
異形鉄筋は、鉄筋コンクリート構造において欠かせない建材です。その最大の特徴は表面に設けられた「リブ」または「節」と呼ばれる凹凸の突起にあります。この特殊な形状により、コンクリートとの付着性能が格段に向上し、構造物の強度を大幅に高めることができます。
リブの存在により、異形鉄筋は以下のような利点を持っています:
英語では「Steel De-formed bar」と表現され、日本産業規格(JIS)では「SD○○」という材料記号で規定されています。この「SD」は「Steel De-formed bar」の略称であり、後に続く数字は鉄筋の降伏点または耐力を示しています。
異形鉄筋が登場する以前は丸鋼が主流でしたが、コンクリートとの付着性能の高さから、現在の建築現場ではほとんどが異形鉄筋に置き換わっています。
異形鉄筋にはさまざまな種類があり、それぞれJIS規格によって定められています。現在、日本で使用されている異形鉄筋は以下の10種類です:
これらの記号の「SD」は「Steel De-formed bar(異形鉄筋)」を意味し、続く数字は降伏点または耐力(N/mm²)を表しています。例えば、SD345は降伏点が345N/mm²の異形鉄筋を意味します。
一般的な建築現場で最も広く使用されているのは、SD295とSD345です。これらは汎用性が高く、一般住宅から中規模建築物まで幅広く採用されています。
より大規模な建築物や特殊な構造物には、SD390やSD490などの高強度鉄筋が使用されることがあります。特にSD490は一般建築ではあまり使用されず、大規模な建造物や橋梁などの限定的な場面で採用されることが多いです。
さらに高強度のSD590A/B、SD685A/B/R、SD785Rは、超高層ビルや特殊な構造物に限定して使用される特殊な鉄筋です。これらは通常の建築現場ではほとんど見かけることがありません。
異形鉄筋と丸鋼は、外観だけでなく性能や施工方法にも大きな違いがあります。
【外観と構造の違い】
【コンクリートとの付着性】
【施工方法の違い】
建築基準法施行令第73条では、鉄筋の末端処理について以下のように規定しています:
「鉄筋の末端は、かぎ状に折り曲げて、コンクリートから抜け出ないように定着しなければならない。ただし、次の各号に掲げる部分以外の部分に使用する異形鉄筋にあっては、その末端を折り曲げないことができる。」
つまり、丸鋼を使用する場合は必ず末端をフック状に折り曲げる必要がありますが、異形鉄筋では特定の部位(柱やはりの出隅部分、煙突部など)を除いて、末端を折り曲げなくても良いとされています。
この違いにより、異形鉄筋を使用した場合の施工は以下のメリットがあります:
歴史的には、日本では昭和28年(1953年)に異形鉄筋の規格が制定され、昭和30年代から徐々に普及していきました。それ以前の建築物には丸鋼が使用されていることが多く、古い建物の耐震診断や改修時には注意が必要です。
異形鉄筋は強度によって用途が異なります。適切な鉄筋を選定することで、建築物の安全性と経済性を両立させることができます。
【SD295】
【SD345】
【SD390】
【SD490】
【SD590A/B、SD685A/B/R、SD785R】
鉄筋の選定基準としては、以下の要素を考慮する必要があります:
特に耐震設計においては、鉄筋の降伏点だけでなく、靭性(粘り強さ)も重要な要素となります。高強度の鉄筋は降伏点が高い反面、靭性が低下する傾向があるため、地震多発地域では注意が必要です。
外壁塗装業に従事する方々にとって、建物の構造体である鉄筋の状態を理解することは非常に重要です。特に、異形鉄筋の防錆処理と外壁の劣化には密接な関連があります。
鉄筋コンクリート構造物において、鉄筋の腐食は深刻な問題を引き起こします。腐食した鉄筋は膨張し、コンクリートにひび割れを生じさせ、最終的には外壁の剥離や崩落につながる可能性があります。
異形鉄筋の防錆処理には主に以下の方法があります:
外壁塗装業者として知っておくべき点は、外壁のひび割れや浮きが見られる場合、その原因が単なる塗膜の劣化だけでなく、内部の鉄筋腐食に起因している可能性があるということです。特に以下のような症状が見られる場合は注意が必要です:
外壁塗装工事の際には、これらの症状が見られる場合、単に表面を塗り替えるだけでなく、構造的な調査や補修が必要かどうかを専門家に相談することをお客様に提案することが重要です。
また、新築時の鉄筋の種類や防錆処理の状態を把握しておくことで、将来的な外壁メンテナンスの計画立案にも役立ちます。例えば、海岸近くの建物では塩害による鉄筋腐食のリスクが高いため、より頻繁な点検や特殊な塗料の使用を検討する必要があります。
外壁塗装業者として、建物の構造体に関する知識を持つことは、単なる美観の改善だけでなく、建物の長寿命化と安全性確保に貢献する重要な要素となります。
鉄筋コンクリート構造物の鉄筋腐食と外壁劣化の関連性に関する研究
鉄筋コンクリート構造物における鉄筋腐食のメカニズムと外壁劣化の関連性について詳しく解説されています。
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリート工事では、適切な施工と品質管理が建物の耐久性と安全性を左右します。以下に、施工における重要な注意点と品質管理のポイントをまとめます。
【配筋間隔と被り厚さ】
異形鉄筋の配筋間隔と被り厚さは、建築基準法や日本建築学会の基準に従って適切に確保する必要があります。一般的な被り厚さの基準は以下の通りです:
被り厚さが不足すると、鉄筋の腐食リスクが高まるだけでなく、火災時の耐火性能も低下します。
【鉄筋の継手と定着】
異形鉄筋の継手方法には、重ね継手、機械式継手、溶接継手などがあります。それぞれの特徴は以下の通りです:
継手の位置は応力の小さい箇所に設け、同一断面に集中させないことが重要です。
【鉄筋の加工と曲げ加工】
異形鉄筋の曲げ加工には以下の注意点があります:
不適切な曲げ加工は鉄筋の強度低下や破断の原因となります。
【鉄筋の錆と汚れの管理】
施工現場での鉄筋の保管と取り扱いには以下の点に注意します:
ただし、軽微な錆(赤錆)はコンクリートとの付着を高める効果があるとされており、必ずしも問題ではありません。
【検査と品質確認】
鉄筋工事の品質確保のために、以下の検査を実施します:
特に重要な構造部材では、第三者機関による配筋検査を実施することも一般的です。
品質管理においては、鉄筋工事写真の撮影と記録保存も重要な要素となります。将来的なメンテナンスや改修時の参考資料となるだけでなく、トラブル発生時の証拠資料としても役立ちます。
鉄筋コンクリート構造物の配筋施工マニュアル
鉄筋コンクリート構造物における適切な配筋施工方法と品質管理のポイントについて詳細に解説されています。