例えば、D25の鉄筋を100m使用する場合、重量は398kgとなり、運搬や施工計画に重要な情報となります。
また、最外径も規定されており、D10では11mm、D13では14mmといったように、コンクリートとの付着を考慮した突起部分を含めた外径が定められています。
異形鉄筋と丸鋼の最大の違いは、コンクリートとの付着性能にあります。昭和40年代頃までは丸鋼が鉄筋コンクリートの鉄筋として使われていましたが、コンクリートとの付着が乏しいため、現在は異形鉄筋が主流となっています。
丸鋼の特徴
異形鉄筋の特徴
この付着性の違いが構造性能に与える影響は極めて大きく、異形鉄筋の突起部分がコンクリートと機械的に結合することで、引張力を効率的に伝達できます。一方、丸鋼は表面が滑らかなため、主に摩擦力に依存した付着となり、構造用途には適さないとされています。
強度面では、SR295と SD295Aが同等の降伏点295N/mm²を持ちますが、実際の構造設計では付着性能の優位性により、異形鉄筋が選択されます。
現在、丸鋼は大型サイズでは機械や船舶などの二次製品の素材に、中型サイズでは道路の基盤材や自転車の部材などに使用されており、建築分野では特殊な用途を除いて使用されることはありません。
実務における異形鉄筋の規格選定では、構造計算結果だけでなく、経済性、施工性、入手性を総合的に判断する必要があります。適切な規格選定により、建設コストの最適化と施工効率の向上が実現できます。
用途別の選定指針
一般住宅や低層建築物では、SD295Aが最も多く使用されます。柱の帯筋、梁のあばら筋、壁の配筋(耐力壁除く)、スラブの配筋など、様々な場面で採用されており、価格も安価で入手しやすいという利点があります。
中高層建築物では、主筋にSD345やSD390が選択されることが多く、特に構造上重要な部材では高強度規格の採用により断面積を減らすことができ、経済的なメリットが生まれます。
超高層建築物や大スパン構造では、SD490の使用により、従来工法では困難な構造設計が可能になります。ただし、価格が高く、溶接性などの施工上の配慮が必要となります。
経済性を考慮した選定
規格選定では「オーバースペック」を避けることが重要です。SD295Bが廃止された理由として、SD295Aで十分な性能が得られる用途でより高価なSD295Bが使用されていたケースが挙げられます。現在では、SD295Aで不足する場合は直接SD345を選択するのが一般的です。
また、大径鉄筋(D29以上)の使用により、配筋本数を減らして施工効率を向上させることも可能ですが、曲げ加工の難易度や運搬重量の増加も考慮する必要があります。
品質管理と検査体制
JIS規格品の使用により、安定した品質が確保できますが、現場での受入検査も重要です。圧延マークによる規格確認、寸法検査、表面状態の確認など、適切な検査手順を確立することで、構造安全性を確保できます。
最新の技術動向として、高強度コンクリートとの組み合わせによる新しい構造システムの開発が進んでおり、今後の規格選定においても新技術への対応が求められています。